日本臨床外科学会雑誌 第83巻1号 掲載予定論文 和文抄録

 

原著

新型コロナウイルス感染症の乳癌患者への影響-Webアンケート結果より-

宮西病院外科・乳腺外科

鈴木 瞳 他

 目的:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が乳癌患者に及ぼす影響について調査し、感染拡大下での乳癌診療について検討すること。
方法:乳癌と診断されたオンライン患者会会員を対象に、異なる時期に2回Webアンケートを実施し、COVID-19の乳癌診療や日常生活、就労、精神面への影響について調査した。初回は緊急事態宣言発令後の2020年4月、2回目は第三波到来後の2020年12月に行った。
 結果:感染拡大による乳癌診療への影響は、初回25%、2回目15%で、自己判断で通院を延期した患者は2回とも全体の25%程度いた。自身や家族の感染への不安は、初回・2回目ともに95%程度と高かった。定期癌検診の延期は26%に認められた。精神面では、日本版K6の結果で、AYA世代と単身世帯の患者の、うつ・不安障害の程度が特に高い傾向がみられた。
結論:Webアンケートにより、COVID-19感染拡大が乳癌診療に及ぼす影響を患者目線で把握できた。今後、withコロナでの適切な乳癌診療と心理サポートが必要である。

微小浸潤性乳癌の予後と臨床病理学的検討

がん研究会有明病院乳腺センター乳腺外科

貴志 美紀 他

 微小浸潤性乳癌の予後を明らかにすることを目的に検討を行った。2007年に当院で手術が施行された原発性片側性乳癌901例のうち、病理学的浸潤径が5mm以下と確定できた233例を対象に後方視的に追跡し、臨床病理学的因子と予後を比較検討した。233例中、pTis群(非浸潤癌)は134例(57.5%)、pT1mi群(微小浸潤癌)は33例(14.2%)、pT1a群(浸潤径が1mmをこえるが5mm以下)は66例(28.3%)であった。pT1mi群はpT1a群に比べてリンパ節転移陽性例が有意に少なかった(p<0.01)。観察期間中央値は87(12-140)ヵ月で、遠隔再発をきたした症例はpT1mi群の1例のみであった。この症例は術後薬物療法未施行で、1mm以下の浸潤巣が近接して多発していた。浸潤巣を含む病理ブロックの深切り検査を追加したところ、1mmをこえる浸潤巣が確認され、通常の検索では現れなかった浸潤巣が出現した。乳癌死をきたした症例はいなかった。今回の検討では、3群ともに予後良好で浸潤径による疾患特異的生存率に差はみられなかった。

症例

去勢抵抗性前立腺癌を伴った原発性副甲状腺機能亢進症の1例

府中市民病院内分泌外科

和久 利彦

 右股関節痛で当院受診。画像検査で恥骨骨転移・リンパ節転移を伴った進行性前立腺癌が疑われCa10.8mg/dl、PSA219ng/mlであった。複合アンドロゲン遮断療法のための去勢術と前立腺生検を同時に行い、生検の結果前立腺癌と診断した。ホルモン療法開始後2年4か月でPSA上昇と恥骨骨転移のわずかな増大を認め去勢抵抗性前立腺癌と判断した。高Ca血症が継続したためホルモン療法開始後2年7か月でゾレドロン酸を投与した。PSAは低下したが高Ca血症は継続し、intact-PTH 99.2pg/mlと高値のため内分泌外科へ紹介となった。大腿骨骨密度検査で骨密度低下が認められた。手術では、術前に画像で局在診断できなかった長径2㎝で全体に均一に薄い副甲状腺腺腫が甲状腺右葉上極背側に存在した。自験例のように進行した悪性腫瘍患者で高Ca血症を認めたなら、PTHやPTHrPを測定して鑑別診断しておくことは肝要である。

