日本臨床外科学会雑誌 第86巻8号 和文抄録

臨床経験

日本人原発性乳癌に対するdose-dense化学療法の安全性と有害事象

岩手県立中央病院乳腺・内分泌外科

滝川 佑香 他

 Dose-dense(dd)化学療法は再発高リスクの乳癌に対する周術期標準治療として確立してきたが,日本人での安全性や有害事象の報告は少ない.相対用量強度85%以上と定義した治療完遂率と有害事象について後方視的に検討した.2016年6月から2023年3月までにdd化学療法を行った127例を対象とした.Pegfilgrastim 3.6mgを併用してAC(doxorubicin 60mg/m2+cyclophosphamide 600mg/m2),PTX(paclitaxel 175mg/m2)を2週に1回,各4サイクル施行した.ddACとddPTXの逐次投与の完遂率は85.8%であった.非完遂に至った主な有害事象は肝機能障害4例,皮疹3例,薬剤性肺炎3例,貧血2例であった.Grade 1以上の肝機能障害は6割以上でみられ高頻度であったが,支持療法によりその多くが中断・遅延することなく治療継続していた.本研究から,dd化学療法が日本人においても,重篤な有害事象の頻度は低く,十分なRDIを維持して安全に使用できる可能性が示唆された.

症例

Dabrafenib+Trametinib療法が奏効した90歳甲状腺未分化癌の1例

信州大学医学部外科学教室乳腺内分泌外科学分野

中澤 賢史 他

 症例は90歳,女性.疼痛を伴い急速に増大する左頸部腫脹を自覚し,近医を受診.左甲状腺腫瘍および左頸部リンパ節腫大を指摘され,精査・加療目的に当科に紹介となった.CTで甲状腺左葉に65mm大の気管浸潤を伴う腫瘤と左内深頸領域に腫大リンパ節を認めた.リンパ節の針生検で,甲状腺未分化癌の転移と診断された.遺伝子検査でBRAF V600E変異陽性であった.年齢も考慮し,根治切除不能と判断し,Dabrafenib+Trametinib併用療法を開始した.投与開始後1週間で理学所見上,著明な腫瘍縮小を認め,疼痛も改善し,QOLの改善が得られた.投与開始2カ月後のCTでは原発巣およびリンパ節転移の著明な縮小を認めた.経過中Grade 1の発熱を認めたが,Acetaminophen内服で制御可能であり,減量を要する有害事象は認めなかった.超高齢者であっても,Dabrafenib+Trametinib併用療法により未分化癌の局所制御と疼痛緩和を通じてQOLの改善が得られた.

乳頭温存乳房切除後再建乳房に生じたPaget病の1例

東京西徳洲会病院乳腺腫瘍科

渕上 ひろみ 他

 症例は61歳,女性.6年前に当院で左乳癌(TisN0M0 Stage 0)に対し乳頭温存乳房切除術とセンチネルリンパ節生検およびエキスパンダー挿入術を施行され,約8カ月後にシリコンインプラントへの入れ替え術が行われた.術後の補助療法はなく,3カ月ごとの経過観察と年1回の画像検査を行っていた.術後5年目で左乳頭乳輪部のびらんが生じたが,画像検査で局所再発の診断には至らず,接触性皮膚炎として加療したが,6年目にびらん拡大とエコーで皮下腫瘤を認め,皮膚生検を行い,Paget病と診断された.左乳頭乳輪切除とセンチネルリンパ節生検およびエキスパンダー挿入術を施行した.われわれは,乳頭温存乳房切除術後にPaget病を生じた症例を経験した.Paget病は比較的稀な疾患であり,乳房再建後に生じた報告は本邦で2例目である.乳房再建術は増加しており,乳頭温存乳房切除術後の乳頭部病変に対しては,HER2陽性の場合,Paget病の発生も考慮し積極的な皮膚生検の施行が重要であると考えられた.

