臨床研究の利益相反に関する指針

令和元年12月

序文

 日本臨床外科学会は,臨床外科学及び外科医療の進歩発展を図ることを目的とし,併せて会員相互の親睦を図り,関連学会との連携を行うことを目的としている.

 日本臨床外科学会の学術集会・機関誌などで発表される研究においては,患者を対象とした治療法の標準化のための臨床研究や,新規の医薬品・医療機器・技術を用いた臨床研究も多く,産学連携による研究・開発が行われる場合が少なくない.それらの成果は臨床の現場に還元されることから,産学連携による臨床研究の必要性と重要性は日ごとに高まるばかりである.産学連携による臨床研究には,学術的・倫理的責任を果たすことによって得られる成果の社会への還元(公的利益)だけではなく,産学連携に伴い取得する金銭・地位・利権など(私的利益)が発生する場合がある.これら2つの異なった利益が研究者個人の中に生じる状態を利益相反(conflict of interest:COI)と呼ぶ.今日における人の複雑な社会的活動から,利益相反状態が生じることは避けられないものであり,特定の活動に関しては法的規制がかけられている.

 しかし,法的規制の枠外にある行為にも,利益相反状態が発生する可能性がある.そして,利益相反状態が深刻な場合は,研究の方法,データの解析,結果の解釈が歪められるおそれが生じる.また適切な研究成果であるにもかかわらず,公正な評価がなされないことも起こるであろう.欧米では,多くの学会が産学連携による臨床研究の適正な推進や,学会発表での公明性を確保するために,臨床研究にかかる利益相反指針を策定している.外科系疾患の予防・診断・治療法に関する研究・開発活動は近年,積極的に展開されており,本邦における利益相反指針の策定は急務とされている.日本臨床外科学会の事業実施においても会員に対して利益相反に関する指針を明確に示し,産学連携による重要な研究・開発の公正さを確保した上で,臨床研究を積極的に推進することが重要である.

Ⅰ.指針策定の目的

 すでに,「ヘルシンキ宣言」や,本邦で定められた「臨床研究に関する倫理指針」(厚生労働省告示第225号,2003年)および「疫学研究に関する倫理指針」(文部科学省・厚生労働省,2007年)において述べられているが,臨床研究は,他の学術分野の研究と大きく異なり,研究対象が人間であることから,被験者の人権・生命を守り,安全に実施することに格別な配慮が求められる.

 日本臨床外科学会では,その活動において社会的責任と高度な倫理性が要求されていることに鑑み,「臨床研究の利益相反に関する指針」(以下「本指針」という.)を策定する.その目的は,日本臨床外科学会が会員の利益相反状態を適切にマネージメントすることにより,研究結果の発表やそれらの普及,啓発を,中立性と公明性を維持した状態で適正に推進させ,外科系疾患の予防・診断・治療の進歩に貢献することにより社会的責務を果たすことにある.

 本指針の核心は,日本臨床外科学会会員に対して利益相反についての基本的な考えを示し,日本臨床外科学会が行う事業に参加し発表する場合,利益相反状態を適切に自己申告によって開示させることにある.日本臨床外科学会会員が,以下に定める本指針を遵守することを求める.

 

Ⅱ.対象者

本指針を遵守すべき対象者は,Ⅲの該当する活動をする以下の者とする

  1. ①日本臨床外科学会会員
  2. ②日本臨床外科学会事務局の職員
  3. ③日本臨床外科学会の学術集会および機関誌等で発表する者
 

Ⅲ.対象となる活動

 日本臨床外科学会が関わるすべての事業における活動に対して,本指針を適用する.特に,日本臨床外科学会の学術集会,セミナーなどでの発表,および日本臨床外科学会の機関誌での論文発表を行う研究者には,その予防・診断・治療に関する臨床研究のすべてに,本指針が遵守されていることが求められる.日本臨床外科学会会員に対して教育的講演を行う場合や,市民に対して公開講座などを行う場合は,社会的影響力が強いことから,その演者には特段の本指針遵守が求められる.

 

Ⅳ.開示・公開すべき事項

 対象者は,自身における以下の①~⑦の事項で,別に定める基準を超える場合には,利益相反の状況を所定の様式に従い,自己申告によって,正確な状況を日本臨床外科学会に対して開示する義務を負うものとする.また,対象者は,その配偶者,一親等以内の親族,または収入・財産を共有するものにおける以下の①~③の事項で,別に定める基準を超える場合には,その正確な状況を日本臨床外科学会に申告する義務を負うものとする.なお,自己申告および申告された内容については,申告者本人が責任を持つものとする.具体的な開示・公開方法は,対象活動に応じて別に補則に定める.

