日本臨床外科学会雑誌 第85巻7号 和文抄録

 

臨床経験

成人L1型鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡下経皮的腹膜外ヘルニア閉鎖術の有用性

天使病院外科

吉田 祐一 他

 目的:
鼠径管の脆弱性を認めない成人のL1型鼠径ヘルニアに対して腹腔鏡下経皮的腹膜外閉鎖法(laparoscopic percutaneous extraperitoneal closure;以下,LPECと略記)を適応拡大する施設が散見され,当院では年齢に関わらずL1型はすべてLPECを行っており,その治療成績を検討した.
 方法:
当院でLPECを施行した16歳以上の98例を対象とし,手術時間,術後在院日数,術後合併症,再発率を検討した.
 結果:
平均年齢は41歳,男女比は52対46,手術側は両側27例,片側71例,平均手術時間は82分,平均術後在院日数は1.9日,術中合併症は認めず,術後合併症は慢性疼痛が1例,術後漿液腫が6例,再発は2例であった.
 結語:
成人L1型鼠径ヘルニアに対してLPECは適応拡大できる可能性がある事が示唆された.更なる症例の蓄積が求められる.

症例

乳腺顆粒細胞腫の1例

東京女子医科大学附属足立医療センター乳腺診療部

安斎 裕美 他

 乳腺顆粒細胞腫の1例を経験したので報告する.症例は64歳女性.甲状腺癌の術前CTにおいて右乳房A領域に腫瘤を認め,当科紹介受診となった.マンモグラフィで右乳房X/I領域にスピキュラを伴う腫瘤性病変を認め,カテゴリー5と診断した.超音波検査では右乳房A領域に19mm大の辺縁不整で境界不明瞭な低エコー腫瘤を認めた.CT検査では右乳房A領域に20mm大の造影効果を呈する結節を認めたが,転移は認めなかった.MRI検査では内部が不均一に造影される辺縁不整な不整形腫瘤を認めた.針生検にて乳腺顆粒細胞腫と診断した.しかし画像上は悪性を否定できず,診断的治療目的に右乳房部分切除術を施行した.病理組織学的検査にて乳腺顆粒細胞腫と診断した.本疾患は基本的に良性とされているが,画像所見は乳癌に類似し,鑑別に困難を有する.悪性を否定できない場合には診断的治療目的の手術も許容されると考える.

転移再発をきたしたpT1a乳癌の1例

山梨大学医学部第1外科

三枝 悠人 他

 症例は56歳女性.53歳時に検診異常を指摘され当院を受診した.左乳癌の診断で左乳房全切除術とセンチネルリンパ節生検を施行した.病理学的組織診断は,浸潤性乳管癌,pT1a(2×1mm)N0M0,pStageⅠA,ER(60%),PgR(70%),HER2(2+)と診断され,術後タモキシフェンを施行した.
 術後2年5か月後に呼吸苦が出現し,多発骨転移,多発肺転移を認めた.胸骨生検を施行し,乳癌の転移と診断され,ER(0%),PgR(0%),HER2(2+)(FISH陰性)とERの陰転化を認めた.
 1カ月の経過で呼吸苦の増悪と腫瘍マーカーの著名な上昇,転移巣の急速な増悪を認めた.パクリタキセルとベバシズマブを開始し,腫瘍マーカーの低下と転移巣の縮小を得られた.化学療法開始8カ月現在も,PRを維持している.
 pT1a乳癌は再発を来すこともあることを念頭に,術後のフォローアップを行っていくべきである.

XC療法が8年間奏効したホルモン陽性HER2陰性転移再発乳癌の1例

三和病院乳腺外科

北野 綾 他

 症例は39歳女性。右乳癌cT2N1M0 StageⅡB、Luminal typeの診断で右乳房部分切除と腋窩郭清が施行された。術後診断はpT2N2M0 StageⅢAであった。術後補助療法としてAC、weekly PTX、右乳房照射の後にタモキシフェン内服とLH-RH agonist投与を開始した。術後4年に腫瘍マーカーが上昇し、CTで多発肝転移を認めた。XC療法の投与量に則り、capecitabine 4200mg/day(2週内服1週休薬)を開始し、1ヶ月後よりcyclophosphamide 100mg/dayを併用した。併用から1ヶ月後、手足症候群のためcapecitabineを3600mg/dayに減量し2週内服2週休薬とした。XC療法開始から3ヶ月後には腫瘍マーカーの値がほぼ基準値内となり、CTで肝転移は縮小した。その後も縮小を続け、XC療法開始4年後から4年間肝転移は著変なくlong SDとなっている。本症例は早い段階で適切な減量がされ、長期使用が可能となったことがlong SDに至った要因の1つと考える。

