痔・肛門疾患

松島病院 大腸肛門病センター 松島誠
更新日:2020年3月3日

はじめに

痔とはどのような病気なのかを知りたい方々のためのページです。どなたにもわかりやすいように解説します。また、肛門周囲には痔以外にも様々な病気や症状があり、頻度の多いものについても記載しました。

1.一般的知識

痔とは何か

肛門におこる病気のことを「痔」といいますが、古くは直腸脱や肛門周囲皮膚炎や悪性の「がん」などの病変もふくまれており、「痔」という文字のつく言葉は280以上あると言われています。しかし、医学が進歩し、それぞれの病気がどのようなものかが解明されるとともに病名も変化し、現在では「痔」という文字のつく言葉は、痔核(いぼ痔)、痔瘻(あな痔)、裂肛(切れ痔)だけで、そのほかの病気には「痔」という文字が付かない個々の病名が与えられています。
ここではこの3つを「痔」として解説します。

痔は国民病といわれるほど多くの方々が悩まされており、成人の3人に1人は痔をもっているとも言われています。痔には生活習慣病的な側面もあり、痔に関する知識を得ることは、病気の予防や症状の改善・的確な治療、さらには重大な病気の早期発見にもつながります。毎日の排便に直接かかわる肛門の病気を正しく理解して、安心して快適な生活をしていただきたいと思います。

肛門の働き

肛門は、直腸にたまった便を漏らすことなく、適切に体の外へ排泄する働きをします。通常は緩やかに閉鎖している肛門は、直腸に便が下りてくると漏れないように無意識にしまります。そして内容物が便なのかガスなのかを判断し、排便に際しては括約筋が緩んで肛門管は翻転し、排便が終了するともとに戻ります。

肛門の構造(図A)

肛門は食べた物が通過する消化管の終末の単なる穴ではなく、意外と複雑な構造をしています。肛門は消化管の最後の部分である直腸と外界をつなぐおよそ3~4cmほどの長さの部位で、表面は皮膚や粘膜でおおわれています。肛門の閉鎖は2つの筋肉(内肛門括約筋と外肛門括約筋)と内痔静脈叢・外痔静脈叢という細い血管が集まった膨らみ(=肛門クッション)の働きによって行われます。そのほか肛門腺や鋭敏な知覚神経等々の構造があります。
内外の2つの肛門括約筋は、自律神経で調節されて自分の意志で動かすことのできない内肛門括約筋と、内肛門括約筋の外側を取り囲むようにあり、自分の意志で閉めたり緩めたりできる(脊髄神経で支配されている)外肛門括約筋の2つです。
しかし、括約筋だけでは肛門を完全に閉じることはできず、ガスや粘液や液状の便を止めることできませんので、肛門クッション組織が水道のパッキン(packing)のように、すき間をふさぐ働きをしています。

肛門の病気

肛門の病気の75%が痔と呼ばれる良性の疾患で、痔核(いぼ痔)、痔瘻(あな痔)、裂肛(切れ痔)の3つを指します。大雑把に言うと痔核が60%、裂肛が15%、痔瘻が10%位で、男女で比較すると男女ともに痔核が最も多く、次に多いのは男性では痔瘻、女性は裂肛です。痔以外の肛門の病気には、肛門周囲の皮膚湿疹や毛巣洞、膿皮症、直腸脱などや、難治性の炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)や、肛門癌など悪性のものや感染症もあります。

図A 肛門の解剖
肛門の解剖
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