更新日:2020年3月3日

5.3大疾患の診断と治療

1)痔核

痔核とは

一般に「いぼじ」といわれる病気で、肛門の正常な構造である肛門クッションや皮膚、それを支える組織が排便や日常の生活の中で徐々に緩み、表面の粘膜や静脈が増大して痔核ができます。

内痔核と外痔核

痔核は歯状線を境に内痔核と外痔核に分けます。
内痔核は歯状線より奥の直腸粘膜で被われた膨らみにできます。この膨らみは肛門クッションと呼ばれる構造で、粘膜の下の細い血管が網目状に集まった内痔静脈叢や、筋肉や結合組織でできています。この部分には痛みを感じる神経がありません。一方、外痔核は歯状線より外側にある肛門クッションが変化したもので表面は皮膚で被われています。ここには内痔核と違って大変敏感な神経が通っているため痛みなどを強く感じます。

痔核の発生(原因)

人それぞれの直腸肛門周囲の構造の違いと、生活環境や排便習慣が痔核の発生に影響します。痔核は、生活習慣病的な要素が大きく、トイレの時間が長い人や強くいきむ習慣の人に多く見られ、また長時間の座業や重いものを扱う職業の人に多いという報告もあります。通常の痔核はこのような日常生活の中で、10年20年という時間をかけて成長して徐々に症状をきたすようになります。一方、血栓性外痔核や嵌頓痔核と呼ばれる、突然腫れて痛みを生じる急性のものもあります。

痔核の症状

出血、脱出、腫れ、痛みなどが主な症状です。
出血は、排便の時だけに認められるものでほとんどで通常痛みは伴いません。痔核の強いうっ血が原因であるため、排便が終了するとともに出血はなくなります。排便終了後も出血が続く時や、黒みがかった血液や血の塊が出た時には痔核以外の病気が考えられるので受診が必要です。
脱出は痔核の大きさと痔核のできた位置に関係して起きる症状です。排便時に気付くことが多いのですが、運動や歩行、重いものを持つだけでも出てくる場合もあります。急に腫れたり、炎症が起きた時以外は通常痛みはありません。

痔核の診断

詳細な問診と肛門診察(視診、直腸肛門指診、肛門鏡検査)で診断します。症状によっては、排便と同じようにいきんだ状態で脱出の大きさなどを観察する「怒責診」を行います。

痔核の分類(図C)

内痔核は、その大きさと症状によって4つに分類します(ゴリガー分類)。

グレードⅠ
肛門クッションが直腸の中で大きくなった状態です。出血や残便感などの症状があります。
グレードⅡ
大きくなった肛門クッション(=内痔核)が排便のいきみで脱出するようになります。排便が終わると自然に直腸のもとの位置に戻ります。
グレードⅢ
さらに大きくなった内痔核は、自然には戻らなくなります。排便後に指で押し込むようになります。
グレードⅣ
排便に関係なく歩行などの日常生活でも脱出するようになり、戻せないものもあります。
図C 内痔核Ⅰ度・Ⅱ度・Ⅲ度・Ⅳ度
内痔核Ⅰ度・Ⅱ度・Ⅲ度・Ⅳ度

痔核の治療

痔核は肛門の正常な組織が大きくなったものなので、患者さんの自覚症状の改善を目的とした保存的な治療が主になります。外科的治療(手術)は保存的治療で症状が改善しない場合や、患者さん自身が手術を希望された場合に行います。出血と痛みの症状の多くは、排便習慣の改善や坐薬などの薬剤を使用して軽減や治療することができます。脱出した内痔核を排便後に中へ押し戻さなければならなくなった、出たままで戻らなくなった、という症状は内痔核が大きくなった所為であり手術で治すことができます。

痔核の保存的治療法

肛門病の治療で最も重要なことは、正しい排便習慣を理解し実践する事です。
理想的な排便は「便意があってトイレに行くと、軽いいきみで残便感なくすっきりと出る」です。十分な食物繊維の摂取(18~20g/日が目標)や水分摂取を心掛け、必要に応じて適切な薬を服用することで、ほとんどの方が理想的な排便ができるようになります。この場合の薬は非刺激性下剤をまず使用しますが、薬の選択と使用方法にはコツがあり医師に相談する事も重要です。
痔核の薬剤治療では、坐薬や軟膏を使用します。腫れや痛み出血などの症状の改善に効果があります。長期間薬を使用すれば効果が出てくるものではなく、2~4週間使用しても症状が改善しなければ治療方法を再検討します。

