日本臨床外科学会雑誌 第83巻8号 掲載予定論文 和文抄録

 

原著

BRCA1/2遺伝学的検査保険適用拡大後の検査施行症例の検討と今後の課題

昭和大学外科学講座乳腺外科部門

成井 理加 他

 目的:2020年4月よりBRCA1/2遺伝学的検査の保険適用が遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診断にも拡大された.その検査対象要件の妥当性を検討する.
 方法:HBOC診断目的にBRCA1/2遺伝学的検査を施行した全乳癌を対象にHBOC診療の手引きに記載の拾い上げ項目別検査数,病的バリアント保持率(以下保持率)を算出した.
 結果:検査数は保険収載前10年で600例,収載後の2020年は126件と大幅に増加した.いずれかの拾い上げ項目に該当する症例での保持率は13%であった.項目別保持率は60歳以下のトリプルネガティブ乳癌19.3%,2個以上の原発乳癌18.5%,45歳以下16.3%,第3度近親者内に乳癌または卵巣癌の家族歴あり15.4%であり,3項目該当症例では保持率70%と高率であった.
 結論:拾い上げ項目に該当した際の保持率は高く,検査の情報提供が必要である.検査数および病的バリアント保持者の増加に伴い対側リスク低減乳房切除術や未発症病的バリアント保持者へのフォローアップが課題と考えられる.

臨床経験

Luminal type乳癌のセンチネルリンパ節OSNA検査によるnon-SLN転移予測

関西メディカル病院乳腺外科

井上 共生 他

 背景:近年、早期乳癌の周術期治療はsubtypeで個別化され、大規模試験によりSLN転移陽性でも腋窩郭清省略が示唆された。またLuminal乳癌のリンパ節転移が1-2個ならば化学療法省略傾向にある。しかし、リンパ節転移数は補助療法決定の重要因子であり、SLN以外の腋窩リンパ節(non-SLN)に転移があれば、補助療法不十分となりうる。当院はSLNを術中OSNA法で判定してきたが、転移陽性SLNのTTL(Total tumor load) がnon-SLN転移を予測すると報告され、Luminal乳癌のSLNのTTLとnon-SLN転移を後ろ向きに検討した。
 方法:対象は2012年5月~2021年6月にOSNA法でSLN陽性と判定され腋窩郭清へ移行したER陽性でHER2陰性の83例。TTL cut off値2.1×104 copies/μLでの2群のnon-SLN転移を解析した。
 結果:83例中non-SLN転移陽性は11例で、TTL 高値群は有意にnon-SLN転移発生率が高かった(P=0.00854)。
 結語: Luminal乳癌においてTTLはnon-SLN転移を予測する可能性が示された。

症例

タモキシフェンにより急性膵炎を発症した乳癌の1例

名古屋市立大学大学院医学研究科乳腺外科学分野

安東 美の里 他

 症例は52歳の女性.既往歴に高脂血症を有していた.45歳時に左乳癌に対して,左乳房部分切除術,腋窩リンパ節郭清を施行し,術後薬物療法としてタモキシフェン(TAM 20mg/日)を内服していた.術後7年3か月(TAM内服開始より6年7か月)経過した時点で,腹痛,嘔吐を主訴に当院救急外来を受診した.血液検査で,炎症反応上昇とトリグリセリド(TG)2,670mg/dLと著明な上昇を認めた.CTで膵腫大,膵周囲の脂肪織濃度上昇を認め,高TG血症に伴う急性膵炎の診断で入院となった.後方視的に確認すると,TAM開始後より,血清TGは上昇傾向であった.膵炎発症を契機にTAMは中止し,血清TGはTAM開始前と同等にまで改善した.過去の報告によると,TAMによる急性膵炎は,内服開始から1年以内に起こることが多いが,本症例のように内服開始から長期経過していても発症することがあり注意が必要である.

