日本臨床外科学会雑誌 第84巻3号 掲載予定論文 和文抄録
特別寄稿
人生100年時代の外科医療
神戸労災病院 山本 雄造
信州大学医学部外科学教室乳腺内分泌外科学分野 伊藤 研一
本邦における高齢化は加速し,平均寿命は1955年頃に比べると男女ともに20歳ほど延長している.このため,外科治療が必要な患者も高齢化してきている.特に地域病院では75歳以上の後期高齢者,85歳以上の超高齢者と呼ばれる患者さんの手術件数が多くなっている.これらの患者さんでは術前には心血管系の併存疾患に対する抗凝固薬の使用,認知機能低下,フレイルティ等,術後には嚥下機能障害,不穏状態への対策が必要になってくる.今後は退院後の生活の質の担保やがん患者では術後化学療法の認容性と生存率なども考慮に入れた治療法の選択が必要になると考えられる.人生100年時代に向けて,超高齢者に対する外科治療の在り方や展望について6人の演者のご講演に基づいて討論を行い,最後に夏越祥次先生から特別発言をいただいた.
Advance Care Planningにおけるコミュニケーション
国際医療福祉大学大学院医学研究科 矢永 勝彦
牧野記念病院 土田 明彦
2022年11月24日(木)~26日(土)に福岡国際会議場等において第84回日本臨床外科学会総会が、久留米大学外科学講座の赤木由人総会会長主宰のもとに開催された。近年、人生の最終段階の医療やケアについて、患者本人が家族や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセスが重要とされ、アドバンスケアプランニング(以下 ACP)と呼ばれている。話し合いの過程で注意すべき点は、患者の望む最期の療養場所や、生命維持治療の方針だけではなく、本人が大切にしていること(価値観)、やっておきたいこと(目標)、心配していることや気がかりなこと等を明らかにすることによって、将来の医療やケアの方向性に反映させることである。これによって患者自身も、残された日々をより自律的、主体的に生きることに繋がる可能性が増してくるが、実際の医療の現場において、ACPが広く実践されているとは言い難い状況である。そこで、赤木総会会長のご意向により、「ACPにおけるコミュニケーション」が総会特別企画として取り上げられ、矢永勝彦と土田明彦の司会で、5名の演者がACP運用の実際と課題について発表された。
医師のDiversityとInclusion
東海大学
森 正樹
第84回総会において総会特別企画12「医師のDiversityとInclusion」の司会をさせて頂いた。その講演概要について記す。
講演は藤巻高光先生(埼玉医科大学脳神経外科)と藤巻わかえ先生(女子栄養大学栄養学部)のご夫妻により行われた。一つの講演を二人の講演者が同時に行うという、医学会の講演としては稀有な形式であった。講演開始前に高光先生から「夫婦漫才のようにやりますので、よろしくお願いします」とご挨拶いただいたが、40分という限られた時間の中で、実際にはお二人でどのように行うのだろうかと、講演テーマとは別の興味も抱きながら拝聴した。講演後の感想を一言で言い表すとすれば、「類い稀なる深い講演」となる。
症例
乳腺原発骨外性骨肉腫の1例
横浜労災病院乳腺外科
原田 郁 他
