日本臨床外科学会雑誌 第83巻2号 掲載予定論文 和文抄録

 

特別寄稿

患者と外科医を守る医療安全管理の視点

東京医科大学医療の質・安全管理学分野、聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科

浦松 雅史、大坪 毅人

 2021年11月18日、第83回日本臨床外科学会総会において、土田明彦総会会長のご企画により、総会特別企画「患者と外科医を守る医療安全管理の視点」が開催された。「臨床外科学および外科医療の進歩発展を図ること」を目的とする本会の総会で医療安全に関する企画が用意されたことは、土田総会会長をはじめとする外科の臨床をリードする先生方の意識の表れであり、大変重要なテーマをいただいたことに感謝申し上げる。本セッションでは、9名の演者に、臨床外科に関連する医療安全についてご講演いただいた。

外科手術のデジタル・トランスフォーメーション(DX)

慶應義塾大学外科、九州大学

北川 雄光、清水 周次

 ひと昔前に「車の自動運転って可能?」と聞かれれば、「それは難しそう」とか「そんなこと考えもしなかった」と言った回答がほとんどではなかったかと推察される。今、「手術の自動化って可能?」と質問すれば、恐らくその時と同様の答えが返ってくるのではと予想される。しかしながら、車の自動運転は今や完全な形とまではいかないまでも市販車として売り出されるレベルに達し、近い将来には完全な形での自動運転車が販売されることも視野に入っている段階にある。
 私自身、本総会特別企画に参加するまでは手術の自動化などとても無理だと考えていたが、このセッションでの発表を聞き、そう遠くない将来にそれが現実のものとなることも夢ではないのではという思いに至った。手術のみならず、術前術後診断の自動化などを含め外科の日常診療を大きく変える時代が見えてくると同時に、30年前の内視鏡手術出現以上のインパクトを持って次元の違う新たな外科の世界が訪れ得る予感さえ感じた。 以下、各演者の発表骨子を簡単に記載する。

ブラック労働環境からの脱却:ホワイトサージャリーに向けて

熊本大学大学院 生命科学研究部消化器外科学、東海大学医学部

馬場 秀夫、森 正樹

 2021年11月18日(木)~20日(土)に京王プラザホテルで第83回日本臨床外科学会総会が、東京医科大学 消化器・小児外科学分野の土田明彦総会会長主宰のもと開催された。昨今、われわれ外科医を含めた労働者の働き方改革が国策として推進され、2024年4月から働き方改革関連法において医師への時間外労働の上限規制が開始されることが決定している。われわれ外科医は手術により患者を救う使命感・責任感と救命できた達成感により、たとえ昼夜、休日を問わずの過酷な状況であっても乗りこえてきた。しかし、ワークライフバランス重視により外科志望者は急減しており、ブラック労働からホワイトサージャリーへの意識改革が急務である。そこで土田総会会長のご企画により、総会特別企画として「ブラック労働環境からの脱却:ホワイトサージャリーに向けて」が開催された。司会は東海大学医学部長、日本外科学会理事長の森 正樹先生と熊本大学の馬場(日本外科学会 外科医労働環境改善委員会委員長)が務め、8名の演者の先生方からそれぞれの立場で、外科医にとってより働きやすい環境づくりについての方策を発表していただいた。

臨床経験

早期乳癌におけるセンチネルリンパ節生検の術中迅速診断省略

筑波大学附属病院乳腺甲状腺内分泌外科

安藤 有佳里 他

 目的:cT2N0以下,術前化学療法なし,乳房照射を伴う温存手術,標準的な術後薬物療法が可能な乳癌症例では,限定的なリンパ節転移陽性時に腋窩リンパ節郭清省略が可能とされる.当院では該当症例を対象にセンチネルリンパ節生検の術中迅速診断を省略している.今回,省略群と省略以前の比較群における手術時間や術後在院日数および再手術症例数の評価を行った.
 対象と方法:上記基準に該当し,2018年1月から2019年7月に術中迅速診断を省略した68例を省略群,2017年2月から2018年1月に術中迅速診断を実施した68例を比較群とし,比較検討した.
 結果:手術時間中央値は省略群65分(32-120分),比較群82分(35-146分)と有意差を認めた.術後在院日数は中央値2日で差はなかった.再手術症例は認めなかった.結語:術中迅速診断の省略により手術時間の短縮を認め,再手術を要する症例を認めなかった.

