急にお腹が痛くなったら…

東邦大学医療センター大森病院 総合診療・急病センター(総合診療外科) 島田長人
更新日:2019年6月5日

はじめに

お腹の痛みは、日常生活で誰もが時々経験する症状です。以前、娘に「頭痛」と「胸痛」、「腹痛」から想像できる病気の名前を挙げてもらったことがあります。突然の頭痛から連想した病名は「脳卒中」、激しい胸痛は「心筋梗塞」。いずれも命に関わる病名を挙げました。そこで、急にお腹が痛くなったら?の問いに対しては、「急性胃腸炎かな?」との返事でした。

ちなみに娘は医療従事者ではありません。「脳卒中」や「心筋梗塞」は、一般の方でも重篤な病気であることを知っていますが、「急性胃腸炎」で命を落とすことがあったら?と娘に質問したら、「そんなことは有り得ないでしょ」と言われてしまいました。同じ質問を医学部の学生に聞いたことがあります。やはり、頭痛は「クモ膜下出血」、胸痛は「心筋梗塞」と、娘と同様の答えが返ってきます。そして腹痛の原因は?と聞くと、「急性虫垂炎、胃潰瘍」などの病名が挙がってきます。つまり、頭痛・胸痛・腹痛の三つの中で、腹痛だけは、医学生も一般の人々も、あまり生死に関わる症状とは考えていないことが伺えます。

クリニックや病院を訪れる患者さんの中で、「腹痛」を訴えて来院される方はたくさんいらっしゃいます。一般に救急外来を受診される患者さんの5~10%が「腹痛」の患者さんと言われています。病院を受診して検査を受ければ、すぐに診断がつくと思うかもしれませんが、実は、その診断は必ずしも容易ではありません。腹痛をきたす病気の種類が極めて多いことが理由のひとつですが、同じような症状で、軽症の急性胃腸炎の患者さんがいるかと思えば、一方で、腸に流れている動脈という血管が詰まってしまう腸間膜動脈閉塞症という生死に関わる重篤な疾患の場合もあります。

このコーナーでは、腹痛の原因にどんな病気があるのか、クリニックや病院を受診した時には、どんな問診(質問)や検査を受けるのか、また、どんな治療法があるのか、など皆さんと一緒に勉強してみましょう。

1.腹痛の原因となる病気は?

 

1)病気の種類

表1 病気の主な種類
臓器 病名
心臓・大血管 心筋梗塞 心内膜炎 大動脈瘤破裂 大動脈解離
肺炎 胸膜炎 膿胸 肺塞栓
食道 食道炎 食道痙攣 食道破裂
胃・十二指腸 胃炎 胃潰瘍 十二指腸潰瘍
小腸・大腸 虫垂炎 憩室炎 腸閉塞 感染性腸炎 虚血性腸炎 上腸間膜動脈閉塞症
肝臓 肝炎 肝膿瘍 肝腫瘤 肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)
胆嚢・胆管 胆嚢炎 胆石症 胆管炎
膵臓・脾臓 膵炎 膵腫瘍 脾膿瘍 脾梗塞 脾破裂
腎臓・尿管・膀胱・精巣 尿路結石 腎盂腎炎 腎梗塞 前立腺炎 精巣上体炎 精巣捻転 膀胱炎
子宮・卵管・卵巣 異所性妊娠 子宮内膜症 卵巣出血 卵巣嚢胞破裂 卵巣捻転 卵管炎 骨盤腹膜炎
腹壁・筋骨格系 帯状疱疹 腹壁神経痛 腹直筋血腫 圧迫骨折 腸腰筋膿瘍
その他 機能性ディスペプシア 過敏性腸症候群 糖尿病性ケトアシドーシス 急性ポルフィリン症 心因性
図1 腹痛の部位と主な病気
腹痛の部位と主な病気

お腹の中には、多くの臓器があり、それぞれが痛みの原因となります。胃や十二指腸、小腸、大腸をはじめ、肝臓や胆嚢、膵臓などはもちろんですが、腎臓、尿管、膀胱などの泌尿器、そして女性の場合には、子宮や卵巣、卵管などの臓器も腹痛の原因になります。それ以外に、心臓や肺の病気が原因になる場合もありますし、腹壁性腹痛と呼ばれるお腹の中の内臓の病気ではなく、お腹の皮膚や筋肉に由来する腹痛もあります。さらに、代謝性疾患といわれる特定の内臓とは無関係な全身的な内科疾患も腹痛の原因となる場合があります。

腹痛と言っても、病気の種類によって、それぞれ痛みの部位が若干異なります。お腹の部位は、心窩部(みぞおち)、右上腹部(右季肋部)、左上腹部(左季肋部)、臍周囲、右下腹部、左下腹部、臍下部(下腹部正中)などに区分されます。それぞれの部位別に腹痛の原因となる代表的な病気があります。もちろん、腹部全体が痛くなる場合もありますし、腹痛と同時に背部痛(背中の痛み)が出現する病気もあります。

2)頻度が高い病気

表2 頻度が高い病気
病名
急性虫垂炎
胆石症
腸閉塞
尿路結石
胃・十二指腸潰瘍および穿孔
胃腸炎
急性膵炎
大腸憩室炎
産婦人科疾患
など

病気の種類はたくさんありますが、中でもとくに頻度の高いものは、急性虫垂炎、胆石症、腸閉塞、尿路結石、胃・十二指腸潰瘍および穿孔、胃腸炎、急性膵炎、大腸憩室炎、産婦人科の病気などがあります。もちろん、性別や年代別により、頻度の高い疾患は若干異なっています。

3)緊急度が高い病気

表3 緊急度が高い病気
病名
心筋梗塞
腹部大動脈瘤破裂
上腸間膜動脈閉塞症
異所性妊娠(子宮外妊娠)
肝細胞癌破裂
大腸穿孔
絞扼性腸閉塞
急性胆管炎
重症急性膵炎
など

同じ腹痛でも、直ちに治療を必要とする緊急度の高い病気と少し安静にしながら経過を診ることで症状が良くなる病気など様々あります。もちろん重要なのは緊急手術などの治療が必要となる病気です。例えば、心筋梗塞や腹部大動脈瘤破裂、上腸間膜動脈閉塞症などの血管の病気、異所性妊娠(子宮外妊娠)、肝細胞癌破裂などのお腹の中で出血をきたす病気をはじめ、大腸穿孔、絞扼性腸閉塞、急性胆管炎、急性重症膵炎などが命に関わる緊急度の高い病気の代表です。

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