日本臨床外科学会雑誌 第83巻12号 掲載予定論文 和文抄録

 

臨床経験

温存乳房内再発乳癌に対するセンチネルリンパ節生検の有用性

淀川キリスト教病院乳腺外科

斎藤 明菜 他

 【はじめに】温存乳房内再発(IBTR)における対側腋窩リンパ節転移や内胸リンパ節転移、鎖骨上リンパ節の症例の報告が散見される。乳房部分切除後のリンパ流の経路が変化し、新たなセンチネルリンパ節(SLN)が存在する可能性がある。
 【方法】過去5年間、当院で施行した15例のIBTRに対するセンチネルリンパ節生検(SLNB)について検討した。【結果】術前のリンフォシンチグラフィでは15例全例でSLNが同定できた。同側腋窩リンパ節は9例、対側腋窩リンパ節は9例、同側内胸リンパ節は2例、同側鎖骨上リンパ節は1例にラジオアイソトープ(RI)の集積を認めた。手術時に同定できたSLNは同側腋窩リンパ節で8例、対側腋窩リンパ節で8例であった。【結語】IBTRに対してもSLNBは施行可能であり、初発乳癌と同様に有用である可能性が示唆された。リンパ流を確認することで、手術時にSLNが同定できなかった場合でも術後経過観察を行う上での指標として有用と考える。

右続発性自然気胸における奇静脈食道陥凹部のブラ認識の重要性

国立病院機構岡山医療センター呼吸器外科

林 直宏 他

 奇静脈食道陥凹(azygoesophageal recess: AER)とは,右胸腔内において椎体腹側の縦隔が左胸腔寄りに位置する食道まで偏位することにより起こる陥凹領域のことであり,奇静脈から横隔膜までの範囲で認められる.同部位にはまり込むようにブラが発生することがあり,気胸の原因となることが知られている.
 当院ではAERのブラが原因となった気胸に対して近年7例の手術を行った.年齢の中央値は75歳で,全例,右続発性自然気胸であり,背景肺には中等度の気腫性変化を認めた.術前胸腔ドレナージを行うも,改善傾向になく手術となっている.AERのブラは白色で薄いものが多かった.自動縫合器で切除した後に切離ラインを中心にポリグリコール酸シートで被覆しフィブリン糊で固定した.術後の再発は認めていない.AERのブラは肺門部背側に位置するため十分な視野展開をしないと見逃しやすい状況にあった.また,ブラ切離においては肺の可動制限のため自動縫合器の自由度が少なく感じられた.AERのブラが原因である気胸は適切な対応により治癒する可能性が高い.右続発性気胸ではAERのブラを認識することが重要と思われた.

症例

微小浸潤を伴う乳腺小葉癌が併存した葉状腫瘍の1例

大野記念病院外科

今西 大樹 他

 乳腺葉状腫瘍に乳癌が併存することは非常に稀である.今回われわれは小葉癌が併存した葉状腫瘍の1例を経験した.症例は51歳女性.3年半前の乳腺超音波検診で左乳房ED区域に20mm大の粗大石灰化を含む低エコー腫瘤を認め,針生検で乳管腺腫と診断され経過観察を行っていたが,左乳頭血性分泌が出現したため再診,超音波検査で増大傾向があり,画像ガイド下乳腺腫瘍吸引術ではfibroepithelial lesionであったが,乳管上皮の過形成傾向があり左乳腺部分切除術を行った.組織学的所見では多数の拡張乳管内に葉状腫瘍が増殖しており葉状腫瘍の上皮成分は高度過形成でその中に非浸潤性小葉癌の増殖巣を認め,0.5mmの範囲で微小浸潤を伴っていた.
葉状腫瘍内の癌の混在はほとんどの場合が乳管癌であり小葉癌の混在は極めて珍しい.若干の文献的考察を加えて報告する.

術後再発への集学的治療で5年以上生存中のNEC混在食道扁平上皮癌の1例

大阪警察病院消化器外科

岸 和希 他

 症例は66歳男性,経口摂取不良で近医を受診し,食道扁平上皮癌(SCC)と診断され当院へ紹介された.胸部中部食道癌(SCC cT1bN2M0 cStageⅡ)と診断し,術前化学療法(5FU+シスプラチン療法)2コース後,胸腔鏡下食道亜全摘術を施行した.病理所見では,原発巣,転移リンパ節ともに神経内分泌細胞癌(NEC)とSCCの混在を認めた.その後,肝,皮膚,脳,胸髄に異時性転移を繰り返し,肝,皮膚,胸髄転移に対して手術,脳転移に対して手術+放射線治療を施行した.病理所見では肝,皮膚,脳,胸髄転移いずれもNECのみを認めた.NECを伴う食道SCCがNECのみ再発を繰り返し,集学的治療で5年の長期生存が得られた1例を経験したため報告する.

