日本臨床外科学会雑誌 第86巻9号 和文抄録

症例

乳房に生じたIgG4関連疾患の1例

東京女子医科大学乳腺外科

青山 圭 他

 乳房にIgG4関連硬化性疾患が生じ,長期経過観察中の症例について報告する.症例は56歳,女性.52歳頃より両側乳腺線維腺腫にて定期的に近医を受診.56歳の時に両側乳房腫瘤増大を認め,当院を受診.48歳の時に特発性眼窩筋炎との診断にてステロイド加療を受けていた.初診時,両側に手拳大の腫瘤様硬結を触知,超音波検査にて乳腺組織全体を占める分葉楕円形腫瘤を認め,マンモグラフィ検査では高濃度乳腺であった.画像上は悪性リンパ腫等も疑われ超音波下針生検を施行し,病理検査所見は間質の線維化,リンパ形質細胞浸潤を認めた.悪性所見は認めず,両側乳腺腫瘍に関しては経過観察中に肺病変が出現し,IgG4関連疾患との診断に至った.

局所再発を経て悪性転化と全身転移をきたした乳腺の腺筋上皮腫の1例

豊橋市民病院一般外科

下山 咲 他

 症例は63歳,女性.7年前に他院で左乳房腫瘤に対し摘出術を施行され,乳管内乳頭腫の診断であった.2年後に局所再発し,再切除の結果,良性腺筋上皮腫と診断された.今回,腰痛・大腿部痛を発症し,転移性骨腫瘍の疑いで当院を紹介受診した.造影CTで,肺・肝臓・骨・皮膚など全身に多発する腫瘍性病変を認めた.骨・肺・皮膚腫瘤を生検すると,5年前に腺筋上皮腫と診断された乳腺腫瘤と病理組織学的に類似していた.乳腺腫瘤の所見のみでは良悪性の鑑別が困難であったが,全身に転移している状況から,悪性腺筋上皮腫と診断した.Doxorubicin+cyclophosphamide療法,paclitaxel+bevacizumab療法を施行したが奏効せず,急速に全身状態が悪化し,当院の初診から6カ月で死亡した.
 悪性腺筋上皮腫はまれな疾患で,転移再発時には予後不良である.腺筋上皮腫は局所再発により悪性転化をきたすことがあり,早期の完全切除が重要であるが,薬物療法についてはさらなる検討が必要である.

乳腺低異型度腺扁平上皮癌の1例

兵庫県立加古川医療センター乳腺外科

庄司 夢 他

 低異型度腺扁平上皮癌(low-grade adenosquamous carcinoma:LGASC)は化生癌に分類される稀な乳癌であり,その多くはtriple negative type(TN)乳癌であるが悪性度は低い.病理学的所見において異型度の弱い胞巣や,扁平上皮分化の軽い部位であった場合,全体像を捉えられず悪性との確定診断を付けることが難しく,時に線維腺腫を代表とする良性腫瘍や硬化性腺症と診断されている例もある.大半のTN乳癌とは異なり,LGASCは比較的緩徐な臨床経過をとるため,適切な管理には,この病変を認識することが重要である.今回,画像所見では乳癌を疑うも,針生検では細胞異型が軽度のため悪性の診断には至らず,摘出生検によりLGASCとの診断がついた1例を報告する.