症例は51歳女性。5年前に右乳癌に対して手術を施行し、タモキシフェンを内服中であった。右乳癌診断時に左乳房に18mmの線維腺腫を認めた。右乳癌術後5年目に左乳房腫瘤の急激な増大と疼痛を主訴に受診した。左乳房腫瘤は55mmに増大し形状の著しい変化を伴っていたため吸引組織生検を施行した。病理所見では紡錘型細胞や多核巨細胞などの増殖を認めたが、上皮成分を認めなかった。免疫染色ではAE1/AE3とERは陰性、vimentinとCD68が陽性であった。精査中も腫瘍は急速に増大し、準緊急的に左乳房全切除術、センチネルリンパ節生検を施行した。術後病理所見では多核巨細胞をまじえた紡錘形細胞の増殖と類骨形成を認め、腫瘍全域で上皮成分は認めず乳腺原発骨外性骨肉腫と診断した。術後補助療法としてMAP(Methotrexate,Adriamycin,Cisplatin)療法を施行し、術後1年7か月の時点で無再発生存中である。乳腺原発骨外性骨肉腫はまれな疾患であり、文献的考察を加えて報告する。
術前に原発巣の特定が困難であった乳癌孤立性副腎転移の1例
桑名市総合医療センター外科
山門 玲菜 他
症例は73歳女性.70歳時に皮膚への浸潤を伴う右乳癌,右腋窩リンパ節転移,右肺転移疑いで化学療法を施行.乳房腫瘤は縮小するも出血が持続し,右乳房全切除術と右腋窩郭清術を行った.浸潤性乳管癌,pT4bN2aM0,stageⅢB,ER(+),PgR(+),HER2(-) の診断で術後はホルモン療法を行った.乳癌の肺転移が疑われた肺腫瘤は術後精査で肺扁平上皮癌,cT2aN3M1c,StageⅣbと判明し,チロシンキナーゼ阻害剤の内服を開始した.72歳時に縮小傾向にあった肺腫瘤の再増大を認め,胸腔鏡下右肺上葉切除術を施行した.肺癌術後10か月目には肺癌の右副腎転移が疑われ,右副腎切除術を行ったが,病理検索にて乳癌副腎転移の診断だった.乳癌の副腎転移は多くが他臓器への転移を伴い,孤立性副腎転移はまれである.全身療法が基本だが,孤立性転移の場合は局所療法が予後改善に有効との報告もある.更に病理学的に原発巣及び病理学的特徴を特定することで新規の治療を模索でき予後の改善も期待できる.
審査腹腔鏡下上部消化管内視鏡検査が有効であった虚血性胃症の1例
大阪急性期・総合医療センター消化器外科
松本 紗矢香 他
症例は71歳男性,筋萎縮性側索硬化症(ALS)による呼吸不全で人工呼吸管理中であった.強い心窩部痛と血圧低下,経鼻胃管からの血性排液が見られ,造影CT検査で胃の造影不良と門脈ガス血症を認めた.胃の虚血壊死を疑い緊急で審査腹腔鏡を施行した.術中上部消化管内視鏡検査にて,粘膜側は高度びらん等の虚血性変化を認めるも漿膜側は色調良好であり,全層壊死には至っていないと判断し胃温存の方針とした.術後経過良好であり,術後3日目の上部消化管内視鏡検査にて粘膜びらんは改善傾向,術後65日目に原疾患の治療継続目的で転院した.
胃は血流豊富な臓器のため虚血壊死に陥る症例は稀である.今回,原因不明の虚血性胃症を来したが,審査腹腔鏡下上部消化管内視鏡検査にて保存的加療を選択し,良好な経過を得た1例を経験したので報告する.
Billroth II再建後に生じた真性腸石による輸入脚憩室穿孔の1例
春日井市民病院外科
山本 亮 他
症例は63歳,男性.16歳時に胃潰瘍に対して幽門側胃切除術(Billroth-II法再建)の既往がある.4時間前から発症した激しい腹痛を主訴に当院救急外来を受診した.腹部所見で上腹部に圧痛と筋性防御を認めた.腹部CT検査で輸入脚近傍に腸管外の遊離ガス像および高吸収域像を複数認め,また周囲の脂肪織濃度の上昇を伴っていた.腸石または異物による輸入脚穿孔による腹膜炎と診断し緊急手術を施行した.腹腔内を検索すると,径1-2cm大,4個の結石により輸入脚に存在した5cm大の空腸憩室が穿孔していた.憩室穿孔部の空腸部分切除とドレナージ術を施行した.病理組織検査で憩室は仮性憩室,腸石の結石分析はカルシウム塩を含んでいた.最終的に真性腸石により輸入脚の憩室に穿孔をきたしたと診断した.