遺伝性球状赤血球症に対する脾摘により化学療法が可能となった乳癌の1例

栃木県立がんセンター乳腺外科

豊田 知香 他

 症例は57歳女性。20歳時に遺伝性球状赤血球症(HS)と診断され、溶血性貧血のため定期的に輸血をしていた。
 左乳房腫瘤自覚を機に左乳癌cT2N0M0 StageIIAと診断され、手術を施行した。術後診断はpT2N1M0 StageIIBとなり、術後補助療法として化学療法、内分泌療法、温存乳房照射を予定した。
術後化学療法を開始後、貧血、総ビリルビン値上昇を認め、HSによる溶血が悪化したと考えられ、化学療法は中止となった。
 術後2年で肝臓、脾臓に転移巣を認め、今後化学療法を行う可能性を考慮し、溶血の予防策として脾臓摘出術を行った。その後、内分泌療法施行するも、肝臓、骨、リンパ節に転移が出現したため、化学療法施行とした。溶血性貧血の進行はなく、安全に化学療法を施行できた。
 我々は脾臓摘出術後に安全に乳癌再発に対する化学療法が実施可能となったHSの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

リスク低減乳房切除術にて発見された非浸潤性乳管癌の1例

鳥取県立厚生病院外科

田中 裕子 他

 症例は47歳,女性.乳癌で34歳(左乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検)と44歳(右乳房全切除術+センチネルリンパ節生検)時に加療した. 両側乳癌既往,若年発症,家族歴から遺伝学的検査の提供推奨と判断した.BRCA遺伝学的検査を行い,BRCA1に病的バリアントを認め,遺伝性乳癌卵巣癌症候群と診断された.予防手術希望あり,女性診療科にてリスク低減卵管卵巣摘出術を施行された.マンモグラフィー,乳腺超音波,乳房MRIで乳房内に病変がないことを確認し,左温存乳房に対するリスク低減乳房切除術を施行した.術後病理結果で2mm大の非浸潤性乳管癌(エストロゲンレセプター (ER)陽性)を認めた.右乳癌術後に対しタモキシフェン+LH-RHアゴニスト加療中であったが,リスク低減卵管卵巣摘出後はホルモン剤をアナストロゾールに変更し経過観察中である.

切除30年後に対側に異時性乳癌を発症した遺伝性乳癌卵巣癌症候群の1例

山形市立病院済生館外科

長谷川 繁生 他

 2020年4月から、遺伝性乳癌・卵巣癌症候群(HBOC)の診療に対する保険適応が拡大された。これによりリスク低減乳房切除が保険収載された。リクス低減手術により新規乳癌の発症の90%以上を抑制することや、予後改善効果の報告も散見される。今回我々は30年前に左乳癌の手術を施行した患者が、右乳癌に罹患し治療した。治療経過で、BRCA 2が陽性であることが判明し、遺伝性乳癌・卵巣癌症候群と診断した。示唆に富む症例と思われ、報告した。

右乳房部に生じた胸壁原発脱分化型脂肪肉腫の1例

聖路加国際病院乳腺外科

沼田 亜希子 他

 68歳女性,8年前から緩徐に増大する右乳房腫瘤を認め,精査目的に外来を受診した.右乳房に17cm大の腫瘤を認め,Magnetic Resonance Imaging(MRI)では多くが脂肪信号を示す中に8cm大の腫瘤状の充実部を認めた.腫瘤は大胸筋との間にbeak signを認め胸壁由来のものと考えられた.充実部の組織診では非上皮性悪性腫瘍が考えられ,免疫染色にてMDM2,CDK4は共に陽性であった.遠隔転移は認めず胸壁原発脱分化型脂肪肉腫の診断となり大胸筋・小胸筋合併右乳房切除術を施行した.病理学的検査では腫瘍は17cm大の黄色脂肪組織様の腫瘍の中に7cm大の灰白色の充実性腫瘤を認め,大胸筋に連続しており,脱分化型脂肪肉腫と診断した.完全切除後20ヶ月経過するが再発徴候は認めない.

経過観察中に穿孔から急性縦隔炎をきたした横隔膜上食道憩室の1例

佐賀大学医学部一般・消化器外科

眞﨑 晴奈 他

 横隔膜上食道憩室は稀な疾患であり,食道運動障害や逆流症状を伴う場合は手術適応となる,今回,我々は食道憩室穿孔・急性縦隔炎を発症し,ドレナージ術後に二期的な切除再建手術で良好な経過を得た症例を経験した.
 症例は68歳男性.つかえ感を主訴に受診され,横隔膜上食道憩室を認め手術を予定していたが,自覚症状が消失したため本人の希望で経過観察としていた.経過中に食道憩室穿孔,急性縦隔炎を発症したため緊急で腹腔鏡下経裂孔的縦隔ドレナージ術を施行した.縦隔炎改善後に胸腔鏡下食道亜全摘術を施行し,術後縫合不全を来したものの保存的に軽快し,術後35日目に退院とした.
 横隔膜上食道憩室は逆流などの症状を認めるが,憩室の拡大に伴い症状が自然軽快することがあり,穿孔の高リスクとなる可能性がある.憩室穿孔による急性縦隔炎を伴う食道憩室穿孔例には二期的手術が有効であった.

