日本臨床外科学会雑誌 第85巻5号 掲載予定論文 和文抄録

 

症例

乳癌術前化学療法中に発症したpegfilgrastimによる大型血管炎の1例

愛媛大学医学部附属病院乳腺センター

西山 加那子 他

 73歳女性.左乳癌 cT4N0M0 StageⅢB Luminal Bに対し術前化学療法としてAC療法を導入し,day5にPegfilgrastimを投与した.day14より発熱,頭痛,右肩の疼痛が出現し,day16に当院を受診した.炎症反応高値であり,造影CTで右腕頭動脈から両側総頸動脈にかけて壁肥厚と周囲の脂肪織濃度上昇を認めた.各種感染症検査は陰性であり,膠原病の新規発症も否定的であったことからG-CSF関連大型血管炎と診断し,day20よりPrednisoloneを35mg/日内服開始した.症状と炎症反応は速やかに改善し,投与終了後も血管炎の再発所見は認めなかった.手術先行の方針とし,術後はweekly Paclitaxel療法,放射線治療,およびホルモン療法を施行した.G-CSF製剤使用時に発熱と炎症反応上昇を認めた際には,G-CSF関連大型血管炎に留意する必要がある.

ペンブロリズマブ併用術前化学療法でpCRが得られた乳腺基質産生癌の1例

新潟県立中央病院外科

佐藤 友威 他

 53歳の女性.右乳房B領域に2.5cm大の腫瘤を認め,針生検上triple negative(TNBC)タイプの基質産生癌と診断された.T2N0M0 Stage ⅡのTNBCであり,保険適応となったばかりのペンブロリズマブ併用レジメン(paclitaxel, carboplatin, pembrolizumab→epirubicin, cyclophosphamide, pembrolizumab)による術前化学療法を施行したところ,臨床的完全奏効が得られた.乳房部分切除術,センチネルリンパ節生検を施行し,病理学的完全奏効を確認した.基質産生癌を含む化生癌は化学療法の反応性が乏しく,予後不良と考えられている.化生癌に対するペンブロリズマブ併用化学療法の効果に関するデータはないが,今回の症例から一つの選択肢として考慮してよいと考えられた.

組織型が異なるリンパ節転移をきたした乳腺原発混合型小細胞癌の1例

南奈良総合医療センター外科

吉村 淳 他

 症例は70歳代の女性。右乳房C区域に5×7cm大の皮膚陥凹をともなった腫瘤を認め、右腋窩に腫大したリンパ節を触知した。乳房超音波検査では、右乳房C区域に分葉状の低エコー腫瘤を認め、境界は比較的明瞭、内部エコー不均一、前方・後方境界線の断裂を認めた。針生検を行ったところ、Invasive ductal carcinomaとsmall cell carcinomaが混在する像が認められた。乳房全切除術と腋窩リンパ節郭清を行い、病理組織学検討でinvasive ductal carcinoma、small cell carcinomaの混在癌と診断した。リンパ節転移を2個認めたが、それぞれinvasive ductal carcinoma、small cell carcinomaの転移であった。術後化学療法は2つの組織型を考慮する必要があると考えたが、本症例では認知症による制限もありパクリタキセルの投与を行なった。現在、術後23か月が経過しているが、再発の徴候を認めていない。混合型小細胞癌ではそれぞれの組織型が別々に進行するため、今後の経過観察、治療選択において両方の組織型を念頭に置く必要があると考えられる。

術中回収式自己血輸血が有用であった横隔膜損傷による外傷性血胸の1例

新久喜総合病院呼吸器外科

飯田 大勝 他

 【症例】72歳の男性.転倒で右背部を打撲し翌日,呼吸苦出現のため当院へ救急搬送された.搬入時,血圧低値で胸部CTでは右多発肋骨骨折と大量血胸を認め,緊急手術とした.胸腔鏡下で行い,第11肋骨骨折による横隔膜の貫通性裂創と活動性出血を認め,凝固止血,横隔膜縫縮,骨整復を施行した.総出血量は2,785mLで2,585mLを自己血回収装置で回収し,1,449mLを返血した.術後5日で退院となった.【考察】術中回収式自己血輸血の利点には,異型輸血や輸血感染症の回避,緊急手術の際でも交差試験なしで迅速な輸血が可能であることが挙げられる.一方,外傷での使用は感染リスクが懸念されるが,本例は閉鎖性血胸であり感染リスクは低く,術中回収式自己血輸血の方針とした.【結語】術中回収式自己血輸血が有用であった外傷性血胸の1例を経験した.

