日本臨床外科学会雑誌 第87巻5号 和文抄録
症例
血液透析患者にCDK4/6阻害薬を投与した乳癌の2例
JA山口厚生連周東総合病院外科
池下 貴広 他
今回,血液透析(HD)患者にcyclin-dependent kinase(CDK)4/6阻害薬を導入した2症例を経験したので報告する.症例1:87歳,女性.同時性両側乳癌(ER陽性・PgR陽性・HER2陰性,右側pT3N1M0,左側pT1cN0M0)の術後薬物療法としてletrozole+abemaciclib(1段階減量)を開始.開始後1年2カ月経過し,休薬・中止に至る有害事象は認めなかったが,シャント閉塞から透析困難となり腎不全で死亡した.症例2:73歳(再発時),男性.右乳癌術後(ER陽性・PgR陽性・HER2陰性,pT2N1M0).術後2年で骨転移を発症し,palbociclib(1段階減量)+letrozole+goserelin acetateを開始.休薬・中止に至る有害事象は認めなかったが,3カ月後にcPDとなったためre-biopsyを施行した結果,triple-negative breast cancerと診断されたため薬剤変更となった.
HD患者へのCDK4/6阻害薬投与は,慎重な用量調整と経過観察を前提に使用し得る可能性が示唆された.
再手術とステント留置を行った食道切除後の胃管内容排泄遅延の1例
岡崎市民病院外科
堀場 大輝 他
症例は44歳,男性.食道胃接合部腺癌に対し,術前補助化学療法後に胸腔鏡・腹腔鏡併用下食道亜全摘,後縦隔経路胃管再建を行った.術後の悪心が遷延し,胃管の拡張と右胸腔への偏位を認め,胃管の屈曲による通過障害が疑われた.胃管の直線化と固定を目的として再手術を行ったが症状が軽快せず,胃管の屈曲部に自己拡張型金属ステントを留置したところ,通過は改善し経口摂取が可能になった.2カ月半後にステントを抜去しても通過は維持され,3年が経過する現在も通過障害の再燃を認めていない.食道切除後の胃管内容排泄遅延(delayed gastric conduit emptying;以下DGCEと略記)に対する治療法は,内視鏡的治療から外科治療まで様々な選択肢があるが,適応は定まっていない.一時的なステント留置は低侵襲であり,自験例に類する臨床像であれば有効な選択肢になり得ると考えられた.DGCEの治療法を標準化するためには定義を明確にした上で,さらなる症例の集積が望まれる.
リンパ節サンプリングの術中診断が治療方針決定に寄与した胃神経鞘腫の1例
近畿大学奈良病院消化器外科
山平 陽亮 他
症例は60歳,女性.検診の上部消化管内視鏡検査で胃粘膜下腫瘍を指摘され,精査加療目的で紹介となった.腹部造影CTでは前庭部から外方発育する4cm大の腫瘤および腫瘍近傍のリンパ節腫大を認めた.生検組織の免疫染色の結果,胃神経鞘腫の診断となった.リンパ節転移の可能性も考えられたため,手術では腹腔鏡下に腫瘍近傍の腫大リンパ節をサンプリングした.術中診断で転移を認めず,良性の神経鞘腫の診断で,腹腔鏡下胃局所切除を行った.術後経過は良好で,術後5日目に退院となった.術中迅速診断を行うことでリンパ節郭清を省略し,胃局所切除を行った症例を経験した.
胃原発無色素性悪性黒色腫の1例
相澤病院外科センター
久田 佳奈 他
症例は77歳,女性.貧血の進行を認め,上部消化管内視鏡検査を施行した.胃体上部大弯に境界明瞭な隆起性病変を認め,生検で胃癌が疑われた.胃癌cT4aN2M0,cStageⅢの診断で,開腹胃全摘術,D1+郭清,Roux-en-Y法再建を施行した.腫瘤は穹窿部で腹腔内に大きく露出し,肝転移や腹膜播種を認めなかった.組織像は隆起に一致して大型の核を有するN/C比の高い異型細胞の増殖・浸潤が見られ,S-100,HMB-45ともに陽性で胃悪性黒色腫の診断に至った.また,画像検索にて転移や原発巣を認めず,胃が原発であると判断した.
経過は良好で,術後第14日目に退院した.術中洗浄細胞診が陽性であり術後化学療法を検討したが,食思不振,活気不良など全身状態の低下のため施行できず,術後151日目に原病死した.
