日本臨床外科学会雑誌 第87巻4号 和文抄録

綜説

腹壁ヘルニアの治療と最近の動向

済生会松阪総合病院外科

田中 穣

 腹壁ヘルニアを,腹壁瘢痕ヘルニアと原発性ヘルニアである臍ヘルニア・白線ヘルニアに分けて解説する.診断には問診・身体所見に加え,CTが治療法の決定手段として重要である.手術は開腹手術と腹腔鏡下手術に大別されるが,腹腔鏡下手術が増加傾向である.メッシュ修復が再発率低減に有効で,メッシュ留置部位はretromuscularが推奨されている.近年はeTEP法やMILOS法などの新しい低侵襲手術が導入され,疼痛や術後合併症の軽減が期待されている.術後合併症には予防を含めた周術期の治療戦略が重要であり,症例に応じた適切な術式選択や合併症対策が求められる.臍ヘルニア・白線ヘルニアでは無症状例には経過観察が推奨されるが,症候性ヘルニアや嵌頓リスクが高い場合には手術が検討されるべきで,腹直筋離開を伴う場合はSCOLA法など新しい腹腔鏡下手術も選択肢となる.患者背景や病変に応じた適切な術式選択,手術手技と周術期管理が必要である.

症例

乳腺線維腫症様化生癌の1例

大田市立病院外科

藪田 愛 他

 症例は61歳,女性.右乳房の腫瘤と乳頭分泌を主訴に来院した.マンモグラフィでは両側ともカテゴリー1で,超音波検査では右乳房9時方向に20mm大の混合性腫瘤を認めた.乳腺造影MRIでは右乳腺CD境界に14×19×18mmのring enhancementを伴う辺縁不整な腫瘤を認めた.針生検ではmetaplastic carcinoma with squamous cell component(luminal type)であった.cT1cN0M0 stageⅠAと診断し,乳房部分切除+センチネルリンパ節生検術を施行した.術後病理ではpT2N0M0 stageⅡAであり,mixedmetaplastic carcinoma(apocrine癌や浸潤性乳管癌を伴う扁平上皮癌(40%)+乳腺線維腫症様化生癌(fibromatosis-like metaplastic carcinoma:以下FLMCa)(60%))の混在と診断した.
 FLMCaは低悪性度の紡錘細胞癌に相当する組織型で,疾患概念が新しく,術後補助療法についての有用性が明らかではない.適切な診断・治療のためには,今後さらなる疾患概念の理解や慎重な経過観察が必要であると考えられた.

自動縫合器の補強材の接触が原因と考えられた術後肺瘻の1例

南長野医療センター篠ノ井総合病院呼吸器外科

藏井 誠

 症例は33歳,男性.右胸痛と労作時呼吸困難を主訴に,当院を受診した.胸部X線にて右気胸を認め,保存的治療で改善せず,手術を施行した.胸腔鏡下に右上葉に多発する肺嚢胞と右中葉葉間縁に肺嚢胞を認め,それぞれ補強材付きの自動縫合器で切除した.右上葉切離部にポリグリコール酸(PGA)シートを被覆した.術直後は気瘻を認めなかったが,数時間後にわずかな気瘻が出現し,数日後,気瘻が止まらないため再手術を行った.Water sealing testで,右下葉の葉間面から気瘻を認め,同部位に肺損傷を認めた.ちょうど右中葉切離線の自動縫合器の補強材が接触する位置であり,その接触が原因と考えられた.