腹腔鏡下手術を行った十二指腸狭窄合併正中弓状靱帯圧迫症候群の1例
日本赤十字社和歌山医療センター消化器外科
緑谷 創 他
症例は59歳,男性.前日からの腹痛を主訴に救急外来を受診.腹部造影CTで膵頭部を中心とする後腹膜血腫と腹腔動脈起始部の狭窄を認めた.画像所見より正中弓状靱帯圧迫症候群に起因した膵頭十二指腸領域血管の破綻による後腹膜血腫と診断し,同日緊急入院した.入院後のCTでは血腫の増大を認めず,いったんは状態が改善したため第9病日に退院した.しかしながら退院翌日より嘔吐をきたし,その後も症状が増悪したため,第14病日に再度救急外来を受診した.その際のCTで後腹膜血腫により十二指腸が圧迫され狭窄している所見を認めた.まずは保存的に加療したが,その後も通過障害が改善しなかったため,腹腔鏡下胃空腸バイパス術を施行した.また後日,腹腔鏡下正中弓状靱帯切離術を施行した.術後の経過は良好である.今回我々は,正中弓状靱帯圧迫症候群による後腹膜血腫に伴う十二指腸狭窄という比較的稀な病態により手術を必要とした1例を経験したため文献的考察を加え報告する.
小腸多発真性憩室穿孔の1例
国立病院機構米子医療センター外科
岸野 幹也 他
小腸憩室は比較的稀な消化管憩室症であり無症状で経過することが多い.小腸憩室穿孔は術前診断が困難であったという報告が多いが手術をすることにより良好な経過をたどることが報告されている.今回,97歳と超高齢であったが小腸憩室穿孔に対して手術加療によって良好な経過をたどった1例を経験したため報告する.症例は97歳女性.施設在住で認知症があり,見守り歩行などで対応していた.腹痛と冷感を主訴に当院に紹介受診となった.腹膜刺激症状は,はっきりとしなかったが,造影CTでfree airを認め小腸憩室穿孔を疑い緊急手術を行った.腹腔内を観察すると,小腸には多発憩室を認めトライツ靭帯から70㎝肛門側に膿瘍形成を認め小腸憩室穿孔と診断し小腸部分切除をおこなった.病理結果では小腸真性憩室の穿孔であった.術後経過は良好で術後39日目で退院となった.
絞扼性腸閉塞との鑑別を要し腹腔鏡手術を行った小腸アニサキス症の1例
東京都済生会中央病院外科
清水 誠仁 他
今回絞扼性腸閉塞との鑑別を要し単孔式腹腔鏡手術を施行した1例を経験したので,報告する.
症例は30代女性.来院4日前に寿司を摂取し来院当日の朝より心窩部痛を自覚し当施設を受診した.身体所見と腹部レントゲン所見から腸閉塞を疑い腹部CT施行し腸管虚血の所見はなかったが,絞扼性腸閉塞が否定できないことから単孔式腹腔鏡にて緊急手術を施行した.回盲部から口側170cmの位置に小腸狭窄を認め,同部を部分切除した.術後経過は良好で術後5日目に退院となった.術後病理検査にて切除検体からアニサキス虫体を認め小腸アニサキス症の診断となった.
本症は術前診断が困難な場合があるが,絞扼性腸閉塞が否定できない場合には腹腔鏡手術で腹腔内を検索し術中所見で治療法を判断することは有用であると考えた.
