更新日:2026年6月18日
2. 膵癌に関連する因子
膵癌の危険因子(表)
- 家族歴:膵癌家族歴、家族性膵癌
- 遺伝性疾患:遺伝性膵炎、遺伝性乳癌卵巣癌症候群、Peutz-Jeghers症候群、家族性異型多発母斑黒色腫症候群、遺伝性非ポリポーシス大腸癌(Lynch症候群)、家族性大腸ポリポーシス
- 合併疾患:糖尿病、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵嚢胞、肥満 歯周病
- 嗜好:喫煙、大量飲酒
- その他
- 複数の危険因子を有する場合は、高リスク群として検査をすることが勧められます
家族性膵癌
- 膵癌全体の5〜10%の患者さんで、第一近親者に膵癌を認めると言われていますが、そのうち第一度近親者(親、兄弟姉妹、子)に2人以上の膵癌患者を有する家系に発生し、既知の遺伝性膵癌症候群(上記、遺伝性疾患)を除いたものを「家族性膵癌」と言います。
- 膵癌になるリスクは、第一近親者に膵癌患者が1人いると4.5倍、2人いると6.4倍、3人以上では32.0倍のリスクとなります。また生涯膵癌発生リスクは1人の場合は6%、2人の場合8−12%、3人以上で40%です。
- 第一近親者に膵癌患者がいる場合は、膵癌高リスク群として慎重に検査する必要があります。
- 日本では2013年に日本膵臓学会が「家族性膵癌レジストリ制度」を設立し、2014年から「日本膵臓学会家族性膵癌登録制度(IFPCR)」の運用が開始されています、この制度は我が国における膵癌の原因解明、早期診断、新規薬開発において重要な役割を担う制度であり、さらなる発展が期待されています。
3. 膵癌の症状
- 膵癌の自覚症状としては、腹痛(32%)が最も多く、黄疸(19%)、腰背部痛(9%) 体重減少(5%)と続きます。わが国の膵癌登録集計では無症状で診断される割合は約15%にとどまります。症状は発生部位によって異なります。発生部位は膵頭部が最も多く、主膵管が閉塞すると膵液のうっ滞や二次性膵炎が起こるため、心窩部痛や上腹部痛、背部痛などの症状が出現します。
- 主膵管の閉塞は膵外分泌機能を低下させ、食物の消化吸収を傷害し、下痢や腹痛、体重減少を生じることがあります。
- 内分泌機能が障害されると糖尿病を発症し、口渇や多飲、多尿などの糖尿病による症状が出現することがあります。もともと糖尿病のある患者さんでは、急な糖尿病の悪化を認めることがあります。
- 膵頭部癌が胆管に浸潤して胆管狭窄をきたすと、閉塞性黄疸を発症します。
- 十二指腸への浸潤をきたすと悪心、嘔吐などの症状が現れます。

4. 膵癌の診断
膵癌診療ガイドラインでは膵癌診断のためのアルゴリズムが示されています。

- 血液検査では、膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1、トリプシン)や腫瘍マーカー(CEA、CA19-9、DUPAN-2、Span-1)があります。膵癌に特異的ではありませんが、初期検査として有効です。主膵管の狭窄、閉塞により血液中の膵酵素が上昇することがあり、膵頭部の病変により胆管が狭窄すると肝機能障害を呈することがあります。腫瘍マーカーのうち、最も感度の良いものはCA19-9で、70〜80%の陽性率と報告されていますが、2cm以下の癌での陽性率は50%程度にとどまります。また胆石などの良性疾患による胆汁うっ滞でも上昇することがあります。また日本人の10%程度はLewis抗原陰性であり、そのような患者さんでは進行癌でもCA19-9が上昇しないことがあり、注意が必要です。
- 腹部超音波検査は簡便かつ侵襲のない検査であり、スクリーニング検査に適しています。