乳頭部の丘疹を契機に発見された乳頭部浸潤性小葉癌の1例

香川県立中央病院乳腺・内分泌外科

戸嶋 圭 他

 症例は58歳,女性.3ヶ月前より右乳頭の皮疹を自覚し,前医皮膚科を受診した.右乳頭外側と右乳輪10時方向に米粒大の丘疹を認め,皮膚生検を施行したところAdenocarcinomaと診断され当科に紹介となった.初診時,右乳頭に1.5cmの硬結を触知したが,マンモグラフィと乳房超音波検査では乳房内に病変は認めなかった.造影MRI検査では右乳頭のみにfast-plateau patternの造影効果を認めた.遠隔転移は認めず,cT1cN0M0 stage IAの乳頭部乳癌と診断した.乳頭・乳輪を含めた乳房部分切除術とセンチネルリンパ節生検を施行し,センチネルリンパ節は転移陰性であった.病理診断結果は,浸潤性小葉癌, 浸潤径2cm, ly0, v0, ER score 3b, PgR score 3b, HER2 score 1, Ki-67:8%.腫瘍の主坐は乳頭で,表皮内への浸潤は認めず,切除断端は陰性であった.術後は残存乳房照射を行い,その後アナストロゾールを投与した.現在術後10ヶ月で,再発なく経過している.

腋窩アポクリン癌と副乳小葉癌との鑑別を要した男性腋窩腺癌の1例

JCHO九州病院乳腺外科

中村 祥一 他

 症例は63歳, 男性. 3年前に右腋窩に20㎜大の発赤調の低い隆起性皮膚病変を触知し当院皮膚科を受診, 視触診のみで悪性所見は乏しいと判断され経過観察の方針となった. 3年後, 病変が70mm大に増大したため再診し, 切除生検では乳癌が疑われた. CT上腋窩リンパ節は腫大しており男性副乳癌や汗腺癌等を鑑別診断に挙げ診断的治療目的に腫瘍切除術, 腋窩リンパ節郭清を行った. 切除標本の病理所見では細胞間結合が弱い腫瘍細胞が索状配列を呈し増殖していた. 免疫染色でE-cadherin陰性, HER2蛋白の過剰発現を認め浸潤性小葉癌が疑われたが周囲の正常乳腺組織を認めず腋窩アポクリン癌も否定できなかった. 最終的に両者の鑑別は困難であったが免疫組織学的所見や臨床経過を総合し副乳小葉癌として加療を行った. 術後補助化学療法と局所照射を行い現在2年間無再発生存中である.

両側乳腺に同時に発生した男性被包型乳頭状癌の1例

兵庫県立加古川医療センター乳腺外科

小林 貴代 他

 症例は69歳の男性。右乳房腫瘤の精査目的に当院へ紹介された。右乳房には嚢胞内腫瘤、左乳房には境界明瞭な充実性腫瘤を認めた。針生検にてともに乳頭状癌を認め、同時性両側乳癌と診断、両側乳房切除およびセンチネルリンパ節生検を施行した。病理検査では両側とも嚢胞内癌の形態をしていたが、免疫染色にて乳頭状部および嚢胞壁の筋上皮細胞が乏しく、両側とも被包型乳頭状癌と診断した。同時性両側男性被包型乳頭状癌という非常にまれな症例であったため、文献的考察を加え報告した。

トロンボポエチン受容体作動薬で周術期管理を行ったITP併存乳癌の1例

小倉記念病院外科

高 すみれ 他

 特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic thrombocytopenic purpura: ITP)は血小板減少をきたす自己免疫疾患である. トロンボポエチン受容体作動薬(thrombopoietin receptor agonists: TPO-RA)はステロイド療法が無効時に二次治療として使用する新規薬剤であり, TPO-RAを使用した周術期管理について有効性や安全性の報告は少ない. 症例は76歳女性.ITPを合併した乳癌に対して右乳房全切除+センチネルリンパ節生検を施行した.術前よりTPO-RAであるエルトロンボパグを使用して血小板数のコントロールを行った.術後に血小板数が低下したが出血傾向を認めなかったため, エルトロンボパグの増量のみで安全に管理できた.われわれが調べえた範囲では,ITP合併症例に対して周術期にTPO-RAを投与した報告は8例であり,乳癌症例の報告は確認できなかった.通常待機的に行われる乳癌の手術において,副作用が比較的軽度なTPO-RAの予防的な使用は周術期管理の有効な手段となり得ると思われる.