胃原発神経内分泌腫瘍の治療経験

北海道大学大学院医学研究院消化器外科学教室Ⅱ

篠原 良仁 他

 目的:胃原発神経内分泌腫瘍の臨床的特徴を明らかにすることを目的とした。
 方法:2016年11月~2020年4月に北海道大学病院において胃原発NENの診断で治療を行った12症例を対象とし、臨床病理学的因子と治療成績を後方視的に検討した。
 結果:全12症例の内訳はNET10例、NEC2例。NET症例10例のRindi分類はⅠ型6例、Ⅱ型2例、Ⅲ型2例。高ガストリン血症8例。Rindi分類別の治療法はⅠ型で胃全摘術1例、幽門側胃切除術1例、局所切除2例、内視鏡的粘膜下層剥離術1例、経過観察1例で、全例無再発生存中である。Ⅱ型の1例は他疾患治療のため経過観察、1例は切除不能肝転移に対しソマトスタチンアナログで加療中である。Ⅲ型2例は部分切除及び噴門側胃切除術を施行し無再発生存中である。NEC2症例のうち1例は診断時に遠隔転移を認め敗血症で失い、1例は切除不能な食道浸潤から緩和治療となった。
 結語:胃原発NENは多彩な病態を示し、治療に際してはRindi分類に従って治療方針を適切に判断する必要がある。

妊娠中の急性虫垂炎に対する虫垂切除術

福岡赤十字病院外科

畑井 三四郎 他

 妊娠中の急性虫垂炎は穿孔すると流早産や胎児死亡をきたしやすく、速やかに診断し治療を行うことが重要である。しかし、超音波検査で診断が得られない場合、CT検査は胎児への被ばくの影響が懸念され、診断・治療方針に悩むことが少なくない。当院における妊娠中の急性虫垂炎に対する虫垂切除術11例について検討した。
 超音波検査で虫垂炎と診断できたのは2例のみであった。超音波検査で診断が得られなかった9例すべてにCT検査が施行され虫垂炎と診断された。全例に来院当日もしくは翌日に虫垂切除術を施行した。1例に虫垂穿孔を認め、その1例を含む2例に術後合併症(皮下膿瘍、回盲部膿瘍)を認めたが軽快した。母児の予後は良好で、急性虫垂炎による流早産や胎児死亡は認めなかった。
 超音波検査で診断が得られない場合には、CT検査の有益性と危険性を理解したうえでCT検査の施行の有無を含め診断・治療方針を決定し、速やかに治療を行うことが重要である。

症例

低リン血症性くる病による三次性副甲状腺機能亢進症の1例

東京女子医科大学病院内分泌外科

中居 伴充 他

 症例は19歳女性で,1歳時にX染色体優性低リン血症性くる病と診断され,活性型ビタミンD3製剤とリン製剤による加療を開始した.5年前より血清Ca,intact-PTH高値を認め,三次性副甲状腺機能亢進症の診断で当科へ紹介された.手術はまず腫大腺である左上副甲状腺を摘出し,その尾側に左下副甲状腺を疑う所見を認め,摘出した後に術中迅速病理診断で副甲状腺の診断を得た.2腺とも副甲状腺過形成と診断した.術後血清Ca値,intact-PTH値は正常化した.長期間のリン製剤の投与により,その過程で副甲状腺機能亢進を来すことがある.副甲状腺が自律性を有し,不可逆的にPTHの異常分泌を行う病態を三次性副甲状腺機能亢進症と呼ぶ.その治療法として副甲状腺摘出術が挙げられる.複数腺の過形成を伴うことが多いが,一側検索による腫大腺の摘出で治癒し得た.患者背景を鑑み,慎重な手術適応,術式の検討が必要である.

Prader-Willi症候群に生じた甲状腺乳頭癌の1例

大阪市立大学大学院医学研究科乳腺・内分泌外科学

宮内 亮子 他

 症例は38歳、女性。乳児期にPrader-Willi症候群(PWS)と診断されていた。スクリーニング検査にて甲状腺右葉に結節性病変を指摘され、精査加療目的に当科紹介受診。甲状腺癌が強く疑われたため、手術加療の方針となった。精神発達遅延のため興奮状態となることがあり、全身麻酔導入に難渋した。手術は甲状腺右葉+峡部を摘出し、術中迅速診断にて甲状腺乳頭癌の診断であったため、頸部リンパ節郭清を追加した。術前CTではリンパ節腫大は認めなかったが、病理学的には9個の転移リンパ節を認めた。術後2年9ヶ月経過した現在、明らかな再発は認めていない。PWS患者における悪性新生物の報告は極めて少なく、本症例は甲状腺乳頭癌の本邦で初めての報告となる。