縦隔リンパ節転移を認めた食道胃接合部神経内分泌癌の1例

大阪市立総合医療センター消化器外科

福井 康裕 他

 症例は72歳男性.心窩部不快感の精査目的に施行したCT(computed tomography)で胃噴門部の壁肥厚と周囲リンパ節腫大を指摘された.上部消化管内視鏡検査で食道胃接合部に亜全周性のtype3腫瘍を認め,生検でAdenocarcinomaの診断となった.遠隔転移は認めず,ロボット支援下食道亜全摘術,腹腔鏡下胃管作成術,2領域リンパ節郭清,頸部胃管再建を行った.病理組織診断の結果, synaptophysin,chromogranin A,CD 56がそれぞれ陽性で,Endocrine carcinomaの診断となった.郭清したリンパ節のうち,No.1,No.2,No.9,No.11p,No.107,No.110に転移を認めた.術後38日目に退院となり術後2か月無再発生存中である.食道胃接合部に発生する神経内分泌癌は稀とされており,文献的考察を加えて報告する.

S状結腸軸捻を伴う胃軸捻の1例

府中恵仁会病院外科

岩下 幸平 他

 症例は65歳,男性.来院前日からの腹部膨満と嘔気を主訴に当院救急外来を受診した.腹部単純CT検査で胃軸捻転と診断し,胃管挿入で捻転が解除された.入院翌日に上部消化管内視鏡検査(以下:EGD)を施行し,瀑状胃と胃体部を中心とした多発胃潰瘍を認めたが,胃軸性変化は認めなかった.入院7日目に,筋性防御を伴った急激な腹痛と嘔気反射が出現した.腹部造影CT検査で著明な胃拡張と胃周囲血管の渦巻き状変化を認めた.また上部消化管内視鏡検査で胃潰瘍の増悪と胃軸性変化を認め,急性型の胃軸捻転症と診断し緊急手術を施行した.術中所見で,胃軸捻転症に加えS状結腸軸捻転症も認め,胃軸捻転解除術とS状結腸固定術を施行した.胃軸捻転発症時,特に保存的治療が奏功しないときは,S状結腸軸捻転症の併存も念頭において低侵襲の緊急手術を検討する必要がある.

保存的加療で軽快した腹腔内遊離ガス・縦隔気腫を伴う胃気腫症の1例

国立病院機構北海道医療センター外科

齋藤 智哉 他

 症例は60代女性.数年前に多系統萎縮症と診断され,気管切開後・胃瘻栄養であった.来院2日前に栄養投与後に気管孔から経管栄養の流出が出現した.来院前日に発熱を認め,肺炎疑いで入院となった.CT検査で,胃壁内気腫および腹腔内遊離ガス・縦隔気腫を認めた.腹部症状がなく,CT検査で虚血を疑う所見を認めず,保存的加療とした.7日後のCT検査で所見が消失しており,9日後に上部消化管内視鏡検査で粘膜に虚血性変化がないことを確認し,栄養を再開とした.再開後7日目に,気管孔からの流出が再燃した.CT検査で壁内気腫と門脈ガスを認めたが,再度,保存的加療で軽快した.胃気腫症は,その多くが保存的加療で予後良好な経過をたどっている.腹腔内遊離ガスや門脈内ガス・縦隔気腫は消化管穿孔や腸管虚血を示唆する所見であるが,腹部症状を認めない場合には,手術を回避できることもある.画像所見だけではなく,全身状態や理学所見も含めた判断が重要である.

胃壁原発の石灰化線維性腫瘍の1例

大阪市立大学消化器外科

丹田 秀樹 他

 石灰化線維性腫瘍(calcifying fibrous tumor; CFT)は,硝子化した膠原繊維の増生と砂粒状の小石灰化を伴う非常に稀な良性線維性腫瘍であるが,胃にも発生し時にGISTとの鑑別が問題となる.
 症例は22歳女性,心窩部痛を契機に上部内視鏡検査を施行され,胃底部後壁に15mm大の隆起性病変を指摘された.内視鏡下に切開生検が施行されたが確定診断には至らず,診断的治療として単孔式腹腔鏡下胃部分切除が施行された.病理結果は膠原線維の増生,砂粒状石灰化やリンパ濾胞の形成を伴う慢性炎症細胞浸潤を認め,免疫染色の結果も併せてCFTと診断された.術後経過は良好で,第6病日に退院した.
 今回我々は非常に稀な胃壁原発のCFTを経験したため,若干の文献的考察を含めて報告する.