  1. ①企業や営利を目的とした団体の役員,顧問職
  2. ②株の保有
  3. ③企業や営利を目的とした団体からの特許権使用料
  4. ④企業や営利を目的とした団体から,会議の出席(発表)に対し,研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料,司会料,助言など)
  5. ⑤企業や営利を目的とした団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料
  6. ⑥企業や営利を目的とした団体が提供する研究費
  7. ⑦その他の報酬(研究とは直接無関係な報酬や,旅行,贈答品など)
 

Ⅴ.利益相反状態の回避

1 )すべての対象者が回避すべきこと
 臨床研究の結果の公表は,純粋に科学的な判断,あるいは公共の利益に基づいて行われるべきである.日本臨床外科学会会員は,臨床研究の結果を学術集会・機関誌などで発表する,あるいは発表しないという決定や,臨床研究の結果とその解釈といった本質的な発表内容について,その臨床研究の資金提供者・企業の恣意的な意図に影響されてはならず,また影響を避けられないような契約を締結してはならない.

 

2 )臨床研究の試験責任者が回避すべきこと
 臨床研究(臨床試験,治験を含む)の計画・実施に決定権を持つ試験責任者(多施設臨床研究における各施設の責任医師は該当しない)は,次の利益相反状態にないものが選出されるべきであり,また選出後もこれらの利益相反状態となることを回避すべきである.

  1. ①臨床研究を依頼する企業の株の保有
  2. ②臨床研究の結果から得られる製品・技術の特許料・特許権の獲得ができること
  3. ③臨床研究を依頼する企業や営利を目的とした団体の役員,理事,顧問(無償の科学的な顧問は除く)

 ただし,①~③に該当する研究者であっても,当該臨床研究を計画・実行する上で必要不可欠の人材であり,かつ当該臨床研究が国際的にも極めて重要な意義をもつような場合には,当該臨床研究の試験責任医師に就任することは可能とする.

 

Ⅵ.実施方法

1 )会員の役割
 会員は臨床研究成果を学術集会および機関誌などで発表する場合,当該研究実施に関わる利益相反状態を適切に開示する義務を負うものとする.開示については補則にしたがい所定の書式にて行なう.会員は,開示後,本指針に反する事態が判明した場合,若しくはこれが生じた場合には,利益相反委員会に申告しなければならない.利益相反委員会は調査し,幹事会に上申する.

 

2 )役員などの役割
 日本臨床外科学会の役員(学会会長・副会長・常任幹事・幹事・監事)ならびに学術集会の会長と準備委員長・次期会長,編集委員会,学術委員会,保険診療委員会,広報委員会,支部委員会,財務委員会,役員等選考委員会,国内外科研修委員会および利益相反委員会の委員(以下「役員など」という.)は日本臨床外科学会に関わるすべての事業活動に対して重要な役割と責務を担っており,当該事業に関わる利益相反状況については,就任した時点で所定の書式にしたがい自己申告義務を負い,以後任期中は,補則にしたがいこれを更新するものとする.

 

3 )改善措置・差止めなど

  1. ア 常任幹事会は,役員などに臨床外科学会のすべての事業を遂行する上で,利益相反状態が生じた場合,あるいは利益相反の自己申告が不適切と認めた場合,利益相反委員会に諮問し,答申に基づいて改善措置・差止めなどを指示することができる.なおこれらの指示をした場合には,幹事会に報告する.
  2. イ 学術集会の会長は日本臨床外科学会の学術集会で臨床研究成果が発表される場合,その実施が,本指針に沿ったものであることを検証し,本指針に反する演題については発表を差し止めることができ,当該発表後に本指針に反していたことが明らかになった場合は,当該発表成果物の削除及びその由の公表の双方または一方ができる.これらの場合には,速やかに発表予定者並びに利益相反委員会に理由を付してその旨を通知する.なお,これらの対処については,利益相反委員会で審議し,審議結果を幹事会に報告する.
  3. ウ 編集委員会は,臨床研究成果が日本臨床外科学会機関誌などで発表される場合に,その実施が,本指針に沿ったものであることを検証し,本指針に反する場合には掲載を差し止めることができ,当該論文の掲載後に本指針に反していたことが明らかになった場合は,当該刊行物などに編集委員長名でその由を公表することができる.これらの場合には,速やかに発表予定者並びに利益相反委員会に理由を付してその旨を通知する.なお,これらの対処については,利益相反委員会で審議し,審議結果を幹事会に報告する.
  4. エ アイウ以外の場合において,会員に本指針に違反する状態が生じたときは,利益相反委員会で審議し,審議結果を幹事会に報告する.
  5. オ その他の委員会の委員は,それぞれが関与する学会事業に関して,その実施が,本指針に沿ったものであることを検証し,本指針に反する事態を認めたときは,これを利益相反委員会に報告する.利益相反委員会は必要に応じて審議し,その結果を幹事会に報告する.
 

