日本臨床外科学会雑誌 第86巻6号 和文抄録
原著
急性胆石性胆嚢炎に対する術前超音波内視鏡ガイド下胆嚢ドレナージの有用性
NTT東日本関東病院外科
長尾 厚樹 他
目的:超音波内視鏡ガイド下胆嚢ドレナージ(endoscopic ultrasonography-guided gallbladder drainage:EUS-GBD)の,胆石性胆嚢炎に対するbridge to surgery(BTS)としての安全性と有用性を評価する.
対象と方法:2016年4月から2021年12月までに胆嚢摘出術を行った中等症以上の胆石性胆嚢炎111例.内訳は,BTS症例52例(EUS-GBD群:35例,endoscopic gallbladder stenting(EGBS)群:6例,percutaneous transhepatic gallbladder drainage(PTGBD)群:11例),手術症例59例(no drainage群).ドレナージ法と手術治療について比較検討した.
結果:EUS-GBDはEGBSと比べて処置時間が有意に短く,PTGBDと比べて手術までの期間が有意に長かった.EUS-GBD群は開腹移行が1例のみであった.
結論:胆石性胆嚢炎に対してEUS-GBD後に手術を行う方法は,習熟した内科医や外科医が行えば安全かつ有用な治療法である.
症例
18歳女性に発症した乳腺腺筋上皮腫の1例
製鉄記念八幡病院乳腺外科
谷口 隆之 他
症例は18歳,女性.10カ月前から右乳房腫瘤を自覚して近医を受診.右乳房A区域に50mm大の境界明瞭粗造な分葉状低エコー腫瘤を認め,MRIにて区域性濃染病変を認めた.針生検の結果,良性腫瘍の可能性が高いと判断されたが,組織型の確定に至らず,手術目的に当院を紹介受診した.腫瘤摘出術を行い,病理組織学的に腺上皮細胞と筋上皮細胞の二相性を示す小型腺管の増殖を認め,乳腺腺筋上皮腫と診断した.18歳という若年発症の乳腺腺筋上皮腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
化生癌成分を伴った乳腺悪性腺筋上皮腫の1例
香川県立中央病院乳腺・内分泌外科
佐治 万里江 他
症例は53歳,女性.4年前に右乳房腫瘤を自覚し,他院での穿刺吸引細胞診で血性排液を認めたが,良性と診断された.1年前に右乳房の腫脹と疼痛が出現し,前医で乳腺膿瘍と診断され,穿刺排膿と抗菌薬内服で症状は軽快した.3カ月前に右血性乳汁が出現し,前医で2回穿刺吸引細胞診を行うも,4年前と同様に血性排液を認めclassⅡであったが,腫瘍の増大と易出血性のため悪性の可能性を否定できず,当院へ紹介となった.右乳房に2.4cm大の混合性病変を認め,細胞診でclassⅤ,扁平上皮癌が疑われた.右乳房部分切除術とセンチネルリンパ節生検を施行し,病理組織検査で化生癌を伴った悪性腺筋上皮腫と診断された.トリプルネガティブタイプで,術後はdose denseドキソルビシン+シクロフォスファミド(ddAC)4クール,dose denseパクリタキセル(ddPTX)4クール,残存乳房照射を行い,術後2年の現在,無再発生存中である.稀な乳腺悪性腺筋上皮腫の1例を経験したので報告する.
乳癌術後乳房内再発との鑑別が困難だった未分化肉腫の1例
大阪ブレストクリニック乳腺外科
寺島 千晴 他
乳房部分切除後約14年で生じた未分化肉腫の1例を経験したため報告する.症例は40歳,女性.左乳癌cT2N0M0 stageⅡAに対し左乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検を施行した.病理結果は乳頭腺管癌,ly0,v0,n( 0 / 4 ),t=1.8×3.0cm,ER(+),PgR(+),HER2( 1 +),nuclear grade: 1 ,Ki-67 index:3.2%,surgical margin(-)であった.術後補助療法として残存乳房への放射線照射と内分泌療法を施行し,再発なく経過していた.術後約14年後に左乳房に腫瘤を自覚し,乳房内再発と診断された.再度乳房部分切除術が施行された結果,未分化肉腫の診断となった.早期での発見であったため手術によって腫瘍を完全切除でき,現在再発無く経過している.放射線誘発肉腫は非常に稀な疾患であるが,予後が悪く,術後治療や進行した場合の治療法も確立されていない.乳癌術後に対するフォローアップの際には本疾患を念頭に置いて早期発見に努めることが大切である.