Nivolumab投与1年中断後に根治切除可能であった切除不能進行胃癌の1例

水戸赤十字病院外科

植松 陽介 他

 症例は,66歳男性.切除不能進行胃癌(cT4bN3M1, cStageIVB)に対して,1次治療 S-1+oxaliplatin(SOX)療法を12コース,2次治療 Paclitaxel+Ramucirumab(PTX+RAM)療法を5コース施行した後に,Grade3の末梢神経障害をきたしたため,3次治療 nivolumab療法に変更し,16コース施行した.全経過で原発巣は著明に縮小し,肝転移や腹膜播種の所見が消失したため,PRの判定とした.しかしPSの低下を来し,治療を中断した.Nivolumab療法中断後1年が経過し,全身状態が回復したため,再評価したところ,PRが維持されていた.審査腹腔鏡を行い,根治切除可能と判断し,開腹胃全摘術,脾摘,D2郭清,Roux-en-Y再建を施行した.術後15ヶ月無再発生存している.
 切除不能進行胃癌に対するnivolumabの効果は,治療中断後も長期間持続する可能性があり,PRが得られた後に治療を中断しても,根治切除の機会を逃さないように経過観察することが重要である.

十二指腸壊死をきたした非閉塞性腸管虚血症の1例

高知赤十字病院外科

岩部 純 他

 症例は67歳女性。慢性腎不全に対し維持透析中であったが吐血・意識障害を認め救急搬送された。代謝性アシドーシスを伴う非閉塞性腸管虚血症(NOMI)と診断し緊急手術を行った。小腸はほぼ全長に渡り虚血に陥っており、まずopen abdomen管理とした。翌日、second lookで小腸に加え十二指腸・上行結腸・横行結腸も壊死が及んでおり十二指腸〜空腸・空腸・回腸〜上行結腸・横行結腸の4カ所を切除し外瘻化した。術後2日目に抜管したが膵液漏出が著しく14日目に再々手術を施行した。十二指腸の壊死が進行しておりTチューブを挿入し胃壁と腹壁を縫合し完全外瘻化した。完全静脈栄養管理で、術後91日目に維持透析のため転院となったが、全身状態が悪化し術後141日目に死亡した。NOMIは小腸に非連続に虚血を呈する疾患であるが壊死が十二指腸まで及ぶ報告は稀で予後も不良である。広範囲壊死腸管切除と残存腸管の完全外瘻化により在院死を回避し得た重症NOMIの一例を経験したので報告する。

腹腔内出血をきたした魚骨による小腸穿孔の1例

伊賀市立上野総合市民病院外科

山下 真司 他

 症例は93歳,男性.心筋梗塞の既往があり,2剤の抗血栓薬を内服していた.腹痛を主訴に,前医を受診し,急性腹症疑いにて,当院へ紹介となった.腹部単純CTでは,腹腔内の広範囲に血性腹水を疑う液貯留を認め,更に,小腸を穿通する線状高吸収構造物と,腸間膜内遊離ガスを疑う所見を認めた.魚骨による小腸穿孔,急性腹膜炎,腹腔内出血と診断し,緊急手術を行った.開腹所見は,多量の血性腹水と凝血塊を認めた.凝血塊を除去し,腹腔内洗浄後,腹腔内を検索すると,小腸壁外に刺通する魚骨を確認し,同部位からの持続出血を認めた.穿孔部を含む約10cmの小腸部分切除術を施行した.術後吻合部出血を来したが,保存的加療により軽快し,術後36日目に退院となった.魚骨による消化管穿孔の報告はしばしばみられるが,腹腔内に多量の出血を伴う症例は稀である.2011年から2020年までの,自験例を含む魚骨消化管穿孔176例の文献的考察を加え,報告する.