- スクリーニング検査で何らかの異常所見を認めた場合、CT検査やMRI検査を行います。これらは、造影剤アレルギーや著明な腎機能障害などがない限りは、造影検査を行うことが推奨されています。また、ペースメーカーや体内金属がある場合はMRIを施行できない場合があります。近年はMRI対応のものが用いられていることも多く、検査に関しては担当の先生との相談が必要です。これらは低侵襲で行うことができ、MRCPは膵管像や胆管像の描出に優れています。また、門脈や動脈などの膵臓周囲への進展や他臓器への転移を見るのに適しています。
- 超音波内視鏡(EUS)はCTやMRIよりも解像度も高く、小膵癌の描出に優れています。また、EUS下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)では組織診断が可能です。化学療法を行う前には組織診断が必須であり、EUS-FNAが有効です。
- 内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)は侵襲的な検査であり、膵炎などの合併症を併発することがあります。そのため、腹部超音波検査、CT検査、MRI検査、EUSでも診断確定が得られない場合に推奨されます。
- ポジトロン断層撮影(PET検査)は良悪性の鑑別や遠隔転移の検索に有効ですが、小さな病変の診断には限界があります。これらの検査ののちに進行度を決定して、治療方針を決めます。
- 診断が確定した後、治療方針を決定するためにガイドラインの記載に基づいて、以下の切除可能性分類(切除可能、切除可能境界、切除不能)の診断をおこないます。
- 切除可能性分類
切除可能分類は、遠隔転移の有無はもちろんのこと、膵臓周囲にある重要な血管である、上腸間膜静脈(SMV)や門脈(PV)、上腸間膜動脈(SMA)、総肝動脈(CHA)、腹腔動脈(CA)への接触・浸潤の程度やその範囲を画像検査に基づいて診断します。
- 切除可能(Resectable: R)
SMV/PVに腫瘍の接触を認めない、もしくは接触・浸潤が180度未満で見られるが、閉塞を認めないもの。SMA、CHA、CAと腫瘍との間に明瞭な脂肪組織を認め、接触・浸潤を認めないものをいいます。
- 切除可能境界(Borderline resectable : BR)
門脈系(SMV/PV)と動脈系(SMA,CHA,CA)の浸潤により2つに分類されます。
- BR-PV(門脈系への浸潤のみ)
SMV/PVへ180度以上の腫瘍の接触・浸潤あるいは閉塞を認めるが、その範囲は十二指腸下縁を超えないもので動脈系への腫瘍の接触・浸潤を認めないものです。
- BR-A(動脈系への浸潤あり)
SMAあるいはCAに腫瘍との180度未満の接触・浸潤を認めるが、狭窄・変形は認めないもの。CHAへの接触・浸潤を認めるもの。
- 切除不能(Unresectable: UR)
遠隔転移の有無により2つに分類されます。
- UR-LA(局所進行)
以下の場合、局所進行切除不能と診断します。
- ✔ SMV/PVに腫瘍との180度以上の接触・浸潤あるいは閉塞を認め、かつその範囲が十二指腸下縁を超えるもの
- ✔ SMAあるいはCAに腫瘍との180度以上の接触・浸潤を認めるもの
- ✔ CHAに腫瘍の接触・浸潤を認め、かつ固有肝動脈あるいはCAに接触・浸潤が及ぶもの
- ✔ 大動脈に腫瘍の接触・浸潤を認めるもの
- UR-M(遠隔転移あり)
肝臓や肺、腹膜播種、領域リンパ節をこえるリンパ節への転移などです。膵癌取扱規約第8版から、腹腔細胞診陽性も遠隔転移に含まれることになりました。
- UR-LA(局所進行)
- 切除可能性分類
※出典:膵癌診療ガイドライン2025、日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編
腹部造影CT(A)では膵癌は低吸収腫瘤(矢印)として描出されます。MRCP(B)では腫瘍の部位の主膵管は狭窄し(矢印)、尾側の膵管は拡張します(矢頭)。ポジトロン断層撮影(PET検査)(C)では、腫瘍は強い集積像として認めます(矢印)。