IgG4関連硬化性乳腺炎を併存した乳癌の1例

愛媛大学医学部附属病院乳腺センター

青野 真由子 他

 59歳,女性.自己免疫性膵炎,IgG4関連疾患に対し当院外科にて精査中に,PET-CTにて右乳腺C区域に不整形の結節影と同部位へのFDG集積を認めたため,精査目的に当科を紹介受診.同腫瘤に対し針生検を施行し,右乳癌cT1cN0M0 StageⅠと診断.MRIにて同部位にrapid-washout patternの造影効果を伴う不整形腫瘤に加え,A区域に漸増性の造影効果を伴う境界明瞭な腫瘤を認めた.細胞診を施行したが,炎症細胞のみを認め検体不適正であった.術式決定のために追加の針生検を検討したが,乳房全切除術を希望したため,右乳房全切除術+センチネルリンパ節生検を施行した.術後病理結果にて,A区域の腫瘤はIgG4形質細胞の著明な浸潤を認め,IgG4関連硬化性炎症と診断した.乳癌に対しては,術後補助治療としてレトロゾール投与を開始した.IgG4関連疾患に対しては,術後他病変が縮小傾向であること,自覚症状がなく本人の希望もあり,ステロイド投与は行わず経過観察している.

脱毛症に対する5α還元酵素阻害剤7年間内服後のBRCA2陽性男性乳癌の1例

鹿児島市立病院乳腺外科

野元 優貴 他

 5α還元酵素阻害剤(5 alpha-reductase inhibitor,以下5-ARI)長期内服歴のあるBRCA2陽性男性乳癌を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
 症例は48歳,男性.男性型脱毛症に対し5-ARIを7年間服用していた.左胸壁腫瘤を自覚,精査目的に当院を初診した.針生検の結果,左乳癌の診断であり,BRCA1/2遺伝子検査でBRCA2変異陽性を認めた.左乳癌に対し左乳房全切除術と腋窩センチネルリンパ節生検を施行した.最終病理診断は浸潤性乳管癌,硬性型,pT1bN0M0 StageⅠ(ER陽性,PgR陽性,HER2陰性,Ki-67 17%)であった.Oncotype DX検査は希望せず,術後補助療法としてタモキシフェン単剤を選択したが,内服開始から10カ月後に脱毛を主訴に自己中止した.
 5-ARIは男性型脱毛症の治療薬として広く使用されているが,男性乳癌との因果関係は現時点では明らかではなく,今後の症例蓄積と検討が望まれる.

膵癌肝転移と乳癌治療後に7年再発なくリスク低減手術を行ったHBOCの1例

東京女子医科大学附属八千代医療センター乳腺・内分泌外科

地曵 典恵 他

 症例は55歳,女性.47歳時に肝臓S4に単発の肝転移を有する膵癌cStageⅣと診断され,化学療法としてmFOLFIRINOXを開始した.化学療法開始2カ月後,CTにて右乳房腫瘤を指摘され乳癌の重複が判明した.乳癌は浸潤性乳管癌,ER陽性,PgR陽性,HER2陰性,cT2N0M0(StageⅡA)と診断した.ホルモン治療としてタモキシフェンを併用するも乳癌は増大したため,乳房切除術を施行した.その後,膵癌は肝転移が消失し,治癒切除が期待されると考え,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.膵癌の術後2年時に遺伝学的検査を施行し,BRCA2病的バリアントを認め,遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)と診断した.術後7年まで再発なく経過したため,対側リスク低減乳房切除術(CRRM)とリスク低減卵管卵巣切除術(RRSO)の同時手術を施行した.他癌の重複もしくは既往症例に対するリスク低減手術の効果は明らかではなく,リスク低減手術の適応について検討を要した.文献的考察を加えて報告する.

超音波内視鏡下穿刺生検により胆管転移と診断された乳癌の1例

がん・感染症センター都立駒込病院外科(乳腺)

松田 碧偉 他

 再発乳癌治療において,転移巣の生検は診断と治療において重要である.特に,HER2陽性乳癌では,抗HER2療法によりHER2が陰転化する場合もあり,転移巣のbiologyの確認は有用である.今回,われわれは超音波内視鏡下穿刺生検法(endoscopic-ultrasound guided fine-needle biopsy;以下EUS-FNB)を施行し,乳癌胆管転移と診断された症例を経験したので報告する.症例は58歳,女性.皮膚・子宮・付属器・直腸転移の診断で,トラスツズマブデルグステカンを投与中であった.上腹部痛が出現し,EUS-FNBを施行し,乳癌胆管転移と診断された.免疫染色では,ホルモン受容体陰性・HER2陽性であり,ラパチニブ・カペシタビンに変更した.乳癌転移巣の生検では悪性の有無だけではなく,ホルモン受容体やHER2-statusの確認も肝要と思われた.