非浸潤性乳管癌と非浸潤性小葉癌が併存した線維腺腫内乳癌の1例

鳥取大学医学部呼吸器・乳腺内分泌外科学分野

大島 祐貴 他

 症例は74歳,女性.左乳房腫瘤を主訴に当科を受診した.左乳房BD区域に12mm大の分葉状腫瘤を認め,精査の結果,左乳癌の診断となった.また,左乳房C区域にも15mm大の境界明瞭な腫瘤を認め,画像所見から線維腺腫(FA)を疑った.左乳癌cT1cN0M0 stageⅠ,Luminal typeに対し,左乳房全切除+センチネルリンパ節生検を施行した.BD区域病変については左乳癌pT1cN0M0 stageⅠAの診断となり,C区域腫瘤についてはFA内に発生した非浸潤性乳管癌(DCIS)および非浸潤性小葉癌(LCIS)の診断となった.FA内に癌が発生する頻度は0.1%前後とされ稀である.文献的考察を加えて報告する.

抗HER2薬によりトリプルネガティブ化したHER2陽性化生乳癌の1例

尼崎中央病院外科

木原 直貴 他

 緒言:乳腺化生癌は稀な悪性腫瘍でほとんどがトリプルネガティブ(TN)である.今回,HER2陽性化生癌の症例を経験したので報告する.症例:80歳,女性.右乳房に3cmの腫瘤を触知.MMGでは微細石灰を伴う境界不明瞭な高濃度腫瘤を認め,USでは不整な腫瘤を認めた.針生検を行い,化生癌,ER・PgR陰性,HER2 1+であった.Bt+SN→Ax(Ⅱ)を施行し,病理所見は腫瘍が広範な乳管内進展を呈した浸潤性腺癌に扁平上皮化生を伴っていた.最終病期は化生癌(腺扁平上皮癌タイプ),pT2pN2aM0stageⅢA,HER2 FISH増幅あり,であった.術後4カ月目に皮膚再発を認めCap+HER+PERを開始し,著効した.14カ月目に腋窩リンパ節が増大し,T-DM1へ変更した.皮膚病変が増悪したため,病変の切除を行ったが早期に再発した.皮膚再発病変のサブタイプは,TNとなっていた.結語:抗HER2薬に一定の効果を示したHER2陽性化生乳癌を経験したが,治療効果が減弱した際は腫瘍のheterogeneityを考慮した治療戦略が重要と思われた.

腹臥位胸腔鏡下ドレナージを行った降下性壊死性縦隔炎の1例

岩手県立中部病院外科

佐藤 梢 他

 症例は69歳,女性.5日前から咽頭痛・関節痛に対して抗菌薬加療されていたが,改善がなく当院に紹介.CTで左下咽頭から縦隔にかけて気腫と下縦隔に膿瘍形成を認め(Endo分類TypeⅡB),降下性壊死性縦隔炎の診断で緊急手術を施行した.腹臥位右側アプローチによる胸腔鏡下ドレナージを施行後,仰臥位に体位を変換し,左頸部に襟状切開をおき頸部ドレナージを施行した.術後は左反回神経麻痺を認めたが,気管切開は要せず,術後24病日で自宅退院した.降下性縦隔炎の縦隔ドレナージのアプローチは,開胸,縦隔鏡,胸腔鏡が報告されているが,腹臥位胸腔鏡でのドレナージと特定できる報告はない.今回われわれは,腹臥位胸腔鏡下ドレナージを行い効果的な治療を行うことができたため,報告する.