S状結腸癌術後肺転移との鑑別に難渋した肺クリプトコックス症の1例

古賀総合病院外科

松本 麻衣 他

 症例は69歳男性. S状結腸癌および肝転移疑いに対し, 腹腔鏡補助下S状結腸切除術, 二期的に肝切除術を施行した. 病理所見で肝病変は肝血管腫の診断であった. 最終診断はS状結腸癌(pT4a N0 M0)StageⅡb, 脈管侵襲あり術後補助化学療法としてカペシタビン内服を半年間施行した. 術後2年半のCTで右肺S2に7㎜大の孤発性小結節影を認めた. PET-CTで同部位に集積を認め, 転移性肺癌が疑われ胸腔鏡下肺部分切除術を施行した. 病理所見では壊死性肉芽腫性病変および菌体を認め, 肺クリプトコックス症の所見であり転移は認めなかった. 肺クリプトコックス症は多彩な画像所見を呈するため, 時に原発性・転移性肺癌, 炎症性腫瘤との鑑別が困難となり, 手術による治療的診断も考慮される. しかしながら, もし本症例で結節が多発し切除不能と考えられた場合には転移性肺癌として化学療法を選択していた可能性もある. 示唆に富む症例と考えられ, 若干の文献的考察を加え報告する.

肺癌との鑑別に難渋した肺MAC症によると思われる肺嚢胞の1例

茅ヶ崎市立病院呼吸器外科

土屋 武弘 他

 73歳,女性.71歳時,検診で右下葉に16×10mmの結節を指摘された.気管支鏡検査で悪性所見を認めず,Mycobacterium avium (M. avium)陽性であったが,症状なく経過観察していた.72歳時,咳嗽と喀痰が出現し,喀痰培養検査でM. avium陽性であったため,CAM+EB+RFPの3剤併用療法を開始した.症状改善するも結節は残存していた.73歳時,結節が19×14mmへ増大したため,肺癌を考慮してFDG-PET/ CT検査を施行した.SUV Max 1.8と軽度の集積を認めたため手術を行うと,組織検査で悪性所見なく液体貯留を伴う嚢胞であった.M. aviumに伴う肺嚢胞と考えられて,他肺葉の感染も示唆されるため術後1年間は3剤併用療法を継続した.内服中止後1年,再燃・再発なく経過している.外科的切除は診断の確定として有用と考えられた.

4年の経過で緩徐に増大した肺原発コロイド腺癌の1例

大隅鹿屋病院呼吸器外科

高橋 光 他

 肺原発コロイド腺癌は全肺癌の0.24%を占める稀な特殊型腺癌である。今回、術中迅速病理で診断した症例を経験したので報告する。症例は63歳男性、4年前から指摘されていた胸部異常陰影が増大しており切除生検を施行した。術中迅速病理でコロイド腺癌が強く疑われ右肺下葉切除およびリンパ節郭清を施行した。術後経過は良好、2年経過しているが無再発で生存している。肺原発コロイド腺癌は気管支原性嚢胞や転移性肺腫瘍との鑑別が問題となるが完全切除が得られれば予後は比較的良好と考えられており、疑われるときは積極的な切除が重要と考えられた。