ペムブロリズマブが奏効した乳腺化生癌の2例

栃木県立がんセンター乳腺外科

石川 結美子 他

 症例1は59歳,女性.急速に増大する乳房腫瘤に対し針生検を施行し,病理結果は化生癌を最も考える所見であった.トリプルネガティブタイプで,術前化学療法としてペムブロリズマブ(PEM)+カルボプラチン+パクリタキセル(PTX)およびPEM+エピルビシン+シクロフォスファミド投与を行い,腫瘤は著明に縮小し,pCRとなった.症例2は56歳,女性.5年前に悪性葉状腫瘍の診断で,乳房部分切除術と術後放射線療法が施行された.その後肺転移再発を認め,肺切除検体からは化生癌の病理結果であった.その後腰椎に転移再発を認め,PEM+PTX投与によりPRを維持している.化生癌はトリプルネガティブタイプが多く,乳癌の中でも予後が悪い,化学療法が効きにくいといわれている.今回,免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブを術前化学療法で使用した症例,転移再発症例で使用した症例においての治療効果について報告する.

胸腔鏡下右S区域切除術を行った硬化性肺胞上皮腫の1例

済生会山口総合病院外科

山田 城 他

 症例は80歳,女性.2018年より胸部CTで右下葉に結節を認めていたが,徐々に増大するため,手術目的で紹介となった.胸部CTでは,右Sに9mmの類円形の結節を認めた.腫瘍径が小さく,増大速度も遅いことから,手術術式は胸腔鏡下右S区域切除術とした.病理組織検査の結果,腫瘍は硬化性肺胞上皮腫で,切除断端距離は10mmであった.術後経過は良好で,術後8日目に退院となった.現在,無再発で経過している.腫瘍と切除断端との距離が十分確保できる症例に対しては,胸腔鏡下S区域切除術は呼吸機能温存が期待できることから,選択肢になりうる.

自然退縮後再増大がみられた肺癌の3例

山梨大学医学部呼吸器外科

反頭 智裕 他

 悪性腫瘍の自然退縮とは,無治療もしくは不十分な治療にも関わらず腫瘍の一部または全体が消失する現象であり,原発性肺癌での報告は稀である.今回われわれは,自然退縮後に再増大を認め手術に至った原発性肺癌3例を経験した.ガイドラインでは,肺の結節影に対しての長期にわたる経過観察の重要性が指摘されている.症例2・3においても,結節影が自然退縮し手術適応なしと判断された後の経過観察により,早期に再増大を発見できたため,縮小手術を行うことができた.また,自然退縮の機序に関してはCD8陽性T細胞による免疫学的要因が関与する可能性が示唆されており,症例1-3においても今後検討が必要である.

リンパ節転移を伴った胃原発血管周囲類上皮腫瘍の1例

宮崎県立宮崎病院外科

西田 脩通 他

 患者は乳癌手術歴のある70歳,女性.腎機能悪化の精査目的で行われたCTで胃穹窿部と脾門部の2箇所に径2-3cmの境界明瞭な腫瘤性病変を指摘され,精査加療目的で当院を紹介された.造影CTでは辺縁優位に強く造影され,超音波内視鏡検査で胃病変は第4層と連続した腫瘤であったため,gastrointestinal stromal tumor(GIST)やその他の悪性腫瘍の転移,または多発病変等を疑って腹腔鏡下胃局所切除・脾門部腫瘤切除術を施行した.2個の腫瘤は表面平滑で内部は白色調でやや不均一な構造を呈しており,組織学的にはどちらの腫瘤も淡明,または弱酸性の細胞質を有する類上皮細胞の充実性増殖を呈した.免疫組織化学的にHMB-45やD2-40,TFE3が陽性で血管周囲類上皮腫瘍(perivascular epithelioid cell tumor,PEComa)と診断した.また,脾門部の腫瘤は一部にリンパ節構造を有しており,リンパ節転移と診断した.胃原発PEComaは非常に稀であり,文献的考察を加え報告する.

