保険診療委員会報告

(1)委員構成

委 員 長 山口 俊晴 (副会長)
委   員 石田 秀行 (埼玉医科大学総合医療センター消化管外科・一般外科)
  〃 衛藤  謙 (東京慈恵会医科大学外科)
  〃 河野恵美子 (大阪医科薬科大学一般・消化器外科)
  〃 榊原  敬 (幹事,役員等選考委員会委員)
  〃 諏訪 勝仁 (東京慈恵会医科大学外科)
  〃 瀬下 明良 (牛久愛和総合病院)
  〃 永田 松夫 (明星会東条病院)
  〃 野木 裕子 (東京慈恵会医科大学外科)
  〃 橋口陽二郎 (幹事,編集委員会副委員長)
  〃 比企 直樹 (幹事,広報委員会委員)
  〃 矢野 文章 (東京慈恵会医科大学外科)
  〃 弓場 健義 (大阪府支部長)
顧   問 矢永 勝彦 (国際医療福祉大学大学院)
計14名(五十音順)

(2)委員会の開催

2020(令和2)年第1回:10月16日,第2回11月13日,第3回:11月20日,2021(令和3)年第1回:6月8日の日程で保険診療委員会をハイブリッド形式(学会事務局会議室+Web)にて開催した.

(3)委員の退任,顧問の委嘱

委員の矢永 勝彦先生が2020年11月30日付で委員を退任,12月1 日付で顧問になられた.

(4)外保連提出要望項目の件

事前アンケートにより,日本臨床外科学会役員,保険診療委員会委員,各道府県支部長の先生方より提出していただいた要望項目について協議した結果,以下の新設3項目,改正5項目,材料1項目の全9件を外保連に提出した.
その他,当初要望予定であったが,外保連試案未掲載のため準備期間が足りず見送りとなったもの,要望内容が類似・重複したため専門性が高い他学会に任せたもの,他学会との連盟申請に変更して提出したものがあった.8月2日に外保連,外科学会と合同で,厚労省とのヒアリングが実施された.

                               
新設
順位 要望項目 要望の概要
 1 側方郭清(直腸癌)加算 下部直腸癌の16-23%に側方リンパ節転移が存在している.予後不良であるが,R0切除をし得た症例の生存率は高く,郭清効果は高い.側方郭清(直腸癌)については,大腸癌治療ガイドラインにて推奨されており,確立された一般的な直腸癌の治療手技である.直腸間膜切除に比して,局所再発を優位の予防することがランダム下比較試験により証明されている.現在は,直腸間膜切除に加えて側方郭清を行った場合でも保険点数の加算はなく,直腸間膜切除+側方郭清では約100分の手術時間の延長が報告されており,外科手術に対する適正な評価として,側方郭清を行った場合の加算が必要である.
 2 手術困難肥満加算 肥満患者に対する腹部内臓悪性腫瘍の手術においては,手術時間の延長,出血量の増加,術後合併症の増加などが報告されており,手術の難易度が上がることが示されている.しかし,術後の生存率には差がないとする報告がある.これは,肥満患者における癌の手術の難易度が上がるにも関わらず,外科医はそれを克服して根治術を達成している可能性を示しており,評価されるべきと考える.加算により外科医がこれまで以上に高いモチベーションのもとに肥満患者に対しても根治術を行うことが期待される.
 3 低侵襲側方リンパ節郭清 本法の後方視的研究によると,低位直腸癌の16-23%に側方リンパ節転移が存在するとされている.臨床的に側方リンパ節転移陰性である患者に対する側方リンパ節郭清の意義に関するランダム化比較試験の結果が報告されたことを受けて,大腸癌治療ガイドライン(医師用2019年版)では,直腸癌に対する側方郭清のClinical Qestionが新設され,臨床的に転移陽性である患者には推奨度1 ,臨床的に転移陰性である患者には推奨度2 として実施が推奨された.現在,直腸癌に対する手術のうち60-70%はロボット支援下を含む低侵襲手術で行われており,進行低位直腸癌に対する標準手術手技として,保険収載の必要がある.
                                           