超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診で診断した乳癌食道転移の1例

高知大学医学部外科学講座

北川 博之 他

 症例は68歳、女性。29年前に左乳癌に対して左乳房切除術を施行された。3年前から嚥下困難感を自覚、以後近医で食道狭窄に対してバルーン拡張術を繰り返し受けていたが、症状が改善せず経口摂取不可能となった。内視鏡下食道粘膜生検では悪性所見は認めなかったが、CTで胸部食道の全周性壁肥厚と椎体の硬化性変化を指摘され、骨生検で乳癌の骨転移と診断された。乳癌食道転移の可能性を考え、超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診を施行し、病理組織検査で骨生検の所見と一致したため乳癌食道転移と診断した。食道ステント留置術を行い、乳癌に対する薬物治療を開始した。乳癌の既往がある食道狭窄症例では、乳癌食道転移の可能性を考慮して全身の転移検索を行う必要があり、超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診は診断に有用である。

Nivolumab投与後に自己免疫性脳炎を発症した食道胃接合部癌の1例

市立柏原病院外科

谷 直樹 他

 症例は56歳,男性.切除不能食道胃接合部癌cT4N1M0に対して,S-1+cisplatin療法,SOX療法,Ramucirumab+Paclitaxel療法を施行したが,病勢進行し Nivolumab(240㎎)に変更となった.2コース目投与後2日目より悪寒戦慄を伴う発熱が出現し,5日目に救急搬送された.四肢や口唇に数分間持続する痙攣がみられた.画像検査では新規の異常所見は認められず,抗菌薬治療開始後も解熱しなかった.髄液検査では,蛋白 138mg/dL,細胞数 16/μLと上昇を認め,単純ヘルペスウイルスPCR陰性,サイトメガロウイルスIgM陰性であった.ステロイド投与により著明な症状改善を認め,自己免疫性脳炎と診断した.免疫チェックポイント阻害薬による中枢神経障害は稀であるが,致命的となる場合もあるため,脳炎を疑った時点でステロイドを主とした治療を早期から考慮すべきである.

保存的加療で治癒した食道癌術後再建胃管潰瘍による胃管心嚢瘻の1例

昭和大学医学部消化器・一般外科

望月 清孝 他

 症例は58才男性.主訴は左胸部痛・呼吸苦.2013年に食道癌に対して胸腔鏡下食道亜全摘術,胸骨後胃管再建術を受けていた.2018年1月に気胸を発症しNonsteroidal anti-inflammatory drugs(NSAIDs)の処方がされていたが,持続する胸痛のため2018年3月に当院外来を受診し,心タンポナーデの診断で入院となった.第2病日,経皮心嚢ドレナージを施行したところ,胃管心囊瘻が疑われた.第9病日,上部消化管内視鏡検査にて胃管下部前・後壁に巨大潰瘍を認め,後壁側の潰瘍底は瘻孔を形成し、内部に心囊ドレナージチューブが観察された。内視鏡的に瘻孔部へ経鼻瘻孔ドレナージを行い, 胃管瘻を造設したのちに経腸栄養を行い,第58病日に退院となった.胃管潰瘍心嚢瘻は食道癌術後の致命的な合併症となりうるため,適切な対応が必要となる.食道癌術後再建胃管心嚢瘻に対して,経鼻胃管心嚢ドレナージと経腸栄養を行うことで保存的に治癒された症例は過去に報告がなく,文献的考察を加えて報告する.

術前診断し切除した胃癌異時性孤立性S状結腸転移の1例

香川大学医学部消化器外科

木下 新作 他

 症例は57歳,女性.4年前に当院において胃癌に対して胃全摘術(D2)を施行された.病理診断は,por2>muc>sig>>tub2>tub1, T4a(SE), ly3, v2, N3b, H0, P0, CY0, M0, pStageⅢCであった.今回他院で施行された便潜血反応が陽性であったため,精査目的に当院紹介となった.下部消化管内視鏡検査でS状結腸に狭窄病変を認め,生検で低分化型腺癌の診断であった.前回手術の胃癌と類似した組織像を呈していたため胃癌の転移の可能性が示唆された.他に遠隔転移や腹膜播種を認めず治癒切除可能と判断し,S状結腸切除術を施行した.病理組織診断の結果,胃癌組織と同様の所見を呈していた.さらに,免疫組織学的染色でCK7(+), MUC5AC(+), MUC6(+), MUC2(-), CK20(-), CDX2(-)で大腸原発としては典型的でなかったため胃癌の大腸転移の診断となった.胃癌の転移性大腸癌の診断には難渋することもあるが,免疫組織学的染色により診断可能であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