経皮膿瘍ドレナージで改善した輸入脚閉塞症疑いによる十二指腸穿孔の1例

北村山公立病院外科

岩本 尚太朗 他

 症例は66歳,男性.17年前に胃癌に対して幽門側胃切除術,Billroth-Ⅱ法再建を施行されていた.心窩部痛を主訴に当院を受診し,心窩部に圧痛を認めたが,腹膜刺激症状はみられなかった.血液検査所見では,白血球の上昇を認め,腹部CTでは,十二指腸断端近傍に膿瘍を認め,十二指腸は軽度拡張していた.以上から輸入脚閉塞症疑いによる十二指腸穿孔と診断した.所見が限局しており全身状態が安定していたため,保存加療の方針とした.第6病日に経皮的腹腔内膿瘍ドレナージを行い,第15病日にドレーンは留置のまま自宅退院となった.外来でドレーンを抜去したが,その後も腹部症状の再燃はみられていない.
 輸入脚閉塞症による十二指腸穿孔は致命率の高い重篤な疾患といわれている.今回,胃癌術後の輸入脚閉塞症疑いによる十二指腸穿孔に対し,経皮的腹腔内膿瘍ドレナージにより改善を得られた症例を経験したため報告する.

2個の異常裂孔がヘルニア門となっていた21歳小腸間膜裂孔ヘルニアの1例

仙台赤十字病院外科

小林 照忠 他

 症例は21歳女性.既往歴は特にないが,超低出生体重児であった.腹痛のため前医を受診し便秘と診断された.改善しないため当院へ紹介され,下腹部痛の他,意識障害も疑われた.CT検査で遠位小腸の造影不良域と近位小腸の拡張を認めた.絞扼性腸閉塞と術前診断し,緊急腹腔鏡下手術を開始した.絞扼された壊死腸管を認めて開腹移行したが,腸管の絡み方が複雑で絞扼解除は困難であった.遠位回腸の腸間膜内に2個の異常裂孔があり,これらをヘルニア門とする腸間膜裂孔ヘルニアと分かった.異常裂孔間の腸間膜を切離して絞扼を解除し,壊死腸管を切除した.小腸間膜裂孔ヘルニアはまれな疾患で,術前診断は困難であるが,発症初期には腹膜刺激症状を欠くことがあり,診断に際して念頭におくべきと考える.また腸間膜裂孔ヘルニアにおいては,本症例のように異常裂孔が2個の場合もあり,ヘルニア門以外の異常裂孔の存在の可能性を念頭におくべきと考える.

絞扼性腸閉塞にて緊急手術を行った小腸神経内分泌腫瘍の1例

国家公務員共済組合連合会虎の門病院消化器外科

呉山 由花 他

 症例は80歳男性.腹痛を主訴に前医を受診し造影CT検査で上腸間膜リンパ節腫大を認めたが上下部,カプセル内視鏡検査では異常所見がなかった.今回腹痛で当院を受診し,造影CT検査で回腸の狭窄と腸管壁造影効果の減弱あり.絞扼性腸閉塞と診断し,緊急手術を施行した.術中所見では小腸間膜内に存在する約3cmの腫大リンパ節が回結腸動静脈根部から腸間膜に癒着し,上腸間膜動脈の方向に浸潤していた.リンパ節を起点として,小腸間膜,小腸が捻転していた.捻転を解除したが小腸は壊死し,小腸・右半結腸切除を行った.病理組織検査で小腸神経内分泌腫瘍(以下、NET)G2と診断した.術後縫合不全となり再手術を施行し,経過は良好である.小腸NETは本邦では比較的珍しく,消化管NETに占める回腸NETの割合は0.6%と報告されている.今回経験した絞扼性腸閉塞を発症した小腸NETは稀な病態であり,文献的考察を加えて報告する.

腹腔鏡下回盲部切除術によって診断に至った回腸腺扁平上皮癌の1例

佐野厚生総合病院外科

松岡 信成 他

 66歳男性.3か月間続く腹部違和感の精査のため前医で体幹部造影CTを実施したところ,回盲部に腫瘤を認めた.追加で実施した下部消化管内視鏡検査で回腸末端に病変を認めたが,生検で診断を確定できず,当院に紹介受診となった.当院受診後に腸閉塞が顕在化してきたため,腹腔鏡下回盲部切除術で原発巣切除を行った.病理組織学的検査で回腸原発の腺扁平上皮癌と診断された.手術時に腹膜播種の存在が強く疑われ,術後に多発肝転移も顕在化したが,本人と家族の希望で対症療法となり,術後3か月目に在宅診療に移行した.術前診断に難渋し,術後急速に進行した回腸原発の腺扁平上皮癌の症例を経験したので,文献的考察とともに報告する.