中心静脈ポートカテーテルが原因で発症した縦隔炎の1例

馬場記念病院外科

南浦 翔子 他

 症例は66歳,男性.Ra直腸癌(T4aN2M1c2・StageⅣc)に対して腹腔鏡下高位前方切除術を施行した.術後化学療法目的に皮下植え込み型中心静脈カテーテルポート(CVポート)造設した.FOLFOX+Pmab療法3クール施行後に発熱および両肩痛が出現し受診した.胸部CTにて縦隔周囲に脂肪識濃度の上昇を認め,またCVポート造設時に上大静脈に留置されていたカテーテル先端が左腕頭静脈まで脱落していたことからカテーテルによる縦隔炎と診断した.カテーテル抜去および保存的加療により症状の改善を認めた.CVポート造設には様々な合併症が散見され,気胸やカテーテル感染はよく知られているが,カテーテルが原因と考えられる縦隔炎の報告は稀である.今回我々はCVポートカテーテルが原因で発症した縦隔炎の稀な1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

食道癌術後の再建結腸壊死を契機に診断されたプロテインS欠乏症の1例

岩手県立中部病院外科

堀内 真 他

 症例は68歳男性で、定期検査として行った上部消化管内視鏡検査で食道癌と胃癌を指摘され、当時のガイドラインによる食道癌標準治療に従って術前化学療法後に根治術を行う方針とした。根治術として、胸腔鏡下食道切除術、胃全摘術、胸壁前経路結腸再建を施行した。術後第4病日、上部消化管内視鏡検査にて再建結腸壊死が明らかとなり、再建結腸抜去術と食道瘻造設術を施行した。術中所見にて、挙上した回結腸が全長に渡り壊死し、腸間膜血管内がほぼ全長に渡り血栓化していた。各種凝固能を精査したところプロテインS活性が33%であり、最終的に先天性プロテインS欠乏症の診断に至った。
 本症例は、術後に明らかとなったプロテインS欠乏症が関与したことにより再建結腸壊死を誘発したと考えられる。手術の際は、ある一定の割合で血栓性素因を合併していることを念頭に入れるべきと考えられた。

腹腔鏡下胃内手術を行った噴門形成術後の胃粘膜下腫瘍の1例

山形大学医学部第1外科

山賀 亮介 他

 症例は76歳の女性で,5年前に食道裂孔ヘルニアに対して当院で腹腔鏡下根治術と噴門形成術を施行した.その際,胃体上部前壁に胃粘膜下腫瘍を認めたが,腫瘍径が10mmにて経過観察となった.退院後は他院に定期通院していたが,腫瘍が増大したため当院へ紹介となった.腫瘍は5年間で10mmから30mmへ増大したため手術適応と判断した.前回手術の影響により,通常のLECSで腫瘍周囲を全層切除することは困難であると考え,胃内手術を選択した.腫瘍は噴門の機能を損なうことなく過不足なく切除が可能であった.術後は創部に感染を併発したが,第11病日に軽快退院し、術後6ヶ月無再発生存中である.胃内手術はLECSと比較し,手術手技による合併症の発生率が高く,創感染も多い傾向があるため手術操作に工夫が必要である.しかし,胃壁外からのアプローチが困難な場合に加え,種々の理由で胃壁の全層切除が困難な症例において,胃内手術は非常に有用な術式と考えられた.