腸管吻合術後54年を経て発症したBlind loop syndromeの1例
熊本赤十字病院外科
原口 英里奈 他
72歳,女性,半年前からの心窩部痛を主訴に当科を受診した.精査にて貧血,低アルブミン血症を認め,下部消化管内視鏡検査にて小腸結腸側々吻合を認めた.54年前に腸閉塞に対して手術歴があり,この際に回腸と上行結腸が側々吻合されたと推察された.症状と側々吻合に伴う盲管の存在からBlind loop syndromeを疑い,腹腔鏡下に盲管部小腸の切除を施行した.この結果,貧血,低アルブミン血症と腹部症状の速やかな改善を認めた.Blind loop syndromeは消化管吻合に伴い腸管の拡張,腸内容物の鬱滞などが生じ,腸内細菌の増殖,粘膜障害等によって症状をきたすとされている.本症例は54年間無症状で経過しながら約半年で急激な症状の出現を認め,さらに手術による症状の速やかな改善を認めた.Blind loop syndromeの病態を考察するうえで貴重な症例であると考えられる.
孤立性腎転移をきたした上行結腸内分泌細胞癌の1例
春日井市民病院外科
岩田 力 他
今回われわれは上行結腸内分泌細胞癌の根治切除術後に異時性の孤立性腎転移を来した1例を経験したので報告する.症例は81歳の女性で,79歳時に上行結腸癌に対して開腹下右半結腸切除および十二指腸部分切除が施行され,病理所見はpor1, pT4b(SI:十二指腸), ly1, v1, pN0, fStage Ⅱcで,剥離断端は陰性であった.再発高リスク群と考え,術後補助化学療法としてCapecitabine内服(2投1休,3000mg/day)を施行しながら外来で経過観察していたが,術後3か月より腹部CTで右腎下極に15mm大の低吸収腫瘤を指摘された.術後16か月の腹部CTで腫瘤径が20mm大に増大を示したが他に再発所見を認めなかったため右腎摘出術を施行した.病理所見で腎腫瘤は上行結腸癌と類似した組織像で,免疫染色を追加し再検討した結果,最終的に上行結腸内分泌細胞癌の腎転移と診断した.
術前蛍光マーキングクリップを用いて腹腔鏡下に切除したS状結腸癌の1例
JCHO佐賀中部病院外科
執行 ひろな 他
腹腔鏡下大腸手術において,病変部位のマーキングは腸管切離ラインの決定に重要であり,正確性と安全性を求められる.術中内視鏡や点墨法が一般的であるが,今回,術前に蛍光クリップ(ZEOCLIP FS®,ゼオンメディカル,東京)でマーキングを行い,術中に近赤外光カメラで病変部位を同定し,腹腔鏡下S状結腸切除術を行った症例を経験したので報告する.
症例は71歳,男性.スクリーニングの下部消化管内視鏡検査でS結腸ポリープを認め,EMRを施行.病理でS状結腸癌の診断となり,粘膜下層に2400μmの浸潤を認め,追加切除目的に当科紹介となった.手術前日に下部消化管内視鏡を用いて腫瘍肛門側近傍に4ヶ所蛍光クリップを留置し,病変部のマーキングを行った.術中に近赤外光カメラを用い,漿膜を通して蛍光クリップを容易に視認することができた.蛍光クリップによるクリッピング時の有害事象や術中の合併症はなく,クリップの脱落もなく,安全性は問題なかった.
初回切除20年後にNAC併施切除した低リスク十二指腸GIST肝転移の1例
済生会中和病院外科
吉川 千尋 他
症例は63歳,男性.43歳時に貧血症状で他院に救急搬送され,十二指腸の腫瘍からの出血を認め,十二指腸部分切除を受けた.病理結果は再発低リスク十二指腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)の診断であった.その後は定期的な通院はせず無症状で経過していた.63歳時の他院での人間ドックのCTで肝腫瘍像の増大を認め,当院に紹介された.精査の結果,尾状葉paracaval portionに門脈,肝静脈,肝部下大静脈を圧排する径90mmの腫瘤像を認め,肝生検でGIST肝転移と診断した.単発の肝転移であり手術可能と判断したが,肝部下大静脈への浸潤と術式の困難性を考慮し,術前補助療法としてイマチニブ400mgを5ヶ月間投与した.腫瘍は48mmに縮小し,中肝静脈切除を伴う肝左葉・尾状葉切除術を施行した.病理結果はGIST肝転移であった.十二指腸GIST術後20年目に発見されたparacaval portionの単発肝転移に対して,術前補助療法後に転移巣切除を施行した1例を経験したので報告する.