肺・心房内・副鼻腔内転移をきたした乳腺葉状腫瘍(最大径35cm)の1例

千船病院外科

桃野 鉄平 他

 乳腺葉状腫瘍は原発性乳腺腫瘍の0.3-0.9%程度と頻度の少ない腫瘍であり,悪性葉状腫瘍は葉状腫瘍の16-30%と言われている.
 症例は47歳,女性で,右乳房に最大径35cm程度の巨大腫瘤を認め右乳房切除,広背筋皮弁,分層皮膚移植を行った.切除標本の重量は7.9kgで術後病理診断は境界型葉状腫瘍であった.術後6か月後の造影CTで肺腫瘤影を認め,診断および治療目的に胸腔鏡下左肺部分切除術を施行したところ葉状腫瘍の転移の診断となった.転移を契機に乳房切除標本を再評価したところ別部位では悪性葉状腫瘍に矛盾しないものであったため,悪性の診断へと見直した.その後右房・副鼻腔にも急速に増大する腫瘤が出現し,臨床的に悪性葉状腫瘍の全身転移と判断した.過去に葉状腫瘍の鼻腔転移の報告例はなく,極めて稀である.
 当初境界型と診断され,その後肺・心房・副鼻腔転移を来した乳腺巨大葉状腫瘍の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

一次乳房再建を省略したnipple-sparing mastectomyを行った乳癌の4例

埼玉医科大学国際医療センター乳腺腫瘍科

松浦 一生 他

 乳頭乳輪温存乳房全切除術(Nipple-sparing mastectomy:NSM)は、整容性に優れた術式として増加しつつあるが、一般的には乳房再建を前提とした術式である。われわれはNSM後に一次再建を省略した乳癌症例を経験したので報告する。2008年8月から2010年11月までの間で一次乳房再建をしないNSMを施行した乳癌患者は4例であった。平均年齢は52歳、いずれもマンモグラフィにて石灰化を認め画像上広範な病巣を認めた。皮膚切開は全例、乳輪横切開を行い、3例は術中迅速にて乳頭側断端検索を行った。永久病理診断は浸潤癌2例、DCISが2例で、永久病理診断では4例中2例で乳頭側断端陽性であった。術後の乳頭乳輪壊死、感染症などの合併症は認めなかった。術後に乳房の喪失感がないことで全ての患者の満足度は高かった。10年以上の経過観察中1例の乳頭再発を認め、局所切除後の再燃は認めていない。一次再建省略のNSMは、広範なDCISなど限られた症例において治療選択肢の一つとなりうると考えられた。

MRIが診断に有用であった肺末梢腺様嚢胞癌の1例

済生会二日市病院呼吸器外科

前川 信一

 症例は63歳男性。検診胸部X線写真で異常を指摘され当院受診。胸部CT検査において右下葉末梢に直径13mmの結節を指摘された。経過観察中の胸部CTで直径18mmと増大傾向を認め粘液産生性の腫瘍が疑われた。更に胸部MRI検査を行ない腺様嚢胞癌が疑われたため手術の方針となった。術中細胞診では診断が困難であり、悪性が否定できないため迅速病理診断を提出したところadenoid cystic carcinomaと診断され胸腔鏡補助下右下葉切除術を施行した。本症例のように肺末梢に発生する腺様嚢胞癌は極めて稀である。今回は胸部CTで粘液産生性の腫瘍が疑われ、更に胸部MRIを施行し腺様嚢胞癌が疑われ手術を行った。肺末梢腺様嚢胞癌の診断に胸部MRIが有用な症例であったので報告する。

全身性エリテマトーデスが腫瘍随伴症候群と考えられた83歳男性肺癌の1例

千葉西総合病院外科

山田 典子 他

 症例は83歳男性。左下葉結節の生検で非小細胞肺癌と診断された。positoron emission tomography (PET)-CTでは両側肺門縦隔リンパ節に集積あり臨床病期ⅢBと診断した。化学療法前検査で白血球1200/μLと白血球減少を認め、凝固能はPT-INR 5.16, APTT 107秒であった。抗核抗体5120倍、抗DNA抗体9.9 IU/mlと上昇しており、全身性エリテマトーデスと診断された。皮膚関節炎症状や腎障害は認めなかった。凝固能はビタミンK投与で正常化したが、白血球はステロイド投与でも上昇しなかった。治療開始1か月後に左下葉肺癌は増大し縦隔リンパ節は縮小したため手術を施行したところ、混合型大細胞神経内分泌癌であった。術後白血球数は回復し、肺癌や全身性エリテマトーデスの再発は認めなかった。経過より全身性エリテマトーデス様症状は肺癌の腫瘍随伴症候群の可能性があると考えられた。

ステントグラフト内挿術後に三期的食道再建術を行った大動脈食道瘻の1例

福島県立医科大学消化管外科学講座

仲野 宏 他

 症例は57歳女性。 急性B型大動脈解離術後11ヶ月の時点で,吐血を主訴に当院へ搬送された。 CT 検査が施行されたところ,人工血管吻合部中枢側に動脈瘤を認め大動脈食道瘻(aortoesophageal fistula: AEF) の診断となった。出血性ショックであったが,緊急ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic repair: TEVAR) が施行され循環動態は安定した。その後,炎症が軽快した後に根治目的に3期的に食道切除・頚部食道瘻胃瘻造設術,大動脈弓部置換術,食道再建術を施行し,経口摂取可能となり自宅退院した。
 AEFは,大動脈-食道間の瘻孔形成による出血に加え,大動脈壁の感染が主病態で死亡率が高い疾患である。その根治的治療は,感染源である食道抜去,感染動脈組織除去と人工血管での血行再建となるが,手術を行ったとしても術後死亡率3.1%,院内死亡率18.8%との報告もあり,未だ救命率は高くない疾患である。
 今回我々は,AEFに対しTEVARによる循環動態の安定化の後に,再建術を3期的手術として手術侵襲を分散することで,救命,根治し得た症例を経験したので,その有用性を文献的考察も踏まえ報告する。