腹腔鏡下に摘出した小網原発extragastrointestinal stromal tumorの2例

香川県済生会病院外科

清水 美雄 他

 症例1:75歳,女性.腹部超音波検査で胃腫瘍を指摘され紹介となる.上部消化管内視鏡検査では腫瘍を指摘できず,CT・超音波内視鏡検査で胃体中部小彎側後壁に30mm大の壁外発育型の腫瘍を認めた.超音波内視鏡下穿刺吸引法(endoscopic ultrasoundguided fine needle aspiration:EUS-FNA)を施行し,gastrointestinal stromal tumor(GIST)の疑いで腹腔鏡下摘出術を行う方針となった.術中所見では胃壁との連続性はなく,損傷なく摘出でき術後病理検査により,小網原発のGISTと診断した.症例2:73歳,男性.S状結腸癌術前精査のCTで偶発的に胃穹隆部後壁に壁外発育型の腫瘍を認めた.EUS-FNAを施行しGISTの診断となり,S状結腸癌と併せて一期的に切除の方針とした.症例1と同様に胃との連続性は認めず損傷なく完全摘出可能であった.腹腔鏡の拡大視効果による腫瘍の詳細な観察は,不必要な臓器切除を回避できる点で有用である.

Adachi分類で分類不能な血管走向破格を伴った胃癌の1例

JA鹿児島厚生連病院外科

米盛 圭一 他

 腹腔動脈の分岐様式を分類したAdachi分類に該当しない,まれな血管走向破格を有する早期胃癌症例に対して腹腔鏡手術を行った1例を経験したので報告する.症例は63歳,男性.検診の上部消化管内視鏡検査で胃角部小弯に0-Ⅱc病変を認め,生検で胃癌の診断となった.術前の造影CTおよび3D-CT angiographyで脾動脈と胃十二指腸動脈が上腸間膜動脈から分岐する血管走向破格を認めた.手術は腹腔鏡下幽門側胃切除術,D1+郭清を施行し,術中も造影CTと同様の血管走向を確認した.術前に十分な画像評価を行うことで,まれな血管走向破格を伴う症例でも安全に腹腔鏡手術が可能であった.

SOX+nivolumab療法により病理学的完全奏効が得られた胃癌の1例

国立病院機構九州医療センター消化管外科

上原 英雄 他

 症例は59歳、男性。心窩部痛と嘔気を自覚し、近医を受診した。上部消化管内視鏡検査にて胃角上部~前庭部小彎に2型病変を認め、胃癌と診断され当科紹介となった。腹部造影CT検査では胃小彎~噴門周囲、腹腔動脈周囲に高度リンパ節転移を認め、局所進行切除不能胃癌と判断しS-1+Oxaliplatin(SOX)+Nivolumab療法による全身化学療法を導入した。4コース施行後の造影CT検査で、原発巣・リンパ節転移ともに縮小を認めて切除可能と判断され、Conversion Surgeryを行う方針とした。開腹胃全摘術(D2郭清)を行い、切除標本の組織学的効果判定は、Grade3、病理学的完全奏効(pCR)であった。切除不能胃癌に対してSOX+Nivolumab療法が奏効しConversion Surgeryにより根治切除でき、pCRが明らかとなった症例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。

術後6カ月で多発肝転移をきたした胃早期胎児消化管類似癌の1例

聖マリア病院外科

廣方 玄太郎 他

 消化器癌において超早期再発は予後不良である.症例は73歳男性.胃体中部に0-Ⅱc型の早期胃癌を認め,幽門側胃切除施行.病理所見はtub2=tub1>por,T1b(SM2),Ly1b,V1b,N1,HER2陰性でpT1bN1M0 pStage ⅠBの診断で,術後補助化学療法は行わず外来で経過観察を行なっていたが,術後6ヶ月のCTで肝両葉に多発転移を認めた.病理組織診で,管状腺癌に混じって淡明な胞体を有しGlypican3,SALL4,AFPが一部陽性となる腺癌細胞が確認され,一般型腺癌の一部に胎児消化管類似癌が混在していた.胃原発胎児消化管類似癌は胎児の消化管粘膜に類似した組織形態を示す特殊型の腺癌であり,脈管侵襲が高度で予後不良である.本疾患は稀であり術前診断も困難なため,早期胃癌でも脈管侵襲やリンパ節転移を認める場合にはその存在を念頭におき詳細な病理組織学的検索が重要である.