再発胃癌との鑑別が困難であった心転移を伴う悪性リンパ腫の1例

豊橋市民病院一般外科

加藤 曉俊 他

 症例は83歳,女性.貧血精査で進行胃癌を指摘され,開腹幽門側胃切除術を施行した.病理診断は低分化型腺癌で,pT3(SS),N1,M0,pStageⅡBであった.術後補助化学療法は行わなかった.術後6カ月のCTで多数のリンパ節腫大,肺および皮下の結節性病変,さらに心房中隔に腫瘤が認められた.2週間後の外来で背部痛と失語を訴えたため再検査を行うと,脳や骨を含む全身の新規病変を認めた.6日後には心不全となって入院し,状態は改善せずに入院14日目に死亡した.胃癌再発を第一に考えていたが,急速な経過で心転移も稀であったため,死因究明のために病理解剖を施行したところ,再発所見はなく全身にリンパ球浸潤を認め,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断された.進行胃癌術後であっても,全身性に急速な腫瘍進行をきたした場合は悪性リンパ腫を含めた他疾患を鑑別に入れる重要性が示唆された.

Meckel憩室の結節形成に起因した絞扼性腸閉塞の1例

亀田総合病院消化器外科

宮嶋 康次郎 他

 Meckel憩室は卵黄腸管遺残による先天性消化管奇形で,多くは無症状だが,腸閉塞を合併することがある.症例は腹部手術歴のない70歳の女性で,腹痛を主訴に来院し,CTで絞扼性腸閉塞および消化管穿孔を疑い,緊急手術を行った.術中所見では,腹腔内は一部腸液様の汚染があり,6cm程度の長さのMeckel憩室が結節を形成し,回腸絞扼の起点となっていた.この結節を解除し,Meckel憩室を切除した.絞扼されていた回腸に壊死,穿孔はなかったが,囊状のMeckel憩室先端部に穿孔を認めた.Meckel憩室による腸閉塞には様々な機序が報告されているが,自験例のような機序は稀である.過去の報告では,ほとんどの症例で腸管壊死を認め,小腸切除が行われており,腸管虚血のリスクが高い腸閉塞として注意が必要である.無症候性Meckel憩室を切除すべきか一定の見解はないが,憩室が長く,先端が囊状のものは結節形成による腸閉塞の可能性があり,無症候でも予防的切除を検討すべきであると考えられる.

Meckel憩室を併存した腸回転異常症による絞扼性腸閉塞の1例

石切生喜病院外科

松田 英恵 他

 症例は34歳,男性.下腹部痛を主訴に当院救急外来を受診した.腹部所見,腹部CT画像から絞扼性腸閉塞が疑われ外科に紹介,緊急手術の方針となった.術中所見にて回盲部から上行結腸は後腹膜に固定されておらず,小腸から上行結腸の一部が大きく捻転していたため,腸回転異常症による腸軸捻転と診断した.また,回腸末端から約40cm口側にMeckel憩室を認めたため,腸管の捻転解除と小腸部分切除術を施行した.成人発症の腸回転異常症は非常に稀であるが,若年発症の絞扼性腸閉塞の原因として鑑別に挙げる必要がある.また,腸回転異常症はMeckel憩室など,その他の先天奇形の合併が報告されている.今回はMeckel憩室を合併した腸回転異常症による絞扼性腸閉塞の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

腹腔鏡補助下に切除した小腸間膜原発多発神経鞘腫の1例

獨協医科大学肝・胆・膵外科(一般外科)