コレステロール結晶塞栓症による多発性小腸穿孔の1例

済生会福岡総合病院外科

佐藤 昇太 他

 88歳, 女性. 腹痛, 腹部膨満感の精査目的にCTを施行したところ, 腹腔内free airを認めたため当院へ紹介搬送された. 消化管穿孔の診断で緊急手術となり, 術中所見で多発小腸穿孔を認め回腸部分切除術を施行した. 術後再穿孔または縫合不全による腹膜炎を発症し, 術後9日目に死亡となった. 術後の病理組織診断よりコレステロール結晶塞栓症による小腸穿孔の診断となった. コレステロール結晶塞栓症は大血管手術, 血管内カテーテル操作や抗凝固療法などを誘因として発症することが多いとされる全身性微小塞栓症であるが小腸穿孔を発症することは稀である. 今回明らかな誘因なくコレステロール結晶塞栓症により多発性小腸穿孔を来たした症例を経験したので, 文献的考察を含めて報告する.

Hodgkinリンパ腫再発に対するnivolumab治療中に発症したNOMIの1例

千葉県がんセンター食道胃腸外科

桑山 直樹 他

 症例は58歳、男性。ホジキンリンパ腫再発に対し、Nivolumabにて治療中であった。化学療法開始5日目から嘔吐あり、翌日から強い腹痛を認め救急搬送となった。入院後も右下腹部に強い圧痛を認め増悪傾向であり、血液検査でWBC・CRPの上昇、造影CTで回腸に部分的な造影不良域を認めSMA本幹の血流は保たれ、その他の部位に絞扼や閉塞の所見はなく、NOMIの疑いにて緊急手術を施行した。手術所見では、遠位回腸に色調不良、虚血、壊死の所見を認めやはりNOMIを疑う所見であった。ICG蛍光法にて血流評価を行い切除範囲を決定し小腸部分切除吻合術を行った。術後は麻痺性イレウスとなったが、保存的加療にて改善し退院となった。近年、化学療法中にNOMIを発症した報告が散見されるが、Nivolumab投与中の報告は認めない。今回我々は、ホジキンリンパ腫再発に対しNivolumabにて治療中にNOMIを発症し、外科的治療により救命し得た1例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。

腹腔鏡下回盲部切除術を行った黄色肉芽腫性虫垂炎の1例

新渡戸記念中野総合病院外科

村瀬 秀明 他

 症例は64歳男性.1週間前からの右下腹部痛を主訴に当科を受診した.右下腹部に圧痛を伴う腫瘤を触知した.血液検査所見ではWBCは6,600/μLと正常範囲であったが、CRPは1.86mg/dLと軽度上昇を認めた.腫瘍マーカーはCEA2.8ng/ml,CA19-9 4.2U/mlと正常範囲であった.造影CTにて虫垂根部付近に20mm大の濃染結節を認め,近傍に膿瘍形成を伴っていたため,精査加療目的に入院した.下部消化管内視鏡検査にて虫垂開口部に発赤調の隆起性病変を認め,内腔より黄白色の粘液漏出を認めた.同部の生検はGroup1であったが,虫垂癌の可能性を否定しきれず,腹腔鏡下回盲部切除術(D3郭清)を施行した.切除標本では虫垂根部付近に硬結を触知し,虫垂間膜内に膿瘍形成を認めた.硬結部の割面は黄白色調であった.病理組織学的検査では腫瘍性病変は認めず,黄色肉芽腫性虫垂炎と診断した.