根治切除後早期に肝転移再発したintracholecystic papillary neoplasmの1例
福岡大学医学部消化器外科
富永 孝亮 他
症例は61歳女性.貧血精査の上部内視鏡検査にて胃前庭部に圧排性病変を指摘された.造影CTにて胆嚢内を占拠する血流豊富な充実性病変を認めたが,明らかな漿膜および肝浸潤は認めなかった.胆嚢癌を疑い手術予定であったが,外来待機中に胆嚢炎を発症し,準緊急にて開腹拡大胆嚢摘出術および肝門部リンパ節郭清術を施行した.病理は広範な出血・壊死を伴う高異型度intracholecystic papillary neoplasm(ICPN)で,胆嚢管断端に腫瘍浸潤はなく,リンパ節転移も認めなかったため,追加切除や補助化学療法は施行しなかった.術後4ヶ月目,腹痛精査の造影CTにて腫瘍内出血を伴う多発肝転移を認めた.経カテーテル動脈塞栓術(以下 TAEと略)にて状態が安定し,いったん退院としたが,TAEの1ヶ月後に再度腹痛をきたし,造影CTにて多発肝転移の増大と再度の腫瘍内出血を認めた.改めてTAEにて止血を行うも,その1ヶ月後(術後6ヶ月目)に癌死した.
腎摘除術後4年目に切除した腎細胞癌胆嚢転移の1例
武蔵野赤十字病院外科
原田 紡 他
症例は66歳男性.4年前に左腎癌に対して左腎摘除術を施行し,術後診断は淡明細胞型腎細胞癌であった.術後3年目の腹部造影CTと腹部超音波検査で胆嚢内に腫瘤を認めたが,コレステロールポリープの診断で経過観察となった.術後4年目の検査で腫瘍径が増大しており,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.摘出標本は17mm大の亜有茎性腫瘤で,組織学的に淡明細胞型の腫瘍細胞を認めた.免疫組織染色ではCD10・PAX8が陽性,CK7・CEAは陰性であり,腎細胞癌の胆嚢転移と診断した.術後3年4ヶ月経った現在無再発生存中である.
腎細胞癌の転移臓器は肺,肝臓,骨が多いとされ,胆嚢転移は0.59%と稀である.腎細胞癌胆嚢転移の本邦報告例は45例であり,胆嚢摘出後の長期生存例がしばしば認められた.腎細胞癌の既往のある患者において胆嚢腫瘤を認めた場合は,転移の可能性を念頭におき胆嚢摘出術を考慮すべきである.