宮下 将太郎 他

 症例は77歳,男性.人間ドックで腹腔内腫瘤を指摘され,神経鞘腫または消化管間質腫瘍の疑いで,腹腔鏡補助下小腸切除術を施行した.腫瘤は小腸間膜内に存在し,腸管と連続性はなかった.周囲に多数の硬結を触知したためリンパ節転移を疑い,間膜を扇型に処理する小腸切除を行った.病理診断は紡錘形細胞が錯綜する腫瘍で,免疫染色でS-100陽性の神経鞘腫であった.CD34,KIT,desminは陰性であった.硬結は転移のないリンパ節6個と,主病変とは別の神経鞘腫1個であった.現在術後1年4カ月が経過し,無再発生存中である.
 神経鞘腫はSchwann細胞由来の間葉系腫瘍で頭頸部と四肢に好発し,聴神経腫瘍が最多である.腸間膜原発例は稀で,多発例の報告は過去に1例しかない.一般には良性とされるが悪性例もあるため,経過観察よりも診断的治療が有効と考えられる.稀である腸間膜原発多発神経鞘腫への腹腔鏡補助下手術を行った1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

内科的治療に抵抗し閉塞性大腸炎をきたしたS状結腸の憩室性大腸炎の1例

深谷赤十字病院外科

大沼 愛 他

 症例は82歳,女性.2年6カ月前に血便が出現し,前医で憩室性大腸炎と診断された.血便が続くため3カ月前よりプレドニゾロン(以下,PSL)が開始されたが,体動困難となり当院に救急搬送された.憩室性大腸炎による腸閉塞の診断となり,経肛門的イレウス管を留置し,PSLを継続した.待機手術を予定しPSLを減量したところ,症状が増悪したため緊急手術を行った.主病変はS状結腸であったが,下行結腸に縦走潰瘍を認めたため,閉塞性大腸炎の併発を疑い,結腸左半切除と単孔式人工肛門造設を行った.切除標本でS状結腸に多発憩室,全周性潰瘍および炎症性ポリープを,下行結腸に縦走潰瘍を認め,閉塞性大腸炎をきたした憩室性大腸炎と診断した.術後はPSLを中止したが血便の再燃はなく,経過観察中である.憩室性大腸炎は経過中に狭窄が進行し,手術を要することもあるため,注意が必要である.

膀胱癌術後に発症したS状結腸間膜と後腹膜の間隙による絞扼性腸閉塞の1例

北海道大学大学院医学研究院消化器外科学教室Ⅱ

内藤 善 他

 腹部外科領域の術後は,腸管の授動操作により内ヘルニアの原因となる間隙を生じる可能性がある.今回,泌尿器科手術後のS状結腸間膜と後腹膜をヘルニア門とした稀な内ヘルニアの1例を経験したため報告する.症例は92歳,男性.膀胱癌に対し膀胱全摘・尿管皮膚瘻造設の術後20日目に腹痛と嘔吐を認め,腸閉塞の疑いで当科に紹介となった.腹部造影CTで骨盤内小腸にcaliber change・closed loopを伴う腸閉塞と,S状結腸の限局的な狭窄を認めた.絞扼性腸閉塞の診断で緊急手術を行った.術中所見として,尿管皮膚瘻造設の際に左尿管を通すために剥離したS状結腸間膜と後腹膜が癒着を形成しておらず,患者左側(後腹膜側)から侵入した100cmの小腸が,その間隙に嵌入し壊死していた.壊死小腸を切除再建し,間隙は縫合閉鎖した.鏡視下手術を中心に,結腸の授動操作で生じた間膜間隙の予防的閉鎖は一般的に行われていないが,本症例のような内ヘルニアの発生リスクを考慮し,その解剖学的背景や特徴的な画像所見を理解することが肝要である.

