日本臨床外科学会雑誌 第87巻2号 和文抄録

臨床経験

市中病院におけるCT lymphography下乳癌センチネルリンパ節診断

耳原総合病院外科

土居 桃子 他

 Computed tomography-lymphography(CTLG)は,乳癌のセンチネルリンパ節(SLN)同定において有用な画像検査である.今回,術前に撮像したCTLG画像を後方視的に検討し,SLN描出率と臨床病理学的因子の関連について解析を行った.さらに,術前リンパ節転移予測として,市中病院での実用性を検討した.
 患者背景は,年齢平均61.6±12.7歳,body mass index(BMI)は平均23.0±3.7,リンパ節転移陽性率は20.2%(76病変)であった.
 SLN描出率は92.2%で,多変量解析の結果,年齢62歳以上,BMI23.0未満,ホルモン感受性陽性と正の相関を示した.高度肥満症例の描出率は75.0%と低く,検査手技の見直しが必要と考えられた.SLNの造影欠損がある群ではリンパ節転移が有意に多く,造影欠損をリンパ節転移陽性の所見としたときの陰性適中率は85.0%と比較的良好であり,CTLGがリンパ節転移予測としても有用な画像検査となることが期待される.

症例

高カルシウム血症を伴ったPTHrP産生若年性線維腺腫(径20㎝)の1例

大分県立病院外科

増野 浩二郎 他

 悪性腫瘍に伴う高カルシウム(Ca)血症は日常診療でしばしば遭遇する病態である.破骨細胞活性化因子であるPTHrPが腫瘍細胞で産生され,骨吸収促進状態となることが高Ca血症をもたらす機序の一つである.PTHrPを産生する腫瘍の多くは悪性腫瘍であるが,良性疾患である若年性巨大線維腺腫において経験したので報告する.15歳,女性.右乳房の径20cmの腫瘤にて当科を受診した.胃部不快感,易疲労感を伴っていた.血液検査にて血清Ca値12.4mg/dLを認め,PTHrP高値を伴っていた.腫瘤の針生検は線維腺腫の診断で悪性所見は認めなかった.手術で右乳房腫瘤は摘出されたが,標本検体内に悪性所見は認めず,免疫染色にて腫瘍内の一部の腺管上皮にPTHrPの産生が認められた.術後速やかに血中Ca濃度は正常化し,症状も軽快した.乳腺良性腫瘍にてPTHrPを介した高Ca血症を伴った症例報告は今までになく,ここに報告する.

Pembrolizumabによる術前化学療法中にirAE腎障害を発症した乳癌の1例

春日井市民病院外科

川島 賢人 他

 症例は63歳,女性.CTにて偶発的に右乳腺結節を指摘された.精査にてトリプルネガティブ乳癌(cT2N1M0,cStageⅡB)と診断し,KEYNOTE-522試験に準じてpembrolizumabを含む術前化学療法を開始した.後半1サイクル終了後にGrade 4の腎障害を発症し,腎生検にて尿細管間質性腎炎と診断,免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)と判断した.ステロイド治療により腎機能は改善したが,術前化学療法は中止とし手術を施行した.術後補助療法は行わずステロイド投与を継続していたが,ステロイド性骨粗鬆症による仙骨骨折を併発し治療を要した.irAE腎障害は重篤化し得るため早期診断と適切な治療介入が必要であり,さらに,ステロイド治療による副作用管理も含めた包括的対応が重要である.乳癌患者におけるirAE腎障害の本邦報告例はこれまでになく,文献的考察を加え報告する.

開腹下胃内操作にて摘出した塩化ビニール手袋異食の1例

JCHO東京新宿メディカルセンター外科

深沢 智將 他

 症例は82歳,女性.認知症の既往があり,施設入所中に嘔吐を認めた.腹部CTで胃内に高吸収の異物を認めた.以前にも異食歴があり,胃内異物による嘔吐と診断した.上部消化管内視鏡検査による異物摘出術を試みたが,異物は硬化した塩化ビニール手袋であり,内視鏡的な回収は困難であった.開腹下に胃壁を切開し,単孔式デバイス(アルノート®ラップシングル)を装着して胃内操作を行い,手袋を摘出した.摘出後に胃内を観察し,異物の遺残がないことを確認した.開腹下に胃内操作を行うことで,胃壁切開を最小限に抑えつつ広範囲の観察と安全な異物摘出が可能であった.

コレステロール結晶塞栓症による結腸壊死の1例

春日井市民病院外科

伊藤 博崇 他

 症例は55歳の男性であった.当院循環器内科のスワンガンツカテーテルによる冠動脈造影検査を施行して数時間後に突然の腹痛を認めた.腹部所見に乏しく保存的治療の方針としたが,翌日腹部所見が増悪し,反跳痛を認めた.腹部造影CTでは門脈ガスを認め,上行結腸の壁の造影効果は乏しく,横行結腸は粘膜の造影効果は保たれていたが,浮腫状であった.上行結腸壊死の診断で緊急手術を施行した.開腹所見では上行結腸は壊死を認めた.切除範囲の決定のため術中にindocyanine greenを施行したところ,肉眼観察では色調良好であった横行結腸までの血流不全を認めた.拡大結腸右半切除術を施行した.術後病理学的検査でコレステロール結晶塞栓症による結腸壊死の診断に至った.術後8日目に循環器内科に転科となり,術後19日目に退院となった.今回われわれは,コレステロール結晶塞栓症による結腸壊死の稀な1例を経験したので,報告する.

