日本臨床外科学会雑誌 第87巻7号 和文抄録

綜説

胆道癌における薬物療法の進歩と外科治療戦略

千葉大学大学院医学研究院臓器制御外科学

大塚 将之

 胆道癌の治療は長らく外科切除が唯一の有効な治療手段とされてきたが,gemcitabineの登場以降,有効性を示す薬物や治療レジメンが次々と開発され,胆道癌に対する薬物療法は大きな進歩を遂げてきた.現在,一次治療としては,殺細胞性抗癌剤に加え免疫チェックポイント阻害剤も導入され,二次治療以降では,遺伝子異常に基づく臓器横断的あるいは臓器特異的な標的治療も可能となっている.
 治療戦略の観点からは,外科切除が依然として根治を目指す治療の中核となることには変わりはないものの,このような薬物療法の進歩に伴い,術後補助療法を組み合わせた外科切除や再発治療,conversion surgeryなど,外科治療戦略そのものが大きく変革しつつある.

症例

腋窩リンパ節転移を認めた明らかな浸潤を伴わない乳腺被包型乳頭癌の1例

製鉄記念八幡病院病理診断科

花木 伶

 症例は70歳,女性.1年前から自覚していた右乳房腫瘤が増大傾向となったため受診した.右乳房C区域に,内部に充実部を伴う35mmの嚢胞性腫瘤と,腋窩に腫大したリンパ節を認めた.針生検で乳頭癌の診断がつき,乳房部分切除術とセンチネルリンパ節生検を施行した.病理診断は,間質浸潤を伴わない14mmの被包型乳頭癌だったが,腋窩リンパ節にマクロ転移を認めた.被包型乳頭癌は,間質浸潤を伴わない場合はその良好な予後から非浸潤癌に分類されているが,稀ではあるが腋窩リンパ節転移や遠隔再発をきたす場合があるので注意が必要である.

下垂体転移に対する集学的治療により23カ月の生存を得た転移性乳癌の1例

小牧市民病院外科

古川 翠

 転移性下垂体腫瘍は稀な疾患だが,近年の悪性腫瘍治療の発展により報告が増えつつある.診断に苦慮した乳癌下垂体転移の1例を経験した.症例は73歳,女性.HER2陽性転移再発乳癌に対する三次治療としてT-DM1(trastuzumab emtansine 3.6mg/kg)を継続していた.1サイクル目に嘔気・食思不振・電解質異常・血小板減少が生じたため減量して2サイクル目を施行したが,再び食思不振・下痢・電解質異常・血小板減少を生じた.その後,休薬中にもかかわらず倦怠感・食思不振・ふらつきが出現した.画像検査で下垂体の腫大を認め,下垂体転移および続発性副腎不全の疑いで入院とした.汎下垂体機能低下症と中枢性尿崩症と診断し,ステロイドホルモン・甲状腺ホルモン・抗利尿ホルモンの補充と定位放射線治療後,症状は安定し退院した.以降,ホルモン補充と脳転移のフォローアップをそれぞれ内科と脳外科で併診しながら,外来化学療法を継続可能であった.

腹腔鏡下肝切除後4年無再発の男性乳癌肝転移の1例

佐賀大学医学部一般・消化器外科

由比 元顕

 症例は81歳の男性で,右乳癌stageⅢ,luminal typeに対し右乳房全切除および腋窩リンパ節郭清(LevelⅡ)後であった.術後9年目に肝S6に1cm大の腫瘤性病変を認め,乳癌肝転移が疑われた.その他に明らかな転移性病変は無く,腹腔鏡下肝S6部分切除術を施行した.病理診断は乳癌肝転移の所見であった.術後4年経過し,現在無再発生存中である.乳癌肝転移においては診断時に多発,多臓器転移を伴うことが多く,一般的に外科的切除の適応外とされる.一方,近年oligometastasisに対する局所治療として外科的切除も行われ,予後改善に寄与したとの報告もある.今回,極めて稀な男性乳癌oligometastasis肝転移に対して肝切除を施行し,長期生存を得られたので報告する.

急速な転帰をたどったG-CSF・PTHrP同時産生乳腺化生癌の1例

公立西知多総合病院乳腺外科

山口 美奈

 症例は51歳,女性.右乳房腫瘤の増大と皮膚出血で受診.乳腺化生癌cT4bN1M0,StageⅢB,triple negative typeと診断.術前化学療法としてペムブロリズマブ併用下にパクリタキセル・カルボプラチン,次いでエピルビシン・シクロホスファミドを投与したが共に1コースで病勢進行.白血球増多と発熱を認め,腫瘍壊死による炎症反応と考えたが増悪し化学療法継続は困難と判断.局所制御と症状緩和目的に右乳房全切除術+腋窩リンパ節郭清+分層植皮術を施行したが,術後3週で局所再発と多臓器転移を認め6週で死亡.高Ca血症と血清parathyroid hormone-related peptide上昇を認め,腫瘍免疫染色でgranulocyte-colony stimulating factor陽性であり両因子同時産生が示唆された.急速な臨床経過を呈した本症例について,文献的考察を加えて報告する.