出血性ショックを呈した特発性結腸間膜血腫の1例

日本海総合病院外科

阿部 昂平 他

 症例は52歳,男性.特記すべき既往歴や家族歴はなかった.突然の下腹部痛を主訴に当院へ救急搬送された.造影CT検査で,上腹部に血腫を伴う腫瘤と造影剤の血管外漏出像を認め,腸間膜出血疑いで緊急開腹止血術を施行.血腫除去後、出血源は不明であったが,血管攣縮解除および昇圧にて中結腸動脈分枝からの出血を同定した.腸管虚血所見を認めなかったため,腸切除せず同部位の結紮止血にて手術終了.術後10病日に経過良好で退院し,術後9ヶ月再発なく経過している.特発性腸間膜血腫は稀な症例であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

腹腔鏡下大腸切除術を行った高度貧血を伴う横行結腸神経節細胞腫の1例

淀川キリスト教病院外科

山内 沙耶 他

 77歳, 女性. 下血を主訴に外来を受診. 初診時の血液検査でHb 6.5 g/dLと高度な貧血を認め,輸血が施行された.下血精査目的で施行の下部消化管内視鏡検査で, 横行結腸に頂部に潰瘍を伴う有茎性の粘膜下腫瘍を認め, 出血源と考えられた.潰瘍部の生検では炎症性組織の所見であり,診断には至らなかった.有茎性の腫瘍であり内視鏡的切除が検討されたが, 最大径40mmと大きく悪性腫瘍を否定できなかったため適応外と判断され, 切除術目的に外科紹介となった.悪性腫瘍の可能性も考慮して,リンパ節郭清を伴う腹腔鏡下結腸右半切除術を施行した.切除病変の病理組織検査で神経節細胞腫(Ganglioneuroma)と診断された.術後の精査では多発性内分泌腫瘍や神経線維腫症Ⅰ型の合併は認められず,大腸単独発症の神経節細胞腫であった.

腹腔鏡下に根治術を行ったS状結腸間膜窩ヘルニアの1例

国立国際医療研究センター病院外科

和氣 仁美 他

 S状結腸間膜窩ヘルニアは稀な内ヘルニアの一つであり,今回我々は術前にS状結腸間膜ヘルニアと診断し,腹腔鏡下に根治術を施行した.
 症例は54歳女性.突然の下腹部痛を主訴に当院受診した.既往に右卵巣核出術,左卵巣嚢腫摘出術があった.腹部造影CTで小腸の拡張と内腔の液体貯留,S状結腸間膜の背側に嵌頓したclosed loopの形成を認め,癒着性腸閉塞ではなく,S状結腸間膜ヘルニアを疑い,緊急手術を施行した.S状結腸間膜窩ヘルニアの所見であり,解放した嵌頓小腸に明らかな血流障害がないことを確認し,ヘルニア門を縫合閉鎖した.

憩室内から発生したと思われるS状結腸癌の1例

名古屋第一赤十字病院一般消化器外科

荒川 拓也 他

 症例は64歳男性で、健診の便潜血陽性を主訴に当院を受診した。下部消化管内視鏡検査でS状結腸に浮腫状の狭窄を認め、内腔に腫瘤性病変を認めなかった。CTではS状結腸に内部に気泡を含む低吸収性腫瘤を認めた。この腫瘤はMRIではT1強調画像で筋肉と等信号、T2強調画像で筋肉よりやや高信号、拡散強調像では高信号を呈し、FDG-PETではFDGの高集積を認めた。以上からS状結腸癌を疑いS状結腸切除、D3郭清を施行した。病理組織学的にS状結腸に漿膜下層まで浸潤する粘液癌を認め(pT3, N0, M0, StageⅡ)、憩室内に上皮内癌を認めたため憩室からの発生が示唆された。本邦における高齢化、生活習慣の変化を考慮すると、左側結腸の憩室症には癌化リスクに注意すべきである。