痔核の外科的治療法

保存的治療で症状が改善しない場合に外科的治療を行います。

痔核結紮切除法

Ⅲ度、Ⅳ度の大きな内痔核やどのような痔核でも機能障害などを残さず確実に治療でき、再発が少なく、根治性の高い方法です。適切な手術が行われた場合、再発はほぼ無く肛門機能に障害をきたすこともありません。痔瘻やポリープ、血栓などを合併していても対応できます。
この方法の問題点は、手術後の出血、痛みと狭窄です。出血は0.3~3%位の頻度で、様々な原因で起こります。痛みは鎮痛剤の服用でコントロールできます。これらの合併症は術者の経験により差を認めるという報告もあります。

ゴム輪結紮法

専用のゴム輪結紮器を使用し内痔核を縛って壊死脱落させる方法で、Ⅱ度~Ⅲ度の内痔核に行われます。

硬化療法

現在使用されている薬剤は、PAO(5%フェノールアーモンドオイル)とALTA療法の2種類が主なものです。PAOは日帰りで麻酔を使用することなく行える方法で、出血に対して大変効果的ですが、脱出に対する効果は少ないと言えます。ALTA療法は止血効果だけでなく痔核の脱出を持続的に治療できる方法で、麻酔を使用して4段階注射法に則って行います。ごく短期の入院または日帰りで行えます。
ALTA注射の問題点として、効果には個人差があり、また合併症としては発熱、直腸潰瘍、狭窄などがあります。これらの硬化療法では、手術中から術後を含めた治療経過の中で痛むことはありません。

手術後について

手術後10日間程は重労働を避け、3週間程で医師が問題ないと判断すれば運動や飲酒等が可能となります。排便習慣を改善することで、再発を予防することができます。術後の定期的な診察は特に必要ありませんが、何らかの症状があったときには早めに受診しましょう。結紮切除法の再発率は20年後でも0~2%と言われています。ALTA療法の再発率は4~16%、年数を経ると再発が増えると報告されています。

2)痔瘻

痔瘻とは

肛門の中から肛門の外側の皮膚に繋がるトンネルのような「管」ができたものが痔瘻です。痔瘻の大多数は、肛門周囲膿瘍という状態を経て痔瘻になります。治療は手術など外科的な方法が主になります。

肛門周囲膿瘍・痔瘻の発生(図D)

肛門周囲膿瘍とは、広い意味では膿皮症やクローン病などによるものも含まれますが、ここでは痔瘻の初期病変としての肛門周囲膿瘍について説明します。肛門の正常な構造である肛門腺に細菌感染が起こり膿瘍(膿の溜まり)となったものが肛門周囲膿瘍でそれが破れて痔瘻になります。すなわち細菌が肛門陰窩から侵入し(この肛門陰窩を一次口と呼ぶ)肛門腺で膿瘍を作り、その膿の量は徐々に増え膿瘍の中の圧力が高まり周囲の弱いところに痛みを伴って拡がっていきます。ここで病気の拡大を抑えるために膿瘍を切開、または圧力が限界をこえて破れて排膿されます。
この膿の出た場所を二次口と呼びます。
一次口と二次口をつなぐトンネルを瘻管と言い、肛門周囲の皮下、粘膜下、肛門括約筋内や周辺の組織の中を走行します。

図D 肛門周囲膿瘍と痔瘻、瘻管の走行
肛門周囲膿瘍から痔瘻、痔瘻浅い、深い

肛門周囲膿瘍・痔瘻の症状

一般的な肛門周囲膿瘍の症状は、肛門周囲の痛みを伴う腫れで、皮膚の発赤や発熱することもあります。
痛みの特徴は、排便に関係なく徐々に強くなっていきます。膿瘍が肛門奥の痛みを感じにくい部位にできた時は、重苦しい痛み(鈍痛)や残便感、感冒のようなだるさや微熱程度のことが多く、診断が遅れてしまうことも少なくありません。膿が出た後の痔瘻は、痛みは無く肛門周囲にしこりや、分泌物の出る孔ができることがあります。

