更新日:2019年6月5日

2.症状からみた病気の特徴を知ろう!

腹痛の原因となる病気のなかで、頻度が高い代表的な病気の症状の特徴をまとめてみます。

1)頻度が高い病気の症状

表4 頻度が高い病気の症状
臓器 病名 症状
消化器科領域 胃潰瘍 食後の心窩部痛
十二指腸潰瘍 空腹時の心窩部痛 食事で痛みが軽快
胆石発作 食後の心窩部~右上腹部痛 右肩甲骨の痛み
胆嚢炎 食後の心窩部~右上腹部痛 右肩甲骨の痛み 吐き気 嘔吐 発熱
急性膵炎 上腹部の激痛 吐き気 嘔吐 背部痛
単純性腸閉塞 間欠的に差し込むような腹痛 吐き気 嘔吐 腹部膨満 排ガス・排便停止
複雑性(絞扼性)腸閉塞 持続的で激しい腹痛 吐き気 嘔吐 腹部膨満 排ガス・排便停止
急性虫垂炎 心窩部~臍周囲痛 ⇒ 右下腹部に痛みが移動 吐き気 嘔吐 発熱
感染性腸炎 腹痛 頻回な下痢 吐き気 嘔吐 発熱 ときに血便
過敏性腸症候群 腹痛 腹部不快感 下痢や便秘などの便通異常 排便後腹痛軽快
大腸憩室炎 腹痛 発熱 (吐き気・嘔吐は少ない)
泌尿器科領域 尿路結石 側腹部~腰背部の激しい痛み 血尿
産婦人科領域 骨盤腹膜炎 下腹部痛(食事と無関係)発熱 臭いのあるおりもの
異所性妊娠(子宮外妊娠) 下腹部痛の激しい痛み 吐き気 血圧低下 ショック状態
卵巣捻転 捻れが急な場合は激しい下腹部痛 捻れが緩やかな場合は徐々に下腹部痛が増強

①消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)

一般的に、胃潰瘍では食後に心窩部痛が出現します。一方、十二指腸潰瘍ではお腹の空いている空腹時に痛みが出現し、食事で痛みが軽快するという特徴があります。もちろん、食事との関係が不明瞭なこともあります。潰瘍から出血すると吐血したり、タール便といって便が黒くなったりします。また、潰瘍が増悪し破れる(穿孔)と突然の強い痛みが生じます。破れた穴から消化液や食べ物がお腹の中に漏れると急性腹膜炎をきたします。

②胆石発作・胆嚢炎

日本人の場合の胆石保有率は5%位とされています。健康診断で、まったく症状が無いのに胆石を指摘されることもあります。その場合には定期的な検査を行いながら経過観察します。しかし、経過中に胆石発作を引き起こすことがあります。腹痛は心窩部から右上腹部(右季肋部)に出現します。また関連痛(病気の部位から離れた場所の痛み)として右肩甲骨に放散する痛みが出ることがあります。とくに脂肪の多い食事を食べた後に痛みが誘発されます。また、胆石が原因で胆嚢炎を引き起こすことがあり、右上腹部痛とともに吐き気や嘔吐、発熱も出現してきます。

③急性膵炎

上腹部の激痛と背中に放散する痛みが出現します。吐き気や嘔吐も伴います。胸膝位といって、膝を曲げて腹ばいや屈み込む姿勢になると痛みが軽減することがあります。急性膵炎の原因として多いのが、アルコールと胆石で、アルコール性膵炎は男性に多く、胆石性膵炎は女性に多いとされています。重症化した場合には、命に関わることがあります。

④腸閉塞

腸管の中には、消化液と食物が流れていますが、その流れが障害された状態が腸閉塞です。腸閉塞の中には、いくつかの種類があります。腸管と言うパイプが詰まった状態ですが、腸管の血液の流れが障害されていない場合は、単純性腸閉塞と言います。最も多いのが、以前に開腹手術を受けた患者さんが、術後に生じたお腹の中の癒着を原因とする癒着性単純性腸閉塞です。また、大腸癌などの腫瘍によって腸が詰ってしまう場合もこのタイプの腸閉塞です。

一方、腸管が詰った状態で、かつ腸管の血液の流れが悪くなって腸が壊死してしまう場合を複雑性(絞扼性)腸閉塞と言います。開腹術後の索状物で腸が絞められる場合をはじめ、S状結腸軸捻転症や腸重積、ヘルニア嵌頓などもこのタイプの腸閉塞です。症状は、腹痛と吐き気、嘔吐、お腹の膨満感、そして排ガスや排便が停止します。単純性腸閉塞の腹痛は、周期的あるいは間欠的に差し込むような痛みですが、複雑性(絞扼性)腸閉塞では腸管が壊死してきますので、持続的で激しい腹痛が出現します。

⑤急性虫垂炎

外科的な手術を必要とする急性腹症のなかでは最も頻度の高い病気で、生涯罹患率は7~14%とも言われています。虫垂は右下腹部に在りますが、最初の腹痛は心窩部あるいは臍周囲に出現します。時間の経過で右下腹部に痛みが移動してくるのが特徴です。随伴症状として嘔吐も出現しますが、必ずと言っていいほど「腹痛」が先でその後に「嘔吐」という順番になります。しかし、非典型的な症状や経過を辿る場合も少なくありません。

⑥感染性腸炎

ウイルスや細菌が原因となる頻度の高い病気です。ノロウイルスやロタウイルス、サルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌などがあります。腹痛と同時に頻回な下痢が出現し、嘔吐や発熱も伴います。また、O157のような腸管出血性大腸菌の場合には血便になることがあります。