サルコイド反応を伴った異時性多発胸部食道癌の1例

久留米大学医学部外科学講座

佐々木 亨 他

 症例は72歳,男性.3年前に食道早期癌に対し内視鏡的粘膜下層剥離術を施行され,再発なく経過していた.1年前のCTおよびPET検査で右鎖骨上・肺門・縦隔のリンパ節腫大を認め,生検でサルコイドーシスと診断されたが,症状はなく経過観察とされていた.今回,上部消化管内視鏡検査で新規の食道表在癌を認めた.リンパ節腫大は不変であったため,食道癌cT1bN0M0 StageⅠと診断し,根治切除術を施行した.病理検査で縦隔リンパ節転移を認め,最終診断は食道癌fT1bN1M0 StageⅡAであった.また,腫大リンパ節は非乾酪性類上皮肉芽腫成分を認めるものの,サルコイドーシスの臨床症状はなかったことから,最終的にはサルコイド反応と診断した.本症例ではサルコイド反応による縦隔リンパ節腫大のため,治療前のリンパ節転移の診断が困難になった.表在癌でもcT1bと診断された症例では,リンパ節転移を念頭に置き術前化学療法も検討の余地があると考えられる.

ロボット支援下前立腺全摘術後に露出した左外腸骨動脈による腸閉塞の1例

石川県立中央病院消化器外科

結城 浩考 他

 症例は75歳,男性.4年前にロボット支援下前立腺全摘術・骨盤内リンパ節郭清が施行されていた.左下腹部痛を主訴に当院へ救急搬送された.腹部造影CTで左外腸骨動脈による絞扼性腸閉塞と診断し,緊急手術を施行した.腹腔鏡下に観察すると,露出した左外腸骨動脈と腹壁との間隙に小腸が嵌頓していた.整復を試みたが困難であったため,開腹手術に移行した.小腸は30cmほど壊死しており,回盲部切除を行い機能的端々吻合で再建した.術後経過は良好で,術後9日目に退院した.骨盤内リンパ節郭清は泌尿器科領域のみならず,婦人科癌や直腸癌においても普及しており,腹腔鏡手術およびロボット支援下手術では術後の癒着が軽減される.今後,本症例のような遊離した残存組織による絞扼性腸閉塞は増加する可能性があり,骨盤内リンパ節郭清の病歴がある際には絞扼の原因となる索状物が脈管でないか注意する必要がある.

腸石を伴う55歳男性腸管重複症の1例

大阪ろうさい病院外科

吉田 力 他

 症例は55歳,男性.数年前より一時的な右下腹部の違和感を自覚していた.数日前より同部位に間欠的な腹痛を認め,次第に増強してきたため当院を受診.既往歴,内服薬に特記事項なし.受診時の腹部造影CTにて遠位回腸近傍に50mm大の内部に大量の腸石を伴う嚢状の管腔構造物を認め,回腸腸間膜側と交通があることから腸管重複症を疑った.その後も腹痛が持続するため,受診日の5日後に単孔式腹腔鏡下手術を行った.術後に腹痛は速やかに改善し,術後8日目に退院した.病理診断は術前診断の通りで異所性胃粘膜を伴い,同部位に潰瘍性瘢痕も認めた.腸管重複症と術前診断し,また単孔式腹腔鏡下で手術できた症例は多くないため,若干の文献的考察を交え報告する.

小腸憩室および腸管外に進展し穿孔をきたした小腸粘液型脂肪肉腫の1例

行徳総合病院外科

千葉 陽永 他

 症例は76歳,女性.1カ月間続く倦怠感,食思不振により当院を受診.造影CTで小腸に腫瘤性病変を認めた.また,腹腔内にはfree air,多量の腹水を認めた.右腸腰筋にも腫瘤性病変を認め,転移が疑われた.小腸腫瘍による穿孔の診断として緊急で腫瘍を含む小腸を切除,吻合した.病理診断は粘液型脂肪肉腫であった.全身状態を考慮して術後化学療法は施行しなかった.自宅退院したものの,その後小腸穿孔による膿瘍形成を再発し,術後1年3カ月で死亡するまでドレーン管理を必要とした.
 脂肪肉腫を含む軟部腫瘍に対して,軟部腫瘍診療ガイドラインでは転移巣を含む腫瘍の切除をすること,切除不能である場合は薬物療法を行うことが推奨されているが,症例が少なく組織型別の治療方針は定まっていない.また,本症例のように高齢および穿孔をきたした症例は,術後ADLも低下していることが多く術後化学療法を行うべきか判断に苦慮する.今後のエビデンスの蓄積が必要である.