原発性胃滑膜肉腫の1例

名古屋第二赤十字病院一般消化器外科

小林 達矢 他

 症例は68歳,女性.2018年5月,健康診断で上部消化管内視鏡検査を施行し胃体上部に中心陥凹と伴う胃粘膜下腫瘍を認め,精査目的で当院へ紹介となった.内視鏡下生検の結果,滑膜肉腫と診断し,PET-CT検査で胃以外に異常集積を認めず,胃原発性と判断した.腹腔鏡下胃部分切除の方針とし,術中内視鏡にて病変を同定したのち2cmのマージンをもって胃部分切除,近傍リンパ節サンプリングを施行した.病変は粘膜下層を主体とする長径9mmの境界不明瞭な腫瘍で,紡錘形腫瘍細胞の束状増生を認めた.腫瘍細胞は免疫組織検査にてcytokeratin,EMA,bcl-2陽性であり,またSS18プローブを用いたFISH法により分離シグナルを認めた.他に病変を認めず胃原発滑膜肉腫と診断した.現在術後2年半,無再発で経過している.胃原発の滑膜肉腫は非常にまれであり,文献的考察を加え報告する.

Conversion surgeryを行った門脈腫瘍栓を伴う切除不能胃癌の1例

東海中央病院外科

杉山 史剛 他

 症例は80歳,男性.悪寒と上腹部痛を主訴に当院へ搬送され,門脈腫瘍栓,多発リンパ節転移を伴う進行胃癌,腫瘍の胆管圧排による急性胆管炎と診断された.根治切除は困難であると判断し,胆管炎治療後に化学療法を導入した.HER2陽性であり,Cape+OHP+T-mabを計13コース施行し,門脈腫瘍栓の消失,原発巣の著明な縮小を認めたためD2郭清を伴う胃全摘術を施行した.病理組織学的所見はypT3 N2(3/24) CY0 ypStageⅢA,化学療法の組織学的効果判定はGrade 1aであった.術後補助化学療法としてS-1を8ヶ月間内服し,現在術後36ヶ月無再発生存が得られている.

粘膜下腫瘍様形態を呈した胃腺癌と神経内分泌癌の衝突癌の1例

東海大学医学部消化器外科学

大宜見 美香 他

 症例は74歳女性,5年前に指摘された胃粘膜下腫瘍の緩徐な増大を認め近医より精査目的に当院を受診した.上部消化管内視鏡検査にて幽門前庭部大弯に腫瘍頂部に浅い潰瘍を伴う径20mm大の粘膜下腫瘍様病変を認め,生検で胃腺癌と診断された.超音波内視鏡検査にて第3層に病変の主座がある粘膜下層癌と診断した.リンパ節転移や遠隔転移を認めず,cT1b,cN0,cM0,cStageⅠの診断にて,腹腔鏡下幽門側胃切除術を行った.病理組織学的検査所見にて,異型細胞の約80%に腺癌成分と,約20%に神経内分泌癌成分を認め,腺癌と神経内分泌癌の衝突癌と診断され,pT1b2,pN0であった.術後16か月現在,再発なく生存中である.本症例は,胃粘膜下腫瘍様の形態を呈する衝突癌として本邦初の報告例となる.胃粘膜下腫瘍様胃癌では,衝突癌の存在も念頭に置いて慎重に診断・治療を行う必要がある.

腹腔鏡下幽門側胃切除後に遅発性に発症したY脚吻合部への逆行性腸重積の1例

千葉県がんセンター食道胃腸外科

黒崎 剛史 他

 症例は54歳、女性。9年前他院にて胃癌、cT1cN0M0、—cStageⅠに対して腹腔鏡下幽門側胃切除術(Roux-en-Y再建、D1郭清)を施行。その後、度々間欠的な腹痛を自覚していた。来院当日朝から左下腹部に激しい腹痛を自覚し当院救急外来を受診。来院時、左下腹部に弾性軟の腫瘤を触知し同部位に圧痛あり。造影CTでは空腸に著明な拡張とmultiple concentric ring signを認め、腸重積と診断し緊急手術の方針とした。先進部は輸入脚側に嵌入しており、Y脚吻合部は拡張していた。用手整復を行った後に拡張した重積部位のY脚吻合部を切除し再再建を行った。術後は経過良好にて術後5日目に退院となった。胃切除後患者において腸重積は0.07-2.1%で発生するとされており、稀な合併症である。術後腸閉塞の原因として念頭に置かれることは少なく、病態に関しても明らかにされていない。今回、腹腔鏡下幽門側胃切除術後、遅発性にY脚吻合部へ逆行性腸重積を来した症例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。