肛門周囲膿瘍・痔瘻の診断

肛門の周りに腫れや二次口があれば、視診だけで診断できます。そのほか直腸肛門指診、経肛門的超音波検査、さらに深部や複雑な病変ではCT,MRIなどで診断します。

肛門周囲膿瘍・痔瘻の分類

肛門の皮膚、内外肛門括約筋、肛門挙筋等の構造との位置関係で分類します。膿瘍や瘻管がこれらの構造のすき間や内部に拡がり、時に複雑な形になることがあります。最も浅い痔瘻であり外来手術でも治療可能な皮下痔瘻から、膿瘍形成と自壊を繰り返しながら放置された症例や発症初期から深く広範囲に進展するものまで様々で、治療に長期間かかるものや時には人工肛門造設を必要とする場合もあります。

肛門周囲膿瘍・痔瘻の治療

肛門周囲膿瘍と診断した時はできる限り速やかに、十分な切開排膿が原則です。膿瘍は時間とともに拡大するので、切開排膿を行って病巣の進展を止め炎症を抑え痛みを取ることが必要です。
切開排膿は、膿瘍の大きさや深さにより局所麻酔や腰椎麻酔で行います。
痔瘻を根本的に治療するには手術が必要です。痔瘻の手術は、確実に治すことと同時に肛門の機能温存が大切です。痔瘻は単純なものから複雑なものまでさまざまで、痔瘻の程度、瘻管が括約筋の中をどのように貫いているか、一次口周辺の状態などで手術の術式が異なります。特に複雑な痔瘻では、経験を積んだ医師が十分に術式を検討して行います。手術術式には大きく分けて瘻管開放術、瘻管切除術、瘻管結紮療法の3つの方法があります。

ⅰ.瘻管開放術
一次口から二次口まで全瘻管を切り開く方法で、根治性に優れる基本的な方法です。比較的浅く肛門括約筋の巻き込みが少ない痔瘻に行います。
ⅱ.瘻管切除術
瘻管をくりぬくように切除し括約筋の損傷を少なくする術式です。従来のくりぬき法では術後成績は良くありませんでしたが、術式の改善により術後成績は良くなっています。肛門括約筋をほぼ完全に残せる手術も行われています。
ⅲ.痔瘻結紮療法(seton法)
痔瘻の一次口から二次口の瘻管内にゴムやひもを通して、ゴムやひもを締めながら、時間をかけて痔瘻を切り開く方法です。肛門括約筋や組織が少しずつ切断されつつ治っていくので、時間はかかりますが肛門機能温存の面では有効です。
これからの痔瘻手術は
現在肛門括約筋の機能や肛門括約筋自体を温存する手術が行われていますが、高齢化社会の中で手術後5年10年ではなく、術後30年40年経過した後まで肛門機能を担保できる術式が求められます。根治性と機能温存を融合させた手術が行われるようになっています。

手術後について

手術後3週間程度で術後の症状は落ち着き、通常は1-2カ月で完治します。痔瘻の再発は根治手術をした部位から再度痔瘻ができること(再発)はありませんが、他の部位の肛門陰窩から新たに痔瘻ができることはあります。しかし、痔瘻は確実に予防できないので肛門周囲膿瘍を疑う症状があったら早急に受診することが大切です。

3)裂肛

裂肛とは

肛門管上皮に縦方向の傷がついたもので、俗に切れ痔ともいいます。男女比は2:3で女性に多く20~40歳代に多くみられますが、小児の裂肛も稀ではありません。

裂肛の発生

原因としては硬い太い便が出た時に、肛門管の皮膚が過伸展して裂けたものが最も多く、その他に急な下痢や内肛門括約筋の過緊張や肛門管上皮の虚血状態が関連するものもあります。肛門の前方または後方に起きやすいのが特徴です。

裂肛の症状(図E)