子宮内容除去術により小腸穿孔をきたした類古典型Ehlers-Danlos症候群の1例
北見赤十字病院外科
西津 錬 他
Ehlers-Danlos症候群(Ehlers-Danlos syndrome:EDS)は皮膚の過伸展,関節の過剰可動域,組織の脆弱性などを示す先天性結合組織疾患であり,中でも類古典型EDSは希少病型とされている.今回,われわれは産婦人科での手動真空吸引法による子宮内容除去術により消化管穿孔をきたした類古典型EDSの症例を経験した.症例は34歳,女性.繰り返す関節脱臼を契機に類古典型EDSと診断されていた.妊娠10週5日に稽留流産と診断され,手動真空吸引法による子宮内容除去術が行われた.術後より発熱,下腹部痛,炎症反応の上昇を認め,造影CTで小腸穿孔・子宮穿孔を疑い緊急手術を施行した.子宮頸部前壁の穿孔および空腸に2箇所の穿孔を認め,小腸切除,子宮穿孔部の修復を施行した.先端にプラスチックカニューレを用いた手動真空吸引法で容易に子宮穿孔・小腸穿孔をきたし,術中操作においても腸管・腸間膜は牽引で容易に挫滅されるほど非常に脆弱であった.類古典型EDSにおいても消化管の組織脆弱性が指摘されており,侵襲的処置の際には細心の注意が必要である.
腹腔鏡下に切除した小腸solitary fibrous tumorの1例
国立病院機構横浜医療センター外科
川崎 千瑛 他
症例は62歳,女性.閉塞性直腸癌(cT4aN1bM0 StageⅢB)診断時の腹部造影CTで,小腸に造影効果を伴う40mmの腫瘤を認めた.直腸にステントを留置したが,開存不良のため腹腔鏡下回腸人工肛門造設術を施行した.同時に小腸腫瘤に対し小腸部分切除術を施行した.病理組織検査では,類円形腫大核を持つ腫瘍細胞がpseudovascular spaceを形成しながら増殖し,間質に多核巨細胞が散在していた.免疫組織化学染色でCD34,bcl-2およびSTAT6陽性で,遺伝子パネル検査でNAB2exon6-STAT6exon17融合遺伝子が検出されたため,小腸solitary fibrous tumor(SFT)と診断した.
小腸SFTの切除例は稀であり,腹腔鏡下に切除した報告はないが,腫瘍が小さい場合には低侵襲な腹腔鏡下切除が有用である.また,本症例は非典型的な病理組織像を示すSFTに遺伝子検査を行った貴重な症例であり,遺伝学的考察も含めて報告する.
糞石性腸閉塞を繰り返した直径60mmの結腸憩室の1例
浜松医科大学外科学第2講座
新村 亮汰 他
症例は82歳,男性.上行結腸巨大憩室由来の糞石脱落によるS状結腸閉塞と腹痛のため内視鏡砕石術を繰り返したが,内科的治療が困難なため手術目的で紹介となった.腹部CTで回盲部近傍に長径60mmのリング状石灰化病変と上行結腸内腔の交通を認めた.開腹胃切除後腹膜炎の既往があり,高度癒着が危惧されたが,腹腔鏡下回盲部切除術が可能であった.術後9日目に合併症無く退院し,社会復帰している.病理組織学的検査で憩室壁の筋層欠損より仮性憩室と診断した.巨大憩室症の定義は概ね径40mm以上とされ,本邦で約20例の手術報告があり文献的考察を加えて報告する.