腹腔鏡アプローチにて治癒したPS不良の患者に生じたS状結腸憩室腟瘻の1例

岩手県立胆沢病院外科

小坂 航 他

 症例は65歳女性。極低出生体重児で発達障害、子宮筋腫に対して開腹子宮全摘の既往あり。腟からの便排出を契機にS状結腸憩室腟瘻と診断。精査では悪性所見や複雑瘻孔形成は否定された。腹腔鏡下にS状結腸憩室を開放し、瘻孔を確認。S状結腸部分切除・腟瘻閉鎖を施行した。術後合併症発生はなく、現在まで症状再燃を認めていない。
 結腸憩室瘻のうち腟瘻は子宮手術既往のある症例に限られる極めて稀な疾患で、腹腔鏡アプローチの適用可能性は明らかではない。今回、われわれは長期間の精神障害を有しperformance status(PS)不良なS状結腸憩室腟瘻に対し、腹腔鏡下手術を施行し良好な術後経過を得た1例を経験した。若干の文献的考察を加えて報告する。

分類不能な直腸未分化肉腫の1例

大阪公立大学大学院消化器外科学

安田 拓斗 他

 症例は57歳,女性.血便を主訴に受診し,直腸RS-Raに半周性の1型腫瘤を認めた.生検結果から直腸低分化型腺癌と診断し,腹腔鏡下直腸低位前方切除術を施行した.切除標本では,腫瘍は粘膜側より発生し,病理組織学的に,壊死組織およびN/C比の高い多形な異型細胞を認めた.また腫瘍はVimentin,Ki-67の免疫染色で陽性を示したが,上皮性マーカー,血球表面マーカーを含むその他の免疫染色マーカーは全て陰性であった.本腫瘍は間葉性マーカーのみ陽性で,腫瘍形態は未分化多形肉腫様であるが,軟部組織ではなく粘膜側を主座とした腫瘍と考えられた.そのため確定診断に難渋したが,最終的に粘膜上皮より発生した分類不能/未分化肉腫(未分化多形肉腫)と診断した.術後2年4ヶ月現在,再発や転移なく経過している.

肝鎌状間膜に異時性・孤立性に再発した肝細胞癌の1例

神戸市立医療センター中央市民病院外科・移植外科

松田 正太郎 他

 肝細胞癌の転移様式として肝円索を含む肝鎌状間膜に浸潤・転移することは非常に稀であり,また異時性・孤立性に再発した報告は我々の知る限り存在しない.同病態に対して腹腔鏡下肝鎌状間膜切除にて無再発の経過を辿っている症例を経験したので報告する.症例は68歳女性.慢性C型肝炎,肝硬変(Child-Pugh A),食道静脈瘤が背景にある肝細胞癌cT4N0M0,cStageⅣA期に対して,62歳時より複数回の塞栓療法を施行された.その後肝外再発を来し,精査にて肝鎌状間膜内の単発再発と診断された.手術にて同間膜を切除し,病理検査にて肝細胞癌の再発と確定診断に至った.術後2年が経過したが明らかな再発は認めていない.肝細胞癌が同間膜に異時性・孤立性に再発を来した非常に稀な病態であると考えられ,文献的考察を加えて報告する.

胆嚢出血および破裂をきたした胆嚢動脈瘤の1例

春日井市民病院外科

伊藤 博崇 他

 症例は70歳男性.慢性腎不全で血液透析中,ワーファリン,クロピドグレル,ステロイドを内服中であった.上腹部痛を主訴に当院を受診し,血液検査で肝胆道系酵素の上昇と炎症反応の上昇を認めた.上部消化管内視鏡で主乳頭からの出血を認め同時に施行した胆道造影では総胆管内に血腫を疑う透亮像を認めた.検査後に貧血が進行し,造影CT検査から胆嚢出血および腹腔内出血を疑い緊急開腹胆嚢摘出術を施行した.腹腔内に多量の血腫を認め,体部に5mmの穿孔を認めた.胆嚢の病理所見では胆嚢内腔に露出する拡張した動脈を認め,胆嚢動脈瘤の所見であった.血管壁は壊死し,周囲漿膜下層に壊死を認めた.胆嚢出血および破裂をきたした胆嚢動脈瘤は稀である.今回我々は,緊急胆嚢摘出術により救命し得た1例を経験したので報告する.