再発自然気胸を契機に診断された18歳男性における異型腺腫様過形成の1例

いまきいれ総合病院呼吸器外科

山下 正勝

 若年再発自然気胸を契機に,異型腺腫様過形成(atypical adenomatous hyperplasia:AAH)を診断し,気胸手術と同時に切除しえた1例を報告する.症例は18歳,男性.16歳時に右自然気胸の既往があり,保存的に軽快していた.その際の胸部CTで右上葉胸膜直下にすりガラス結節(ground-glass nodule:GGN)を指摘されていた.今回,右自然気胸再発のため当科に紹介となり,胸部CTで既知のGGNが残存していた.過去画像との比較で約2年間消失なく不変であったことから腫瘍性病変を否定できず,気胸手術と同時に胸腔鏡下でブレブ切除および右上葉楔状切除を施行した.病変は胸膜直下にあり視認可能で,術前マーキングを要することなく切除可能であった.GGN部分は病理学的にAAHと診断された.術後経過は良好で,術後8カ月現在再発を認めていない.若年者の持続性GGNに対し,同側自然気胸手術の機会を捉えた同時切除は,低侵襲に診断的かつ根治的介入となり得る.特に,術中同定可能な病変では一期的切除が可能であると考える.

胸腔鏡で治療した副脾が脱出した左Bochdalek孔ヘルニアの1例

公立西知多総合病院外科

鈴木 真理香

 症例は17歳,女性.左季肋部・背部痛を主訴に受診し,CTで左胸腔内に脾臓と同様の造影パターンを示す3cm大の腫瘤を認めた.脾動脈下極枝から分岐する血管が横隔膜左背側を貫き腫瘤を栄養していた.左Bochdalek孔ヘルニアから脱出する副脾と診断した.視野の確保とヘルニア門の修復が容易と考えられる胸腔鏡下に治療した.副脾を切除し1.5×0.5cmのヘルニア門を縫合閉鎖した.術後経過は良好で疼痛も改善した.脱出臓器が副脾である左Bochdalek孔ヘルニアに対する胸腔鏡手術の報告はこれまでになく,極めて稀である.

発熱を契機に発見された大動脈人工血管感染による食道縦隔瘻の1例

岐阜大学医学部消化器外科・小児外科

河原 樹

 食道縦隔瘻の原因として腫瘍や感染などが挙げられる.保存治療を行う場合もあるが,感染コントロールのため外科的介入が必要となることもある.症例は69歳,男性.5カ月前に感染性動脈瘤に対して弓部大動脈置換術を行った.発熱で受診しCTで人工血管周囲の気腫像を認め,人工血管感染の診断となった.上部消化管内視鏡で瘻孔を確認し感染コントロール目的で緊急手術の方針となり,右開胸食道抜去,頸部食道外瘻・腸瘻造設,ドレーン留置を行った.術後5日目に鎖骨下動脈と人工血管吻合部からの出血を認め緊急で鎖骨下動脈離断術を行い,翌日に人工血管感染に対して弓部大動脈再置換術を行った.食道術後26日目に気管切開術を行い,68日目にリハビリのため転院となった.大動脈人工血管感染の際に縦隔気腫を認める場合は,食道縦隔瘻の可能性を考慮して早期に上部消化管内視鏡を行い,感染コントロールのため手術による救命が必要と考える.

十二指腸・S状結腸を含む複雑性瘻孔を形成した多発小腸憩室炎の1例

古賀総合病院外科

安藤 有里恵

 症例は65歳,女性.腹部膨満感を主訴に精査を行ったところ,小腸に多発憩室を有する患者において,回腸憩室炎に伴う膿瘍形成を契機として十二指腸・盲腸・S状結腸間に複雑性瘻孔を形成していることが判明した.外科的治療として回盲部切除および十二指腸瘻,S状結腸瘻閉鎖術を施行し,良好な経過を得た.その後,術後14年以上を経て回腸憩室穿孔による腫瘤形成を認め,再度手術を要した.病理組織学的検査では多発する小腸仮性憩室と穿孔性憩室炎の所見を認めた.小腸憩室炎に起因する多臓器間瘻孔形成は極めて稀であり,特に十二指腸およびS状結腸を同時に巻き込む複雑性瘻孔の報告はほとんどない.本症例では,回腸–S状結腸瘻では炎症に加えて結腸の高内圧が関与し,一方,十二指腸瘻では炎症性癒着と牽引が主因となったと考えられ,臓器ごとに異なる病態機序が示唆された.また,多発小腸憩室を背景とする症例では,局所治療後も長期的な再発リスクを念頭に置いた経過観察が重要であると考えられた.

