2. わが国の医療費は外国と比べて多いのでしょうか?
 また、国はそのうちいくら支出しているのでしょうか?

厚生労働省の発表によれば、平成15年度の国民医療費は31.5兆円余りで、国民医療費の国民所得に対する割合は8.6%となっています。
問題点として、

  1. 国民医療費は国民所得を上回る伸びを示している
  2. 特に老人医療費の伸びが著しい

と述べていますが、最近数年間を見る限り、医療費増加のカーブは平坦化しており、老人医療費も増えていません(図4)

医療費の動向
図4 医療費の動向

これは平成14年から始まった、厳しい医療費削減政策、診療報酬の度重なる引き下げ(平成14年は-2.7%。平成16年は-1.0%。平成18年度は-3.16%)の結果であると考えられますが、その一方でわが国の医療、特に病院医療の崩壊が加速し、国民皆保険を誇ってきたわが国で、老人や低所得層の医療難民が急速に増加しつつあることは、最近マスコミでも度々指摘されている通りです。

A) わが国の医療費は国際的にみると大変に少ない。

そもそも平成20年度の34,1兆円という医療費は国際的にみて多いのでしょうか、少ないのでしょうか。OECDが発表している"Health Data 2007"によれば、OECD加盟国の総医療費の対GDPに対する割合はわが国は8.1%です。これは米国の1/2にすぎません(米国は15%)(図5)。

図5 OECD諸国の医療費対GDP比率(2007年)
図5 OECD諸国の医療費対GDP比率(2007年)

世界先進国の中では最も低いのです。つい先頃までは英国が7.7%で日本よりも低かったのですが、英国国民の医療に対する不満を解消するためにブレア政権が数年前から医療費増加政策に転じたため、8.4%に増え、現在、日本は8.1%で英国にも抜かれてしまいました(図5、図6)。

先進国の医療費(対GDP比)の国際比較
図6 先進国の医療費(対GDP比)の国際比較

わが国の政府やマスコミは医療費が増え続けて大変だと宣伝していますが、このように先進国の中で日本の医療費支出は実は一番少ないのです。ちなみに、わが国のパチンコ産業の年間売り上げは国民総医療費と同じく30兆円、また、葬式産業の売り上げは15兆円と言われています。葬式に費やすお金がわが国の総医療費の半分と言う現実を国民の皆さんはどう考えられるのでしょうか?

B) わが国の医療費を誰がどのように負担しているのでしょうか?国の負担は25%、国民の負担は45%

わが国では1年に30兆円を超える医療費が使われているのですが、この医療費を誰がどのように負担しているのかご存知でしょうか?図7を見てください。患者本人が15%、国民が保険料として毎月の給料から天引きされたり、市役所などに納めている本人保険料が30%、会社などの事業主が22%、国庫負担が25%、地方自治体の負担が8%となっています(図7)

国民医療費(2002年)
図7 国民医療費(2002年)

前回および今回の医療制度改革で高齢者負担が10%から20%、30%へと大幅に引き上げられましたので、今後本人負担分は15%を大きく超えることになるでしょう。一方、大変だ、大変だと言っている政府が支出しているのは医療費の25%、8兆円足らずでしかないのです。米国が医療や福祉に国家予算の半分以上を支出しているのと比べると、わが国では社会福祉が大変に軽視されているのがわかります。実際、わが国の政府が医療に支出している予算は米国の1/10にすぎないのです(図8)

米国の支出と日本の支出
図8 米国の支出と日本の支出

C) 医療制度改革で国と事業主の負担が減り、患者と国民の負担が増えている。三方一両損の実態は?

平成14年度の医療制度改革で診療報酬は2.7%引き下げられました。この時、小泉首相は"三方一両損"と言う旨い言葉を使って、国民や医師や病院に納得を迫りました。

皆さんは、国も、地方自治体も、事業主(企業)も、国民・患者も、改革による痛みを分かち合い、分担するのだと考えておられたと思います。本当にそうだったのでしょうか?

図9を見てください。国民医療費を誰がどのように分担しているのかを示したものです。

医療費の国庫負担は20年間で5%引き下げられた
図9 医療費の国庫負担は20年間で5%引き下げられた

1980年当時と比べると、国の医療費負担と事業主負担は減っています。一方国民の直接負担と地方自治体の負担は大幅に増えています。

"三方一両損"といわれて国民は納得させられたのですが、実際には国と事業主の負担が減り、国民と地方自治体の負担が増えたのです。多くの自治体病院の赤字が増え、医療難民が増えるのは当たり前です。マスコミはどうしてこのような事実をきちんと国民に伝えないのでしょうか。不思議でなりません。

国民の皆さんは、厚生労働省の発表や、それをそのまま無批判に伝えるマスコミの情報を鵜呑みにするのではなく、このような実態を知った上で、わが国の医療と医療費を今後どのようにするのが良いのか考えて戴きたいと思います。

ページトップ