IgG4関連肝炎症性偽腫瘍治療後に発生した胆管十二指腸瘻の1例
JA岐阜厚生連久美愛厚生病院外科
高木 健裕 他
症例は77歳の男性,門脈内進展を伴う肝内胆管癌の術前診断で肝左葉切除を施行し,病理診断はIgG4関連硬化性胆管炎に伴う肝炎症性偽腫瘍であった.切除された病変以外に自己免疫性膵炎等の他臓器のIgG4関連疾患を認めなかったため,ステロイドは投与せず経過観察とした.半年後上腹部痛と黄疸を認め受診,腹部CTでは十二指腸球部後壁に憩室状の膨らみを認め,肝切離面に接していた.同部位で右肝管は閉塞しており胆管周囲組織の肥厚を認めた.上部消化管内視鏡検査では十二指腸球部後壁に深掘れ潰瘍を認めた.IgG4関連硬化性胆管炎及び十二指腸潰瘍による右肝管十二指腸瘻と診断しPPI及びステロイドを投与した.腹痛,黄疸は速やかに消失し腹部CT画像では胆管周囲組織の肥厚は改善した.IgG4関連肝炎症性偽腫瘍の切除後に発生した右肝管十二指腸瘻は極めて稀であり,かかる病態の成因やステロイドの適応など示唆に富む症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
局所陰圧閉鎖療法が有効であった膵液皮膚瘻の1例
久我山病院外科・消化器科
諸藤 教彰 他
症例は68歳男性。慢性C型肝炎で通院中に膵頭部腫瘍を指摘され、精査で膵膿瘍と診断された。肝膿瘍も併発し、度重なる膿瘍再燃のため当院へ紹介された。通院開始2ヶ月後、十二指腸潰瘍術後の創瘢痕中央部が自壊し、膿汁を伴った漏出液と周囲の皮膚炎を認め、漏出も多く、緊急入院とした。CT検査で膵頭部と自壊部は連続し、漏出液のアミラーゼ値は47360 IU/dlと高値で膵液皮膚瘻と診断した。ガーゼ保護では皮膚炎は悪化。第2病日にソマトスタチンアナログを投与開始したが、副作用で第6病日に中止となった。治癒には膵液の持続ドレナージが必要と考え、第9病日に局所陰圧閉鎖療法(以下 NPWT)を開始。皮膚炎は速やかに軽快し、開始4週間後には膵液皮膚瘻も閉鎖した。1ヶ月後、軽度の再燃を認めたが、1週間のNPWTで治癒し、以降の再燃は認めなかった。膵液皮膚瘻の治療にNPWTも有用である可能性が示唆された。
妊娠を契機に発症したインスリノーマの1例
岐阜大学医学部消化器外科
横井 亮磨 他
症例は39歳の女性で,妊娠15週に意識障害を呈し,悪阻に伴う低血糖と診断された.ブドウ糖点滴で症状改善し,その後は低血糖症状を認めなかった.妊娠38週で出産し,出産2日後の早朝に再度低血糖による意識障害を来した.絶食試験陽性でありインスリノーマが疑われたが,dynamic CT,MRI,超音波内視鏡で腫瘍を同定できなかった.選択的動脈内刺激薬注入法の結果をもとに超音波内視鏡で再度検索すると,膵尾部近位に7mm大の淡い低エコー領域を認め,超音波内視鏡ガイド下生検によりインスリノーマと診断した.開腹で脾温存膵尾部切除術を施行した.インスリン分泌量や抵抗性の変動により,妊娠中のインスリノーマは初期に発症し,妊娠期進行に伴い低血糖症状は一時潜在化するものの,出産後に再発することが多い.妊娠中にインスリノーマを発症することはまれで,診断も困難とされるが,妊婦の重症低血糖ではインスリノーマも考慮すべきである.
mFOLFIRINOX療法が奏効した膵腺房細胞癌の術後多発肝転移・腹膜転移の1例
上尾中央総合病院初期臨床研修医
佐々木 絃人 他
65歳,女性.心窩部痛と背部痛を主訴に当院消化器内科を受診し,精査で膵頭部に5.4×3.3cm大の嚢胞性病変を認め,膵管内乳頭粘液性腺癌(cT2N1M0 cStageⅡB)の疑いで亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.R0切除が得られたが,術後3カ月で多発肝転移を認めた.GEM+nab-PTX療法を6コース行ったが,腹膜転移をきたした.追加で施行した免疫染色により膵腺房細胞癌(pT3N1M0 pStageⅡB)との診断となった.GEM+nab-PTX療法が奏功しなかったことからmFOLFIRINOX療法に変更し,6コース行った時点で,多発肝転移の消失と腹膜転移の著明な縮小を認め,PRを得た.現在,術後14ヵ月生存中である.