吐血・下血
1.一般知識
1)吐血・下血とは?
吐血・下血とは一般に消化管(食べ物を摂取、消化し、排便するに至るまでの経路)、具体的には食道、胃、十二指腸、小腸(空腸・回腸)、大腸そして肛門に出血を起こす原因(病気や損傷など)があり、肉眼的に明らかな出血と確認できる状態で血液を口から排出することを吐血、肛門から排出することを下血と言います。
気管や肺といった呼吸に関わる臓器からの出血も、口から排出されますが、この場合の出血は喀血(かっけつ)と呼び、消化管が原因である吐血とは区別するのが一般的です。また、歯槽膿漏など歯茎からの出血や、鼻出血が口腔内に垂れ込んで口から出血することもありますが、これも吐血とは言いません(表1)。
吐血・下血を起こす原因は沢山ありますが、重大な疾患が原因である可能性もあり、また出血の量が多い場合には、生命の危機に直結することもありますので、非常に大切な異常サインと言えるでしょう。
2)吐血を起こす原因
1.吐血を生じる部位
吐血は口から血液を吐き出す状態であるため、通常は消化管の中でも口に近い方、つまり食道、胃、十二指腸といった上部消化管からの出血を意味します。小腸の上部(空腸)から出血して吐血を生じることも稀にはありますが、一般的に小腸、大腸、肛門からの出血は、吐血はみられずに下血を引き起こします。
2.吐血の出血原因となる主な疾患
1.胃潰瘍、十二指腸潰瘍
2.急性胃粘膜病変(AGML:acute gastric mucosal lesion)
3.食道静脈瘤、胃静脈瘤
4.食道がん、胃がん
5.マロリーワイス症候群
3)吐血の際に見られる症状について
1.出血の量
吐血と言っても、血液が口から少し吐き出る状態や噴出するかのように多量の血液が飛び散るような状態までさまざまです。出血の量が多く、循環動態に影響が出るようになると、血圧低下や頻脈(脈が速くなること)を生じ、更に病態が進めば出血性ショックと呼ばれる非常に危険な状態に陥る可能性があります。
2.出血の出方、性状
咳こんだ際に口から吐き出すような場合には、呼吸器官からの出血である喀血の可能性があります。また喀血では、血液に泡が混じっていることが多いのが特徴です。これに対して、吐血の場合は、吐き気を伴っていたり、消化液と一緒に排出されることで、液状かつ臭みを伴ったりすることが多いです。
また、血液の中に含まれるヘモグロビンは、胃の中の塩酸によって塩酸ヘマチンという物質に変化し黒褐色からコーヒー残渣様と呼ばれる「どす黒い」色調になります。従って、胃や十二指腸からの出血で、すぐに吐き出すほど大量でなく、胃の中に比較的長い時間血液が貯留するような状況の場合には、真っ赤な血液でなく黒褐色からコーヒー残渣様の色調をした血液が吐血としてみられることになります。これに対して、食道からの出血や、大量の胃・十二指腸からの出血では、鮮血と称される真っ赤な血液を吐血します(図1)。
3.出血に随伴して見られる症状
出血の原因や出血速度、出血量、併存疾患などによっていろいろな症状が出現します。少量ずつ時間をかけて出血する場合には出血以外の自覚症状に乏しいことがあります。出血に伴ってよくみられる随伴症状には以下のようなものがあります。
1. ふらつき、目の前が暗くなるなどの貧血症状
2. 血圧低下、頻脈
3. 息切れ
4. 出血性ショック
出血性ショックの状態を示す徴候(体のサイン)として次の5つがよく知られています。
(1)顔面蒼白(そうはく)・・・顔面の皮膚から血行が失せて蒼白となる状態
(2)虚脱(きょだつ)・・・体力を消耗し、急速な意識障害を来たす状態
(3)冷汗
(4)脈が弱くなり脈拍を触知しなくなる
(5)呼吸不全・・・正常な呼吸状態が保てなくなること
5.誤嚥・窒息
吐いた血液が気管内に垂れ込む誤嚥や、吐物や出血が原因の窒息
4)下血を起こす原因
1.下血を生じる部位
肛門から血液を排出する状態である下血は、食道、胃、十二指腸の上部消化管のみならず小腸、大腸、肛門といった下部消化管も含めたすべての消化管からの出血が原因となります。食道、胃、十二指腸といった上部消化管からの出血が原因である吐血と異なる点です。言い方を変えると、上部消化管からの出血は吐血および下血の両方を起こす原因となりますが、下部消化管からの出血は、通常、吐血は起こらずに下血を起こす原因となります(図1)。
2.下血の出血原因となる主な疾患
1.痔核
2.大腸がん、大腸ポリープ
3.小腸・大腸の憩室出血、憩室炎
4.虚血性腸炎、薬剤性腸炎、感染性腸炎
5.潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患
6.胃潰瘍など吐血の原因となる上部消化管疾患
5)下血の際に見られる症状について
1.出血の量
下血も吐血と同様に、肛門からの出血がティッシュに少量付着する程度のものから、多量の血液が飛び散るような状態までさまざまです。やはり出血の量が多く、循環動態に影響が出るようになると、血圧低下や頻脈(脈が速くなること)を生じますし、更に病態が進めば出血性ショックに陥る可能性があります。
2.出血の出方、性状
吐血のところで説明しましたように、血液は胃酸を主とした消化液によって黒褐色からどす黒い色調に変化します。従って、胃や十二指腸、小腸上部のように、口に近い消化管からの出血が肛門へと流れていく場合には、消化液と混じりあっている腸管内通過時間が長くなるため、真っ黒い色調の便が排泄します。一般的に、このような色調の便を「黒色便」あるいは「タール便」と呼んでいます。石炭を高温乾留して得られる油状液体であるコールタールのような色調であることが名称の由来です。一方、出血部位が次第に肛門に近くなってくるに従い、段々に血液本来の赤みが保たれた状態で排便されることになります。これを「血便」と言います。つまり、小腸下部、大腸の前半(盲腸、上行結腸、横行結腸など)からの出血は、黒色ではなく、血液とわかるような赤い出血がみられますし、大腸の後半である下行結腸、S状結腸、直腸からの出血では、新鮮血の排出や便の周囲に真っ赤な血液の付着を認めることが多くなります。痔からの出血は鮮やかな赤色をした鮮血となります(図1)。
肛門から出血が見られる状態である「下血」は、このように便の色調により黒色便(あるいはタール便)と「血便」に分類されます。更に血便は、粘液が混じった「粘血便」と粘液の混じらない「鮮血便」に分けられます。粘血便は、食中毒を引き起こす細菌や赤痢菌の感染あるいは潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性の疾患などでみられます。
3.出血に随伴して見られる症状
出血に随伴して見られる症状は、吐血の場合と同様に、出血の原因や出血速度、出血量、併存疾患などによっていろいろな症状が出現します。少量ずつ時間をかけて出血する場合には出血以外の自覚症状に乏しいことがあることも同じです。
出血に伴ってよくみられる随伴症状には以下のようなものがあります。
1.ふらつき、目の前が暗くなるなどの貧血症状
2.血圧低下、頻脈
3.息切れ
4.出血性ショック
出血性ショックの状態を示す徴候(体のサイン)として次の5つがよく知られています。
(1)顔面蒼白(そうはく)・・・顔面の皮膚から血行が失せて蒼白となる状態
(2)虚脱(きょだつ)・・・体力を消耗し、急速な意識障害を来たす状態
(3)冷汗
(4)脈が弱くなり脈拍を触知しなくなる
(5)呼吸不全・・・正常な呼吸状態が保てなくなること