S状結腸に発生した腸管子宮内膜症関連腫瘍の1例

横浜市立大学消化器・腫瘍外科学

田中 宗伸 他

 症例は75歳,女性.45歳時に左内膜症性嚢胞に対して開腹子宮全摘術+左付属器切除術の既往があった.便潜血陽性精査の前医での下部消化管内視鏡検査でS状結腸に3型病変を認め,生検で腺癌と診断された.CTでは明らかな遠隔転移を認めず,S状結腸癌cT3N1bM0,cStageⅢbと術前診断した.腹腔鏡下S状結腸切除術を施行し,術後10日目に軽快退院となった.病理組織所見では腫瘍の主座はS状結腸の固有筋層であり,免疫染色ではER陽性であった.腫瘍に近接するように内膜腺および内膜間質がみられ,腸管子宮内膜症から発生した類内膜癌と診断され,endometriosis-associated intestinal tumor(EAIT)と考えられた.腸管子宮内膜症の癌化,EAITは極めて稀な疾患であり,文献的考察を加えて報告する.

病理学的完全奏効に至った小腸間膜リンパ節転移を伴う直腸癌穿孔の1例

鈴鹿回生病院外科

多田 章太 他

 症例は54歳,男性.以前より健診で便潜血陽性を指摘されていたが医療機関を受診せず,今回下痢や体重減少を主訴に受診した.精査の結果,直腸癌穿孔(高分化型管状腺癌,RAS陰性,BRAF陰性,MSI-low),回腸浸潤,十二指腸水平脚近傍や回結腸動脈周囲へのリンパ節転移,骨盤部膿瘍形成を認めた.横行結腸人工肛門を造設し,切除不能大腸癌に対する化学療法としてmFOLFOX6+panitumumab療法を開始した.化学療法の結果,原発巣の縮小と遠隔リンパ節転移の縮小を認めた.16コース終了後のCTでR0切除可能と判断し,開腹低位前方切除+浸潤部の回腸と転移を疑うリンパ節を含めた回盲部合併切除を施行した.病理検査では直腸と回腸に癌の残存は認めなかった.また,リンパ節転移も認めず,組織学的治療効果判定Grade 3であり病理学的完全奏効であった.二次的リンパ節転移を伴う直腸癌穿孔例に対し,mFOLFOX6+Pmab療法によって病理学的完全奏効に至った1例を経験したので報告する.

Type4病変との鑑別を要したCrohn類似病変を有する直腸癌の1例

静岡市立清水病院外科

石岡 直留 他

 症例は49歳の男性.血便を主訴に来院.CTより直腸RaからRbにかけて全周性の腫瘍とその口側に壁肥厚および狭窄を認め,type4直腸癌を疑った.内視鏡検査で腫瘍口側腸管に浮腫や炎症所見はなく,送気による伸展も良好であったためCrohn類似病変を有する直腸癌と診断.手術は腹腔鏡下直腸低位前方切除術・D3郭清およびイレオストミー造設を施行.病理ではpT2N0M0,腫瘍周囲に異所性リンパ濾胞形成(Crohn’s-like lymphoid reaction)が目立っていた.Type4大腸癌は一般的に予後が極めて悪く,手術施行時には高度に進行した状態で根治性は悪いとされているが,Crohn’s-like lymphoid reactionは強い免疫反応で,癌の進行を抑制する因子であり予後は良好と考えられている.Type4直腸癌と鑑別を要するようなCrohn類似病変を伴う直腸癌は極めて稀な病態であり,文献的考察を加え報告する.