胃原発の悪性黒色腫はまれで非常に予後不良とされており,貴重な1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
Treitz靭帯近傍空腸に嵌入した有鈎義歯誤飲の1例
国立病院機構大阪医療センター外科
山本 昌明 他
症例は73歳,男性.飲酒後に有鈎義歯を誤飲したが自然排出を期待し失念していた.検診のCTにてTreitz靱帯近傍の空腸内に有鈎義歯を認め,当院に紹介となった.無症状でCT上は穿孔所見を認めなかった.上部消化管内視鏡検査では有鈎義歯の鈎部が粘膜に嵌入しており内視鏡的摘出は不可であったため,術前に義歯口側へ点墨を施行したうえで,腹腔鏡下摘出術を施行した.Treitz靱帯より約3cmに点墨部を認めた.空腸を切開して義歯を摘出し,腹腔鏡下に縫合閉鎖した.術後経過は良好で,合併症なく退院した.Treitz靱帯近傍など腸管授動が困難な部位に停滞した有鈎義歯に対し,本術式は低侵襲で有用な治療であると考えられた.
腹腔鏡下リンパ節生検後に発症した5mmポートサイトヘルニアの1例
大阪赤十字病院消化器外科
岩井 祐人 他
症例は71歳,女性.腸間膜リンパ節腫大に対して腹腔鏡下腸間膜リンパ節生検を施行した.右下腹部に5mmバルーン付きポートを使用した.術後2日目に右下腹部痛・嘔吐が出現し,術後5日目のCTで右下腹部のポートサイトへの小腸の嵌頓を認めた.ポートサイトヘルニア嵌頓の診断で緊急手術を施行した.腹腔鏡で手術を行い,小腸嵌頓解除およびヘルニア門の縫合閉鎖を行った.腸切除は不要であった.再手術後は合併症なく経過し,術後3年の現在も無再発である.ポートサイトヘルニアの原因として,術中ポートの再挿入による筋膜の損傷やSpigelian hernia beltに挿入していたことが考えられた.それらが懸念される場合には,挿入部の縫合閉鎖が必要と考えられる.また,術後早期のイレウスでは腹部膨隆がない場合でも本疾患を念頭に置き,早期の画像検査が有用であると考えられる.
腹腔鏡下インドシアニングリーン蛍光法が有用であった絞扼性腸閉塞の2例
小山記念病院外科
橋本 宏彬 他
絞扼性腸閉塞においてインドシアニングリーン(indocyanine green;以下,ICGと略記)で腸管血流評価をすることで,腸管切除の回避や切除長の短縮が可能とされている.しかし,ICG蛍光法による造影所見と腸管のviabilityに関して明確な指標はない.われわれは絞扼性腸閉塞2例に対して腹腔鏡下にICG蛍光法を用い,腸管壁に欠損なく造影効果が見られた1例で絞扼腸管を温存し,一部造影不良が見られた1例で再手術時に腸管切除を行った.自験例と過去の報告を参考にICG蛍光所見に基づく腸管温存の可否について検討し,絞扼性腸閉塞における初回手術と以降の治療方針を提示した.加えて,2例とも腹腔鏡下に通常光・ICG蛍光同時観察機能を用いることで,絞扼腸管の通常光所見およびICG蛍光所見を同時かつ連続的に観察でき,有用であった.
虫垂粘液嚢腫と鑑別が困難であった虫垂真性憩室炎の1例
愛媛県立新居浜病院消化器外科
髙本 真澄 他
症例は80歳,男性.右下腹部痛を主訴に当院消化器内科を受診.コンピュータ断層撮影(computed tomography:CT)で虫垂根部に腫大があり,大腸内視鏡検査で虫垂に粘膜下腫瘍様の隆起を認めた.虫垂粘液腫瘍が疑われ,当科に紹介となった.画像検査・内視鏡検査で虫垂粘液嚢腫と診断し,腹腔鏡下盲腸部分切除術を施行した.病理組織検査では嚢胞壁に上皮組織と菲薄化した筋層を認め,リンパ球の浸潤があり,虫垂真性憩室炎と診断した.虫垂憩室はCollins1)の報告では,手術症例および剖検例1.5%に虫垂憩室を認め,そのうち0.02%に真性憩室を認めたと報告が有り,非常に稀な疾患である.また,虫垂憩室炎は画像所見では,虫垂粘液嚢腫や急性虫垂炎と鑑別が困難である.今回われわれは,虫垂粘液嚢腫と鑑別が困難であった虫垂真性憩室炎を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
偶発的に見つかった高異型度虫垂粘液性腫瘍の1例
昭和伊南総合病院外科
櫻井 尽 他
高異型度虫垂粘液性腫瘍(high-grade appendiceal mucinous neoplasm:HAMN)は2019年のWHO分類で新たに追加された虫垂粘液性腫瘍の亜型である.HAMNは低異型度虫垂粘液性腫瘍と同様に浸潤性発育を示さないが,腫瘍細胞に明らかな細胞異形や微小乳頭状,篩状構造などの構造異形を呈する.症例は70歳,男性.右大腿部蜂窩織炎の診断で入院となり,CTで偶発的に虫垂腫瘍を認めた.虫垂は最大径80mm大に腫大し,虫垂粘液性腫瘍が疑われた.蜂窩織炎の加療後,腹腔鏡下回盲部切除術を行った.切除標本肉眼的所見では,虫垂は粘稠な粘液を内包し嚢胞状に拡張,病理組織学的検査では,部分的に核腫大や核異型の増強した円柱上皮細胞が不整な乳頭・腺管構造を形成していたが,間質浸潤像や脈管浸潤は見られず,HAMNと診断した.偶発的に見つかったHAMNの1例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.