肝拡大右葉切除後に発症した自己免疫性後天性凝固第Ⅴ因子欠乏症の1例

国立病院機構福山医療センター外科

斧田 尚樹

 82歳,男性.黄疸を主訴に受診.精査にて肝門部胆管癌と診断し,肝拡大右葉切除,肝外胆管切除術,領域リンパ節郭清,胆管空腸吻合術を施行した.術後2日目に血液凝固検査の延長を認めた.CTで門脈右枝処理部付近での門脈血栓形成による狭窄を認め,血流低下による肝不全を疑い門脈再建術を施行した.術後も凝固検査の延長が続き,血液内科に紹介した.精査にて自己免疫性後天性第V因子欠乏症と診断され,ステロイドで著明に凝固能は改善した.また,特発性血小板減少性紫斑病の合併と思われる血小板低下も認めたが同時に改善した.
 本疾患は本邦では年間100万人あたり0.04人の発症とされる.誘因として悪性腫瘍,手術,感染等が知られている.臨床症状は多岐にわたり,致死的出血を起こす症例もある.本症例は出血等の臨床症状なく経過しステロイドで軽快した.術後に血小板減少を合併した自己免疫性後天性第V 因子欠乏症は極めて稀であり,文献的考察を加えて報告する.

原発性胆汁性胆管炎に併存した肝原発悪性リンパ腫の1例

日赤愛知医療センター名古屋第一病院一般消化器外科

山川 ありさ

 症例は75歳,男性.他院で原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis;PBC)フォロー中の定期CTで肝S7に10mm大の腫瘤を認め,約1年で径14mmに増大したため当院へ紹介となった.肝S7の腫瘤は腹部超音波検査で低エコー,造影CTでは動脈相で辺縁が淡く造影され,門脈相で低吸収だった.EOB-MRIではT1低信号,T2高信号,DWI高信号,肝細胞相で低信号だった.腫瘍マーカーは陰性であり,診断・治療目的にロボット支援下肝部分切除術を施行した.術後経過は良好で,術後7日目に退院となった.病理診断はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫であり,肝原発悪性リンパ腫(primaryhepatic lymphoma;PHL)と診断した.術後2カ月のPET-CTで残肝びまん再発,中部食道傍リンパ節再発を認めた.R-CHOP療法施行後,1年3カ月CRを維持している.

手術中に偶発的に発見された部分埋没胆嚢の1例

赤穂市民病院外科・消化器外科

香西 英孝

 症例は75歳,女性.肝胆道系酵素の上昇およびMRCPで総胆管結石を認めたため,ERCPが施行された.その際,胆嚢内にも複数の結石を認めたことから,手術目的に当科に紹介となった.術中,胆嚢の表面が肝実質により部分的に覆われる「部分的埋没胆嚢」という稀な破格を偶発的に認めたが,腹腔鏡下に胆嚢摘出術を完遂することができた.本破格は肝内胆嚢の一形態と考えられ,文献的考察を加えて報告する.

ソナゾイド造影超音波内視鏡が有用であった腎細胞癌異時性胆嚢転移の1例

香川大学医学部消化器外科

天雲 大雅

 症例は70歳,男性.左腎細胞癌に対して左腎臓摘出術を受けた術後4年3カ月目に,新たな胆嚢隆起性病変が指摘された.画像検査では,腹部造影CTにて胆嚢頸部に早期相で濃染され,遷延する造影効果を伴う11mm大の結節を認めた.超音波内視鏡検査では有茎性腫瘤を認め,さらにソナゾイドを用いた造影超音波内視鏡検査(contrastenhancedendoscopic ultrasonography;以下,CE-EUSと略記)では,腫瘍全体が均一かつ早期に造影されるという特徴的な所見を示した.この所見より腎細胞癌の胆嚢転移の可能性が高いと判断し,診断的治療として腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し,病理組織学的に腎細胞癌の胆嚢転移と確定した.術後36カ月を経過し,生存中である.腎細胞癌胆嚢転移は稀ではあるが,腎細胞癌既往患者における胆嚢腫瘍では重要な鑑別診断となる.CE-EUSを含めた総合的な画像評価が,術前診断精度の向上および治療方針決定に寄与する可能性が示唆された.