切除範囲に苦慮した小腸lipomatosisの1例

松田病院大腸肛門科

相川 佳子 他

 52歳女性。2013年9月、腹痛・嘔吐を主訴に近医受診。イレウス疑いで当院紹介受診となった。CTの結果、小腸に多発する脂肪腫を認め、回盲部に脂肪腫を先進とする重積を認めた。精査の結果、小腸lipomatosisの診断となった。
 小腸脂肪腫の中でも特に脂肪腫が多発する状態を小腸lipomatosisといい、比較的まれな疾患である。小腸lipomatosisに対する手術療法については、部分切除、局所切除、回盲部切除などの報告がある。自験例では、術前の小腸内視鏡検査で確認した今回の原因病変である回腸末端部と、更に口側の脂肪腫が集簇する部位の2か所を腹腔鏡補助下に切除した。残存脂肪腫による再重積の問題と、腸切除による短腸症候群のリスクを鑑み、過不足ない切除範囲の決定に苦慮した。2021年現在、残存脂肪腫を認めるが、イレウスの再燃は認めていない。

単孔式腹腔鏡下手術で切除した妊婦急性虫垂炎の2例

香川大学医学部消化器外科学

上村 淳 他

 妊婦の急性虫垂炎に対する腹腔鏡下虫垂切除術(以下,LA)の報告は,本邦でも散見されるが,単孔式手術で施行された報告例は少ない.妊娠中に急性虫垂炎を発症し,単孔式腹腔鏡下虫垂切除術(以下,TANKO-LA)を施行した2症例を経験した.症例1は23歳・妊娠23週,症例2は33歳・妊娠15週で,腹痛を主訴に当院へ搬送となった.いずれも急性虫垂炎と診断し,緊急でTANKO-LAを施行した.術後経過は良好で,2症例とも正期産で自然分娩であった.妊婦に対するLAは低侵襲であるが,子宮への干渉を避けるため,ポート配置を工夫する必要がある.子宮底が臍高まで上がってきていない時期であれば,臍部からのみでアプローチするTANKO-LAが良い適応であると考えられた.

盲腸MiNEN(mixed adenocarcinoma-NEC)の1例

日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院一般消化器外科

池田 幸陽 他

 症例は77歳女性で、2019年5月、心窩部痛を主訴に当院を受診した。CTで盲腸に不整腫瘤、回盲部のリンパ節腫脹、小腸の拡張を認めた。下部消化管内視鏡検査では盲腸から上行結腸に周堤を伴う不整な潰瘍を認め、生検で中分化管状腺癌と診断された。以上より盲腸癌(cT3N2M0、cStageⅢ)による腸閉塞と診断し、結腸右半切除術を施行した。切除標本では盲腸-上行結腸に11×10cmの不整な潰瘍性病変を認めた。病理組織学的に病巣の辺縁の粘膜、粘膜下層は高分化管状腺癌(tub1)と診断され、病巣の中央、固有筋層、漿膜下層はneuroendocrine carcinoma (NEC)と診断された。tub1、NEC成分はそれぞれ腫瘍全体の30%以上を占めたことから盲腸MiNEN,mixed adenocarcinoma-NECと診断された(pT3,INFc,ly1b,v1b,N2a[NEC成分の転移],StageⅢb)。術後CBDCA/CPT-11療法を行ったが、術後8か月のCTで多発肝転移と肝門部リンパ節腫大を認め、術後11か月に永眠された。大腸MiNENは稀な疾患であるが予後不良で、治療成績向上のために症例の集積、効果的な補助化学療法の確立が望まれる。

術後6年目に肝転移再発したS状結腸間膜原発胸膜外孤立性線維性腫瘍の1例

東京都済生会中央病院一般・消化器外科

林 秀行 他

 症例は66歳男性。X年に血尿精査目的に他院で施行したCT検査で偶発的に250mm径の巨大腹腔内腫瘍を指摘された。X+1年に開腹腫瘍切除術を施行し、術中所見にてS状結腸間膜原発と診断した。病理検査にて腫瘍は紡錘形細胞で構成され、免疫染色ではCD34およびSTAT6が陽性であったため、胸膜外孤立性線維性腫瘍と診断した。再発高リスクと判断し、長期外来フォローを継続していたところ、X+7年に腹部超音波検査で肝S6に42mm×38mmの高エコー腫瘤を認めた。胸膜外孤立性線維性腫瘍の術後再発が疑われ、同年肝亜区域切除術を施行した。免疫染色でCD34およびSTAT6陽性であり、胸膜外孤立性線維性腫瘍の再発と診断した。胸膜外孤立性線維性腫瘍は比較的稀な疾患であり、さらに異時性に肝転移再発した報告は少ない。巨大腫瘍で再発リスクが高いと判断し長期経過観察が奏功した一例であり、若干の文献的考察を加えて報告する。

