日本臨床外科学会雑誌 第87巻3号 和文抄録

症例

20cm大乳房腫瘤の外観を呈した前胸壁異型脂肪腫様腫瘍の1例

国家公務員共済組合連合会浜の町病院外科・乳腺センター

落合 百合菜 他

 異型脂肪腫様腫瘍(atypical lipomatous tumor:ALT)は,近位四肢や背部に好発する良悪性中間の脂肪性腫瘍であり,胸壁に発生することは少ない.前胸壁に発生し巨大乳房腫瘤の外観を呈した異型脂肪腫様腫瘍の1例を経験した.症例は76歳の女性で,左乳房の著明な腫大を主訴に受診した.造影CT・MRIで大・小胸筋間に乳房を置換するように発育した約20cm大の境界明瞭な脂肪性腫瘤を認め,内部には隔壁構造および造影効果を伴う結節状成分を認めた.画像所見および臨床所見に基づくスコアリングから異型脂肪腫様腫瘍が疑われ,針生検で異型細胞が散見されたことから,大・小胸筋間に発生した異型脂肪腫様腫瘍や脂肪肉腫を疑い,大胸筋合併切除を伴う腫瘍切除および乳房全切除術を施行した.病理組織学的検査およびFISH法によりMDM2の遺伝子増幅を確認し,異型脂肪腫様腫瘍と診断した.術後4年9 カ月が経過し,再発は認めていない.乳腺外科領域においてまれな脂肪性腫瘍に対し,適切な術前評価と治療により良好な経過が得られた症例であった.

乳房切除後に生じたchronic expanding hematomaの1例

秋田厚生医療センター呼吸器・乳腺外科

工藤 千晶 他

 乳癌術後にchronic expanding hematoma (CEH)を形成した1例を経験した.症例は78歳,女性.左乳癌に対して乳房全切除術,センチネルリンパ節生検術を施行後,術後17週に創部の腫脹を認めた.穿刺でわずかな凝血を吸引したが縮小せず,自然吸収を期待して経過観察としたが,緩徐に増大傾向にあった.発症41カ月後に腫瘤摘出術を行い,病理組織学的にCEHと診断された.CEHは手術や外傷を契機に1カ月以上の経過で増大する血腫と定義されており,乳腺外科領域では稀な疾患である.治療には被膜を含めた完全切除が有効とされる.乳癌術後に新たな腫瘤を認めた際にはCEHを鑑別に挙げ,的確な診断と治療方針の選択が重要である.

両側乳房多形型非浸潤性小葉癌の1例

兵庫県立加古川医療センター乳腺外科

庄司 夢 他

 非浸潤性小葉腫瘍に分類される,非浸潤性小葉癌(lobular carcinoma in situ;LCIS)は,臨床的には経過観察の対象となる.しかし,その亜型である多形型LCIS(pleomorphicLCIS;PLCIS)は浸潤癌や非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ;DCIS)を伴う頻度が高く,外科的切除が推奨される.今回,術前針生検にて両側乳房にPLCISを認めた症例を経験した.右乳房に対する手術検体では浸潤性小葉癌(invasive lobularcarcinoma;ILC)を認めた.以上より,PLCISの診断と治療方針について文献的考察を加えて報告する.

胸腔鏡下に摘出した胸部上部食道の有鉤義歯異物の1例

国立病院機構水戸医療センター外科

伊瀬谷 和輝 他

 71歳,男性.2023年8月に有鉤義歯を誤飲し,前医で摘出困難だったため当院へ転院となった.CTで胸部上部食道に義歯を認め,誤飲から5日後に準緊急で異物摘出術を行った.全身麻酔導入後に内視鏡による摘出を試みたが,義歯の全体像の把握が困難であり,内視鏡的摘出は困難と判断し,胸腔鏡下の摘出術に変更した.胸部上部食道を切開して義歯を摘出,結節縫合で閉鎖した.術後縫合不全を合併したが保存的に改善し,術後第29病日に自宅退院となった.近年では,食道異物に対する胸腔鏡手術の報告も散見される.鏡視下の食道の縫合操作は食道の長軸方向と術者右手鉗子の方向が直交するため行いにくいが,平行方向へ近づけるように食道をテーピングして右側に牽引する工夫が有用であった.また,縫合不全の回避のためには食道切開部の粘膜端を確実に捉えることが重要である.

陽子線治療により喉頭温存が可能となった頸部食道滑膜肉腫の1例

鹿児島大学消化器外科

宇都宮 麻子 他

 症例は22歳の女性で,食物の通過障害を主訴に外来を受診した.頸部食道・胸部上部食道を占居する13cm大の食道腫瘍を指摘され,精査の結果,SS18-SSX1融合遺伝子陽性の食道滑膜肉腫と診断された.滑膜肉腫に対する治療は,十分な切除距離を確保した広範囲切除が原則であり,腫瘍摘出のためには喉頭摘出および食道亜全摘が必要であったが,喉頭温存を目的に根治的放射線療法を行う方針とした.腫瘍の局所制御率の向上と周囲正常組織への線量低減による放射線関連有害事象の軽減を目的に,陽子線治療を選択した.陽子線治療後,頸部食道に限局したことで喉頭を温存し,かつ,食道亜全摘を回避し頸部食道切除術を施行しえた.現在,術後3年6カ月無再発生存中である.