腹腔鏡補助下結腸部分切除術を行った腹膜透析中の下行結腸癌の1例

山口大学大学院器官病態外科学講座

加来 康二 他

 症例は47歳の男性.慢性腎不全で4カ月前から腹膜透析(peritoneal dialysis;以下,PDと略記)が開始された.生体腎移植前のスクリーニング目的に施行された下部消化管内視鏡検査で,SD-junction付近の結腸に深達度M~SM程度の早期癌を指摘された.非PD患者であれば内視鏡的切除も考慮される病変であったが,PD患者に対する内視鏡的治療は腹膜炎のリスクが高いと判断され,手術目的に当科へ紹介された.術前診断は,S状結腸癌または下行結腸癌(cTis~cT1,N0,M0,cStage 0 orⅠ)で,腹腔鏡補助下結腸部分切除術を行った.術翌日にブラッドアクセスカテーテルからの血液透析を開始し,術後9日目にPDを再開した.PDは問題なく施行可能であり,術後11日目に退院した.日本透析医学会より腹膜透析ガイドラインが刊行されているが,PD患者に対する腹部手術の周術期管理方法の記載はない.PD療法中の大腸癌手術に関して,周術期管理法を中心に文献的考察を加えて報告する.

慢性憩室炎によるS状結腸狭窄が原因で発症した閉塞性大腸炎の1例

深谷赤十字病院外科

石井 美凪 他

 症例は61歳,男性.頭部外傷で入院し,開頭術後,寝たきりの状態であった.食事開始後より便秘と腹痛が続いていたが,腹痛増悪と血圧低下が出現した.血液検査で炎症反応の上昇と代謝性アシドーシスを認め,CTでS状結腸遠位側に多発憩室と壁肥厚を認め,同部より口側の結腸は著明に拡張していた.腫瘍による腸閉塞を疑い,減圧目的に下部消化管内視鏡検査を行ったところ,S状結腸憩室炎による狭窄が原因の閉塞性大腸炎の診断となり,緊急手術を施行した.S状結腸遠位側は腫瘤状に硬く短縮し,S状結腸近位側から下行結腸は暗赤色かつ浮腫状であり,まず結腸左半切除を行った.切除断端にびらんや潰瘍を認めたため,結腸右半切除と回腸部分切除を追加し,回腸に単孔式人工肛門を造設した.大腸憩室炎に起因する閉塞性大腸炎は稀であるが,高齢化により左側結腸型の慢性憩室炎が増加しており,閉塞の原因として憩室炎も念頭に置く必要がある.

術中の気腹で生じた皮下気腫にストーマ腸管が脱出した腸閉塞の1例

筑波大学消化器外科

内野 誠 他

 皮下気腫は腹腔鏡下手術の合併症の一つである.今回われわれは,ロボット支援腹腔鏡下直腸切除術において気腹による皮下気腫を生じ,ストーマとして挙上した腸管が傍ストーマの皮下に脱出し,腸閉塞をきたした1例を経験したので報告する.症例は67歳,男性.血便を主訴に精査をしたところ,直腸癌と診断された.手術直後の胸腹部X線写真で,体幹から頸部までの広範な皮下気腫を認めた.第3病日に腸閉塞を発症し,撮影した腹部CTで左下腹部の傍ストーマに皮下気腫を認め,その腔にストーマとして挙上した腸管が脱出していた.脱出し嵌頓した腸管を用手的に整復し,以降,症状は軽快し,第25病日に退院した.本症例に生じた腸閉塞は,腹腔鏡下手術後の皮下気腫に関連したまれな合併症であり,ストーマ造設時には注意が必要である.