改正
順位 要望項目 要望の概要
 1 腹腔鏡下胃癌手術(改正) K654- 3  1 「腹腔鏡下胃局所切除術 内視鏡処置を併施するもの」については,消化器内視鏡と腹腔鏡両方の設備・手術手技が必要にも関わらず,比較的低い保険点数(28,500点)に設定されている.通常,腫瘍切除後の胃の閉鎖の際には,Linear stapler(自動縫合器)を用いて閉鎖することが多い.胃癌に対する胃悪性腫瘍手術,腹腔鏡下胃局所切除においては,縫合器加算が算定されているにも関わらず,本手術法については縫合器加算が算定されていないため,事実上各医療機関の持ち出し(赤字)となっている.以上により,本手術について縫合器加算を要望する.
 2 腹腔鏡下直腸脱手術(K742-2)
メッシュ代の償還
本術式においてメッシュ(シンボテックスコンポジットメッシュ:66,400円)とタッカー(プロタック:42,000円)の保険償還は認められておらず,実施施設にとって高負担となっている.
 3 腹腔鏡下虫垂切除術 急性虫垂炎で虫垂根部まで炎症が波及し,虫垂切除のみでは治癒ができない症例に,自動縫合器を用いて虫垂と同時に結腸(回盲部)を切除する術式が行われている.自動縫合器加算1 個が腹腔鏡下虫垂切除術にないため,病院持ち出しの費用となっている.K719-2 1「腹腔鏡下結腸切除術 小範囲切除,結腸半側切除」では,過大請求となるため腹腔鏡下虫垂切除術の自動縫合器加算1個の算定を要望する.
 4 医師事務作業補助体制加算 勤務医が医師事務作業補助者による補助が必要と考える事務作業として,主治医意見書の作成,診断書の作成,NCD症例の登録,診療データ(疾患別症例数,手術件数等)の整理などが挙げられる.業務数の増加から医師事務作業補助者は不足している.さらに,医師事務作業補助者には組織マネジメント能力が不足しており,処遇問題や系統的教育の不足がみられる.スキルアップを継続的に図っていくことができる環境整備が重要であり,そのコストも評価する必要がある.
 5 診療録管理体制加算 施設基準として以下の要件が規定されている.
・1名以上の専任の診療記録管理者の配置がされていること.
・診療記録管理を行うにつき,必要な体制が整備されていること.
・中央病歴管理室等,診療記録管理を行うにつき,適切な施設及び設備を有していること.
これらの規定を満たすには,専任者雇用と設備投資に費用がかかり,現在の加点では不十分であるため,A207 1「診療録管理体制加算(入院初日)診療録管理体制加算1」とA207 2「診療録管理体制加算(入院初日)診療録管理体制加算2」について,50%増額が必要である.
               
材料
順位 材料名 要望価格
 1 タコシール/特定保険医療材料要望(改正) 算定要件見直し
24時間以内でも使用可能に

 

上記以外に当初要望予定であった「腹腔鏡下静脈瘤手術」は外保連試案に掲載されておらず,準備期間を要するため今回は見送ることとした.
「ロボット支援肝切除術」は日本内視鏡外科学会,「在宅経肛門的自己洗腸指導管理料」は大腸肛門病学会が作成提出.
「ロボット支援胃癌手術加算」は,「腹腔鏡下胃悪性腫瘍手術(切除)」(消化器外科学会)と「腹腔鏡下胃悪性腫瘍手術(全摘)」(胃癌学会)と別々に分けて,各学会から提案があった.また,「ロボット支援直腸癌手術加算」は,内視鏡外科学会より,「直腸切除・切断術(ロボット支援)」として提出されたため,各々連盟での提出となった.

(5)厚生労働省より選定療養として導入すべき事例等に関する提案・意見募集について

日本臨床外科学会役員,保険診療委員会委員,各道府県支部長の先生方より提出していただいた提案・意見について協議した結果,以下の5点を外保連を通じて厚生労働省に提出した.
①外国語対応
②ロボットなど新規導入の施設基準を満たすまでの自費医療費のカバー
③患者や家族の都合による時間外説明
④大病院の同日複数診療科受診に対する特別料金の設定および徴収義務化
⑤「専門外来」機能の明確化として,大病院の同日複数診療科受診に対する特別料金の設定および徴収義務化

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