再発食道癌や同時性多発肺癌との鑑別に苦慮した肺門部肺扁平上皮癌の1例

国立病院機構山口宇部医療センター呼吸器外科

森 俊介 他

 症例は82歳,男性.食道癌に対し前医で内視鏡的粘膜下層剥離術を施行された.1年後の胸部CTで左肺門部に3.2cm大の充実型腫瘤を,さらに左肺S6に1.2cm大の充実型結節を認めて当院に紹介となった.気管支鏡下針生検で肺門部腫瘤は扁平上皮癌の診断に至るも,再発食道癌と原発性肺癌との鑑別が困難であり手術を施行した.S6病変に対し胸腔鏡下左下葉部分切除を施行し,術中迅速組織診で扁平上皮癌との診断であった.また,肺門部腫瘤は肺内病変であった.食道癌の進行度と臨床所見を考慮し,肺門部肺扁平上皮癌の可能性が高いと考えて左下葉切除を施行した.最終診断は左下葉肺扁平上皮癌pT3(pm1)N1M0,StageⅢA.肺扁平上皮癌と食道癌の肺転移とは鑑別に苦慮することがある.オリゴ転移であれば外科的切除で予後改善が期待できるため,転移が鑑別に挙がる状況でも,耐術能や侵襲度を加味し外科的切除は十分に検討されるべきである.

腹直筋弁による横隔膜再建を要した胃全摘術後食道裂孔ヘルニアの1例

恵佑会札幌病院消化器外科

北山 陽介 他

 症例は62歳,男性.8年前に食道浸潤を伴う噴門部胃癌に対し,胃全摘術および下部食道切除術,Roux-en-Y再建,胸腔内食道空腸吻合を施行した.手術時に左横隔膜脚への腫瘍浸潤を認め,左横隔膜脚の合併切除を行っている.今回,突然の上腹部痛を主訴に救急搬送され,食道裂孔ヘルニア嵌頓の診断となり,同日緊急手術を施行した.開腹時,左横隔膜は肋骨付着部にわずかに認めるのみで,食道裂孔左側は開大しており,腹腔内臓器が胸腔側に脱出していた.小腸の一部が嵌頓しており,同部の整復を行ったが,食道裂孔ヘルニアの修復および横隔膜再建は二期的手術で行うこととした.術後12日目に腹直筋弁を用いた横隔膜再建術を施行し,術後経過は良好で退院となった.術後14カ月現在,再発を認めていない.胃全摘術後に発症した食道裂孔ヘルニアに対して,腹直筋弁による横隔膜再建術を施行し良好な結果を得たので,若干の文献的考察を交えて報告する.

パンクレリパーゼが著効した胃癌術後6年半の低栄養の1例

日赤愛知医療センター名古屋第一病院一般消化器外科

山川 ありさ 他

 症例は67歳,男性.6年半前に胃癌に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術,Roux-en-Y再建の既往があり,体動困難となり救急搬送された.来院時BMI 14.3kg/m2(体重40kg)とるい瘦,両下腿浮腫,胸水・腹水を認めた.Alb 1.3g/dL,PNI 18.5と低栄養を認め,精査加療目的に入院した.中心静脈栄養を中心とした栄養介入を行ったが改善せず,胃切除後の二次性膵外分泌機能不全による栄養吸収障害の可能性を考え,膵酵素補充療法としてパンクレリパーゼの投与を開始した.投与開始から1カ月でAlb 2.2g/dL,PNI 34.7に上昇し自宅退院した.投与開始から3カ月で体重は47.2kgまで増加し,1年でAlb 4.1g/dL,PNI 51.3まで上昇した.胃癌術後の低栄養に対して栄養指導や栄養剤補充で改善しない場合,二次性膵外分泌機能不全を念頭に置く必要があり,パンクレリパーゼの投与が有用である可能性がある.

