更新日:2019年7月31日

6.手術

大腸癌と診断された場合には治療が開始されますが、大腸癌の治療法には大きく分けて以下のものがあります。

①内視鏡的切除

②経肛門的切除

③手術治療(腹腔鏡下手術ないし開腹手術)

④化学療法

⑤放射線治療

単独で行われることもありますがこれらの複数を組み合わせて治療する場合もあります。治療方針は癌の進行度と大腸癌の部位によるところが大きいものの、最終的には治療を受ける患者さん御自身で治療方針を決めていただくことが大切です。

1)内視鏡的治療

いくつかの条件がそろった癌の場合には手術を回避し内視鏡的な治療で完治を得られることがあります。内視鏡的な治療を選択する、その条件とは
(1) 癌の浸潤(深さ)が粘膜内にとどまるか、軽度に粘膜の下の層(粘膜下層)にまで達するもの
(2) 癌の場所が内視鏡的治療に適する位置に存在する。大腸の襞をまたぐ扁平なものなどは技術的に困難なことがあります。

■内視鏡的治療には以下のものがあります。
(1) ポリペクトミー
(2) EMR(内視鏡的粘膜切除術)
(3) ESD(内視鏡隙粘膜下層剥離術)
:これらの手技の詳細については胃癌の項を参照ください。

■内視鏡治療の合併症
(1) 出血: もっとも多い合併症です。便器が赤く染まるほど血便がでることがあります。なるべく早期に大腸内視鏡を再検し、止血を行います。止血は出血点をクリップでつまんで止血する場合や、焼灼して止血する場合があります。多くは入院の上、暫く絶食にて経過を観察します。
(2) 穿孔: 内視鏡的治療による腸管穿孔は治療の施行中に起こる場合と、終了後に起こる場合があります。軽度の場合は内視鏡的な閉鎖術、高度になると腹壁からの穿刺ドレナージや緊急手術が必要となることがあります。

■内視鏡治療後の追加切除手術
内視鏡的治療の後、実際に切除した癌を顕微鏡などで検査します(病理検査)。この結果、以下の条件に当てはまるものは、せっかく内視鏡治療で取りきれたと判断しても、場合によっては癌が腸管外に進展する(リンパ節転移を起こす)ことが確率的にありえるので、追加の手術を勧められることが多い癌といえます。
(1) 癌の浸潤度(腸壁のどの程度深くまで癌が進展しているか)が予想よりも深い
(2) 顕微鏡で観察すると血管やリンパ管に癌が入り込んでいる(脈管浸襲)
(3) 癌のタイプが悪性度の高いタイプである(低分化癌、印環細胞癌、粘液癌)
(4) 癌の最前線で癌細胞が本体から遊離し始めている(budding)

2)経肛門的切除

肛門近くの直腸に存在する大きな腫瘍では、時に肛門から腫瘍を切除することがあります。多くは内視鏡では切除が困難な早期癌がこの治療法の適応になりますが、患者さんの状態によっては、進行癌においても局所的な経肛門的切除と放射線化学療法との組み合わせで治療されることがあります。方法としては直視下で切除する場合と、腹腔鏡などのカメラと操作鉗子を肛門から挿入して切除をおこなう方法があります。

3)手術治療

内視鏡的な治療や経肛門的切除の対象とならない大腸癌の場合には、手術、抗がん剤、放射線療法が選択されます。患者さんの体調も考慮されますが、この中では手術が第一選択となります。
手術の原則は、①腸切除 ②リンパ節郭清 ③吻合 を行います。結腸の手術では、癌の口側および肛門側ともに約10㎝離して腸切除を行います。
手術の原則

■リンパ節郭清
転移する可能性のあるリンパ節を、腸や血管と一緒に一塊として切除します。
リンパ節郭清を行う範囲は、大腸癌の場所と深達度やリンパ節転移の有無により決定します。
リンパ節郭清を行っても、手術後に障害が生じることはほとんどありません。

■結腸癌手術の種類
癌のある場所により切除範囲や名称が異なります。

▶結腸右半切除術
結腸右半切除術

▶横行結腸切除術
横行結腸切除術

■直腸癌手術

結腸癌と異なり、肛門の近傍にできた直腸癌の場合には、癌の肛門側10㎝の距離をとった切除は行えない場合があり、癌の存在部位によって肛門側の切除ラインが決定されます。肛門に極めて近い癌は人工肛門が必要になることがあります。

肛門を温存する手術も広く行われていますが、肛門に近い吻合を伴う直腸癌手術では、少なからず術後に排便機能の低下を伴い、症状によっては投薬やその他の治療を要します。
また、直腸周囲には膀胱や男性生殖器への神経が網目状に分布しています。直腸手術ではこれらの神経の温存を試みますが、神経が一部でも損傷されたり、癌の浸潤により合併切除が行われた場合には、術後に排尿や性機能(勃起や射精)の障害が出て投薬やその他の治療が必要となる場合があります。

 

▶前方切除術
直腸癌の基本的な手術法です。直腸を一部残して結腸と機械で吻合します。肛門は温存されます。 低位前方切除術

▶ハルトマンの手術
前出の前方切除術での直腸の吻合では吻合部がうまく接合されない危険性が高いと判断される場合などでは、わざと吻合をせず口側の結腸を人工肛門にすることがあります。吻合に用いる結腸が癌の狭窄によりむくみが強くなっている場合や、あるいは患者さんの全身状態を鑑みて選択される術式です。
ハルトマンの手術

▶直腸切断術(マイルズ手術)
癌が肛門にまで浸潤して肛門温存が困難な場合や、肛門を温存した場合には高度の術後排便障害が見込まれ、患者さんの術後の生活の質が悪くなることが予想され場合には、肛門を含めて直腸を切除し人工肛門を造ります。
マイルズ手術

▶括約筋間直腸切除術(ISR)
癌が肛門に近くても、内肛門括約筋と呼ばれる肛門の筋肉を削ることで腫瘍の切除が可能であると判断される場合には、内肛門括約筋のみを切除して肛門を温存できることがありISRと呼ばれています。
ISR

■腹腔鏡下手術について
通常の大腸癌の手術治療では腹腔鏡手術が選択されることが多くなっています。開腹手術の場合では20cm程の傷となりますが、腹腔鏡手術ではほぼ4-5cm以下の傷で手術が可能です。炭酸ガスで腹腔内を気腹し、腹腔鏡で腹腔内を観察しながら、5mmから1cm程のトンネル(ポート)を挿入し細い器具を挿入して手術を行います。
手術中に腹腔鏡手術が困難であると判断された場合には開腹手術に切り替えることもあります。特に、横行結腸や直腸手術、癌のサイズが大きい場合や他臓器に浸潤しているもの、肥満者や開腹手術を受けたことがあり癒着が予想される方は、腹腔鏡手術の難易度が高いとされています。腹腔鏡手術の適応については主治医と相談して下さい。
腹腔鏡手術

 

ページトップ