4 )不服の申立
 前項により改善措置や差止めの指示を受けた者は,日本臨床外科学会に対し,不服申立をすることができる.日本臨床外科学会はこれを受理した場合,速やかに利益相反委員会において審議し,その結果を幹事会に報告する.さらにその結果は不服申立者に通知する.

 

Ⅶ.指針違反者への措置と説明責任

1 )指針違反者への措置
 日本臨床外科学会幹事会は,別に定める規則により本指針に違反する行為に関して審議する権限を有し,審議の結果,重大な遵守不履行に該当すると判断した場合には,その遵守不履行の程度に応じて一定期間,次の措置を取ることができる.

  1. ①日本臨床外科学会が主催するすべての集会での発表禁止
  2. ②日本臨床外科学会の刊行物への論文掲載の禁止
  3. ③日本臨床外科学会の学術集会の会長・準備委員長・次期学術集会会長就任の禁止
  4. ④日本臨床外科学会の常任幹事会,幹事会,各委員会への出席の禁止
  5. ⑤日本臨床外科学会の評議員の除名,あるいは評議員になることの禁止
  6. ⑥日本臨床外科学会会員の除名,あるいは会員になることの禁止
 

2 )不服の申立
 被措置者は,日本臨床外科学会に対し,不服申立をすることができる.日本臨床外科学会がこれを受理したときは,利益相反委員会において誠実に再調査を行い,幹事会の審議を経て,その結果を被措置者に通知する.

 

3 )説明責任
 日本臨床外科学会は,自ら関与する場にて発表された臨床研究に,本指針の遵守に重大な違反があると判断した場合,利益相反委員会および幹事会の審議を経て,違反の事実を公表するなどして社会への説明責任を果たす.

 

Ⅷ.補則の制定

 日本臨床外科学会は,学会の独自性,特殊性を勘案して,本指針を実際に運用するために必要な補則を制定することができる.

 

Ⅸ.改正方法

 本指針は,社会的影響や産学連携に関する法令の改変などから,一部変更が必要となることが予想される.日本臨床外科学会利益相反委員会は,幹事会の決議を経て,本指針を改正することができる.

 

Ⅹ.日本外科学会の指針との関連

 本指針は,日本外科学会の承認のもと,同学会が策定した「外科臨床研究の利益相反に関する指針」を参考に,本会に即して一部を改訂して作成した.

 

附則

1 )本指針は平成28年(2016年)4月1日より試行する.ただし, 2年間は試行期間としてⅦ章の措置は実施せず,平成30年(2018年)4月1日から完全実施する.

 

2 )本指針は令和2年(2020年)1月1日より改正する.

日本臨床外科学会臨床研究の利益相反に関する指針 Q&A

 

Ⅰ)指針策定の目的に関するQ&A

Q1
 利益相反の管理は本来,研究者が所属する施設で行うものと理解していましたが,日本臨床外科学会が管理する利益相反とはどのようなことを意味するのですか?(本指針Ⅰ~Ⅲに関連)

A1
 日本臨床外科学会会員の多くは所属施設で臨床研究を実施し,得られた成果を日本臨床外科学会学術集会や機関誌で発表します.研究の実施と発表という2 つのステップのそれぞれにおいて,所属施設だけでなく,発表の場である学術集会や機関誌にも利益相反を開示することが求められると考えてください.
 所属施設に対しては,当該臨床研究に携わる研究者全員が実施計画書と同時に利益相反自己申告書を施設長へ提出し,当該施設において利益相反マネージメントを受けることが勧められております(文部科学省・臨床研究の倫理と利益相反に関する検討班「臨床研究の利益相反ポリシー策定に関するガイドライン」).
 一方,日本臨床外科学会が打ち出した今回の「臨床研究の利益相反に関する指針」(以下,本指針)は,日本臨床外科学会として行うすべての事業に関して,これを行う日本臨床外科学会関係者の利益相反状態を自己申告によって開示させ,これにより日本臨床外科学会関係者の社会的・倫理的立場を守ることを目的としております.
 すなわち,日本臨床外科学会では,外科臨床研究に関する発表演題,論文については,発表者は,その題目に関連した利益相反状態を,自己申告により開示することが求められます.また,役員(学会会長・副会長・常任幹事・幹事・監事),学術集会会長や準備委員長,次期学術集会会長や指針で定められた委員会(役員等選考委員会,学術委員会,編集委員会,保険診療委員会,支部委員会,広報委員会,財務委員会,国内外科研修委員会,利益相反委員会)の委員は利益相反状態の日本臨床外科学会に対する開示を義務づけられます.