S状結腸憩室炎に起因した結腸小腸瘻の2例
深谷赤十字病院外科
八木 翔太郎 他
症例1は63歳,男性.7年前から憩室炎を繰り返していた.腸閉塞にて入院し,CTにてS状結腸に憩室と壁肥厚を認め,口側結腸が拡張していた.注腸にてS状結腸憩室炎による結腸狭窄と結腸小腸瘻を認めたため,S状結腸切除術および回腸部分切除術を行った.症例2は40歳,男性.10年前から繰り返す憩室炎の増悪で受診し,CTにてS状結腸に憩室と壁肥厚を認め,回腸との瘻孔形成を疑った.注腸で瘻孔は確認できなかったが,S状結腸切除術および回腸部分切除術を行い,切除標本にて瘻孔を確認した.大腸憩室炎に起因する結腸小腸瘻は比較的稀であるが,結腸小腸瘻は結腸膀胱瘻との併発が多く,自験2例では膀胱との瘻孔形成は認めなかったが,いずれもS状結腸が小腸瘻の近傍で膀胱とも癒着していた.結腸膀胱瘻の診療時には結腸小腸瘻併存の可能性も念頭に置く必要がある.
腹腔鏡下手術を行った骨盤内動静脈奇形を併存した下行結腸癌の1例
済生会松山病院外科
山元 英資 他
症例は58歳,男性.高血圧症,僧帽弁閉鎖不全症にて近医に通院中.倦怠感,呼吸苦にて近医を受診,慢性心不全の診断にて加療を受ける.経過中Hb 3.0g/dLと高度貧血を認め,当院内科に紹介となる.下部内視鏡検査にて下行結腸脾弯曲部近傍に2型腫瘍を認め,生検にて高分化型腺癌と診断,貧血・心不全状態改善後,当科に紹介となる.Plain CTにて骨盤内左側に嚢胞様構造を認めたが,これは造影CTでは拡張蛇行した血管であり左内腸骨動静脈と連続,同静脈は動脈相から造影され骨盤内動静脈奇形(AVM)と診断した.腫瘍の栄養血管は左結腸動脈であり郭清に伴うAVMへの影響はないと考え,AVMに対する処置は施行せず,腹腔鏡下左結腸切除術を施行した.術後約2年経過し,大腸癌再発・AVM増大・心不全症状等なく経過観察中である.
今回われわれは,骨盤内AVMを併存した下行結腸癌に対して腹腔鏡下手術を施行した1例を経験したので報告する.
S状結腸間膜に発生した長径18.5cmの神経鞘腫の1例
国家公務員共済組合連合会横須賀共済病院外科
田村 阿稀子 他
症例は77歳,男性.尿路感染症で前医を受診した際に施行した腹部CTで偶発的に骨盤内巨大腫瘤を認めたため,精査加療目的に当院へ紹介となった.腹部造影CT・腹部MRIで骨盤内正中に分葉状腫瘤を認め,S状結腸間膜腫瘍を疑い,診断的治療を兼ねて腫瘍摘出の方針とした.開腹高位前方切除,腸間膜腫瘍摘出術を施行した.合併症なく,術後9日目に自宅へ退院した.その後再発は認めていない.病理組織学的に免疫染色でS100蛋白は陽性,CD34・c-kit・α-SMAはいずれも陰性であり,神経鞘腫と診断した.S状結腸間膜神経鞘腫は稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
前処置による高Mg血症に対し大腸ステントを留置した閉塞性S状結腸癌の1例
市立東大阪医療センター消化器外科
谷 直樹 他
症例は72歳,女性.血便を主訴に来院し,S状結腸癌,cT4aN0M0,cStageⅡbと診断され手術の方針となった.手術前日にピコスルファートナトリウム水和物・酸化マグネシウム・無水クエン酸(ピコプレップ®)を用いた機械的前処置を行った.手術当日の朝に意識障害を発症し,閉塞性大腸炎による敗血症性ショック,急性腎障害,高マグネシウム(以下,Mg)血症を認めた.高Mg血症に対して持続的血液濾過透析(以下,CHDF)を行い,血清Mg値は低下し意識障害は改善した.閉塞性大腸癌に対して大腸ステントを挿入し,腸管減圧を行い,全身状態が改善した後に,待機的に原発巣切除を施行した.術後合併症なく経過し,術後10カ月現在,無再発生存中である.
本症例は,前処置により高Mg血症をきたしたが,CHDFと大腸ステント挿入により待機的に安全に手術加療を行った症例であり,文献的考察を含めて報告する.