肝円索経由で血栓除去を行った特発性門脈血栓症の1例

杏林大学医学部肝胆膵外科

吉田 智幸 他

 特発性門脈血栓症は門脈内に血栓を発症する原因不明の疾患で,抗血栓療法の適応となるが,広範に血栓を生じた場合の死亡率は20%と報告されている.広範な門脈血栓症と腸管壊死を伴った36歳の男性患者に対して,肝円索経由で門脈内に留置したカテーテルから持続的に血栓治療を行い,救命した症例を経験した.入院後速やかに全身的な抗凝固療法を開始したが血栓の改善はなく,空腸の虚血性変化を認めたため開腹した.肝円索を経由してカテーテルを門脈内に留置し,上腸間膜静脈,門脈本幹,左右門脈枝の血栓を吸引除去し,壊死した空腸を部分切除した.カテーテルは上腸間膜静脈内に留置したまま閉腹し,術後にカテーテルから持続抗凝固療法を行った.一時的に呼吸不全・腎不全・肝不全を合併したが軽快し,第37病日に退院した.肝円索経由のカテーテル留置は術後の血栓治療にも有用であり,全身的な抗凝固療法に抵抗性の門脈血栓症には有用な治療法である.

神経内分泌癌成分の胸椎転移により脊髄麻痺を発症した胆管MiNENの1例

金沢大学肝胆膵・移植外科

堀尾 浩晃 他

 症例は65歳,男性.遠位胆管癌に対して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理診断では,腫瘍に腺癌成分と紡錘形化した細胞集団や小ロゼット構造を伴う分化度の低い腫瘍成分を認めた.神経内分泌腫瘍マーカーによる免疫組織化学的検査では,Chromogranin陽性,Synaptophysin陽性,CD56陽性,SSTR2陽性であった.腺癌成分と神経内分泌腫瘍(NEN)成分がそれぞれ30%以上有しており,総胆管mixed neuroendocrine-non-neuroendocrine neoplasm(MiNEN)と診断した.術後補助化学療法としてS-1療法を行った.術後9カ月目,急に下肢麻痺症状が出現した.胸椎転移の脊髄圧迫による脊髄麻痺を認め,胸椎後方除圧固定術にて麻痺症状は改善した.骨腫瘍の掻爬骨組織より神経内分泌癌(NEC)を認め,総胆管MiNENのNEN成分の胸椎転移と診断した.その後,高度な血小板低下を伴う多発肝転移の出現を認め,初回手術より約11カ月で死亡した.本症例では,骨転移組織がNEC成分であったことを確認しえた稀な総胆管MiNENの症例であるため報告する.

Conversion surgeryを行った遠隔転移と左腎浸潤を伴う膵癌の1例

川崎幸病院外科

渡部 和玄 他

 症例は74歳の男性で,傍大動脈リンパ節腫大と肝転移を有し,胃・脾臓・左腎に浸潤する切除不能膵尾部癌に対して,gemcitabine+nab-paclitaxel療法(以下,GnP療法と略記)を開始した.3カ月後に肝転移・傍大動脈リンパ節転移は消失したため,10カ月後にconversion surgeryの方針とした.術前の分腎機能評価で左腎摘後の予測腎機能は十分と判断し,膵体尾部切除,胃部分切除,脾臓摘出,左腎臓摘出術を施行した.術中造影エコーでも肝転移は完全に消失しており,肝切除は行わなかった.退院後,半年間GnP療法を継続し,術後2年時点で無再発生存中である.傍大動脈リンパ節転移・肝転移の両方が存在した点,術前に腎機能評価を行った上で左腎を合併切除し,術後もGnP療法を継続できた点は既存の報告に類を見ない点であり,ここに報告する.