腹腔鏡下S状結腸切除術後に発生した吻合部肛門側虚血性腸炎の1例

伊勢赤十字病院外科

岡部 雄介 他

 症例は67歳男性.健診で便潜血陽性を指摘され,精査目的に当院消化器内科に紹介となった.下行結腸S状結腸移行部近傍のS状結腸癌と診断し,腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した.下腸間膜動脈根部まで郭清し,左結腸動脈から分岐する第1S状結腸動脈と上直腸動脈から分岐する第2S状結腸動脈を根部で切離し,下腸間膜動脈から上直腸動脈は温存した.下行結腸からS状結腸まで切離し,機能的端々吻合で再建した.術後病理学的診断はpT3N0M0 StageⅡaであった.術後補助化学療法の後,近医通院していたが,術後1年5か月後に腹痛,下痢を認め,CT・下部消化管内視鏡検査で吻合部より肛門側から直腸Raに虚血性腸炎を認め当科入院加療となった.保存的治療で軽快退院したが,1か月後のCTで虚血性大腸炎の増悪を認めた.保存的治療で改善の見込みなく,Hartmann手術を施行した.術後経過良好で,現在まで無再発,無症状で経過している.

Pagetoid spreadを伴う肛門管腺内分泌細胞癌の1例

康生会武田病院外科

古元 克好 他

 症例は61歳、男性。数か月前から右下肢腫脹、腰痛があり、転倒を契機に歩行困難となり救急搬入された。右鼠径部に鶏卵大の腫瘤を触知し、肛門周囲皮膚は放射状に硬化し発赤を伴っていた。CTでは右鼠径部から外腸骨動脈・傍大動脈リンパ節の腫大および両側肺に複数の小結節性病変を認めたが、他に腫瘤性病変は指摘できなかった。右鼠径部リンパ節生検では神経内分泌細胞癌(NEC) small cell type 70%、腺癌(sig>muc) 30%と診断され、Ki-67 labeling indexは80%以上であった。下部消化管内視鏡では肛門の小隆起病変の生検でsig/mucが検出された。肛門周囲皮膚の発赤病変の生検ではPagetoid spread(PS)と診断され、NECと腺癌(muc)が確認された。これらより、PSを伴う肛門管腺内分泌細胞癌、リンパ節転移および肺転移と診断した。CPT-11+CDDP(IP)療法を施行し、腫大リンパ節は縮小し右下肢浮腫は軽減した。著明なリンパ節転移とPSを伴う肛門管腺内分泌細胞癌に対して、IP療法で寛解を得た症例を経験した。

肝細胞癌との鑑別が困難であった肝孤立性壊死性結節の1例

新久喜総合病院外科

島内 貴弘 他

 症例は77歳の男性.近医で肝エコー検査にて肝腫瘍病変を指摘され紹介受診,腹部超音波検査で肝S7に46×41mm大のモザイクパターンを有する腫瘍,造影CTでは動脈相では軽度の造影効果,門脈相および平衡相では境界明瞭な低吸収域を示す被膜形成のない充実性腫瘍を認め,MRIではT1強調画像で軽度高信号,T2強調画像で低信号の境界明瞭な腫瘍を認め,肝細胞癌を最も強く疑い,肝後区域切除を施行した.病理組織学的検査では線維性の被膜で覆われ内部は凝固壊死に陥った結節病変を認め,肝孤立性壊死性結節と診断した.肝孤立性壊死性結節の術前診断は困難であり,非定型的な肝内占拠性病変の場合には念頭におくべき疾患である.

骨盤内後腹膜転移をきたした肝細胞癌の1例

JR東京総合病院消化器外科

吉岡 佑一郎 他

 症例は61歳. 男性. HBVキャリア, HCV感染既往のある症例で, 9年前に肝細胞癌(HCC)に対して肝部分切除術が施行された. 定期的に腫瘍マーカーを含めた血液検査, 腹部CT検査にてフォローされていたがPIVKA-Ⅱの上昇を認め, 肝腫瘍とともに骨盤内に充実性腫瘍が指摘された. 肝腫瘍は肝内再発と考えられRFA治療が施行されたが1か月後のPIVKA-Ⅱに低下は見られず, 一方で骨盤内腫瘤の増大を認めたことからHCCの肝外転移が疑われた. 腹腔鏡下に同腫瘤を切除したが, 腫瘤は後腹膜下に存在しており, 病理組織検査にてHCC由来の後腹膜転移と診断された. 我々はHCCの骨盤内後腹膜下転移をきたしたまれな症例を経験した.