 

Q2
 本指針と補則を守れば,法的責任は回避できますか?

A2
 本指針や,その補則は,あくまでも日本臨床外科学会の自浄を目的として制定するものであり,この指針などに従ったからといって,法的責任を問われないものではありません.また,申告内容の真偽,申告外の利益取得,申告書の保管期限経過後に発生した問題などにおいても,法的責任を問われる可能性はあります.一般に言えることですが,学会の指針や規則・補則には,その上位にある「法令」の適用を回避させる効力のないことをご承知ください.

 

Ⅱ)対象者に関するQ&A

Q3
 配偶者や一親等以内の親族,収入・財産を共有する者の利益相反状態まで報告するように定めていますが,これらの人が開示を拒んだら,どうしたらいいのですか?(本指針Ⅱ,Ⅳに関連)

A3
 配偶者などの利益相反状態が,申告者の利益相反状態に強く影響することは一般に理解されているところです.ベンチャー企業の立ち上げや運営において親族が関わる場合も実際にあります.発表者や論文の著者には,配偶者などの利益相反状態の開示を求めません.しかし,日本臨床外科学会役員などには,これらを含めた開示が求められます.配偶者の利益相反状態を申告していなかったことで,申告者が社会的に制裁を受けることを避けるのが目的です.申告者が自身を守るために必要なことと考え,配偶者などを説得してください.日本臨床外科学会は配偶者などに対して,直接には何も言う立場にありません.しかし,配偶者などの利益相反状態が深刻な結果,社会的・法的問題が生じたときに,これらを自己申告されていなかった当該申告者を日本臨床外科学会としては,残念ながら社会の批判から守ることができません.また,日本臨床外科学会は当該申告者を指針違反者として扱い,本指針で定められた措置を取らざるを得ません.

 

Q4
 会員以外の者が日本臨床外科学会学術集会や機関誌で発表する場合も,利益相反状態を開示しなければならないのですか?

A4
 日本臨床外科学会の学術集会や機関誌で発表する場合は,研究の成果を日本臨床外科学会で発表するということになるので,例え会員以外であっても利益相反状態を開示していただく必要があります.学術集会の会長または編集委員会から依頼して開示していただきます.

 

Ⅲ)対象となる活動に関するQ&A

Q5
 学術集会発表,論文投稿,セミナー以外に対象となる日本臨床外科学会の事業とはなんですか?

A5
 日本臨床外科学会が関わるすべての事業における活動に対して本指針が適用されます(本指針Ⅲ).
 利益相反状態の開示が必要とならない場合でも,対象者は利益相反状態の回避をしなければなりません(本指針Ⅴ).
 日本医師会や厚生労働省などへ建議を行うこと,これからの諮問に答えること,優秀な業績の表彰を行うこと,および,診療ガイドラインの作成なども学会事業に含まれます.これらは学会名で行うことですが,建議書や答申書を作成する,表彰業績を選択するのは,役員や委員個人ですので,これらの者が(本指針Ⅵ 2 )に該当する場合は利益相反状態が必要となります.

 

Ⅳ)開示・公開すべき事項に関するQ&A

Q6
 開示と公開はどう違いますか?

A6
 本指針に於いて,開示は日本臨床外科学会に対して行うものと考えています.公開は日本臨床外科学会に関係しない外部の人々や,社会一般の人々に対して明らかにするものと考えています.自己申告された内容のどの範囲を開示として扱い,どこまで公開するかは,対象者および対象事業によって異なります.
 日本臨床外科学会の学術集会での発表や機関誌への投稿においては,その自己申告範囲は,当該発表および論文に関連した企業・団体と発表者・投稿者との間の関係に限られます.また,申告行為自体は開示という解釈です.
 日本臨床外科学会役員などについてはより詳細な利益相反状態の自己申告が要求されます.また,日本臨床外科学会役員などについては,一親等内の親族および収入・財産を共有する者についても利益相反状態を申告することになっております.この自己申告は日本臨床外科学会に対して開示されるものでありますが,基本的に社会的・法的な要請があった場合には,公開されることを宣誓した上で提出していただきます.自己申告をされた内容を,実際にすべて公開することは,個人情報保護法の観点から許されるべきこととは考えておりません.社会的・法的に公開が求められた場合には,利益相反委員会で議論し,常任幹事会および幹事会が公開するべき範囲を決定して,これを公開することになります.