胃癌術後再発との鑑別に難渋したデスモイド腫瘍の1例

新宮市立医療センター外科

下村 和輝 他

 症例は52歳,男性.胃癌に対し腹腔鏡下幽門側胃切除,D1+リンパ節郭清,Billroth-Ⅰ法再建を施行した.病理組織学的診断はpor>tub2,pT4a,int,INFc,pPM0,pDM0,ly1,v0,pN0,cM0でpStageⅡBだった.術後補助化学療法としてS-1療法を8コース施行し,その後は経過観察を行っていた.術後3年目のCTで残胃に接する45mm大の腫瘤を認めた.胃癌再発を疑い,S-1+オキサリプラチン併用療法による化学療法を5コース施行した.しかし,腫瘍が60mm大まで増大したため,診断的治療を兼ねて手術を施行した.残胃と横行結腸に浸潤しており,残胃および横行結腸を部分切除し腫瘍を摘出した.病理組織学的検査ではデスモイド腫瘍の診断であった.デスモイド腫瘍は局所浸潤傾向にあるという特徴もあり,他臓器合併切除を要することも多い.過大な手術を回避するために,超音波内視鏡下穿刺吸引法などによる術前の病理学的診断の検討やCT等による短期間での慎重な画像評価が重要である.

外科的切除を行った胃神経内分泌癌の単発性肝転移の1例

豊田厚生病院外科

山口 真和 他

 症例は74歳の男性.胆嚢切除前の術前検査で,胃の神経内分泌癌が発見された.慢性腎不全の併存があり,維持透析中であった.明らかな遠隔転移所見を認めず,リンパ節郭清を伴う腹腔鏡下胃切除術を施行した.病理診断は胃の大細胞型神経内分泌癌,T3,N0,M0,StageⅡAであった.経過観察を行っていたが,胃切除術後9カ月からCEAの上昇を認めた.肝S5に単発の転移を疑う所見を認めたが,腎不全により化学療法の導入は困難であった.1カ月経過観察を行い,病変は単発のままであり肝機能の面からも切除可能と評価し,肝部分切除術を施行した.術後合併症を認めず,自宅退院した.現在まで化学療法を一度も導入せず,初回胃切除術後2年4カ月,肝切除術後1年3カ月の現在,無病生存中である.神経内分泌癌の治療では集学的治療が推奨されているが,一度も化学療法を導入せずに外科治療単独で制御された症例は既報がなく,報告する.

多発小腸穿孔をきたした好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の1例

国家公務員共済組合連合会横須賀共済病院外科

前田 直紀 他

 症例は56歳,女性.上腹部痛を主訴に当院を受診し,好酸球性胃腸炎の疑いで入院した.精査中に腹痛が増強し,炎症所見が悪化した.CTでfree airを認め,消化管穿孔,汎発性腹膜炎と診断して緊急手術を行った.
 術中所見で小腸に2箇所の穿孔部を認め,広範な血流不良域を認めたため小腸を170cm切除,open abdominal managementとした.再手術でも腸管の色調不良域を追加切除して吻合,閉腹した.残存小腸は50cmで短腸症候群をきたし中心静脈栄養を導入した.
 病理組織学的には小腸粘膜に好酸球の粘膜下層浸潤,血管炎の所見を認め,喘息の既往,好酸球の増多などの臨床所見を踏まえ,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)と診断した.
 EGPAは中高年に好発し,気管支喘息・鼻炎が先行し多臓器に障害をきたす疾患である.消化管病変を引き起こすことも知られているが,消化管穿孔,特に多発穿孔を起こす例は非常に稀とされる.今回われわれは,EGPAによる多発小腸穿孔に対して大量小腸切除を行った症例について,文献的考察を含めて報告する.

両側異時性にpseudo-Meigs症候群を呈した直腸癌卵巣転移の1例

北部地区医師会病院外科

木村 研吾 他

 症例は57歳,女性.2017年6月,下腹部痛と呼吸苦を主訴に当院を受診した.胸腹部造影CTで,右卵巣に多房性嚢胞性腫瘤,上部直腸に造影効果を伴う腫瘍性病変と所属リンパ節の腫大と胸腹水を認めた.以上から,直腸と卵巣の重複癌,またはpseudo-Meigs症候群を合併した直腸癌卵巣転移と診断し,高位前方切除術(D3郭清)と右卵巣切除を行った.術後病理診断で右卵巣は直腸癌の転移であり,術後8日目には胸腹水は消失,pseudo-Meigs症候群と診断した.その後,化学療法を施行することができたが,術後1年3カ月で対側の卵巣転移を認めた.再度,胸腹水による呼吸苦が出現したため,左卵巣切除を施行した.手術により症状は消失し化学療法を再開することができたが,初回手術より4年6カ月で原病死した.
 今回われわれは,左右の卵巣で異時性にpseudo-Meigs症候群を呈した直腸癌卵巣転移の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