胃原発mixed neuroendocrine-non-neuroendocrine neoplams(MiNEN)の2例

春日井市民病院外科

岩田 力 他

 2019年のWHO分類で神経内分泌腫瘍成分と非神経内分泌腫瘍成分が混在し,かつ双方の成分が30%以上を占める症例を混合型神経内分泌-非神経内分泌腫瘍(mixed neuroendocrine-non-neuroendocrine neoplams;以下,MiNENと略記)と定義している.今回,胃MiNENの2例を経験したので報告する.症例①は75歳男性で,前庭部後壁胃癌および多発肝転移と術前診断され,姑息的に幽門側胃切除が施行され,病理診断はMiNEN(腺癌:70%,内分泌癌:30%),pT4a(SE),pNX, M1(HEP),pStageⅣであった.術後は化学療法を望まず,術後3か月で原病死した.症例②は75歳男性で,前庭部大弯胃癌と診断され,幽門側胃切除が施行された.病理診断はMiNEN(腺癌:40%,内分泌癌:60%),pT4a(SE),pN1(#6),M0,pStageⅢAであった.術後18か月目に腹膜播種を認めたが積極的加療は希望されず,術後21か月で原病死した.

上腸間膜動脈閉塞症に対する血管内治療後に生じた蛋白漏出性胃腸症の1例

山形県立中央病院外科

小林 潤一 他

 症例は81歳女性,腹痛を主訴に来院し上腸間膜動脈(SMA)閉塞症と診断した.腹腔鏡下に腹腔内の観察を行い,術中所見で腸管温存が可能と判断し,観察のみにとどめた.その後IVRによる血栓溶解療法を施行した.IVR後の造影CTではSMAの開存および腸管の造影効果は確認されたが,一部の小腸で著明な浮腫性変化を認めた.その後,頻回な水様下痢と腹痛,および低アルブミン血症が遷延した.虚血による障害を受けた腸管に伴う症状と考え再手術を行い,小腸約60cmを切除した.摘出した小腸は暗赤色に変化しており,病理学的には粘膜壊死を伴い,粘膜下層は浮腫状であった.再手術後は頻回な水様下痢と腹痛が消失し,血清アルブミン値も上昇した.SMA閉塞症に対する血栓溶解療法後に蛋白漏出性胃腸症をきたした報告例は稀である.小腸部分切除を施行したことで蛋白漏出性胃腸症の改善が得られた1例を経験したため,若干の考察を加え報告する.

Streptococcus intermedius肝膿瘍と化膿性脊椎炎を呈した小腸血管腫の1例

湘南藤沢徳洲会病院外科

澤村 直輝 他

 近年口腔内常在菌であるStreptococcus anginosus groupによる肝膿瘍の報告が増加しており,下部のみならず上部消化管を含めた検索が重要視されている.68歳女性が腰痛と40度台の発熱を主訴に来院された.精査で多発肝膿瘍と化膿性脊椎炎の診断となり抗生剤加療を開始した.下部および上部消化管内視鏡では異常所見はなかった.造影CTで小腸に造影効果を伴う不正な壁肥厚を認め,血液培養からStreptococcus intermediusが検出されたため,小腸病変からの細菌の侵入が示唆され小腸内視鏡を施行したが病巣の確定には至らなかった.細菌の侵入門戸のコントロール及び小腸腫瘍の診断のため入院19日目に腹腔鏡下小腸部分切除施行した.病理所見は海面状血管腫で腸管粘膜に縦走潰瘍を伴っており侵入門戸として矛盾しないと考えられた.Streptococcus anginosus groupが起炎菌である場合,小腸を含めた全消化管検索が重要であると考える.

異時性多発大腸癌を契機にLynch症候群と診断されたCrohn病の1例

国立病院機構福山医療センター外科

宮宗 秀明 他

 症例は37歳、男性。2000年6月よりクローン病をフォロー中であった。2016年6月、横行結腸狭窄に対するバルーン拡張術中の穿孔に対して、結腸部分切除、腹腔ドレナージ術を施行したところ、術後病理検査で大腸癌(pT4aN0M0-pStageⅡb)と診断された。2019年1月、直腸癌に対して直腸切断術を、2020年5月、横行結腸癌に対して結腸部分切除術を施行した。マイクロサテライト不安定検査の結果、MSI-Highであり、他院で遺伝子検査を行い、リンチ症候群(MSH2:c.942+3A>T)と診断された。現在は骨盤内の局所再発に対して、Nivolumab+Ipilimumab併用療法を施行した後、Nivolumabを継続し、SD(stable disease)を維持している。クローン病経過中にリンチ症候群が診断された症例はまれであり、若干の文献的考察を加えて報告する。