ニボルマブが奏効しconversion手術を行ったAFP産生局所進行胃癌の1例

国東市民病院外科

甲斐 伊織 他

 症例は73歳の男性で,食思不振と倦怠感を主訴に,かかりつけ医を受診したところ腹部腫瘤と貧血を認め,当院へ紹介となった.CTでは胃の壁肥厚と#8リンパ節の高度腫大を認め,上部消化管内視鏡では胃体部小彎側を中心とする2型病変を認めた.血液検査ではCEA・CA19-9の上昇に加えてAFPが高値だったため,AFP産生胃癌と診断した.総肝動脈や膵頭部に浸潤が疑われた25mm大の#8リンパ節の根治的な郭清は困難と判断して,CapeOX療法とニボルマブを組み合わせて化学療法を6カ月間行った結果,胃原発巣と腫大したリンパ節は著明に縮小し,conversion surgeryの方針とした.手術は開腹下幽門側胃切除術を行った.術後12カ月経過した現在も無再発生存中である.

十二指腸憩室内で形成され落下した真性腸石による腸閉塞の1例

関東中央病院外科

小林 朋近 他

 症例は82歳,男性.腸閉塞症を発症して他院に救急搬送となり,誤嚥性肺炎から敗血症性ショックを併発した.集中治療を経て,腸閉塞発症4週後に精査加療目的で当院に転院搬送された.転院後の造影CTで,小腸内の含気を有する構造物が閉塞起点となっており,異物による腸閉塞と診断した.造影CTとイレウス管造影の所見から,経腸栄養経路としてイレウス管を使用することが可能であると判断した.経管栄養による全身状態の改善後に,腹腔鏡下小腸部分切除術と腸瘻造設術を施行した.6.0×5.0×3.5cm大の黄色調の腸石を摘出した.後方視的にCTを比較検討すると,十二指腸憩室内の結石が腸閉塞発症時には消失していることから,十二指腸憩室内で形成された結石の落下が腸閉塞の原因と考えられた.術後約2カ月で経口摂取可能となり,退院となった.十二指腸憩室で形成され落下した真性腸石による腸閉塞の報告は極めて稀である.文献的考察を加えて報告する.

脳室腹腔シャント留置中にロボット支援回盲部切除を行った上行結腸癌の1例

彩の国東大宮メディカルセンター外科

岡本 知実 他

 患者は78歳,男性.血液検査所見で貧血を認め,精査で上行結腸癌と診断された.くも膜下出血による続発性水頭症に対し,脳室腹腔シャントが留置されていた.脳外科と協議した上で脳室腹腔シャントを留置したまま手術を予定した.体位は頭低位5°,左低位5°で,ポート配置は逆L字型とした.気腹は8mmHgと通常より低圧とし,D3郭清を伴うロボット支援回盲部切除を施行した.術中脳室腹腔シャントは体外に誘導し,手術操作に支障はなかった.腸管の切離,吻合は小開腹下に体外で行った.術後経過は良好で合併症なく退院した.VPS留置例でのロボット支援大腸切除の本邦での報告はなく,ロボット支援右結腸切除術はVPS留置例に適した術式の可能性があり,今後の症例の蓄積と検討が必要と考える.

肝切除で判明したNDM-1産生大腸菌を保菌した多発肝内結石症の1例

大和高田市立病院外科

原 知里 他

 New Delhi metallo-β-lactamase-1(以下,NDM-1と略記)は2009年に発見された酵素で,カルバペネム系を含む多くの抗菌薬に耐性をもたらす.NDM-1は日和見感染菌に限らず,大腸菌や肺炎桿菌などの強毒菌にも発現することが問題である.NDM-1産生菌はインド周辺地域で蔓延し,同地域への旅行者からも検出されており,公衆衛生上の大きな問題となっている.本邦では2009年にインドからの帰国者から初めて検出された.われわれは,多発肝内結石を有する在日ネパール人患者に肝左葉切除術を施行し,術後に難治性の腹腔内膿瘍を併発した症例を経験した.本症例は胆汁中にNDM-1産生大腸菌を保菌しており,腹腔内膿瘍の起因菌となっていた.NDM-1産生大腸菌は多剤耐性を有しており,ドレナージと洗浄を中心に加療を行い,約2カ月で治癒を得た.稀なNDM-1産生大腸菌を保菌した症例の周術期管理を経験したので報告する.