前胸部より貫入した金属片による外傷性肝損傷の1例

豊田厚生病院外科

山口 真和 他

 48歳,男性.工場で旋盤作業中に金属部品が折れ,飛散した金属片が前胸部より貫刺入し,当院へ救急搬送された.搬送時の全身状態は安定していた.前胸部に2cmの挫創を認め,CTで金属片が肝後区域に遺残し肝周囲に血性腹水を認めた.右胸腔内の少量血性胸水に対して胸腔ドレナージを施行後,金属片を除去する目的で緊急手術を施行した.開腹すると肝S6に裂傷を認め,被膜下に金属片を触知した.遺残した金属片を除去し,肝裂傷部を縫合した.肝S8に金属片の射入孔および横隔膜の損傷部を認め,縫合閉鎖した.縫合止血後,開腹下に肝動脈造影検査を施行し,明らかな動脈損傷がないことを確認した.術後7日目および3カ月目に施行した画像検査で,仮性動脈瘤や胆管狭窄などの肝損傷後に遅発性に発症しうる異常所見を認めなかった.前胸部より貫入した金属片が横隔膜を貫通して肝内に遺残した,稀な受傷機転の外傷性肝損傷の1例を経験したので報告する.

原発巣切除後に完全自然壊死をきたしたS状結腸癌肝転移の1例

神戸労災病院外科

大村 典子 他

 症例は70歳,女性.下腹部痛,排便困難を主訴に近医を受診し,精査にてS状結腸癌・肝転移・虚血性腸炎と診断され,当科に紹介となった.肝S7の転移巣については二期的に切除する方針とし,腹腔鏡補助下高位前方切除術およびdiverting ileostomy造設を施行した.2カ月後,肝腫瘍について再度評価を行ったところ,約20mm大の腫瘍が数mm程度縮小し,内部は低吸収化していた.PET-CTではFDG集積を認めなかったが,MRIの所見から依然転移性肝癌の可能性が高いと判断し,肝S7部分切除術を施行した.術後病理組織診断では,同部は凝固壊死をきたした細胞集塊により構成され,集塊の中にviableな細胞は全く認められなかった.壊死細胞は篩状構造を形成し,もともとは腺癌であったことが示唆された.免疫染色を行った結果,S状結腸癌の同時性肝転移巣が,原発巣の切除を契機に完全自然壊死をきたしたものと診断した.

外科的ドレナージを行ったERCP後の十二指腸乳頭部近傍穿孔の3例

北海道大学大学院医学研究院消化器外科学教室Ⅱ

石井 佑 他

 内視鏡的逆行性胆道膵管造影(以下,ERCP)による十二指腸乳頭部近傍の穿孔に対し,外科的ドレナージ療法を施行した3例を経験した.全例,総胆管結石症に対する待機的採石目的のERCP中に発生した穿孔であった.症例1は穿孔と診断後,早期に緊急手術を施行し,術後合併症を認めなかった.症例2および3は胆管外瘻管理による保存的治療を試みられたが改善せず,穿孔から約50時間後に緊急手術を施行した.手術では,術前PTBDが留置されていた症例2を含め,3例すべてで穿孔部閉鎖,胆管・膵管外瘻,胃・十二指腸減圧チューブ留置,腸瘻造設を行った.保存的治療後に手術を施行した2例に術後腹腔内膿瘍を認めたが,治癒した.胆管,膵管,胃液・十二指腸液の3系統の消化液ドレナージ療法は,十二指腸乳頭部近傍の穿孔に対する有用な治療戦略の一つと考えられる.一方で,膵管ドレナージを追加することに伴う主膵管損傷などの新たな合併症発生のリスクが課題であり,今後,本術式の妥当性に関する検討が必要である.

91歳女性における肝内胆管破裂による胆汁性腹膜炎の1例

滋賀県立総合病院外科

谷 明恵 他

 症例は91歳,女性.上腹部痛と腹部膨満を主訴に来院した.血液検査では炎症反応と肝胆道系酵素の上昇が認められ,CTでは肝内胆管拡張,総胆管結石と胃周囲に腹水を認めた.腹膜炎の鑑別のための腹水穿刺で胆汁性腹水を認めたため,胆汁性腹膜炎と診断し緊急開腹手術を実施した.術中所見では,肝外側区域で肝内胆管の破裂を認め,術中胆道造影,破裂部位の縫合閉鎖,胆嚢摘出術およびC-tubeの留置を行った.術後に内視鏡的治療により総胆管結石を除去し,術後31日目に退院した.自験例では,術前の画像診断および腹水穿刺が診断に有用であり,早期の外科的介入によって救命しえた.90歳以上の超高齢者においても,適切な診断と外科的治療により良好な転帰が期待できることが示唆された.超高齢者の肝内胆管破裂による胆汁性腹膜炎は非常に稀な疾患であり,文献的考察を加えて報告する.