直腸粘膜下腫瘍との鑑別を要した骨盤内真性血液嚢胞の1例

山形県立中央病院外科

半沢 光 他

 42歳,男性.下腹部痛の精査を施行したところ,下部消化管内視鏡検査にて直腸粘膜下腫瘍が疑われ,骨盤腔内嚢胞性疾患が考えられた.排便困難などの自覚症状を伴い,本人希望もあり,診断的治療のため手術の方針となった.腫瘤は膀胱,精嚢,上部直腸,下腹神経骨盤神経叢との間に存在しており,全周に脂肪組織をつけるようにして周囲から剥離し,摘出した.病理組織学的検査では腫瘤内腔表面の一部を血管内皮が覆っており,免疫染色でCD31およびCD34が陽性を示したため,真性血液嚢腫と診断した.悪性所見は認めず,術後1年6ヶ月間再発なく経過している.血液嚢腫は頸部に発生するものが多く,頸部以外に発生することは比較的稀で,術前診断に難渋することが多い.発生位置によっては隣接臓器への外圧排により粘膜下腫瘍様の所見を呈する症例があることを念頭に置き,診療にあたる必要があると考えられた.

膵炎と仮性膵嚢胞内出血に対して膵切除にて救命した膵動静脈奇形の1例

筑波大学消化器外科

立澤 麻衣子 他

 症例は58歳,男性.上腹部痛を主訴に当院を受診し,CTで膵頭体部の膵動静脈奇形(pancreatic arteriovenous malformation:PAVM)とそれに伴う急性膵炎,さらに仮性膵嚢胞を認めた.急性膵炎に対する保存的加療後に急激な腹痛の増悪を認め,精査の結果,仮性嚢胞内出血を認めた.腹腔内出血の危険があると判断し緊急手術を施行した.膵周囲の炎症性変化が高度のため血管の同定が困難であり,また,多くの門脈系の側副血行路による出血のため凝固障害をきたし初回手術はガーゼ圧迫止血で終了した.2日後に膵体尾部切除を施行し,出血源である仮性膵嚢胞は切除したが,PAVMの完全切除には至らなかった.術後は膵液瘻を認めたが保存的加療にて改善し,第25病日に退院とした.膵頭部にPAVMは残存するが,膵炎発症や仮性動脈瘤の形成は認めず経過している.PAVMの治療においては根治治療の観点から手術が第一選択と考えるが,出血コントロールが最大の関門であり,より綿密な手術プランが必要である.

腹腔鏡下に診断し治療したsacless sliding fatty inguinal herniaの1例

水戸済生会総合病院外科

金子 宜樹 他

 症例は32歳男性で,左鼠径部の違和感と疼痛を主訴に受診した.腹部CTで左鼠径ヘルニアと診断し,腹腔鏡手術を施行した.腹腔内を観察すると,明らかなヘルニア嚢はなかったが,体表から左鼠径部を圧すると,精索脂肪腫が内鼠径輪から腹腔内へ突出する様子が認められた.精索脂肪腫が症状の原因であったと判断し,そのまま腹腔鏡下に摘出した.内鼠径輪の開大も認めたため,外鼠径ヘルニアに対する腹腔内アプローチ法に準じてメッシュ(Bard 3D Max®)を留置し,手術を終了した.術後,患者の自覚症状は改善した.ヘルニア嚢を伴わない精索脂肪腫が鼠径ヘルニア様の症状を呈する事があり,sacless sliding fatty inguinal herniaと呼称されている.精索脂肪腫は鼠径部切開法による鼠径ヘルニア手術においては頻繁に認める所見だが,腹腔鏡下ヘルニア修復術では指摘することが難しく,見落とされることがあり,注意が必要である.

腹腔鏡下に修復した坐骨ヘルニアを含む多発骨盤部ヘルニアの1例

西尾市民病院外科

稲垣 公太 他

 症例は83歳の女性.下肢痛で長期間整形外科的症候としてフォローされていた.嘔吐を主訴に来院した際に,左閉鎖孔ヘルニア嵌頓,右坐骨ヘルニアと診断した.嵌頓は超音波ガイド下に用手整復し,待機的に各ヘルニアとも腹腔鏡下修復術を実施した.術中,上記に加え右閉鎖孔,右内鼠径,左外鼠径ヘルニアの合併を認めた.手術は腹腔鏡下に,左側をtransabdominal preperitoneal approach(以下TAPP)で一括修復し,右側の閉鎖孔,坐骨ヘルニアは各々ヘルニア嚢を反転し結紮したうえで,閉鎖孔ヘルニア嚢を坐骨ヘルニア門に充填し縫合固定した.高齢のやせ型女性が下肢痛を訴える際,骨盤部ヘルニアを念頭におく必要がある.複数併存する場合もあり,同時に確認,修復が可能な腹腔鏡下手術は有用である.坐骨ヘルニアは非常に稀な疾患であり,腹腔鏡下に修復した報告例も少ないため,文献的考察を加えて報告する.

ページトップ