腸重積を合併した消化管ALアミロイドーシスの1例

長野中央病院外科

北原 拓哉 他

 症例は91歳男性。全身倦怠感と右下腹部痛を主訴に受診した。腹部CT検査で回盲部の腸重積を認め、下部消化管内視鏡検査で同部位に腫瘤を先進部とする腸重積像が観察された。生検の結果アミロイドーシスが疑われたが、悪性腫瘍の可能性も否定できず、腸管閉塞症状解除のため手術方針として腹腔鏡下右結腸切除術を施行した。臍部にカメラポートを挿入し合計5ポートで行なった。手術所見で腸重積は自然整復されていた。臍部に4.0cmの小切開を行ない、機能的端々吻合により再建した。摘出標本の肉眼所見で回腸からBauhin弁に全周性の壁肥厚と黄色部位を認めた。病理組織学的所見で黄色部に好酸性の沈着物を認め、Congo-red染色陽性で、緑色の偏光を示した。免疫組織学的検査で抗κ鎖抗体にて特異的に染色され、AL(Κ)アミロイドーシスと診断された。腸重積症を併発し手術治療を要した消化管ALアミロイドーシスの報告は稀であり若干の文献的考察を加え報告する。

回腸機能的端々吻合部の嚢状拡張により形成された真性腸石の1例

板橋中央総合病院消化器病センター外科

鈴木 淳平 他

 症例は45歳男性.以前に他院で開腹手術を2回施行していた.それ以降,頻繁に腸閉塞を発症し保存的治療を行っていたため,手術目的に当院を受診した.腸閉塞発症時の腹部CTでは小腸吻合部より口側腸管が著明に拡張し,吻合部内腔に平板状の異物を多数認めた.腹腔鏡下に観察したところ,小腸吻合部が腹壁に癒着し腸閉塞の閉塞起点となっていた.癒着を剥離し,小切開創から吻合部を含む小腸を部分切除した.吻合部は瘢痕狭窄とともに口側が嚢状に拡張し,内部に結石が多数存在していた.結石分析を行い,デオキシコール酸による真性腸石と診断した.術後経過は良好で,術後6日目に退院した.
 本症例は術後狭窄の結果生じた回腸機能的端々吻合部の嚢状拡張により腸液が停滞し,真性腸石が形成されたと考えられた.消化管吻合が要因となった真性腸石の報告は稀であり,文献的考察を加え報告する.

急性腹症で発症した小腸間膜脂肪腫の1例

国立病院機構長崎医療センター外科

哲翁 華子 他

 症例は18歳男性.右下腹部痛と嘔吐を主訴に救急外来を受診した.腹部単純CT所見より小腸捻転を伴う長径6㎝の脂肪濃度の腫瘍が疑われた.捻転は自然に解除されたが,造影CT所見でも腸間膜脂肪腫が考えられた.症状再燃を考慮し,手術を施行した.腫瘍は小腸間膜に存在し,小腸を跨ぐように小腸に広範囲に接しており,小腸を合併切除し腫瘍を摘出した.病理組織診断は成熟脂肪細胞からなる脂肪腫であった.腸間膜脂肪腫は,遊離の腸間膜に発生する充実性原発性腫瘍で,腸間膜腫瘍の約2%と非常に稀な疾患である.若年における急性腹症で,手術適応の多くは急性虫垂炎や婦人科関連疾患等の炎症性疾患であるが,腸間膜脂肪腫も急性腹症の原因となり得る.本症例のように,若年においても急性腹症,特に腸閉塞症状の背景には本疾患を想起し診療を行う必要がある.

直腸脱に合併した腸管嚢胞性気腫症の1例

医理会柿添病院外科

三根 大輝 他

 腸管嚢胞性気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis:PCI)は消化管の粘膜下、漿膜下に多数の含気性嚢胞を生じる疾患である。腹腔内遊離ガスや門脈気腫を合併することもあるが、腹部症状や検査所見に乏しく、特異的な異常を認めない例も存在する。本症例では直腸脱で来院し、胸部X線を施行した際に偶発的に横隔膜下に腹腔内遊離ガスを認めた。腹部CTでは腹腔内遊離ガス、腸管気腫を認めたが炎症反応も乏しく、明らかな腹部症状を伴わなかった。保存的加療を行い、待機的に直腸脱に対して腹腔鏡下直腸脱根治術を行った。回腸の腸間膜側に多発する嚢胞を認め、一部切除し組織学的にも腸管嚢胞性気腫症と診断した。直腸脱による腸管内圧の上昇で腸管ガスが腸管壁内、さらには壁を超えて腹腔内に侵入したことが考えられた。腹腔内遊離ガスは直腸脱根治術後に改善し、直腸脱による閉塞が原因であることを裏付けた。直腸脱による腸管嚢胞性気腫症の報告はなく、文献的考察を加え報告する。