胆嚢出血により閉塞性黄疸をきたした腎細胞癌胆嚢転移の1例

佐賀大学医学部一般・消化器外科

小野 航平 他

 症例は76歳の女性で,10年前に左腎細胞癌,4年前に右腎細胞癌に対してそれぞれ腎摘出術後であった.経過中に肺転移が出現し,化学療法を継続していた.今回,突然の悪心と上腹部痛を主訴に救急受診となった.血液検査で炎症反応と肝胆道系酵素上昇を認め,造影CTでは胆嚢頸部に多血性の腫瘤が指摘された.経過と併せて腫瘍からの出血による閉塞性黄疸および急性胆管炎,急性胆嚢炎を伴う腎細胞癌胆嚢転移と診断した.腎癌による遠隔再発であるが,単発性で症状の再燃も見られ,出血コントロールを目的として腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.切除標本では胆嚢頸部に15mm大の腫瘤を認め,病理組織学的に腎細胞癌胆嚢転移と診断された.胆道出血による閉塞性黄疸,急性胆嚢炎をきたした腎細胞癌胆嚢転移の報告は稀であり,文献的考察を加えて報告する.

術後16年で肺転移再発した進行胆嚢癌の1例

松江市立病院呼吸器外科

荒木 邦夫 他

 進行胆嚢癌の術後晩期肺転移再発症例を経験した.87歳,男性.16年前に胆嚢癌の手術歴あり.血清CEAの軽度上昇を契機にCTが行われたところ,右肺下葉S6に19mm大の空洞を伴う結節陰影が指摘された.PET検査で高度の集積がみられ,悪性腫瘍が強く疑われたため気管支鏡下生検を勧めたが同意せず.3カ月間経過をみたところ陰影は急速に増大したため,同意を得て手術治療(右肺下葉切除)を行った.病理検索で肺門リンパ節転移および肺内の広汎なリンパ行性進展を伴う腺癌と判明.腫瘍細胞は豊富な粘液を含み印環細胞型ないし充実型の増生を示し,免疫組織化学的にCK7・CK20・CDX-2が陽性,TTF-1・NapsinAは陰性であり消化管原発悪性腫瘍が示唆された.以前の胆嚢癌組織を見直したところ肺病変に類似した組織形態を示し,免疫組織化学所見も一致したことより胆嚢癌再発の診断に至った.長らくの腫瘍休眠状態を経て何らかの機転が生じ,リンパ行性に肺転移再発を生じたものと推定した.

Hug techniqueを用い修復し良好な経過を得た成人巨大鼠径ヘルニアの1例

板橋中央総合病院外科

中村 篤史 他

 巨大鼠径ヘルニアの修復は多量の臓器を腹腔内に還納するために腹部コンパートメント症候群(以下,ACS)の発症に留意する必要がある.症例は61歳,男性.幼少期より右鼠径部の膨隆を認めていた.徐々に膨隆が増大し,用手還納が困難となり前医を受診した.CTにて腹腔内臓器の多量脱出を認め,手術目的で紹介受診となった.透視下でヘルニアの整復を試み,バイタルサインは保たれたが再脱出を繰り返すため,手術の方針とした.右鼠径部より陰嚢にかけて約13cmの皮膚切開,末梢より中枢までヘルニア嚢を剥離し,hug techniqueにて腸管を腹腔内へ還納後,20×20cmのheavy weight meshを用い腹膜前修復術を行った.術後はACSを危惧しICUに入室し,術後8日目に経過良好で退院となった.術前に試験的還納によるACSのリスク評価をし,術中にhug techniqueで対処し,良好な経過が得られた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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