結腸間膜間窩に生じた傍十二指腸ヘルニア嵌頓の1例

新東京病院消化器外科

髙部 裕也 他

 症例は75歳の女性で,腹痛を主訴に救急搬送となった.造影CTではTreitz靱帯近傍の空腸の狭窄,closed loop形成,嚢状像を認め,脱出腸管は中結腸動脈の左側に位置した.上・下腸間膜動静脈は正常位であり,明らかな腸回転異常を認めず,典型的な左・右傍十二指腸ヘルニアのCT所見も認めなかった.ヘルニア門を術前に同定できなかったが,傍十二指腸ヘルニア嵌頓と診断し,緊急手術を施行した.Treitz靱帯より10cmの位置から約30cmの空腸が結腸間膜間窩に嵌頓・壊死しており,壊死腸管を切除しヘルニア門を縫合閉鎖,空腸を横行結腸間膜に縫合固定した.結腸間膜間窩に生じた傍十二指腸ヘルニアという極めて稀な症例を経験したため報告する.

無水エタノールによる胆管焼灼術を行った離断型胆汁瘻の1例

三重大学医学部肝胆膵・移植外科

谷川 智美 他

 離断型胆汁瘻は難治性の合併症であるが,非観血的治療にて治癒しえた1例を経験したので報告する.症例は74歳の男性で,膵管内乳頭粘液性腫瘍に対してロボット支援下幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後6日目より後区域胆管からの胆汁瘻を認めた.術後14日目に,拡張した後区域胆管(B6)に対して経皮経肝胆道ドレナージを施行した.本人の非観血的治療の希望があったため,退院したのち,術後83日目に後区域門脈塞栓術を施行し,術後104日目に離断後区域胆管に対し胆道ドレナージチューブから無水エタノールを注入し,胆管焼灼術を施行した.その後,術後160日目まで合計10回の胆管焼灼術を施行したところ,術後165日目に胆汁瘻は治癒した.治療後2年10カ月の現在,再発を認めていない.エタノールによる門脈塞栓術および胆管焼灼術は治療期間が長期におよぶ場合もあるが,低侵襲で行える有効な治療法の一つであり,今回われわれは文献的考察を加えて報告する.

リンパ節転移を伴った胆嚢原発神経内分泌腫瘍(G2)の1例

古賀総合病院外科

籔田 佳帆 他

 症例は64歳,男性.CTにて胆嚢頸部に15mm大の隆起性病変を指摘され,当科へ紹介となった.10mm超の病変であり胆嚢腺腫や早期胆嚢癌を鑑別とし,切除生検目的に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.胆嚢病理所見はリンパ管侵襲陽性の神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;NET)G2であった.リンパ管侵襲を伴うNET G2であることから追加切除の適応と判断し,続いて拡大胆摘(S4a+5亜区域切除)および肝十二指腸間膜リンパ節を含めた領域リンパ節郭清を施行した.病理組織学検査でNo.8リンパ節に腺癌の転移を認めた.原発巣検索として上下部内視鏡検査を追加施行したが他臓器に腺癌の原発腫瘍を認めず,臨床的に胆嚢NETの形質転換したリンパ節転移と判断した.術後補助化学療法として半年間S1内服を完遂し,術後36カ月現在無再発生存中である.腫瘍径10mmを超え,リンパ管侵襲を伴うNET G2においてはリンパ節郭清を伴う原発巣切除が必要と考えられた.

不明熱の原因であった鼠径部腹膜中皮腫の1例

国立病院機構熊本南病院外科

林 尚子 他

 症例は78歳,女性.高熱の持続を主訴に近医を受診.不明熱の原因精査目的に当院に紹介となった.WBC・CRPの異常高値を認め,精査されるも原因の特定はできなかった.左下腹部~鼠径部に長径約5cmの腫瘤を認め,確定診断を得るため手術を施行.左恥骨~鼠径管~鼠径部後壁~外腹斜筋腱膜にはまり込むように約6cm大の腫瘤が存在し,腫大した鼠径リンパ節とともに摘除した.病理組織検査で,局所リンパ節転移を伴う左鼠径部原発の腹膜中皮腫と診断した.術後速やかにWBC・CRPは正常化し,完全に解熱した.貧血も改善し,術前高値であったsIL2-R・血清IL-6も正常化した.化学療法は施行せず,術後1年を経過したが無再発生存中である.
 腹膜中皮腫は,中皮腫の10~20%と発症頻度が低く,発見や確定診断が困難とされている.今回,不明熱の原因であった鼠径部腹膜中皮腫の1例を経験したので報告する.

ページトップ