術後十二指腸通過障害をきたした結腸脾彎曲部癌の1例
立川相互病院外科
松本 麻衣 他
腹腔鏡下結腸左半切除術後に十二指腸通過障害をきたし,手術を行った症例を経験した.56歳,男性.結腸脾彎曲部癌による腫瘍性腸閉塞で大腸ステント留置.その後,腹腔鏡下結腸左半切除術(D3郭清)を施行した.術後2日目に嘔吐と胃の著明な拡張を認め胃管留置.麻痺性イレウス疑いで保存的加療を行ったが改善なく,術後12日目に審査腹腔鏡を施行.吻合後に縫合閉鎖した間膜の背側で,十二指腸水平脚と空腸起始部がヘアピンカーブ状に屈曲して癒着しており,通過障害の原因と考えられた.剥離困難であり,屈曲部分でそのまま側々吻合でバイパス手術を行った.授動に伴い空腸起始部の可動性が増し,十二指腸空腸曲を起点に屈曲したところで,間膜間隙の縫合閉鎖によりさらに屈曲が強まったことが原因と考えられた.結腸左半切除では十二指腸・空腸起始部と吻合部が近接する位置関係となるため,空腸起始部の偏位にも留意すべきと考えられ,文献的考察を加え報告する.
根治切除後に水疱性類天疱瘡が軽快した下行結腸癌の1例
JCHO埼玉メディカルセンター外科
髙橋 優太 他
症例は41歳,男性.2年前に水疱性皮疹の出現を認め,皮膚生検所見と抗BP180抗体高値から水疱性類天疱瘡と診断され,ステロイドの全身投与が開始された.当初は悪性腫瘍の検索は行われなかった.2週間前からの腹痛と発熱を主訴に当院を受診し,膿瘍形成を伴う進行下行結腸癌と診断された.入院管理下での抗菌薬投与により感染の改善を得た後に,根治手術を施行しR0切除を得た(pT4bN2aM0,pStageⅢc).入院時には皮膚症状の鎮静化を得ていたが,入院後はステロイドの全身投与中止に伴って皮膚症状の再燃を認めていた.しかし,手術後は皮膚所見の自然軽快が得られ,抗BP180抗体値も自然低下を認めた.その後,皮膚症状は完全に消退し,術後5年以上にわたって,大腸癌・水疱性類天疱瘡ともに再発なく経過した.臨床経過から,腫瘍随伴性の水疱性類天疱瘡であった可能性が示唆される症例であった.
直腸反転法を用い腹腔鏡下低位前方切除を行った直腸脱を伴う直腸癌の1例
岡山市立市民病院外科
藤井 健人 他
直腸脱は日常診療でよく知られている疾患であるが,直腸癌を合併することは稀である.今回われわれは,直腸脱を伴う直腸癌に対し直腸反転法を用いた腹腔鏡下低位前方切除を行った.症例は65歳の女性.以前から直腸脱を繰り返していたが,その都度自己用手的に還納しており,医療機関への受診歴はなかった.今回,直腸脱の嵌頓とその先進部にカリフラワー状の隆起性腫瘍を認め,精査加療目的に当院救急外来に紹介となった.脱出腸管の還納整復はできなかったが血流障害や腸閉塞はなく,緊急手術は回避し,待機的に切除手術を行う方針とした.嵌頓病変は術中も還納を試みたが整復に至らず,直腸反転法を用いた腹腔鏡下低位前方切除を行った.直腸反転法を応用することで,肛門外に嵌頓した直腸癌に対し,無理な還納・整復操作を行うことなく切除を行うことが可能であった.術後合併症なく経過し,直腸癌および直腸脱の再発は認めていない.腫瘍を先進部とした直腸脱の整復困難な症例に対し,本術式は有用であると考えられた.