胃癌に併存し小腸が腹膜嚢で被覆された腸回転異常症の1例

公立福生病院外科

鶴嶋 史哉 他

 【背景】
腸回転異常症は胎生期における腸管の回転または固定が停止することで発生する。固定されていない腸管が膜様の組織で被覆されている報告は過去に1例しかなく,本症例は2例目の報告である。
 【症例提示】
症例は75歳女性で上腹部痛を契機として胃癌が発見され手術適応と判断された。術前CTで腸回転異常症が指摘され,術中の開腹所見では腹膜様の嚢に包まれた小腸を認めた。この膜様組織は切開を加えて切除し病理検体として提出した。患者は術後問題なく退院し,外来で再発なく経過フォローされている。組織学的に小腸を覆っていた膜様組織は中皮細胞を認めていること,染色結果から腹膜として矛盾しない診断であった。
 【結語】
膜様組織で被覆された腸を認めた腸回転異常症の症例は過去に1例しか報告がない。本症例では組織学的診断を加えてこの組織が腹膜であるとの診断に至った。今後は更なる症例の報告によって発生要因の追求が必要である。

二次性抗リン脂質抗体症候群患者の空腸憩室穿通による腸間膜膿瘍の1例

北海道大学消化器外科Ⅰ

板倉 恒輝 他

 症例は78歳の女性.全身性エリテマトーデスと抗リン脂質抗体症候群(APS)で当院内科通院中に腹痛と下痢をきたし,精査の結果小腸腸間膜内穿通,腸間膜膿瘍と診断された.感染によるAPSの劇症化リスクが高まることから,緊急で開腹小腸部分切除,膿瘍切除を行った.病理所見では微小血栓や塞栓を認めず,小腸憩室穿通が原因と考えられた.術後は早期からヘパリンを開始し,凝固をモニタリングしながらワーファリンとシロスタゾールにスイッチし,血栓や出血の合併症なく術後14日目に内科へ転科となった.APS患者は血栓や出血のリスクが高く慎重な抗血栓療法を要するが,周術期の抗血栓療法は未だ確立していない.感染を伴い外科的治療を要する二次性APS患者において,APSの劇症化を防ぐために早期の手術決断と,モニタリングを行いながらの周術期の慎重な抗血栓療法が重要であると考えられた.

左季肋部腫瘤を契機に発見された後腹膜に進展した空腸平滑筋腫の1例

大阪公立大学大学院医学研究科消化器外科学

田中 章博 他

 症例は44歳,女性.5年前から左季肋部の腫瘤を自覚も放置していたが,半年前からの腫瘤の増大および左下腹部痛を自覚し,受診した.腹部造影CT検査にて腫瘍は腹腔内左側,膵臓の尾側,左腎の腹側に位置し膵臓は頭側に圧排されていたが,境界は明瞭であった.診断は未確定であったが,腫瘍が増大傾向で悪性腫瘍も否定できず,診断的摘出術を施行した.開腹所見では,腫瘍はTreitz靭帯からすぐの小腸粘膜下から発生し,間膜内さらに膵下縁の後腹膜内に進展していた.他臓器を損傷することなく,腫瘍および小腸部分切除を行った.再建は空腸を横行結腸背側で挙上し,十二指腸下降脚とOverlap吻合を行った.病理組織診断で管外発育型空腸平滑筋腫と診断した.術後経過は問題なく.術後14日目に軽快退院となった.腹腔内腫瘤はその鑑別に難渋し,術前の確定診断は困難で診断的摘出術を行うことも多い.さらに管外発育型空腸腫瘤は無症状で経過することが多いため,比較的大きな腫瘤として見つかることが多い.今回われわれは,左季肋部腫瘤を契機に発見された空腸巨大平滑筋腫を経験したので報告する.