特殊フィルターを用い待機的に切除したポルフィリン症併存急性虫垂炎の1例

徳島大学消化器・移植外科

高須 千絵 他

 ポルフィリン症はヘム合成酵素の遺伝子異常で引き起こされる疾患である。光線過敏症を伴い光毒性による内臓損傷へのリスクが高い赤芽球増殖性(骨髄性)ポルフィリン症患者(erythropoietic protoporphyria: EPP)に、特殊フィルターを用いて光毒性の対策を行うことで、虫垂切除術を安全に施行可能であったので報告する。症例は21歳女性で、幼児期にEPPと診断され経過観察中であった。上腹部痛にて当院内科を受診し、急性虫垂炎と診断。保存的に加療を行い、後日手術目的に再入院した。本症例は光線過敏症を伴うポルフィリン症であり、術前に照明の波長測定を行った上光線過敏症の原因となる波長光を避けるため、無影灯に特殊フィルターを取り付けて手術を行った。開腹にて虫垂切除術を施行し、術後にポルフィリン症状の悪化やポルフィリンの急性発作はなく第3病日に退院した。
 今回我々は、非常に珍しい光線過敏症を伴うポルフィリン症患者に対して開腹虫垂切除術を経験した。特殊フィルターを用いた照明対策を行うことにより、安全に手術を施行可能であったので報告する。

待機的手術を行った腸管気腫・門脈気腫を伴う傍上行結腸窩ヘルニアの1例

浅間南麓こもろ医療センター病院外科

高須 香吏 他

 症例は59歳男性。5日間継続する腹痛、嘔吐のため受診した。前日に普通排便があった。バイタルサインに問題はなく、腹部全体の膨満と軽度圧痛を認めたが、腹膜刺激症状は認めなかった。血液検査では腎機能障害と炎症反応の上昇を認めた。CTでは小腸イレウスが認められ、右上腹部に閉塞機転が疑われた。腸管気腫と肝内外門脈気腫を認めたが腹水は認めなかった。イレウス管での減圧と補液で腎機能、炎症反応は改善し排便排ガスもみられたが、小腸の拡張が残存するため手術を行った。Richter型傍上行結腸窩ヘルニアを認め、解除術を行った。小腸に壊死所見はなく切除は不要だった。腸管気腫と門脈気腫を伴う傍上行結腸窩ヘルニアに対し、待機的手術を行った1例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

腹腔鏡下結腸右半切除術を行った馬蹄腎併存上行結腸癌の2例

住友別子病院外科

井村 真 他

 症例1は85歳,女性.食欲低下を主訴に前医を受診し,CT検査で上行結腸癌,多発肝転移と診断された.術前の造影CT検査では馬蹄腎を認め,重複尿管,卵巣動静脈の走行異常は認めなかった.腹腔鏡下結腸右半切除術D3郭清を施行した.右腎盂尿管は馬蹄腎の腹側外側を走行しており,内側アプローチの際に結腸間膜と腎盂尿管の剥離にやや難渋した.症例2は80歳,男性.検診で腫瘍マーカー高値を指摘され,精査の結果上行結腸癌と診断された.術前の造影CT検査では馬蹄腎を認め,重複尿管,精巣動静脈の走行異常は認めなかった.精巣動静脈合併切除を伴う腹腔鏡下結腸右半切除術D3郭清を施行した.右尿管は通常の走行より内側である馬蹄腎峡部寄りの腹側を走行していた.馬蹄腎を併存した右側結腸癌の報告はなく,手術時の尿管走行への注意点に関して若干の文献的考察を加え,報告する.

非特異なバンド形成で中腸軸捻をきたした71歳腸回転異常症の1例

東京都立墨東病院外科

古家 俊作 他

 症例は71歳の女性.主訴は嘔吐.1週間前より排便なく,当日に嘔吐したため当院受診し,腹部単純CTにて横行結腸軸捻転症と術前診断した.内視鏡的整復を試みたが,困難なため緊急手術を施行した.術中所見では右側結腸の固定がなく,横行結腸中部から回腸とS状結腸にそれぞれバンド形成し,それを軸に反時計回りに360度回転していた.中腸軸捻転症と診断してバンド切離し,捻転解除した.またLadd’s靭帯の形成を認めなかった.血性腹水や腸管の血流障害はなかったが,捻転再発の可能性を考慮して結腸右半切除術を施行した.非特異なバンド形成で中腸軸捻転を発症した,成人腸回転異常症という稀な1例を経験したので,報告する.