膵粘液性囊胞腫瘍との鑑別が困難であった膵リンパ上皮囊胞の1例
信州大学医学部外科学教室消化器・移植・小児外科分野
西山 大貴 他
症例は58歳,女性.腹部MRIにて,膵腫瘤が疑われ当科に紹介となった.造影CT・MRIでは膵体部上縁から頭側へ突出するbeak sign陽性の多房性囊胞性腫瘤を認めた.内部に隔壁構造と,複数のcyst in cystを認めたが,主膵管との交通や壁在結節は認めなかった.超音波内視鏡では膵体部に境界明瞭の低エコー腫瘤として描出され,膵粘液性囊胞腫瘍(MCN:mucinous cystic neoplasm)疑いにて手術を施行した.術前検査では膵内の腫瘤を考えたが,境界明瞭で膵からの剥離が可能であり,腫瘤摘出術のみ施行した.腫瘤は多房性囊胞性で,cyst in cystを認め,デブリスを含有していた.病理組織学的検査ではリンパ上皮性囊胞(LEC:lymphoepitehlial cyst)と診断された.
LECは他の囊胞性疾患との鑑別が難しく,MCNとの鑑別が困難であった膵LECの1例を経験したため報告する.
腹水貯留で発症した腹膜サルコイドーシスの1例
JA徳島厚生連吉野川医療センター外科
杉本 光司 他
症例は63歳,女性.腹部膨満と右下腹部痛を主訴に受診した.腹部膨満と右下腹部に圧痛を認めた.上部下部消化管内視鏡で腫瘍性病変はなく,腹部骨盤部造影CTで上行結腸壁の肥厚と複数個の辺縁不整な小結節,腹水貯留,18F-FDG PETで腹腔内の広範囲にFDGの集積が認められた.以上より,癌性腹膜炎の診断で審査腹腔鏡を施行した.術中所見では多量の混濁した腹水や両側横隔膜下,大網,小腸,大腸,腸間膜,腹壁全体,骨盤壁に白色調の小結節が多数認められた.大網,腹膜の病理組織学的所見で非乾酪性肉芽腫が認められた.また,血清可溶性インターロイキン-2(IL-2)受容体高値や18F-FDG PETにおける著明な集積所見から,腹膜サルコイドーシスと診断した.術後1カ月目よりステロイド治療を開始し,3カ月目には腹水の消失や臨床症状の改善を認めた.術後4年となる現在,少量ステロイド内服にて寛解を維持している.
今回,われわれは腹水貯留で発症した腹膜サルコイドーシスの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
腹腔鏡手術を行った腸回転異常に合併した右傍十二指腸ヘルニアの1例
大野記念病院外科
多田 隆馬 他
症例は54歳,女性.腹痛・嘔吐を主訴に前医を受診し,腹部CTで内ヘルニアが疑われ当院に紹介受診となった.腹部CTでは右側結腸間膜背側に嚢胞状構造物を認め,その内部に広範囲の小腸が嵌頓していた.また,腹水を認めたため,内ヘルニアによる絞扼性腸閉塞と診断し,腹腔鏡下に緊急手術を施行した.手術所見では,回盲部左側,右側結腸間膜下縁に4cm大のヘルニア門を認め,ここから広範囲に小腸が嵌頓しており,これを解除した.小腸の壊死は認めなかったため,切除は行わなかった.ヘルニア嚢は右側結腸間膜下に大きく広がっており,ヘルニア嚢内に十二指腸は水平脚を形成せず空腸へと移行していた.十二指腸空回腸脚不完全型の腸回転異常を背景とした右傍十二指腸ヘルニアによる絞扼性腸閉塞と診断し,ヘルニア門を大きく開放し腸閉塞の再発予防を行った.腸回転異常に伴った右傍十二指腸ヘルニアの1例を経験した.
術後15年目にメッシュプラグがMeckel憩室へ穿通した鼠径ヘルニアの1例
JA山口厚生連周東総合病院外科
林 雅規 他
鼠径ヘルニア修復術はメッシュを用いたtension-free法の普及により再発率が低下した.中でもRutkowらが提唱したメッシュプラグ法は手技が簡便で短期成績良好であるが,遠隔期に臓器穿通などの重篤な合併症をきたすことがある.症例は78歳,男性.左鼠径ヘルニア術後15年目に左鼠径部腫脹と疼痛を自覚した.CTで膿瘍を認め,切開排膿ドレナージを行ったが改善せず,メッシュ除去術を施行した.術中,プラグ先端がMeckel憩室に穿通しており,憩室切除と洗浄ドレナージを行った.術後経過は良好でヘルニア再発は認められない.文献検索ではメッシュプラグのMeckel憩室穿通例は国内外に報告がなく,本症例が初報と考えられる.本症例は,メッシュプラグ法が胎生期の遺残であるMeckel憩室にも穿通しうることを示した.また,本法は遠隔期に腸管関連合併症を起こす可能性があるため,術式選択に際しては慎重な判断と,術後の長期的なフォローアップが重要と思われた.