経肛門的結腸脱出・腸間膜剪断・出血性ショックに至った特発性直腸穿孔の1例

雲南市立病院外科

安藤 彰俊 他

 66歳男性、排便後の下血と肛門から索状物の脱出を主訴に当院救急外来を受診した。ショック徴候を認め、肛門から脱出した軟部組織には腸管の漿膜とも考えられる組織が含まれていた。腹部単純CTで腹腔内液体貯留と腸間膜内出血、直腸内腔への腸管陥入を疑わせる像を認め、直腸穿孔に伴う腸管脱出を疑った。確定診断は困難であったが、出血性ショック、消化管穿孔、腹膜炎疑いに対し緊急手術とした。多量の血性腹水貯留を認め、S状結腸を引き挙げると腸間膜損傷と同部位からの出血が明らかになった。直腸Ra前壁の長軸方向に5cmの全層性裂創を認め、直腸穿孔部は単純縫合閉鎖を行い、S状結腸腸間膜損傷部を切離し、口側を単孔式人工肛門とした。術後合併症はなく第17病日に退院となった。本病態は、便汚染が軽度で、発症後早期の受診が多いため、予後は比較的良好だが、本症例のように骨盤底の脆弱性がない結腸脱出の場合、診断に苦慮する可能性、腸間膜の剪断から出血性ショックに至る可能性がある。

術前診断に苦慮した直腸癌術後肝円索に発生したデスモイド腫瘍の1例

総合病院土浦協同病院外科

星 博勝 他

 症例は67歳,男性.2017年閉塞性下部進行直腸癌に対しS状結腸双孔式人工肛門造設術を施行した.術前化学放射線療法の後,直腸低位前方切除術,D3郭清,一時的回腸人工肛門造設術を施行した.術後病理診断はypT3,ypN0,ycM0,ypStage IIであった.術後補助化学療法としてUFT/LV内服を6ヶ月間施行した.2019年CTで肝下面,胃体中部尾側に腫瘤影を認め多発腹膜播種再発の診断となった.FOLFOX+Panitumumabを計21コース施行し約14ヶ月間腫瘤は縮小を維持していた.他に新たな病変の出現はなく,十分なinformed consentのもと2021年回腸人工肛門閉鎖術,腹膜播種切除術を施行した.術後病理検査で胃体中部尾側の腫瘤は線維化を認めるのみであったが,肝下面の腫瘤は肝円索原発のデスモイド腫瘍であったことが判明した.大腸癌術後に発生したデスモイド腫瘍や肝円索原発のデスモイド腫瘍の報告は少なく,また術後の癌再発巣との鑑別が極めて困難であり,文献的考察を加えて報告する.

腹腔鏡下に切除した脳原発solitary fibrous tumor直腸間膜転移の1例

大阪警察病院一般外科

樋口 智 他

 症例は68歳,女性.脳孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT)に対して他院で腫瘍摘出術を行い,9年後に肺転移を認め左肺下葉切除を行った.その後多発肝転移を認め,当科紹介となりTAE・RFAを行った.脳病変に対する初回手術から14年後のフォローアップのCTで直腸左側に径3㎝大の腫瘤を認めた.脳・肺に再発を認めていたが,経時的に増大傾向であり,他病変より増大速度が速いことを考慮して,直腸閉塞リスク回避のため腹腔鏡下手術の方針となった.術中所見では,腫瘍は直腸間膜内にのみ存在し,直腸切除することなく十分なマージンを取って摘出することができた.病理組織学的検査によりSFTの転移性病変と診断された.SFTは胸膜より発生する間葉系腫瘍として報告されたが,近年では全身至る所から発生すると報告されている.他臓器原発の直腸間膜内転移病変の症例の報告や,直腸間膜内の転移病変に対する切除例の報告はまだない.今回われわれは脳原発SFTの直腸間膜内転移に対して腹腔鏡下に切除した症例を経験したため報告する.