 

Q7
 私は本職として企業に勤務し,役員をしておりますが,申告が必要でしょうか?(本指針Ⅳ- ①に関連)

A7
 抗癌剤や医療器具を開発・販売している企業に勤められており,その中で役員・顧問職としての収入がある場合は,その報酬額を申告いただくことになります.製薬会社でも,日本臨床外科学会に関連するがん治療薬や抗生物質などの外科診療に関わる薬剤を開発・販売されていない会社であれば,たとえ役員・顧問職としての収入があったとしても,申告は要りません.

 

Q8
 株の保有やその他の報酬は,臨床研究に関連した企業・団体に限らないのですか?(本指針Ⅳ- ②,⑦に関連)

A8
 学術集会発表者や機関誌への論文投稿者については,当該臨床研究に関する企業・団体のものに限定されます.日本臨床外科学会役員などについては,日本臨床外科学会が行う事業に関連する企業・団体に限定して自己申告していただくことになります.

 

Q9
 私はある医療器具に関する特許権を1000万円で企業に譲渡しました.これは特許権使用料には当たらないと解釈して,申告しなくてよいのでしょうか.(本指針Ⅳ- ③に関連)

A9
 特許権の譲渡については,本指針Ⅳ- ③の該当項目として申告してください.

 

Q10
 私は製薬会社の株を20万円分持っています.また,先日製薬会社の主催する研究会で講演して7 万円の講演料をもらいました.これらを,すべて自己申告しなければいけませんか?また,収入がある度に自己申告しなければなりませんか?(本指針Ⅳ- ②,④に関連)

A10
 具体的な申告の時期と申告方法,限度額は対象活動や対象者により異なり,補則に定めております.申告時期については,学術集会発表者は発表時,論文著者は論文投稿時です.日本臨床外科学会役員などは就任時と,その後1 年に1 回の自己申告が必要で,対象期間はそれぞれの直近の暦年なので,確定申告書の記載を参考に申告することができます.株式は1 年間の利益が100万円以上(株式の場合は利益ですから,配当が100万円以上であったり,転売利益が100万円以上の場合で,100万円分の株式を保有しているだけではこれに該当しません).講演料は1 企業につき年間100万円以上などの取り決めが補則に定められております.

 

Q11
 私は製薬会社と関連のない出版社からの原稿料が100万円を超えますが,申告が必要でしょうか?(本指針Ⅳ- ⑤に関連)

A11
 原稿料で申告しなければならないのは,原稿料の支出元が発表と関連し(学術集会発表,機関誌への論文投稿の場合),または日本臨床外科学会の行う事業と関連する(役員などの場合)製薬会社や医療器具メーカーなどである場合です.この様な場合は原稿料が出版社から支出された形であっても,実際は製薬会社などがスポンサーであるような出版物の場合は,支出元は製薬会社であると解釈されるので,申告する必要があります.

 

Q12
 ある医療器具メーカーから,私の勤める市民病院に奨学寄附金100万円の入金があり,研究担当者名は私になっています.実際には,市民病院全体の研究費として公平に使用しています.このような奨学寄附金も私の利益相反状態として開示すべきでしょうか?(本指針Ⅳ- ⑥に関連)

A12
 奨学寄附金であっても,本指針Ⅳの⑥にあたると解釈して, 1 企業から年間100万円以上である場合は,研究担当者名である先生の利益相反状態として申告してください.ただし,補則にあるように,学術集会術発表,機関誌への論文投稿では奨学寄附金を納入した企業・団体と関係のない演題・論文であれば,開示の対象となりません.日本臨床外科学会役員などの,より詳細な利益相反状態の開示を求められる立場の方は,日本臨床外科学会が行う事業に関連するもの全てが自己申告対象となります.

 

Q13
 私の所属機関の取り決めでは,企業からの奨学寄附金や治験の入金額の10%を事務経費として経理が差し引きます.このため,企業から300万円の奨学寄附金をもらっても,研究者が使えるのは270万円だけです.この場合は,申告する額を270万円にしてもよろしいでしょうか?(本指針Ⅳ - ⑥,様式3 に関連)

A13
 申告者が実質的に使途を決定し得る研究費や奨学(奨励)寄附金で実際に割り当てられた額になりますので,申告額は所属機関の事務経費を控除した額を記載してください.従って,この例の場合の申告額は270万円になります.