肝切除で救命した難治性ムコイド産生型K.pneumoniae肝膿瘍の1例
公立昭和病院消化器外科
原 慧一郎 他
症例は79歳,男性.腹痛と発熱を主訴に当院救急外来を受診.造影CTで肝外側区域に約10cm大の破裂した膿瘍と右肝内に数cm大の膿瘍を複数認め,経皮経肝膿瘍ドレナージ・抗菌薬加療を開始した.しかし,膿瘍内容物の粘稠度が高くドレナージが困難であり,感染コントロールに至らなかった.入院4日目の造影CTで肝外側区域の膿瘍が拡大,感染源制御目的に手術加療の方針となり,肝外側区域切除を施行した.肝離断面には粘液性物質を伴う回旋状の複雑な構造が認められ,血液培養・膿培養・string test陽性からムコイド産生型Klebsiella pneumoniae(hypermucoviscosityKp:hmKp)による肝膿瘍が示唆された.引き続き抗菌薬加療を行うも残存した右肝内の多発肝膿瘍が増大傾向にあり,2回目の肝切除(肝部分切除術3箇所)を施行した.その後,全身状態は改善し術後23日目に退院となった.hmKpによる肝膿瘍に対して2回の肝切除により救命できた症例を経験したので報告する.
炎症反応高値を契機に診断されたG-CSF産生胆嚢癌の1例
順天堂大学医学部附属静岡病院外科
小池 周一 他
症例は67歳,女性.心窩部痛を主訴に受診し,採血で白血球とC反応性蛋白が高値であった.精査の結果,胆嚢癌の疑いで全層での胆嚢摘出術と肝門部リンパ節12cのサンプリングをした.術後8日目の白血球とC反応性蛋白ともに著明に改善を認めた.また,術前G-CSF活性は異常高値であったが,術後は正常化した.病理結果は未分化癌様の腺癌で,免疫染色でG-CSF陽性となり,G-CSF産生胆嚢癌の診断となった.術後5年経過し,再発は認めていない.G-CSF産生胆嚢癌は非常に稀で,予後不良な疾患とされている.その診断には,著明な白血球増加,G-CSF活性の上昇,治療による白血球数とG-CSF活性の減少,腫瘍細胞におけるG-CSF産生の証明の4項目であるが,自験例では4項目全てを満たしていた.今回われわれは,G-CSF産生胆嚢癌と診断された腫瘍を切除し,5年生存を得られた症例を経験したため報告した.
膵温存全十二指腸切除術を行った家族性大腸腺腫症十二指腸腺腫の1例
星総合病院外科
月岡 純 他
症例は46歳,女性.17歳時に家族性大腸腺腫症(FAP)の診断で大腸亜全摘・回腸嚢肛門管吻合術,23歳時にデスモイド腫瘍にて切除術を施行し,32歳,36歳,37歳時に回腸嚢ポリープに対し経肛門的内視鏡切除を施行した.30歳時より十二指腸ポリープ(tubular adenoma)を認め,内視鏡サーベイランスを継続していた.45歳時,十二指腸LST病変に対しESDを施行し,adenocarcinoma(tub1,pTis)の診断に至った.半年後のサーベイランスにて1.2cm大の早期癌を疑う0-Ⅱa病変を認めた.修正Spigelman分類StageⅣに該当し病期の進行を認めたため,手術目的に当科に紹介となり,膵温存全十二指腸切除術(PSTD)を施行した.FAPにおいては十二指腸腺腫が約30~90%でみられ,癌化する可能性もあると報告されており,十二指腸癌が大腸癌に次いで予後規定因子になりうる合併疾患と考えられる.十二指腸腺腫において修正Spigelman分類StageⅣ以上では手術が考慮されるが,術式選択に関してはエビデンスに乏しく議論の余地がある.文献的考察を加えて報告する.
維持透析患者に発症し治療に難渋した十二指腸ガストリノーマの1例
船橋市立医療センター外科
内山 まり子 他
慢性腎不全で維持透析中の54歳,女性.十二指腸潰瘍穿孔に対し,緊急で大網被覆術を行った.PPIで汎血球減少をきたしたためH2ブロッカーの投与に切り替えたが,多発潰瘍からの出血および難治性の下痢が持続した.造影CTで十二指腸に濃染する多発結節を認め,SASIテストにより胃十二指腸動脈領域のガストリノーマと診断した.そこで,オクトレオチド投与を開始し腫瘍の縮小と出血のコントロールが得られたため,亜全胃温存膵頭十二指腸切除を行った.切除標本では十二指腸壁内に4.5mmに縮小したガストリノーマとNo.8リンパ節に転移を認めた.術後は胃空腸縫合不全から汎発性腹膜炎を併発し集中治療を要したが,保存的加療で軽快し入院143日目に転院となった.透析患者の十二指腸ガストリノーマは極めて稀であり,その周術期管理でオクトレオチドは有効であった.