排便を契機に続く痛みが特徴で、短時間の軽い痛みが一般的です。出血は少量で紙につく程度です。裂肛を繰り返すと慢性化し、排便するたびに痛みがしばらく続くようになってきます。さらに裂肛が繰り返されると、裂肛は徐々に深く硬くなって(潰瘍化)肛門が狭くなります(肛門狭窄)。狭くなった肛門にまた硬い便が通過することで裂肛は悪循環でますます悪化していきます。潰瘍の外側には皮膚の突起(みはりイボ、皮垂)、口側には肛門ポリープができます。

図E 裂肛の図、急性、慢性、潰瘍、みはりイボ、肥大乳頭
裂肛の図

裂肛の診断

問診で、痛みや出血だけでなく排便の状態についても知ることで、おおよその診断ができます。慢性化して、潰瘍となったものや、みはりイボ、肛門ポリープができている場合は視診や直腸肛門指診で診断できます。痛みが強く診察が困難な場合は、局所麻酔などで痛みを取ってから診察を行います。
裂肛の分類は様々ありますが、裂肛の原因により原発性裂肛と続発性裂肛に分類します。さらに原発性裂肛を急性期と慢性期に、続発性裂肛を症候性裂肛と随伴性裂肛に分けて分類します。

1)原発性裂肛
  1. ①急性裂肛
    硬い便をした際に、肛門上皮が裂けたものです。
  2. ②亜急性裂
    肛急性裂肛が繰り返されることで、傷が治り難くなってきたもので痛みや症状が取れにくくなってきますが、まだ保存的に治療できる可能性があります。
  3. ③慢性裂肛
    さらに治癒が遷延し深い潰瘍や潰瘍底に筋層が露出するようになり、痛みが持続し肛門が狭くなったものです。手術をして治療します。
2)続発性裂肛
  1. ①随伴性裂肛(脱出性裂肛)
    大きな痔核や肛門ポリープなどの脱出が繰り返されて、裂肛が発生したものです。
  2. ②症候性裂肛
    全身性の病気の症状の一つとして、肛門に裂肛が起きたものです。原因となる病気としてクローン病が代表的です。
  3. ③疑似性裂肛
    肛門瘙痒症、カンジダ症などで肛門を爪などで傷つけてできたものです。

裂肛の治療

裂肛の治療は保存的治療が基本となり、慢性化させないことが大切です。排便のコントロールを含む保存的治療が無効な場合や、慢性化した裂肛で、日常生活に支障のある狭窄症状をきたした場合や、脱出する肛門ポリープや大きな皮垂ができた場合に外科的治療適応となります。随伴性裂肛は原因疾患の治療を行います。

保存的治療

排便のコントロールと肛門衛生、座薬などの外用薬の使用、を行います。便秘や下痢を起こさないような食生活や飲酒の調整をします。食物繊維と水分を十分に摂り必要に応じて軟便剤を服用して排便を調節します。排便後は汚れを取る程度に軽く洗い流し水分をふき取ります。座浴や入浴は痛みを取り血流を良くするので有効です。坐薬や軟膏は炎症や痛みなどの症状により適宜使用します。

外科的治療

保存的な治療や薬剤による治療が無効な場合と、強度の狭窄症状がある場合や、随伴性裂肛は外科的治療を行います。

ⅰ肛門拡張術

無麻酔、または麻酔下で指を使用して肛門を拡張する方法です。軽度の狭窄や内肛門括約筋の過度の緊張があって裂肛が治癒しないときに行います。どのような裂肛が適応かという判断と、術後肛門機能障害の発生が多いとの報告もあり、充分な経験が必要な方法です。

ⅱ側方内括約筋切開術

局所または腰椎麻酔下に内肛門括約筋の一部を切開して、括約筋の伸展性と血流の改善により裂肛を治癒させる方法です。

ⅲ肛門皮膚弁移動術

慢性化して硬くなった裂肛部分を切除して、肛門周囲の正常な皮膚を移動して覆って治す方法です。肛門ポリープやみはりイボなども同時に切除する事ができます。

治療後について

裂肛は肛門の怪我のようなものと考えられます。
裂肛の原因となる便秘や下痢に注意することで、確実に予防できます。
裂肛治療において初期の裂肛は比較的簡単に治療できるので、慢性化させないよう早めの治療が大切です。

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