⑦過敏性腸症候群

お腹の痛みや不快感とともに、排便によって症状がやわらいだり、排便の回数が増えたり減ったりしたり、あるいは便の形状が軟らかくなったり硬くなったりする場合に疑われる病気です。腸の機能的な異常が原因と考えられています。診断するためには、下部消化管内視鏡などの検査で器質的な異常がないことが前提となります。

⑧大腸憩室炎

憩室とは、腸の壁の一部が内腔から外に向かって袋状に飛び出していることをいいます。憩室で炎症を起こすと憩室炎となり腹痛をきたします。憩室が穿孔した場合には、便が腸の外側に漏れてしまうため腹膜炎をきたし、命に関わる重篤な病状になることも少なくありません。欧米では左側の大腸に多いのですが、日本人は右側の大腸にも多く、急性虫垂炎との良く似た症状をきたすことがあります。ただ、虫垂炎と比較すると、吐き気や嘔吐は少ない傾向があります。

⑨泌尿器科の病気

泌尿器科の中で頻度の高い病気は尿路結石です。腎臓にできた結石が尿管に流れてきて尿管が詰ってしまい尿の流れが悪くなることで、側腹部から腰背部の激しい痛みが突然に出現します。痛みと同時に尿に血液が混じり赤くなる血尿を伴います。

⑩産婦人科の病気

産婦人科領域では、骨盤腹膜炎や異所性妊娠(子宮外妊娠)、卵巣捻転があります。骨盤腹膜炎は細菌感染によって子宮、卵管やその周りに炎症をきたす病気です。大腸菌などの一般細菌以外にクラミジアや淋菌などの性行為が原因となり感染する場合も多いです。下腹部痛や発熱とともに。臭いのあるおりものが出現します。異所性妊娠は、子宮体部の内膜以外の場所に起こる妊娠をいい、子宮外妊娠と子宮内異所性妊娠があります。子宮外妊娠では、そのほとんどが卵管妊娠です。破裂すると突然の下腹部痛が出現し、お腹の中で出血するため、血圧が下がってショック状態になることがあります。卵巣捻転は、卵巣に嚢腫などの腫瘍がある場合に、卵巣を支えている靭帯が捻れてしまう病気です。捻れることで血流が遮断され、下腹部の激しい痛みが出現します。

2)緊急を要する症状

表5 緊急を要する症状
病態 病名 症状
出血 異所性妊娠 突然の下腹部痛 血圧低下 ショック
肝細胞癌破裂 突然の上腹部痛 血圧低下 ショック
腹部大動脈瘤破裂 引き裂かれるような激痛 背部・両下肢の痛み 血圧低下 ショック
循環障害 心筋梗塞 締め付けられるような心窩部痛 肩・首・顎の痛み 吐き気 冷や汗
上腸間膜動脈閉塞症 突然の持続的な臍周囲痛 嘔吐 腹部膨満 下痢 下血
絞扼性腸閉塞 持続的な激しい腹痛 嘔吐 腹部膨満 排ガス・排便停止
穿孔 大腸穿孔 突然の下腹部痛 ショック
炎症 急性胆管炎 上腹部~心窩部痛 発熱 黄疸
重症急性膵炎 上腹部の激痛 背部痛 嘔吐 呼吸困難 意識障害 ショック

命に関わる緊急性の高い病態には、出血や臓器の循環障害(血液の流れの障害)と壊死、臓器の穿孔や破裂、臓器の炎症などがあります。

①出血

お腹の中に急な出血をきたす病気としては、異所性妊娠(子宮外妊娠)と肝細胞癌破裂があります。突然の腹痛とともに出血性ショックをきたします。血管の病気では、何と言っても腹部大動脈瘤破裂が生死に関わる病気です。心窩部や臍周囲に引き裂かれるような激痛が生じ、背中や両下肢にも痛みが放散します。血圧が下がってショック状態に陥ります。

②循環障害

血管が詰ってしまい臓器への血液の流れが障害される病気としては、まず心筋梗塞が挙げられます。心筋梗塞というと胸痛と思われるかもしれませんが、心窩部痛として発症する場合があります。締め付けられるような痛みで、肩や首、顎などに放散する痛みも伴います。吐き気や冷や汗も重要な症状です。心筋梗塞は冠動脈という心臓に流れている血管が詰る病気ですが、同じように腸管に流れている血管が詰ってしまう上腸間膜動脈閉塞症という病気があります。腹痛は、突然の臍周囲痛で持続的です。腸管の動きが麻痺するため、嘔吐や腹部の膨満が出現します。また、下痢や血便が出ることもあります。同じように腸管の血流が悪くなって壊死してしまう病気として絞扼性腸閉塞があります。前項で述べたように、持続的で激しい腹痛とともに、腹部の膨満、嘔吐、排ガス・排便が無くなります。

③穿孔

消化管が穿孔して腹膜炎をきたす病気の中では、大腸穿孔が最も危険です。穿孔の原因としては大腸憩室や大腸癌などが挙げられます。突然の持続的な下腹部痛で始まりますが、大腸が破れると便がお腹の中に漏れて急性腹膜炎をきたし、便に含まれる大腸菌などの腸内細菌が体中に回って敗血症性ショックに陥ってしまいます。

④炎症

臓器の炎症の病気としては、急性胆管炎と重症急性膵炎が緊急度の高い病気です。急性胆管炎では、上腹部から右季肋部の痛みとともに発熱と黄疸が出現します。発熱はときに悪寒戦慄を伴います。重症急性膵炎は、前項で述べたように、上腹部の激痛と背中に放散する痛みが出現し、吐き気や嘔吐を伴います。腹痛の程度と膵炎の重症度は相関しないと言われています。重症になると血圧が下がってショック状態になり、呼吸困難や意識障害も出現することがあります。いずれも速やかに治療を開始する必要があります。

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