大腸癌とはどのような病気?

帝京大学ちば総合医療センター 外科 幸田 圭史
更新日:2019年7月31日

はじめに
このコラムをご覧になっておられる方々のなかには最近、大腸内視鏡検査および生検による病理検査をうけて大腸癌(結癌ないしは直腸癌)と診断された方がおられることと思います。かなりショックをお受けになられたのではないか、と想像いたしますが、本コラムを読まれて大腸癌に関しての知識を得ておいていただき、ご納得の上で今後の治療を考えていただければ、作成した者に取りましても大変うれしく思います。

1.一般知識

1)大腸癌の成因

大腸癌の家系でないから大丈夫、と考えておられる方も多いかもしれません。遺伝が関係している大腸癌は約20%といわれており、80%の大腸癌は遺伝とは関係なく発症しています。はっきりとした原因は特定されないものの、大腸癌に関係する危険因子は調べられています。それぞれの危険因子がどの程度、大腸癌の発症に寄与しているのかはわかりません。しかし確かに大腸癌の発症に関与する要因として挙げられているものには以下のものがあります。
①年齢: 年齢を重ねるとともに大腸癌の発症リスクは上昇し、約90%の大腸癌は50歳以上で発症するとされています。
②大腸ポリープ: 大腸ポリープは明らかに大腸癌のリスク要因とされています。多くの大腸ポリープは癌化せずに経過しますが、大腸癌はポリープを基礎としてできることがほとんどであるため、大腸ポリープは放置せず、経過観察ないしは内視鏡的ポリープ切除を行うことが推奨されます。
③遺伝: 多くの大腸癌はDNAの複製における遺伝子変異が元で発症します。遺伝性が明らかな大腸癌としては大腸に多数のポリープを生じる家族性大腸ポリポーシスの家系(大腸癌全体の1%以下の頻度)、またリンチ症候群という家族内に子宮癌や膵臓癌などが多発する家系(大腸癌の5%以下の頻度)が知られていますが、その家系のすべての構成員が大腸癌に罹患するわけではありません。
④炎症性腸疾患: 腸管に原因不明の慢性炎症を来す疾患で、潰瘍性大腸炎およびクローン病には一般の人たちに比べて高い大腸癌の発症率が報告されています。
⑤食事などの生活習慣: 大規模の研究では体重過多の人たちで25%、肥満の人たちでは50%の大腸癌リスクの上昇が報告されています(Moghaddam AA, et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev, 2007(16): 2533-47.)。また2型糖尿病で30%のリスク上昇が言われています。動物性脂肪の摂取、ソーセージ、ハムのような加工肉、赤身肉、繊維の少ない食事などが大腸癌の発症に関与するとされています。
➅タバコとアルコール: 長期にわたるタバコ、毎日のアルコール摂取は証明された大腸癌の発症危険要因です。

2)大腸癌の統計

人の一生の中で2人から3人に一人は癌に罹患するといわれています(American Cancer Society)。
また本邦では、その罹患した癌の中で大腸癌は男性の第3位、女性では第2位の頻度であり、合計では癌の中で最も罹患数の多い癌となっています(2014年)。大腸癌による死亡数は増加しているとされますが、これは他の癌と同じく、近年の高齢化による要因が大きく、高齢化の影響を除くと死亡率は減少傾向にあるとされています。 2014年の本邦の統計では、大腸癌は人口10万人あたり男性で124人、女性は88人に新たに診断されています(国立癌研究センターデータ)。

3)遺伝性大腸癌について

大腸癌のうち20-30%は家族集積性(家族内に多発すること)があるとされますが、現在、遺伝性があきらかな大腸癌は約5%程度といわれており、2つの遺伝性大腸癌が頻度的に多いものです。
① リンチ症候群
ミスマッチ修復遺伝子とよばれる遺伝子の機能異常により家系内に大腸癌が多発するものです。この症候群における大腸癌の特徴は、比較的若年者に発症すること、盲腸、上行結腸など右側の大腸に発症しやすいことです。大腸癌だけでなく子宮内膜(体部)癌、、小腸癌、卵巣癌、胆道癌、膵癌、腎盂尿管癌など別の部位の癌も発症することがあり、リンチ症候群関連腫瘍とも呼ばれます。最終的な診断はミスマッチ修復遺伝子の変異の有無を調べることで行いますが、リンチ症候群のスクリーニングとしては以下の2つの基準(アムステルダム基準、改訂ベセスダガイドライン)のいずれかを満たすことが求められます。

■アムステルダム基準II(1999)
少なくとも3人の血縁者がリンチ症候群関連腫瘍(大腸癌、子宮内膜癌、腎盂・尿管癌、小腸癌)に罹患しており、以下のすべてをみたす。
(1) 1人の罹患者は他の2人に対して第一度近親者(親子、兄弟の関係)である。
(2) 少なくとも連続する2世代で罹患している。
(3) 少なくとも1人の人は50歳未満で診断されている。
(4) 腫瘍は病理学的に癌であることが確認されている。
(5) 家族性大腸腺腫症(後述)でない

■改訂ベセスダガイドライン(2004)
(1) 50歳未満で診断された大腸癌。
(2) 年齢に関わりなく同時性あるいは異時性大腸癌、ないしは関連腫瘍がある
(3) 60歳未満の大腸癌で遺伝子異常に特徴的な組織学的所見がある。
(4) 第1度近親者に1人以上リンチ症候群関連腫瘍があり、うち1人は50歳未満で診断された大腸癌である。
(5) 年齢に関わりない大腸癌で、第1度ないし第2度近親者(祖父、祖母、孫、おじ、おば、おい、めい)の2人以上がリンチ症候群関連腫瘍と診断されている。

② 家族性大腸腺腫症(FAP)
大腸癌のうち1%未満と頻度は高くありませんが、大腸に多数のポリープ(腺腫)を生じ、ほぼ100%が癌化するとされており、FAPと診断されれば早期の治療が必要です。診断は内視鏡所見ないしは家族歴にて行われることが多いですが、疑診例ではAPCと呼ばれる遺伝子に変異があるかどうか、遺伝子診断で確診されます。 治療の基本は大腸をほぼすべて切除する外科的手術ですが、ポリープの数や分布によっては直腸の一部を残して術後排便機能を温存することもあります。またしばしばデスモイド腫瘍と呼ばれる腫瘍が体のあちこちに生じるため、定期チェックが必要です。十二指腸や小腸にも腺腫を生じることがおおく、こちらの検査も必要になってきます。

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