開腹手術の腹壁過伸展による遅発性下腹壁動脈損傷の1例

岐阜県総合医療センター外科

大野 慎也 他

 症例は76歳,男性.当科でStageⅢC胃癌術後の経過観察中に十二指腸乳頭部癌を指摘され,これに対し膵頭十二指腸切除術(PD)+D2リンパ節郭清を実施した.前回手術のより腹腔内に高度癒着を認めるも順調に進行し,閉腹前に右腹部より2本のドレーンを膵周囲に留置し,手術時間5時間17分で終了となった. PD関連の一般的な合併症は起きなかったが,術後4日目夕より急な右下腹部痛が出現した.体表から腹壁異常は認めず,バイタル,ドレーン排液に変化がないため一晩経過をみた.翌朝の採血で高度貧血,血圧低下を認め造影CT検査を実施された.右下腹壁動脈損傷と腹壁血腫を認めInterventional Radiology(IVR)治療を行い止血を得た.術後20日目に自宅退院となった.ドレーン刺入部は下腹壁動脈の位置とは離れており挿入操作が誘因とは考えられず,術野展開時の開創鈎による腹壁の牽引で下腹壁動脈の損傷が起きたものと考えられた.自験例のような報告は非常に少なく,考察を加え報告する.

4年以上の無再発生存が得られた多嚢胞性腹膜中皮腫の3例

草津総合病院消化器外科・腹膜播種センター

今神 透 他

 症例①は50歳、女性。卵巣腫瘍に対して手術施行、腹膜偽粘液腫が疑われ、当院紹介。当院で開腹手術を施行し、遺残病変を切除し多嚢胞性腹膜中皮腫と病理診断された。術後10年無再発生存中である。
 症例②は55歳、女性。腹膜偽粘液腫が疑われ、当院紹介受診。審査腹腔鏡にて多嚢胞性腹膜中皮腫と病理診断した。腹膜切除と術中温熱化学療法を施行し、術後5年無再発生存中である。
 症例③は53歳、女性。胃小弯側の嚢胞性病変の経過観察中に嚢胞の破裂を認め、腹膜偽粘液腫が疑われ当院紹介受診。審査腹腔鏡を施行し多嚢胞性腹膜中皮腫と病理診断した。腹膜切除と温熱化学療法を施行し、術後4年無再発生存中である。
 画像診断困難な腹腔内嚢胞に対しては、審査腹腔鏡は有用であった。病変の完全切除と術中温熱化学療法、腹腔内の大量洗浄により長期無再発を得ることができた。特に腹腔内に広範に病変を認める場合は腹膜切除による根治切除が推奨される。

腹腔鏡下に修復した肝円索嵌頓白線ヘルニアの1例

足利赤十字病院外科

西 雄介 他

 症例は76歳女性. 心窩部痛で前医を受診し, 同部の有痛性腫瘤を認めたため当科紹介となった. 肝円索嵌頓白線ヘルニアと診断され, 徒手整復施行後に待機的に腹腔鏡下修復術を施行した. 術後経過は良好で術後3日で退院し, 術後3ヶ月再発なく経過している. 白線ヘルニアは稀な疾患である. 中でも肝円索嵌頓症例は自験例を含め本邦で6例のみであり, 更に腹腔鏡下で修復した症例は本邦で2例目であった. 白線ヘルニア自体の修復は, 直視下での単純閉鎖と腹腔鏡下メッシュ固定の報告があるが, 腹壁ヘルニア全体での報告では再発・創部感染率は後者が有意に低く, 術後疼痛も軽減するため, 本疾患の術式では腹腔鏡下修復術も選択肢の一つになり得ると考えられた.

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