 

Q14
 「研究とは直接関係のない,その他の報酬」を申告するように義務付けられていますが,製薬会社が提供するテレビ番組のクイズで海外旅行が当たっても申告するのですか?(本指Ⅳ- ⑦)

A14
 クイズや抽選で当たったものは景品であっても報酬ではありません.申告が義務付けられているのは「報酬」であり,「報酬」とはなんらかの労力に対する見返りとして支払われるものです.従って,景品は申告対象ではありません.本指針Ⅳの⑦に当たる例としては,ある医師が特定の薬をよく処方することから,その薬を販売する企業が謝礼の意味でUSBフラッシュメモリーを医師に渡すことなどが該当します.御中元や御歳暮,接待なども該当する場合があると思われます.極端な場合は賄賂行為となり刑事罰の対象であり,本指針で扱うものではありません.本指針Ⅳ①~⑥には該当しないものの,利益相反状態となる可能性のあるものを拾い上げるために⑦を設けております.補則(様式1)に1つの企業・団体から受けた報酬が5万円以上を申告することとしております.

 

Ⅴ)利益相反状態の回避に関するQ&A

Q15
 寄付講座の多くは企業の寄付資金によって運営されておりますが,寄付講座の教授や職員に対しても利益相反状態の回避の「すべての対象者が回避すべきこと」を適用するのですか?

A15
 寄付講座は深刻な利益相反状態が生じる危険が高いので,本指針が適用されます.

 

Q16
 利益相反状態の回避について「当該臨床研究を計画・実行する上で必要不可欠の人材であり,かつ当該臨床研究が国際的にも極めて重要な意義をもつような場合には,当該臨床研究の試験責任医師に就任することは可能とする.」という例外規定を設けることは,本指針の理念を弱めることになりませんか?

A16
 本指針の目指すところは,研究者に利益相反状態があることを否定することではなく,また,利益相反状態が強い研究者に対して臨床研究を抑制することでもありません.社会にとって有意義で,重要な臨床研究を行う研究者ほど,利益相反状態が強くなることも事実です.上記のような例外規定を設けることで有能な研究者が臨床研究に関わる道を開くことが大切と考えております.米国臨床腫瘍学会(ASCO)の利益相反ポリシーにも同様の例外規定があります.一方,例外規定に相当する研究者が試験責任医師に就任するために,第三者による審査が必要であるとの意見もあります.
 ただし,日本臨床外科学会は,日本臨床外科学会で行われる事業について利益相反問題を管理する立場にありますが,個々の施設・研究所で行われる臨床研究を管轄することは権限の範囲を越えております.本指針では日本臨床外科学会の管轄外で行われる問題については,日本臨床外科学会としての立場を示すにとどめております.

 

Q17
 「臨床研究の試験責任者が回避すべきこと」によると,特許料・特許権の獲得を回避すべき,とあります.しかし,プロトコールに含まれないが極めて有益な成果(企業・団体の権利外の成果)が得られた場合や,医師が自主的に実施する臨床研究において知的財産権が生じた場合も,これらを放棄しなければならないのですか?

A17
 企業の権利外の成果であれ,知的財産権であれ,これらを得ることと,試験責任者の立場で公正に当該臨床研究を監督することとは両立しがたいものと理解されます.そのような利益を得ること自体を問題にしているのではなく,そのような利益を得た者が臨床研究の試験責任者になることを問題視しています.試験責任者に就任しないことで,この問題は回避できますし(指針Ⅴ 2 ),ただし書きの例外もあります.

 

Q18
 私は,10病院が参加する臨床研究の中で協力する私立病院の部長で,この臨床研究で私の病院における責任医師になってもらいたいと言われています.しかし,私はこの臨床研究で使う薬を製造販売する会社の理事でもあり,年に500万円の報酬をもらっています.私は,この臨床研究で,私の病院の責任医師になってはいけませんか?

A18
 多施設臨床研究における各施設の責任医師は,本指針Ⅴには該当しないので,この部長が当該施設における責任医師になることを否定するものではありません.ただし,当該施設の利益相反委員会や倫理委員会などが,この外科部長について,本臨床試験の責任医師となることが適当でないと判断されるなら,その決定が優先されると,考えております.

 

Ⅵ)実施方法に関するQ&A

Q19
 日本臨床外科学会以外の学会で発表するときも,同じような利益相反状態の開示が必要でしょうか?

A19
 他学会での発表での利益相反状態の開示については,それぞれの学会で定められることで,本指針が関与するところではありません.

 

Ⅶ)施行日および改定方法に関するQ&A

Q20
 本指針は平成28年(2016年)4月1日より施行するとありますが,この日以降に指針違反があればただちに措置を受けるのですか?(本指針Ⅶ,附則に関連)

A20
 施行日は平成28年(2016年)4月1日ですが,十分周知されるまで2 年間は措置を行わず,本人に対する注意・勧告にとどめます.また,その事例については,日本臨床外科学会雑誌や日本臨床外科学会ホームページにて匿名で紹介し,本指針の周知に努めます.実際の措置の施行は平成30年(2018年)4月以降に発生の事例について予定しております.