術後11年目に肝転移再発をきたした膵神経内分泌腫瘍の1例
佐賀大学一般・消化器外科
馬場 楓 他
症例は72歳,男性.膵体部の8cm大の膵神経内分泌腫瘍(膵NET G2)に対し膵体尾部切除,脾臓摘出術を施行した.再発なく経過していたが,術後11年目の定期フォローアップのCTにて肝S8に3.8cm大の腫瘤性病変を認め,膵NETの肝転移再発が疑われた.その他に転移性病変はなく,腹腔鏡下肝S8亜区域切除術を施行した.肝再発巣の病理診断結果はNET G2で,初回手術と同様の病理所見であった.術後経過は良好で,術後8日目に退院して現在まで8カ月間再発なく経過している.膵NETは他の上皮性悪性腫瘍と比較し進行が遅く,緩徐に発育するとされる一方,肝臓を中心に高頻度に他臓器転移をきたし,根治切除後も再発をきたす可能性があるが,そのほとんどは術後10年以内の再発である.今回,膵NET術後11年の長期経過後に肝転移再発をきたし,腹腔鏡下に根治切除しえた非常に稀な経過の症例を経験したので報告する.
腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復後の腹膜縫合部離開による絞扼性腸閉塞の1例
さくらがわ地域医療センター外科
佐々木 拓馬 他
症例は91歳,男性.左外鼠径ヘルニアに対して腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP)を施行した.術後4日目に腹部膨満が出現し嘔吐も頻回となり,緊急入院となった.CT所見で小腸の著明な拡張とTAPPにより変位した腹膜外に小腸の脱出が認められ,TAPPの腹膜縫合部離開による腸閉塞を疑った.腹部膨満が顕著で嘔吐を繰り返すため,イレウス管による減圧後に腹腔鏡手術を施行した.左下腹部のTAPP手術部位に癒着した小腸を剥離したところ,腹膜縫合部が離開して小腸が腹膜前腔へ嵌頓しており,絞扼部が穿孔していた.腹膜前腔と腹腔内の汚染が軽微であったため小腸を切除した後に多量の生食で洗浄し,癒着防止フィルム付きのメッシュを用いて腹膜裂孔部を閉鎖した.TAPP術後の腹膜縫合部の離開に起因する腸閉塞症例の報告は少なく,腸管の穿孔を合併した例はまれである.文献的考察を加え報告する.
TAPP術後早期に盲腸との瘻孔から膿瘍形成を生じたAmyand herniaの1例
大垣市民病院外科
高木 敦仁 他
症例は60歳,男性.右鼠径部膨隆を主訴に受診した.ヘルニア嚢内に虫垂先端が癒着したJHS分類L3のAmyand hernia(Losanoff分類Type1)に対して腹腔鏡下ヘルニア修復術(TAPP)を施行した.術後25日目に右鼠径部に強発赤および熱感腫脹を認め再診,CTで右鼠径部中心に隔壁を伴う液貯留を認めた.TAPP後腹膜前腔膿瘍と診断し,膿瘍ドレナージおよびメッシュ除去術を施行した.術後膿瘍腔のドレーンから腸液の流出を認め,CTではドレーン先端が盲腸内腔に迷入していた.膿瘍腔と腸管が瘻孔を形成していると診断し,回盲部切除術を施行した.膿瘍の培養で腸内細菌が検出され,再々手術所見で虫垂は同定されず回盲部が瘻孔部分と強固な癒着を形成しており,TAPPでの機械的刺激で虫垂や虫垂周囲に炎症を生じ,腹膜前腔と瘻孔を形成し膿瘍を生じたと考えられた.Amyand herniaのLosanoff分類Type1でも状況により虫垂切除術を先行し,二期的にヘルニア修復術を施行することも考慮すべきである.