上腸間膜静脈内腫瘍塞栓を伴う十二指腸浸潤横行結腸癌の1例

国際親善総合病院外科

徳田 敏樹 他

 症例は84歳の男性で,貧血症状を契機に横行結腸癌と診断された.画像診断にて腫瘍は十二指腸下行脚に浸潤して瘻孔を伴い,さらに腫瘍から胃結腸静脈幹を経由して上腸間膜静脈に至る腫瘍塞栓を認めた.術中所見では腹膜播種や肝転移は認めずR0切除可能と判断し,右半結腸切除術および上腸間膜静脈合併切除再建を伴う亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的検査所見は,pT4b(十二指腸),pN0,pStageIIc,R0,CurAであり,術後9か月経過した現在無再発生存中である.他臓器浸潤や腫瘍塞栓を伴う局所進行大腸癌でもR0切除できれば良好な予後が期待できるため,腫瘍の進展に応じた術式の工夫が必要である.

電解質喪失症候群を呈した直腸絨毛腫瘍の1例

広島市民病院外科

吉田 弥正 他

 直腸絨毛腫瘍により電解質喪失症候群(Electrolyte depletion syndrome:EDS)と高NH3血症を発症し,持続血液透析濾過法(continuous hemodiafiltration : CHDF)と腹腔鏡手術により治療し得た症例を経験したので報告する.症例は68歳女性,意識障害により当院へ搬送された.血液検査では軽度の電解質異常に加え脱水による急性腎不全と肝硬変増悪に伴う高NH3血症を認めた.160mm×150mm大の絨毛腫瘍がCTと下部消化管内視鏡で指摘され,生検の結果はvillous adenomaであった.その後も低K血症を度々認めていたため直腸絨毛腫瘍によるEDSと診断し,低K血症の治療後,腹腔鏡補助下Hartmann手術を施行した.術後病理結果はtubular adenocarcinoma in villous adenomaであった.術後24ヶ月経過した現在もEDSの再燃を認めず経過している.本症例は肝硬変がベースにあったためEDSに加え高NH3血症も認めた極めて稀な症例である.頻回の下痢や意識障害を伴うEDSを認めた際には、絨毛腫瘍などの存在を鑑別の1つに挙げ,適切な検査と治療を行うことが重要である.

大腸癌化学療法中に発生しAltemeier変法を行ったストーマ脱の1例

新潟県立中央病院外科

鈴木 晋 他

 症例は73歳,女性.腹膜播種を伴う上行結腸癌に対して化学療法中であったが,腹膜播種が悪化して腸閉塞を発症したため,空腸部分切除・回腸人工肛門造設術を施行した.術後2か月でストーマ脱を発症し,嵌頓状態であったため緊急手術の方針とした.術式は直腸脱に対するAltemeier法を応用して,新たに皮膚切開をすることなくストーマ部から脱出腸管の切除を行い,自動吻合器で再建を行った.術後経過は良好で12病日に退院し,20病日から外来化学療法を再開できた.本術式は,腹壁~腹腔内操作を必要とせず低侵襲かつ比較的簡便で,術後のストーマケアにも変更が生じないため,ストーマ脱において有力な選択肢のひとつであると考えられる.

膵頭部intraductal oncocytic papillary neoplasmの1例

国立病院機構福山医療センター肝胆膵外科

櫻井 湧哉 他

 膵Intraductal oncocytic papillary neoplasm(IOPN)は膵癌取扱い規約(第7版)でIPMNなどと同列にあたる膵癌前病変の一つとして分類された.今回我々はIOPNの1切除例を経験したので,疾患分類の変遷など文献的考察を加えながら報告する.症例は47歳,女性で主訴は特になかった.1年前に検診の腹部超音波検査で膵頭部に膵嚢胞性病変を指摘され,近医で分枝膵管型IPMNと診断された.翌年壁在結節の増大を認め,high risk stigmataに該当,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織所見では,膵頭部で嚢胞状に拡張した分岐膵管や類円形の核を有する腫瘍細胞の乳頭状増殖を認めた.免疫組織化学的染色を併施し,IOPNと最終診断した. 経過は良好で術後14日目に退院された.