日本臨床外科学会
臨床研究の利益相反に関する指針に対する補則

 

第1条(日本臨床外科学会学術集会などでの発表)

  1. 日本臨床外科学会の学術集会,シンポジウム,講演会などで発表・講演を行う演者(共同演者を含む)は,演題応募や抄録提出時に,別紙様式1の「演者の利益相反自己申告書」により演者の利益相反状態の有無を明らかにしなければならない.
  2. 演者が開示する義務のある利益相反状態は,発表内容に関連する企業・団体または営利を目的とする団体に関わるものに限定する.
  3. 開示が必要な利益相反状態は抄録提出3年前から発表時までの別紙「開示事項」に定める事項とする.
  4. 本条で定める利益相反状態については,発表スライド,あるいはポスターの最後に,「演者の利益相反自己申告書」(様式1)に従って開示する.
  5. 本条に基づき演者が日本臨床外科学会に利益相反状態を開示するにあたり提出した資料は,発表・講演の終了後速やかに破棄されるものとする.
 

第2条(日本臨床外科学会機関誌などでの発表)

  1. 日本臨床外科学会の機関誌で発表を行う著者(共著者を含む)は,投稿時に,別紙様式2の「著者の利益相反状態相反自己申告書」により,利益相反状態の有無を明らかにしなければならない.
  2. 著者が開示する義務のある利益相反状態は,投稿内容に関連する企業・団体または営利を目的とする団体に関わるものに限定する.
  3. 開示が必要なものは投稿の提出3年前から投稿時までの別紙「開示事項」に定める事項とする.
  4. 本条で定める利益相反状態の開示については,機関誌に掲載される論文中に利益相反状態を表示する.
  5. 本条に基づき著者が日本臨床外科学会に利益相反状態を開示するにあたり提出した資料は,当該機関誌の出版後速やかに破棄されるものとする.
 

第3条(役員等)

  1. 日本臨床外科学会の役員などは,新就任時と,新就任後は1 年ごとに別紙様式3の「役員などの利益相反自己申告書」により利益相反状態の有無を明らかにしなければならない.
  2. 役員などが開示する義務のある利益相反状態は,日本臨床外科学会が行う事業に関連する企業・団体や営利を目的とする団体に関わるものに限定する.
  3. 各々の開示・公開すべき事項については自己についての別紙「開示事項」に定める事項および配偶者,一親等以内の親族または,収入・財産を共有する者についての別紙「開示事項」の①~③に定める事項とする.申告すべき期間は直近の暦年1 年分とし,新就任時は就任日から3 年前(暦年)までさかのぼった利益相反状態を自己申告しなければならない.役員のいずれかを兼任する者は,その就任の時期の最も速いものについて,その就任日の3 年前(暦年)までさかのぼった自己申告書(様式3)を提出する.
 

第4条(役員等の利益相反自己申告書の取り扱い)

 本補則に基づいて日本臨床外科学会に提出された様式3,およびそこに開示された利益相反状態(以下「利益相反情報」という)は日本臨床外科学会事務局において,学会会長を管理者とし,個人情報として厳重に保管・管理される.利益相反情報は,本指針に定められた事項を処理するために,幹事会,利益相反委員会などの役員及び委員が随時利用できるものとする.その利用には,当該申告者の利益相反状態について,疑義もしくは社会的・法的問題が生じた場合に,利益相反委員会の審議を経て,幹事会の承認を得た上で,当該利益相反状態のうち,必要な範囲を日本臨床外科学会内部に開示,あるいは社会へ公開する場合を含むものとする.様式3の保管期間は役員などの任期終了後2 年間とし,その後は学会会長の監督下で破棄される.ただし,様式3の保管期間中に,当該申告者について疑義もしくは社会的・法的問題が生じた場合は,幹事会の決議により,様式3の廃棄を保留できるものとする.

 

第5条(施行日および改正方法)

 日本臨床外科学会利益相反委員会は,幹事会の決議を経て,本指針補則を改正することができる.

 

第6条(日本外科学会の補則との関連)

 本補則は,日本外科学会の承認のもと,同学会が策定した「外科臨床研究の利益相反に関する指針に対する補則」を参考に,日本臨床外科学会に即して一部改訂して作成した.