腹腔鏡下に二期的手術を行った虫垂粘液癌の巻絡による絞扼性腸閉塞の1例

JA岐阜厚生連東濃厚生病院外科

田中 健太 他

 症例は69歳男性.腹痛と嘔吐を主訴に当院へ救急搬送された.腹部CT検査で終末回腸に絞扼性腸閉塞の所見を認め,腹腔鏡下に緊急手術を施行した.虫垂先端に嚢腫状腫瘤を認め,同部を先進部として虫垂が回腸に巻き付いて絞扼性腸閉塞を来していた.虫垂粘液産生腫瘍は組織型によって切除範囲が異なることや,吻合した場合の縫合不全のリスクを考慮し,病理組織学的検査の結果次第で追加切除を行う方針として虫垂切除と腸閉塞解除で手術終了とした.術後病理組織学的検査で粘液癌の診断となり,後日,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.虫垂腫瘍により虫垂が巻絡した絞扼性腸閉塞に対しては,二期的に手術を行う可能性を考慮して初回手術は腹腔鏡手術が有用であると考えられたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

腸閉塞を契機に診断されたappendiceal goblet cell adenocarcinomaの1例

大分県厚生連鶴見病院消化器外科

岳藤 良真 他

 症例は74歳,男性.下腹部痛と腹満感を主訴に受診し,CTで腹腔内膿瘍に起因する腸閉塞と診断された.虫垂構造は不明瞭であった.保存的治療で軽快したが,9ヶ月後に腸閉塞を再発した.膿瘍治癒後の癒着性腸閉塞の診断で,保存的加療を行うも改善に乏しく,手術を施行した.腹腔鏡下に虫垂とS状結腸間膜・回腸の癒着を認め,虫垂および回腸切除術を施行した.病理検査結果はWHO分類第4版における虫垂mixed adeno-neuroendocrine carcinoma(MANEC)の診断で,二期的に腹腔鏡下右半結腸切除術(D3)を施行し,最終診断はWHO分類第5版における虫垂goblet cell adenocarcinoma(GCA),T4bN1aM0 StageⅢbであった.術後46ヶ月無再発で経過し他病死した.虫垂GCAは2019年にWHO分類で新たに認識された疾患概念で稀な腫瘍で,今回,腹腔内膿瘍の治療9ヶ月後に再燃した腸閉塞を契機に診断された虫垂GCAを経験したので,文献的考察を加え報告する.

腹腔鏡下結腸右半切除術を行った交叉性融合腎を伴う横行結腸癌の1例

練馬総合病院外科

根本 亮 他

 症例は55歳の女性,2か月前より右側胸部痛を主訴に当院を受診した.Hb 5.0g/dLの高度貧血を認めたため精査が行われ,最終的に横行結腸癌(cT4aN2aM1a(H3) cStageⅣa)の診断に至った.両葉に多発する肝転移のため根治切除は困難と判断したが,貧血制御を目的に腹腔鏡下結腸右半切除術を行う方針とした.術前のCT検査で,左腎は右腎下方で右腎と癒合しており,交叉性融合腎と診断した.腎臓や主要脈管の解剖学的破格に留意して手術を計画する必要があり,十二指腸水平脚を指標とした後腹膜アプローチによる授動を先行する方針とした.小腸間膜根より順次剥離・授動を進め,良好な視野のもとに融合腎に由来する尿管を確実に視認し,後腹膜側に温存することが可能であった.術後経過は良好で,特記すべき合併症を認めることなく退院となった.交叉性融合腎を伴う症例に対する右側結腸癌手術は比較的稀な1例であり,自験例の手術所見に文献的考察を加えて報告する.

下行結腸穿通を契機に発見されたCrohn病関連大腸癌の1例

大阪公立大学大学院医学研究科消化器外科学

内藤 信裕 他

 Crohn病の消化管穿孔の頻度は約1.3%~4.0%と低く,消化管穿孔を契機にCrohn病関連大腸癌と診断された症例は極めて稀である.今回われわれは,Crohn病の消化管穿通を契機に発見されたCrohn病関連大腸癌の1例を経験したため報告する.症例は38歳,男性.12歳時に小腸大腸型Crohn病と診断され,以後免疫調整薬・抗TNFα抗体製剤投与で病状は安定していた.2022年,発熱および左側腹部痛を主訴に当院救急外来を受診した.血液検査で炎症反応の上昇を認め,腹部単純CTで下行結腸背側に軟部影および脂肪織濃度の上昇を認め,Crohn病増悪に伴う下行結腸穿通および膿瘍形成と診断した.保存的治療に改善後,腹腔鏡下下行結腸切除術を施行した.病理組織検査で粘液癌(pT3,Nx,H0,P0,M0)と診断し,下行結腸穿通の原因はCrohn病関連大腸癌によるものと考えられた.術後は補助化学療法を施行後13カ月経過した現在,再発を認めていない.