開腹手術を要した膵頭十二指腸切除後膵管ロストステントに伴う腸石の1例

加古川中央市民病院外科/消化器外科

時國 寛子

 膵頭十二指腸切除後の晩期合併症として,膵管ロストステントを核とした腸石形成は稀である.
 症例:72歳,女性.膵頭部膵管内乳頭粘液性腫瘍に対し亜全胃温存膵頭十二指腸切除(Child変法再建)を施行し,膵空腸吻合部に4Fr節付き膵管ステントをロストステントとして留置した.術後2年9カ月の造影CT で挙上空腸内に38×23mm大の腫瘤を認め,小腸内視鏡でロストステントを核とする腸石を確認した.内視鏡的摘出は困難であり,開腹下に挙上空腸を切開し摘出した.術後経過は良好であった.
 考察:ロストステントは通常自然排出されるが,腸石形成の核となる可能性があり,晩期合併症として留意すべきである.

骨盤内リンパ節郭清後の閉鎖神経による絞扼性腸閉塞の1例

福井赤十字病院消化器外科

坂本 裕生

 骨盤内リンパ節郭清後に露出した血管や神経を起点とする内ヘルニアは極めて稀な病態である.症例は60歳,女性.子宮体癌に対し開腹子宮全摘術,両側付属器切除術,および骨盤内リンパ節郭清の既往がある.腹痛および右鼠径部痛を主訴に来院し,造影CTで骨盤腔右側壁近傍を起点とするclosed loopを伴う絞扼性小腸閉塞を認め,緊急手術を施行した.腹腔鏡下に,骨盤内リンパ節郭清により露出した閉鎖神経と内閉鎖筋の間隙への小腸嵌頓を認め,閉鎖神経を起点とした内ヘルニアと診断した.腹腔鏡下に嵌頓を解除し,壊死腸管に対して小腸部分切除を施行した後,閉鎖神経を温存したまま後腹膜縫合によるヘルニア門閉鎖を行った.術後経過は良好で,神経障害は認めなかった.骨盤内リンパ節郭清の既往を有し,鼠径部痛を伴う腸閉塞症例では本病態を念頭に置くことが重要であり,また,本病態に対する腹腔鏡下手術の有用性が示唆された.

白線ヘルニア肝円索嵌頓の1例

小牧市民病院外科

北條 由実子

 症例は51歳,女性.10年前から臍上部の膨隆を自覚していたが膨隆の増大・疼痛を自覚し,2025年2月に当院救急外来を受診した.腹部CT・超音波検査で肝円索の腹部正中への脱出を認め, 白線ヘルニアの肝円索嵌頓と診断した.徒手還納は困難で手術適応と判断したが, 疼痛は軽度であり,嵌頓による組織壊死の可能性は低いと考えられたため,受診3日目に準緊急手術を施行した.全身麻酔下に膨隆部直上へ3cmの小切開を置き,肝円索を内包するヘルニア嚢を同定した.ヘルニア門は7mm程度であった.ヘルニア門から全周性にヘルニア嚢を剥離後,肝円索を腹腔内へ還納した.ヘルニア門は縫合閉鎖した.術後8カ月経過,再発を認めていない.白線ヘルニアは本邦では稀な疾患であり,脱出臓器が肝円索であった報告は本邦では10例と極めて稀である.今回,術前診断で嵌頓臓器が肝円索と診断し,単純縫合で修復した症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

膀胱内圧測定下にTAPP法を行った巨大鼠径ヘルニアの1例

日本赤十字社医療センター大腸肛門外科

小田 詩織

 症例は81歳,男性.2022年より左鼠径部膨隆が出現し,増大に伴い尿・便失禁が出現し,2024年6月に当院を受診した.診察時,立位で大腿内側の中点を越える左鼠径ヘルニアを認め,巨大鼠径ヘルニアと診断した.用手還納は不可能であり,手術の方針とした.既往の慢性閉塞性肺疾患(COPD)による呼吸機能低下があったほか,脱出臓器が大きく,術後に腹部コンパートメント症候群を発症する可能性があった.このため,術前に呼吸理学療法,消化管内圧の減圧を行った.術中および術後には腹腔内圧を確認するために膀胱内圧測定を行った.周術期は膀胱内圧の有意な上昇を認めず経過し,術後6日目に退院した.巨大鼠径ヘルニアの手術において膀胱内圧測定を行い,腹部コンパートメント症候群を予防できた1例を経験したため,報告する.

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