骨盤骨折を伴う外傷性会陰部損傷に起因した壊死性軟部組織感染症の1例

宮崎大学医学部外科学講座

清水 一晃 他

 骨盤骨折を伴う会陰部の複雑性外傷を契機に広範な壊死性軟部組織感染症を経験した.症例は59歳,男性.作業中にクレーン車に骨盤部を挟まれ,近医に緊急搬送された.恥坐骨骨折と右臀部,会陰部の挫滅創の診断で処置され入院となった.受傷後4日目に高熱と会陰部創からの悪臭を伴う膿性排液が認められ,背部と大腿部に広範の発赤と腫脹をきたしていたことより,当科に緊急搬送となった.当院での精査の結果,会陰部外傷による壊死性軟部組織感染症の診断で緊急開創ドレナージ術,人工肛門造設術を施行した.約2週間に及ぶICU管理と1カ月を超える感染症治療を行った.計4回のdebridementを行い,分層植皮にて治癒を得ることができた.術後1年で人工肛門を閉鎖し,就業可能となった.臀部の外傷,特に肛門に近接している骨盤骨折を伴う会陰部の開放創は適切な管理が極めて重要である.

SCOLA法を行った常染色体顕性多発性嚢胞腎に合併した臍ヘルニアの1例

済生会松阪総合病院外科

竹林 三喜子 他

 症例は45歳,男性.臍部の膨隆を主訴に受診した.常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease:ADPKD)の既往があり,腹部は緊満し,臍部に3.5cm大の膨隆を認めた.CTで臍部に一致して17mm径のヘルニア門を認め,臍ヘルニアの診断でsubcutaneous onlay laparoscopic approach:SCOLA法による臍ヘルニア修復術を選択した.ADPKDに伴う多発肝腎嚢胞による腹腔容積上昇のため,通常よりもワーキングスペースは限られていたが,腹直筋前鞘前面の層を維持することで,安全かつ十分に剥離が可能であった.臍部に2cm大のヘルニア門を認め,縫合閉鎖後にonlay meshを留置した.術後合併症なく,現在に至るまで再発なく経過中である.SCOLA法は本症例のようにADPKDなどで腹腔容積が上昇している症例にも,安全かつ低侵襲にアプローチでき有用である.

大腿ヘルニア類似病変が併存した同側内外鼠径ヘルニアの1例

春日部市立医療センター外科

山本 真之介 他

 84歳,男性.来院3カ月前から右鼠径部膨隆を自覚していた.健康診断のCTで右内鼠径ヘルニアを疑われたため,紹介受診した.立位で右鼠径部に手拳大の膨隆を認め,CT所見より,新Japan Hernia Society(JHS)分類M2相当の右内鼠径ヘルニアと診断し,待機的に腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(Trans-Abdominal Pre-Peritoneal repair;TAPP)を行った.腹腔内を観察すると,下腹壁血管の内外側にそれぞれ2.5cm大と2.0cm大のヘルニア門を認め,新JHS分類右M2型と右L2型と診断した.また,腹膜前腔を剥離すると大腿輪に1.5cm大のヘルニア門が存在したため,大腿ヘルニア類似病変と追加診断した.自験例のような内鼠径ヘルニア・外鼠径ヘルニアに大腿ヘルニア類似病変が併存した例は報告がない.腹腔鏡手術でなければ診断困難な稀な症例を経験した.

TAPP法で修復した鼠径部interparietal herniaの2例

笛吹中央病院外科

四元 宏和 他

 鼠径部interparietal hernia(以下,IPH)はヘルニア嚢が腹壁の様々な筋層,筋膜間へ進展する稀な鼠径ヘルニアの一亜型である.今回,われわれは鼠径部IPHに対してtransabdominal preperitoneal approach(以下,TAPP)で治療した2症例を経験したので報告する.症例1は62歳,女性.右鼠径部の膨隆を主訴に当院を受診した.腹部CTでヘルニア嚢は内腹斜筋と外腹斜筋腱膜の間へ進展していた.右鼠径ヘルニアの診断でTAPPを実施した.術前CTおよび手術所見から,術後に改めて鼠径部IPHと診断した.症例2は80歳,女性.右鼠径部から右側腹部の疼痛を主訴に当院を受診した.腹部CTでヘルニア嚢は内腹斜筋と外腹斜筋腱膜の間へ進展していた.症例1の経験から鼠径部IPHを疑いTAPPを実施し,術中所見より鼠径部IPHと診断した.鼠径部IPHの診断および治療にTAPPが有用であった.

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