卵巣および回腸嚢腸間膜リンパ節に転移をきたした直腸colitic cancerの1例

JA北海道厚生連帯広厚生病院外科

山本 寛之 他

 症例は42歳の女性で,1988年に潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:以下,UCと略記)と診断され,近医で維持療法を行っていた.2016年に症状が増悪し,ステロイド治療を導入する目的で当院へ紹介となった.下部消化管内視鏡検査でRaに全周性の3型病変を認めた.UC関連直腸癌(colitic cancer)の診断で,腹腔鏡下大腸全摘・回腸嚢肛門吻合・回腸瘻造設術を施行した.病理組織学的診断は直腸印環細胞癌,pT3(SS)N2bM1a(LYM),pStageⅣaであった.術後mFOLFOX6を12コース施行したが,術後1年目のCTで左卵巣腫大と回腸嚢周囲リンパ節腫脹を認めた.腹腔鏡下両側付属器切除・回腸嚢肛門切除を行い,直腸印環細胞癌の両側卵巣転移と回腸嚢腸間膜リンパ節転移と診断した.術後化学療法を施行したが,再手術後16ヶ月で腹膜播種再発を来たし,初回手術後39ヶ月で原病死した.

上行結腸癌の術中に胆嚢壁の結節として発見された副肝の1例

川崎市立井田病院外科

藤村 知賢 他

 今回,われわれは上行結腸癌の術前検査で発見し,肝門部のリンパ節との鑑別が困難であった副肝の症例を経験した.症例は73歳の女性で,上行結腸癌(T1bN0)に対し手術予定であった.術前に施行した腹部造影CTで,肝門部に造影効果を伴う9mm大の結節影を認め,肝門部のリンパ節転移も否定できなかった.上行結腸癌に対し腹腔鏡補助下右半結腸切除術を予定し,術中所見で肝門部のリンパ節転移を疑う場合は,リンパ節の術中迅速病理診断を提出する方針とした.手術所見では、胆嚢体部漿膜面に付着する,褐色で10mm大の結節を認めた.肝実質との連続性は認めず,肝内側区域,胆嚢と脈管で交通しており副肝と診断し切除した.病理組織検査では肝実質と矛盾しない所見であり,悪性所見などの異常所見は認めなかった.副肝は本邦では約100例程度の報告に留まる稀な疾患である.本邦におけるこれまでの報告例と合わせ,若干の文献的考察を加え報告する.

肝内側区域切除を行ったmulticystic biliary hamartomaの1例

古賀総合病院外科

黒木 直美 他

 Multicystic biliary hamartoma (以下MCBH)は、小嚢胞が集簇する多房性嚢胞性の胆管過誤腫である。今回、MCBHに対して内側区域切除を施行した症例を経験したので報告する。症例は36歳、男性。急性腸炎時に単純CTで偶然発見された肝腫瘤で当院紹介となった。造影CTでは、肝S4に数mmから17mmまでの嚢胞が集簇した45x35mm大の多房性嚢胞性腫瘤を認めた。MRIでは、その多房性嚢胞性腫瘤はT1強調画像で低信号、T2強調画像で高信号を呈した。CEA 1.4ng/ml、CA19-9 4.0U/mlと腫瘍マーカーは正常値であった。Intraductal papillary neoplasm of the bile ductの可能性を否定できず、手術適応と判断して肝内側区域切除を施行した。病理検査所見では、嚢胞壁は核異型のない単層円柱上皮で覆われていた。嚢胞の周囲には、胆管周囲付属腺や血管を含んだ線維性結合織がみられ、嚢胞内腔には胆汁様の内容液貯留がみられた。最終診断はMCBHであった。術後合併症なく、術後8日目に退院となった。術後3年10か月現在、無再発生存中である。

抗凝固薬内服開始後に胆嚢出血をきたした胆嚢癌の1例

東京都立多摩総合医療センター外科

船越 薫子 他

 症例は84歳男性.呂律不良,右片麻痺を主訴に当院へ救急搬送された.未治療の心房細動に伴う心原性脳梗塞の診断で,脳外科入院の上,抗凝固薬の内服が開始された.第3病日,腹痛を自覚し当科紹介となった.造影CTで胆嚢の緊満を認め,内部は不均一に高濃度を呈しており,胆嚢出血と診断した.腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行したが,出血を制御できず,開腹術へ移行した.術後の病理組織診断で胆嚢癌(T1b)の診断となり,胆嚢管断端が癌陽性であったことから,第43病日に肝外胆管切除,肝管空腸吻合,リンパ節郭清術を施行した.術後の経過は良好で,第58病日に退院となった.
 抗凝固薬に関連する胆嚢出血の報告は散見されるが,胆嚢癌の併発の報告は少ない.抗凝固薬内服開始後に胆嚢出血を来した胆嚢癌の一切除例を,若干の文献的考察を加え報告する.