膵頭十二指腸切除と3回の肝切除により初発後14年生存中の膵芽腫の1例

東京大学医学部肝胆膵外科・人工臓器移植外科

金子 順一 他

 膵芽腫は小児期に発生する膵臓原発の悪性腫瘍で、小児固形腫瘍全体の0.2%と極めて稀である。初回再発例の47%は切除と化学療法で平均3年間の無再発生存が報告されるが、再発切除不能例の長期生存は困難である。膵頭十二指腸切除と3回の肝切除により長期生存中の1例を経験したため報告する。23歳女性、12歳時、腹部腫瘤を指摘され、膵頭部の腫瘤に対し幽門輪温存膵頭十二指腸切除術、門脈合併切除再建を施行された。病理組織より膵芽腫と診断され術後補助化学療法を施行された。3年後、肝転移と播種性再発に対して肝S7部分切除および播種切除を施行され、術後化学療法を行った。その1年後にCTで多発肝転移再発し肝部分切除を施行した。さらに6年後、MRIで肝転移再発が指摘され3回目の肝切除を施行した。3回を超える切除による長期生存例の報告はない。初回診断より14年、最終手術から3年の現在、無再発で経過しており慎重に経過観察を行っている。

膵管内乳頭粘液性腫瘍由来の退形成膵癌の1例

福井県立病院外科

西田 直仁 他

 退形成膵癌は浸潤性膵管癌の中の稀な一亜型である.今回膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal papillary mucinous neoplasms;以下,IPMNと略記)由来退形成膵癌の極めて稀な1例を経験したので報告する.
 症例は77歳女性で,46ヶ月前に膵頭部癌に対して膵頭十二指腸切除術を施行し,IPMN由来浸潤性膵管癌(pT3N0M0,ⅡA期)と診断した.S-1療法を6ヶ月施行し,経過観察を続けたところ,CTで残膵腫大と主膵管拡張を認め,精査を施行した。MRIで残膵に腫瘤と主膵管の途絶を認め,PETで同部位に異常集積を認めた.超音波内視鏡下穿刺吸引法で腺癌と診断し,GEM+S-1療法を施行した後に左副腎・脾臓合併残膵全摘術・リンパ節郭清術を施行した.病理組織学的にIPMNから腺癌さらには退形成癌と組織学的移行像を認め,IPMN由来の多形細胞型退形成膵癌(pT1cN0M0,ⅠA期)と診断した.S-1療法を6ヶ月施行し,術後12ヶ月無再発生存中である.

集学的治療によって病理学的完全奏効が得られた切除不能膵癌の2例

神戸市立医療センター中央市民病院外科・移植外科

石川 達基 他

 症例1 60歳代女性、HbA1c高値を契機に膵頭部腫瘍を指摘され当院紹介。上腸間膜動脈に全周性の浸潤を認め、局所進行膵頭部癌の診断でGem+nab-paclitaxel7コースと化学放射線療法(S-1+RT)施行後、膵頭十二指腸切除(PD)、門脈合併切除再建施行。切除標本では腫瘍細胞認めず病理学的完全奏功(pCR)の所見。術後4年5ヶ月無再発生存中。症例2 閉塞性黄疸契機に当院受診。膵頭部癌、多発肝転移の診断でmFOLFIRINOX21コース施行後、PDおよび肝部分切除(S8,S1)施行。膵頭部、肝には腫瘍細胞認めずpCRの所見。術後8ヶ月無再発生存中。膵癌の術前治療によりpCRが得られることは稀であり、文献的考察を加え報告する。

自然軽快した腹膜サルコイドーシスの1例

浜松労災病院外科

柴田 知佐 他

 症例は79歳女性.発熱,腹部膨満感を主訴に受診.画像検査で虫垂炎が疑われ,抗生剤治療後に待機的手術とした.腹腔鏡所見では腹膜や腸管漿膜全面に約1mmの粟粒性結節があり,原発不明癌の腹膜播種を疑い生検のみで手術を終えた.腹膜生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め,腹膜サルコイドーシスと診断,無症状のため経過観察とした.初回手術から約1年後に虫垂炎が再燃し,腹腔鏡下虫垂切除術を施行したところ,鏡視下ではサルコイドーシス結節は消退していた.術後経過良好で,現在もサルコイドーシスの治療は行わず外来で経過観察している.サルコイドーシスは非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を特徴とする原因不明の炎症性疾患であり,縦隔リンパ節,肺,眼,心臓,皮膚に起こりやすいが,腹膜サルコイドーシスは本邦でも数例の報告のみで稀である.無治療で自然軽快を実際に確認した報告は本邦初であり,本症例の経験と文献的考察を加えて報告する.

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