 

附則

  1. 本補則は平成28年(2016年)4月1日より試行する
  2. 本補則は令和2年(2020年)1月1日より改正する
 

開示事項

  1. ① 企業や営利を目的とした団体の役員,顧問職については, 1つの企業・団体からの報酬額が年間100万円以上の場合
  2. ② 株の保有については, 1つの企業についての1年間の株による利益(配当,売却益の総和)が100万円以上の場合,あるいは当該全株式の5 %以上を所有する場合
  3. ③ 企業や営利を目的とした団体からの特許権使用料については, 1つの特許権使用料が年間100万円以上の場合
  4. ④ 企業や営利を目的とした団体から,会議の出席(発表)に対し,研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料・司会料・助言など)については, 1つの企業・団体からの年間の講演料が合計100万円以上の場合
  5. ⑤ 企業や営利を目的とした団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料については, 1つの企業からの年間の原稿料が合計100万円以上の場合
  6. ⑥ 企業・団体や営利を目的とした団体が提供する研究費については, 1つの臨床研究に対して支払われた総額が年間100万円以上の場合は申告する.奨学寄附金(奨励寄附金)については, 1つの企業・団体から,1名の研究代表者に支払われた総額が年間100万円以上の場合
  7. ⑦ その他の報酬(研究とは直接無関係な,旅行,贈答品など)については, 1つの企業・団体から受けた報酬が年間5万円以上の場合
 

臨床研究の利益相反に関する指針に対する補則Q&A

 

Q1
 日本臨床外科学会の学術集会で発表をするときには,具体的に,われわれは何をすればいいでしょうか?(補則第1 条に関連)

A1
 日本臨床外科学会の学術集会での発表については,演者の利益相反状態を開示することが必要です.開示は当該発表演題に関した利益相反状態に限定されます.共同演者の利益相反状態まで含めて,発表者全員の利益相反状態を開示していただくことになります.

演者の利益相反状態の開示について,一例を示します.

sample_yoshiki202203_1.jpg

Q2
 日本臨床外科学会学術集会の演者が自己申告する利益相反状態の期間は,いつからいつまでですか?(補則第1条に関連)

A2
 演題登録日がたとえば,5月20日であった場合は,3年前の5月21日から,登録日の3年間に発生した事項について自己申告してください.申告がある場合はCOI状態が発生した年(西暦)を申告書(様式1)の該当の演者欄に括弧をつけて記載してください.発表時には発表日が11月20日であった場合には,3年前の5月21日から発表日までの約3年3ヶ月の期間に発生した事項を開示してください.演題登録後に生じた利益相反状態も明らかにしていただきたいという考えから,このように期間をさだめています.

 

Q3
 日本臨床外科学会の機関誌への投稿論文で明らかにする利益相反状態の期間は,いつからいつまでですか?(補則第2条に関連)

A3
 投稿日が6月10日の場合は,3年前の6月11日からの3年間に発生した事項について自己申告してください.申告がある場合はCOI状態が発生した年(西暦)を申告書(様式2)の該当の有る場合,企業名等欄に括弧をつけて記載してください.論文がreviseとなった場合は,投稿日の3年前の6月11日から,最終版の投稿論文を送付した日までに発生した事項について自己申告書を改定して自己申告してください.

 

Q4
 役員などが明らかにする利益相反状態の期間は,いつからいつまでですか?(補則第3条に関連)

A4
 役員などの場合は,新しく就任したときに直近3年間の利益相反状態を開示する必要がありますが,基準期間は暦年となります.たとえば,2016年11月に新しく役員などに就任した場合は,2013年~2015年の暦年を基準として利益相反状態を開示することになります.確定申告書を参照すれば,スムーズに開示できると思われます.就任後は1年ごとに暦年を基準として開示を行います.

 

Q5
 本指針や補則に従えば,日本臨床外科学会に膨大な量の個人情報が蓄積され,処理しきれないのではないですか.また,社会に公開を求められた時に,日本臨床外科学会はどのように対応するつもりですか?(補則第4条に関連)

A5
 補則第1条,第2条により,学会発表者の利益相反状態は,発表時にスライドまたはポスターで示されるだけで完結し,日本臨床外科学会が利益相反状態を管理・補完することはしません.日本臨床外科学会機関誌への投稿論文についても,著者の利益相反情報は論文中で開示されて完結します.日本臨床外科学会に利益相反情報として残すものは役員などの数十人分の様式3に限られ,これも補完期間が任期終了後2年間とし,その後は廃棄します.自己申告者には提出時に,様式3のどの項目であれ社会的・法的な要請があった場合に公開することを了承する誓約書をとります.しかし実際は,利益相反委員会と幹事会で十分に検討して,求められていることに関して必要な範囲のみを公開することを,補則第4条に明記しております.(様式3


ページトップ