過長症を伴ったS状結腸が嵌頓したS状結腸間膜裂孔ヘルニアの1例

JA愛知厚生連知多厚生病院消化器外科

中島 亮 他

 症例は60歳,男性.嘔吐,排便停止を主訴に救急外来を受診した.造影CTの結果,S状結腸の一部がclosed loopを呈しており,内ヘルニアによる絞扼性腸閉塞と考えられた.大網裂孔ヘルニアと術前診断し,緊急手術を行った.開腹すると,以前の虫垂炎手術による癒着を右下腹部に認め,剥離を進めると3横指ほどのS状結腸間膜裂孔へのS状結腸の嵌頓を認めた.愛護的に腸管を引き抜いたところ,腸管虚血や損傷を認めなかった.S状結腸は過長症を伴っていた.間膜裂孔を縫合閉鎖し手術を終了した.S状結腸間膜裂孔による内ヘルニアは比較的稀であり,内ヘルニア全体の数%とされる.以前の文献では脱出腸管の多くが小腸と報告されているが,本症例では過長なS状結腸がそれ自身の間膜裂孔に嵌頓する病態が生じていた.非常に稀と思われる形態の内ヘルニアの1例であり,文献的考察を加えて報告する.

髄液細胞診にて診断した大腸癌による癌性髄膜炎の2例

岐阜大学医学部消化器外科・小児外科

河原 樹 他

 癌性髄膜炎は大腸癌での発生は稀である.髄液細胞診にて診断した大腸癌を原発とする癌性髄膜炎を2例経験した.症例1:76歳,男性.直腸癌術後の肝および遠隔リンパ節転移に対して,三次治療中であった.意識障害をきたし造影MRIで異常を認めなかったが,髄液細胞診にて癌性髄膜炎と診断した.対症療法により一時的な意識障害の改善を認めたが,入院27日目に永眠した.症例2:80歳,女性.横行結腸癌を原発とする副腎および多発遠隔リンパ節転移に対し,一次治療中であった.意識障害をきたし造影MRI,髄液細胞診にて癌性髄膜炎と診断した.対症療法に加え化学療法と全脳照射を行ったが,入院23日目に永眠した.意識障害や嘔吐,頭痛などの神経症状を認める際は癌性髄膜炎を鑑別に挙げる必要がある.低分化腺癌や高度リンパ節転移を有する症例は高リスクとされる.造影MRIが有用であるが異常所見を認めない場合もあり,癌性髄膜炎を強く疑う場合には髄液検査を考慮すべきである.

EMR後膵頭切除を行った十二指腸水平部神経内分泌腫瘍の1例

KKR高松病院消化器外科

藤田 尚久 他

 症例は48歳の男性.人間ドックで十二指腸水平部に12mm大の有茎性の粘膜下腫瘍を指摘された.診断的治療の目的で,まず上部消化管内視鏡下の内視鏡的粘膜切除術(EMR)を実施し,一括切除された.病理組織検査でNET G1の診断であった.リンパ管侵襲が認められたため,当科に紹介となった.追加切除の方針とし,リンパ節郭清の目的で膵頭十二指腸切除を施行した.切除標本に腫瘍の遺残はなく,リンパ節転移は認められなかった.十二指腸神経内分泌腫瘍(NEN)に対する治療は,腫瘍径10mm以下かつ深達度SMまででは内視鏡的粘膜切除術(EMR)が推奨されているが1),非乳頭部の神経内分泌腫瘍は非常に稀な疾患であり,治療方針やリンパ節転移の予測因子などのコンセンサスは得られていない.今後,さらなる症例の蓄積が待たれるところである.

腹腔鏡下脾温存膵体尾部切除術を行った腎癌術後34年目の膵転移の1例

大阪府済生会中津病院外科・消化器外科

佐野 隼大 他

 80歳,男性.右腎癌に対して右腎摘出術を施行.術後34年目に腹部エコー検査で膵尾部腫瘤を指摘された.超音波内視鏡検査では膵尾部に10mm大の類円形,境界明瞭な腫瘤性病変を認めた.主膵管との連続性や脾動静脈への浸潤は認めなかった.超音波内視鏡下穿刺吸引法を行い,病理結果から淡明細胞型腎細胞癌の膵転移と診断した.膵転移は孤立性であり,他臓器への転移や膵周囲リンパ節の腫大も認めなかったため,脾動静脈温存を伴う腹腔鏡下脾温存膵体尾部切除術(LSPDP)を施行した.腎癌は根治切除後も長期間を経過して遠隔転移をきたすことがあるが,膵への孤立性転移は切除によって長期生存が期待できる.系統的なリンパ節郭清を行わない場合,LSPDPは低侵襲かつ脾臓温存による免疫機能の維持が可能であり,よい適応であると考えられた.

鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡下手術中に判明した交叉性精巣転位の1例

平塚市民病院外科

正源 勇朔 他

 症例は67歳,男性.左鼠径部膨隆を主訴に来院し,左鼠径ヘルニアの術前診断で,腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)を施行した.術中所見で左内鼠径輪から膀胱後面を通り右背側へ向かう索状物を腹膜下に認めたため,腹膜を切開して観察したところ,正常な左精巣動静脈と左精管に加え,右精巣動静脈と右精管が左鼠径管に進入していた.術中の陰嚢触診で左陰嚢内に精巣を2個認め,右陰嚢内に精巣を触知しなかったことから,交叉性精巣転位(TTE)と診断した.術中の触診・超音波検査で精巣内に腫瘍を疑う所見はなく,泌尿器科と協議し精巣摘除や固定術は不要と判断し,右精索も十分に剥離した上で,メッシュを留置して予定通りTAPP法を完遂させた.術後は再発や合併症はなく経過し,6カ月で終診とした.成人男性のTTEに合併する鼠径ヘルニアに対してTAPP法でのヘルニア修復術を施行した症例の報告は極めて少なく,文献的考察を加えて報告する.

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