腹腔鏡下肝切除を行った肝型糖原病合併肝細胞癌の1例

佐賀大学医学部一般・消化器外科

由比 元顕 他

 68歳,女性.59歳時に肝型糖原病と診断され,補食による栄養療法を開始した.持続する肝障害の精査で肝S8(23mm大)およびS3(10mm大)に肝細胞癌を認め,治療目的に当科へ紹介となった.S8病変の局在は肝表であったが,S3病変は肝深部に存在し,かつS3 Glisson根部に近接していた.手術侵襲が糖原病の乳酸アシドーシス発症のリスク因子となることを考慮し,S8病変に対しては腹腔鏡下部分切除術を,S3病変に対しては同時にラジオ波焼灼術を施行した.周術期管理にあたっては,糖原病特有の合併症である低血糖および乳酸アシドーシスを予防すべく,綿密な血糖チェックと補食量の調整を行った.用意周到な周術期管理が奏効し,有害事象なく術後13日目に自宅退院した.糖原病患者においては,より低侵襲な術式選択と周術期の血糖および乳酸値の管理を可能にする計画的な周術期治療戦略が重要である.

筋膜閉鎖後に筋間に発症したポートサイトヘルニアの1例

愛知厚生連渥美病院外科

真田 祥太朗 他

 症例は87歳,女性.肝転移を伴うS状結腸癌に対して腹腔鏡下高位前方切除術,D2郭清を施行した.術後6日目夜間,腹痛・嘔吐を認めたが鎮痛剤で経過をみていた.翌朝右下腹部中心に圧痛を伴う腫瘤を認め,腹部CT検査でポートサイトヘルニア嵌頓と診断し緊急手術を行った.臍部創を尾側へ延長し腹腔内を確認すると12mmポート部から小腸がはまり込んでいた.ポート創を切開すると外腹斜筋腱膜は縫合閉鎖されており,その筋膜下に嵌頓した小腸を認めた.内外腹斜筋間にヘルニア腔があり右季肋下まで広がっていた.腸管壊死が疑われたため絞扼小腸を部分切除し腹膜・腹横筋と外腹斜筋腱膜をそれぞれ閉鎖し,ヘルニア腔にドレーンを留置し終了した.近年,腹腔鏡手術の普及に伴い多数のポートサイトヘルニアが報告されているが,筋膜閉鎖後の筋間に脱出した報告は少ない.ポートサイトヘルニアは筋膜を閉鎖しても生じることがあり,腹膜も含めた全層縫合閉鎖を行うことが重要であると思われた.

TAPP法で修復した精索脂肪腫合併鼠径部interparietal herniaの1例

島田市立総合医療センター外科

林 久志 他

 症例は84歳,男性.右鼠径部膨隆を主訴に当院を受診した.術前CTで右内鼠径ヘルニアと診断し,腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)を施行した.手術所見では右内鼠径ヘルニアを認めたが,それとは別に内鼠径輪から鼠径管とは異なる方向に進展するヘルニア門も認めた.腹膜前腔を剥離すると内腹斜筋が裂けたようなヘルニア門が存在し,外腹斜筋と内腹斜筋との間にヘルニア嚢が先進していたため,interstitial typeのinterparietal herniaと診断した.また,精索脂肪腫も合併していたため,精索脂肪腫を摘出後に腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術を行った.自験例は内鼠径ヘルニアと精索脂肪腫,interparietal herniaを合併しており,精索脂肪腫により鼠径管が閉塞し,interparietal herniaを発症した可能性が考えられた.診断と治療の点でTAPP法が有用であった.