膵全摘後の腹腔内臓器頭側移動により顕在化した正中弓状靭帯症候群の1例

筑波大学消化器外科

幸寺 巴香 他

 症例は52歳,男性.腹痛を主訴に前医を受診し,膵炎の診断で保存的加療をした.約1カ月後,再増悪したため精査目的に当院へ紹介された.精査の結果,浸潤性膵管癌が原因の膵炎と診断され,術前化学療法施行後に手術の方針となった.広範囲膵癌に対して膵全摘を施行した帰室直後から肝障害が進行し,緊急造影CTにて腹腔動脈起始部の狭窄による肝虚血と胃壁造影不良を認めた.手術操作に伴う腹腔内臓器の頭側偏位が,腹腔動脈起始部狭窄(celiac axis stenosis:CAS)と正中弓状靱帯症候群(median arcuateligament syndrome:MALS)の顕在化に寄与し,虚血性臓器障害を起こしていると判断した.緊急で大伏在静脈をグラフトにした大動脈-肝動脈バイパスを施行し,以後血流は改善し術後29日目に退院となった.本症例では術前に無症候性のMALSが存在しており,術前に留意していなかったことが反省点であり,術中の血流評価をより慎重に行うべきであった.以上の症例に対して,考察を加えて報告する.

術前鑑別診断に難渋した腹膜封入嚢胞内発生の播種性腹膜平滑筋腫症の1例

藤沢市民病院消化器外科

験馬 悠介 他

 症例は58歳,女性.近医で撮像したCTにて偶発的に骨盤内嚢胞性病変を認めたため,当院へ紹介された.CT所見から,病変は回結腸動静脈を栄養血管とする腸間膜原発腫瘍と考えられ,MRIでは嚢胞内に複数の結節を認めた.以上から,腸管膜を原発とする嚢胞性の悪性腫瘍を念頭に置き,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.術後の病理組織学的所見では,結節部分のH.E.染色で紡錘形細胞の増殖がみられ,免疫染色では複数の筋系マーカーが陽性となったことから,平滑筋への分化を疑った.また,嚢胞は免疫染色の結果,腹膜由来と考えられた.最終的に,腹膜封入嚢胞内に発生した播種性腹膜平滑筋腫症(disseminated peritoneal leiomyomatosis,以下DPL)と診断した.DPLは術前診断が極めて難しい疾患であり,成熟期女性の腹腔内臓器に平滑筋腫が多発することが特徴である.腹腔内嚢胞性病変の鑑別疾患の一つとしてDPLを挙げて診療を行うことで,腫瘍の取り残し防止に寄与する可能性がある.

鼠径部膨隆で発見され高分化型脂肪肉腫と鑑別を要した後腹膜脂肪腫の1例

深谷赤十字病院外科

守安 諒 他

 症例は52歳,女性.左鼠径部膨隆を主訴に,鼠径ヘルニアとして前医から紹介された.無痛性の鶏卵大膨隆を認めたが,用手還納はできなかった.CTで後腹膜腔から鼠径管内へ進展する脂肪性腫瘍を認め,待機的に開腹手術を行った.手術所見で下行結腸背側に被膜を伴う弾性軟の腫瘍を認め,腹腔側および鼠径部側のアプローチを併用して腫瘍を一括切除し,開大した内鼠径輪はiliopubic tract repair法で修復した.腫瘍の大きさは35×30×6cm,重量は3,550gであり,病理組織学的に主成分は成熟脂肪細胞で,一部に紡錘形細胞を認めた.免疫染色はCDK4,Rb1は陰性であり,MDM2は弱陽性であったが,FISH法では増幅がなく,総合的に紡錘形細胞の混在する脂肪腫と診断した.後腹膜原発の脂肪腫が鼠径管内へ進展し,30cmを超えることはまれであり,局所再発のリスクも否定できず,慎重な経過観察が必要である.

ページトップ