外科的切除が有効だった急性膵炎合併膵動静脈奇形の1例

JCHO中京病院外科

伊佐治 博章 他

 症例は57歳,男性.2か月ほどに渡って繰り返す腹痛を主訴に当院を受診し,精査の結果,膵動静脈奇形による膵体尾部急性膵炎と診断した.保存的加療により一度は症状が改善したものの,食事再開後に膵炎が悪化したため,動静脈奇形を含む膵体尾部切除を施行した.病理組織学的に不均一な壁肥厚を伴う異常な血管が集簇しており,膵動静脈奇形の所見であった.その周囲には線維化や脂肪壊死の所見があり,膵動静脈奇形の盗血による虚血が膵炎の主な原因と考えられた.術後は再燃なく経過している.近年は各種画像検査の普及,進歩により膵動静脈奇形の診断数は増加しているが,急性膵炎を合併した症例の外科的切除による治療報告は限られており,文献的考察を加えて報告する.

術前化学療法で病理学的完全奏効が得られた切除可能境界膵体部癌の1例

聖隷浜松病院肝胆膵外科

伊良部 真一郎 他

 症例は74歳男性.糖尿病で他院通院中にHbA1cの急激な増悪を契機に施行した腹部超音波で膵体部腫瘍が指摘され当院紹介となった.造影CTで脾動脈・腹腔動脈,および脾静脈浸潤を伴う最大径45mmの腫瘍を認め,超音波内視鏡下穿刺吸引法で低-中分化腺癌の診断となった.切除可能境界膵体部癌(BR-A)の診断で術前化学療法としてGemcitabine+ Nab-Paxlitaxel療法2コースとS-1療法2コース施行した.化学療法後の効果判定は部分奏効で,術前に総肝動脈塞栓術施行後,腹腔動脈合併膵体尾部切除術を施行した.切除標本では術前画像で腫瘍を認めた部位には広範な線維化を認めるのみで,viableな癌細胞は指摘できず,病理学的完全奏効と判定された.術後1年8ヶ月で無再発生存中である.膵癌で術前化学療法により病理学的完全奏効が得られることは稀であり,文献的考察を加え報告する.

免疫性血小板減少性紫斑病を併存したと考えられる脾腫を伴う遊走脾の1例

鹿児島大学大学院消化器・乳腺甲状腺外科学分野

保坂 優斗 他

 症例は25歳の女性.左側腹部痛を主訴に近医を受診し汎血球減少を指摘され,当院血液内科を紹介受診した.血液疾患や悪性腫瘍,膠原病は否定的であり,遊走脾と脾腫を認めた.脾腫による汎血球減少と診断し,腹痛が改善したため経過観察とした.初診から13年後,皮下出血と血尿が出現し,高度な血小板減少(血小板数0.1×104/mm3)を認めた.脾腫の増悪や脾臓の明らかな茎捻転を疑う所見を認めず,骨髄生検で芽球の増生はなく,巨核球が増加していた.以上の所見から免疫性血小板減少性紫斑病(Immune thrombocytopenic purpura 以下,ITP)を合併したと考え,ステロイドとトロンボポエチン受容体作動薬で加療したが,血小板減少の改善効果に乏しく腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した.術後徐々に血小板数が増加し,術後6カ月時点で血小板減少の再燃なく経過している.遊走脾による脾腫にITPを併発したと考えられた高度な血小板減少をきたしたまれな1例を経験したので報告する.

内ヘルニアと術前診断し腹腔鏡下に修復した大網裂孔ヘルニアの1例

天理よろづ相談所病院消化器外科

堀江 博司 他

 症例は32歳,男性.心窩部痛,嘔気を主訴に救急外来を受診した.腹部造影CTで網嚢内に限局した小腸の拡張像と,腸間膜の収束像を認めたことから内ヘルニアによる絞扼性イレウスを疑い緊急手術を施行した.腹腔鏡で観察すると,菲薄化した大網に裂孔を認め,小腸が裂孔を通って網嚢内へ嵌入していた.嵌頓を解除し,大網裂孔を縫合閉鎖した.嵌頓した小腸に壊死は認められず,温存可能と判断した.術後経過は良好であり,術後5日目に退院となった.大網裂孔ヘルニアの術前診断におけるmultidetector-CTの有用性及び本疾患に対する腹腔鏡治療の現状に関して,本邦報告174例の解析を交えて考察する.

左交叉性精巣転位に合併した成人鼠径ヘルニアの1例

JCHO中京病院外科

山本 泰資 他

 症例は66歳の男性で,前立腺癌に対してロボット支援腹腔鏡下前立腺摘除術を施行され,このとき左交叉性精巣転位を指摘された.今回右鼠径ヘルニア根治術目的に紹介となった.右鼠径部から陰嚢にかけて手拳大の腫脹を認めたが容易に還納可能であった.腹部CTでは右陰嚢に2つの精巣が存在していた.術中所見では,精索の中に巨大なヘルニア嚢と精管・精巣動静脈の束を2本認めた.各々に高位剥離を施行し,メッシュを用いて修復した.経過は良好で術後第2病日に退院した.成人で交叉性精巣転位に鼠径ヘルニアを合併した極めて稀な1例を経験したので報告する.

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