腹腔内出血を契機に診断された多発肝転移を伴う脾臓原発血管肉腫の1例

東京北医療センター外科

宇宿 真一郎 他

 症例は75歳男性.眼前暗黒感,腹痛,及び呼吸苦を主訴に当院へ救急搬送となった.造影CT検査では脾臓と肝臓に複数の腫瘍,及び血性腹水を認め,腫瘍破裂による腹腔内出血が疑われた.全身状態は保たれており,翌日に待機的に脾臓摘出及び外側区域切除術を施行した。病理検査の結果,脾臓原発血管肉腫及び肝転移と診断した.術後32日目と34日目に各々腹腔内出血を認め,各々経カテーテル動脈塞栓術(以下,TAE)で止血を得た.十分な説明と同意のもと,2回目のTAE施行後10日目に化学療法(パクリタキセル)を開始したが,1クール施行後のCT検査にて肝転移の増大を認め,化学療法は中止した.その後,DICを併発し,術後106日目に永眠した.脾臓原発血管肉腫は非常に希少かつ予後不良な疾患であり,特に脾破裂で発見された場合には平均予後は4.4ヶ月と報告されている.治療も現状では確立されたものはない.若干の文献を混じえて検討を行ったので報告する.

TEP法が有用であった再発性腹膜外型鼠径部膀胱ヘルニアの1例

国家公務員共済組合連合会立川病院外科

亀山 友恵 他

 症例は52歳,男性.右鼠径ヘルニアに対して10年前にメッシュ修復術による手術歴があり,2週間前からの右鼠径部違和感を主訴に受診した.初診時,右鼠径部に臥位で容易に還納されるうずら卵大の膨隆を認めた.鼠径部除圧下腹臥位CT検査で下腹壁動静脈の内側より脱出する膀胱を認め,右鼠径部膀胱ヘルニアと診断した.再発症例のためTAPP(transabdominal preperitoneal approach)法を予定したが腹腔内にヘルニア門を同定できず,腹膜外型膀胱ヘルニアと術中診断し,速やかにTEP(totally extraperitoneal approach)法へ変更した.約1cmのヘルニア門を同定し,マージンを確保するようにメッシュを形成して留置し再発なく経過している.腹膜外型膀胱ヘルニアに対するTEP法はヘルニア門の同定が容易であり,膀胱損傷回避の観点からもより有用と考えられ報告する.

十二指腸潰瘍穿孔性汎発性腹膜炎術後intra-abdominal candidiasisの1例

兵庫県立尼崎総合医療センター消化器外科

萱野 真史 他

 術後合併症としてのIntra-abdominal Candidiasis(IAC)は,稀であるが予後不良な病態である.十二指腸穿孔性汎発性腹膜炎術後のカンジダ性多発腹腔内膿瘍に対して再手術を行った1例を報告する.症例は65歳男性.十二指腸穿孔性汎発性腹膜炎,敗血症性ショックの診断で緊急開腹ドレナージ,大網充填術を行った.敗血症性ショックからは回復したが,術後6日目に発熱,CRP再上昇を認めた.術中採取した感染性腹水からCandida albicansが同定され,抗真菌薬加療を開始した.発熱等の症状は改善せず,術後10日目の腹部造影CTで多数の腹腔内膿瘍を認めたため,再開腹ドレナージ術を行った.術後十二指腸潰瘍穿孔部からの腸液の再流出を認めたが,抗真菌薬は計28日投与し,IACは軽快した.緊急手術術後IACには,ドレナージ術が有効であるが,再手術はリスクを伴うため,適切な時期や適応に関する検討が今後の課題である.

胃癌術後の中心静脈カテーテル感染による化膿性脊椎炎の1例

済生会滋賀県病院外科

中道 脩介 他

 症例は79歳の男性で,進行胃癌に対して胃全摘,D2郭清,Roux-en-Y法再建を施行した.術後5日目に膵液漏,術後9日目に十二指腸断端漏を合併したが,保存的加療により治癒した.ところが,術後25日目に中心静脈カテーテル(central venous catheter,以下CVCと略記)感染症による敗血症性ショックをきたし,直ちにCVCを抜去して抗生剤投与を開始した.術後32日目に腰痛が出現し,術後49日目の腰椎MRIにて化膿性脊椎炎と診断された.安静と抗生剤投与により軽快し,神経学的後遺症なく術後96日目に退院となった.胃癌周術期にはCVC留置が必要となる病態が存在するが,CVC感染後に腰痛が出現した場合には,化膿性脊椎炎の合併を念頭において早期の診断・治療介入を行う必要がある.CVCの長期留置が必要となる病態の回避やCVCを用いない周術期管理についてのさらなる検討も望まれる.

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