腹腔鏡手術を行った50歳の停留精巣合併鼠径ヘルニアの1例

辻仲病院柏の葉大腸肛門外科

中山 洋 他

 症例は50歳の男性で、数日前から出現した右鼠径部の膨隆と強い疼痛のため、2021年12月に受診された。CT所見からは鼠径ヘルニアの診断は確定しなかったが、患者の強い希望もあり、transabdominal preperitoneal repair(以下、TAPP)の予定で手術を施行したところ、右停留睾丸と鼠径ヘルニアJapan Hernia Society(以下、JHS)分類L1型を認めた。泌尿器科医師にコンサルトし、後日泌尿器科と合同で手術する方針とした。2022年5月に腹腔鏡下停留睾丸摘出術とTAPPを施行した。術後経過は良好で、術後2日目に退院となった。成人鼠径ヘルニアに停留精巣が合併する症例は本邦ではまれであり、文献的考察を加え報告する。

右鼠径部ヘルニアへのTAPP法を対側に延長し修復した左閉鎖孔ヘルニアの1例

JCHO滋賀病院外科

油木 純一 他

 症例は76歳,女性.右鼠径および大腿ヘルニアに対して腹腔鏡下にTAPP法で手術を施行した.手術中に反対側(左)に不顕性閉鎖孔ヘルニアを認めた.患側(右)鼠径部の腹膜剥離を反対側へ延長する「対側アプローチ」で不顕性閉鎖孔ヘルニアをメッシュで修復した.反対側(左)は過去の鼠径ヘルニア手術でメッシュプラグ法により修復されていたが,手術中に大きな合併症なく手術を完遂した.手術後,右鼠径部の症状は消失し大きな合併症は認めていない.腹腔鏡手術が普及するなか,偶発的に閉鎖孔ヘルニアを発見することがある.腸閉塞のリスクを考慮して修復する際,対側アプローチは治療の選択肢になり得ると考えられた.

右側臥位の2チームアプローチで切除した臀部から骨盤に進展した腫瘍の1例

大阪国際がんセンターがん医療創生部

三吉 範克 他

 腹腔鏡下手術によって狭小なワーキングスペースにおいても拡大視野効果の下,精緻な手術が可能となる.今回左骨盤側方領域の腫瘍に対して,右側臥位で腹腔鏡下に骨盤側方領域を展開しながら直視下との2チームアプローチで切除し得た1例を報告する.症例は54歳,女性,左臀部から坐骨切痕を通り骨盤内に広がる脂肪系腫瘍に対して手術を施行した.全身麻酔下に右側臥位をとり,腹腔鏡下アプローチとして臍部および左側腹部,左下腹部の3ポートで手術を開始した.同時に患者背側からアプローチし,直視下に腫瘍直上から左大臀筋線維に沿って皮切後,筋線維を分けながら腫瘍被膜まで到達した.最深部の坐骨切痕部まで剥離を全周性に拡大し,腹腔鏡下に剥離した腫瘍深部と連続させて切除を完遂した.術後排便および排尿機能の低下なく第10病日で退院となった.左骨盤部腫瘍に対する右側臥位による腹腔鏡と直視下の2チームアプローチは有用であると考えられた.

乳癌術後化学療法中に発症した横紋筋融解症の1例

けいゆう病院外科

麻賀 創太 他

 横紋筋融解症は骨格筋の融解、壊死により、筋体成分が血中へ流出する病態であり、流出した大量のミオグロビンによる尿細管障害によって、急性腎不全を併発し、致命的となることがある。症例は50歳女性、右乳癌に対する初回術後化学療法を実施後3日目より前胸部痛が出現し、6日目に呼吸苦も出現したため、救急受診した。来院時の血液検査で血清クレアチンキナーゼ異常高値とCTで外腹斜筋並びに腹直筋の浮腫性変化を認め、横紋筋融解症と診断し、同日緊急入院となった。入院後、輸液療法を開始したが、経過中に低ナトリウム血症を発症したため、その後は電解質補正と輸液量の調整を図りながら治療を継続し、腎機能障害を発症することなく入院後27病日で軽快退院となった。本症例の横紋筋融解症は、術後化学療法もしくはその支持療法に関連して発症したと考えられることから、文献的考察を加えて報告する。

ページトップ