更新日:2019年6月3日

代表的な疾患

1、食道静脈瘤

【病態】主に粘膜下の静脈が拡張蛇行して瘤状に隆起した状態を言います。肝硬変によって肝臓へ行く大きな血管である門脈の圧が高まることによって、その側副血行路として静脈瘤が形成されます。

【症状】静脈瘤そのものは無症状ですが、破裂すると大量に出血し、吐血(新鮮血)や下血(タール便)がみられます。大量出血によってショック状態になる頻度も高い疾患です。

【診断】肝硬変などの肝疾患では、静脈瘤があるか検査が必要です。上部消化管内視鏡検査によって診断され、破裂の危険度に応じた分類ができます。その他、CT検査、超音波内視鏡検査、門脈の造影検査も静脈瘤の状態を知るのに有用です。

【治療】静脈瘤出血が疑われた場合には緊急に上部消化管内視鏡検査を行い、止血処置を行います。代表的な治療方法は次の2つです。

(1)内視鏡的硬化療法・・・硬化薬を局所に注入して止血を行います。

(2)内視鏡的静脈瘤結紮・・・内視鏡の先端部分に装着したOの形をしたゴム状のリングを用いて静脈瘤を結紮します。

2、マロリーワイス症候群

【病態】マロリーワイス症候群は、繰り返す嘔吐によって、食道と胃の境界近くの粘膜が裂けて出血を起こす病気です。嘔吐を誘発するすべてが原因となります。頻度として最も多いのは飲酒後であるため、30-50歳代の男性に多い疾患です。この他、乗り物酔いや悪阻(つわり)、食あたりでも生じます。

【症状】吐血(新鮮血)が主症状ですが、下血(タール便)も約10%にみられます。大量出血しショック状態となることもあります。

【診断】嘔吐後の吐血(新鮮血)という病歴そのものが診断の有力な決め手になりますが、確定診断は上部消化管内視鏡検査で食道と胃の境界近くの粘膜の裂傷を確認することです。

【治療】通常は自然経過で軽快しますが、出血が続く場合には内視鏡下に止血術を要します。稀に手術が必要になることもあります。

3、胃潰瘍・十二指腸潰瘍

【病態】吐血を引き起こす原因で一番多いのが胃潰瘍・十二指腸潰瘍です。粘膜が損傷してしまう潰瘍とういう状態になると、深いところにある血管が露出して出血を引き起こします。潰瘍の原因はたくさんありますが、最近はヘリコバクター・ピロリ菌の感染が大きく関与していることが知られてきました。

【症状】吐血(コーヒー残渣様)、下血(タール便)を起こしますが、一般的に胃潰瘍では吐血、十二指腸潰瘍では下血が多いです。また、出血の量が多い場合には、コーヒー残渣、タール便というような黒ずむことなく、赤色の吐血や下血を起こし得ます。随伴症状としては主に上腹部を中心とした痛みが多く、十二指腸潰瘍では特に空腹時に痛みが強い傾向があります。ただし、痛みはそれほどでもなく、胃もたれ、げっぷ、胸やけ、嘔気といった漠然とした症状の場合も多くみられます。

【診断】上部消化管内視鏡検査は診断と、必要に応じてそのまま治療を行えるために、第一に行われます。組織検査も行うことができ、がんとの鑑別やヘリコバクター・ピロリ菌の診断に有用です。

【治療】部位や潰瘍の程度、出血量によってさまざまな対処法を選択して治療します。点滴、輸血、止血剤、鉄剤、制酸剤投与などの内科的な治療以外に、次のような内視鏡下の治療方法があります。

(1)薬剤散布・・・止血効果のある薬剤(トロンビン末など)を出血部位に直接散布します。

(2)局注法・・・エタノールやエピネフリン添加高張食塩水を出血部位に注入します。

(3)熱凝固法・・・高周波やアルゴンガスを用いて熱による凝固止血を行います。

(4)クリッピング・・・出血している血管をクリップにより機械的に圧迫します。

現在は、器械や手技の向上によって、これらの方法を用いて非常に高率に止血が得られていますが、もし十分な止血が得られない場合には、血管造影下塞栓術、血管収縮薬の注入や手術が行われることもあります。

4、急性胃粘膜病変(AGML:acute gastric mucosal lesion)

【病態】急に上腹部を中心とした下記のような症状を起こす病気で、胃粘膜に発赤、びらん、浮腫、出血などの異常変化を生じます。男性に多く、原因としては、身体的あるいは肉体的なストレス、薬剤、アルコールなどが多いとされています。

【症状】典型的には急に起こる上腹部痛で、嘔気・嘔吐、時に吐血・下血を伴います。また、胃もたれ、げっぷ、胸やけ、腹部膨満感など漠然とした症状も多くみられます。

【診断】既往歴、服薬歴、飲酒歴、ストレス状況など病歴の聴取が本疾患を疑う手掛かりとして大切です。そして本疾患を疑った場合には、上部消化管内視鏡検査を行って診断します。

【治療】病気を引き起こしている誘因が判明すれば、まずその誘因を取り除くあるいは治療することが大切です。症状が強い場合は、胃潰瘍に準じて投薬などの治療を行います。また出血に対しても、胃潰瘍・十二指腸潰瘍と同様の処置を行います。

5、クローン病

【病態】主に若年成人に多くみられる、口腔から肛門までの全ての消化管に起こり得る炎症性疾患です。原因は不明です。

【症状】主症状は腹痛、下痢、発熱、体重減少ですが、肛門周囲膿瘍や痔瘻などの肛門病変や下血(血便、粘血便)、更には関節炎、虹彩炎など腸管外の病変も起こります。

【診断】臨床所見、採血、レントゲン、内視鏡検査、病理検査によって診断します。腸結核、潰瘍性大腸炎、虚血性腸炎など他の疾患との鑑別が大切です。

【治療】基本的には栄養療法と薬物療法を中心とした内科的治療を行います。しかし、腸管の狭窄、穿孔、膿瘍など重篤な合併症が見られる場合には手術が考慮されます。

6、潰瘍性大腸炎

【病態】大腸に起こるびまん性非特異的炎症性疾患です。原因不明です。直腸から連続性に大腸の口側に向かって病変が進展します。慢性的で再発を繰り返す臨床経過をたどります。

【症状】病変の広がりと重症度によってさまざまです。主症状は下血(血便、粘血便)です。腹痛、発熱、頻脈、下痢などを生じることもあります。関節炎、壊疽性膿皮症、ブドウ膜炎、虹彩炎、胆管炎など腸管外の病変を合併することもあります。中毒性巨大結腸症などの合併では腹部膨満、穿孔による腹膜炎などが生じます。また、大腸がんの合併頻度も高いことが知られており、注意が必要です。

【診断】臨床所見、採血、レントゲン、内視鏡検査、病理検査、注腸検査などによって総合的に診断します。血便を起こすさまざまな疾患との鑑別が重要です。

【治療】薬物療法による内科的治療が中心となります。しかし、重症・激症例、中毒性巨大結腸症合併、穿孔、大量出血、大腸癌合併などでは手術が絶対的適応となります。また内科的治療が奏功しないとか副作用が強いというような症例でも手術を考慮することになります。

7、虚血性腸炎

【病態】横行結腸の左側から下行結腸にかけての領域は解剖学的に血行が悪くなりやすくなっています。そこに何かしらの原因が加わると、粘膜から粘膜下を主体に虚血性の障害が生じて出血などを起こします。程度がひどければ、腸全体が壊死してしまう場合もあります。

【症状】突然の腹痛とともに排便回数が増加し、血便を生じます。

【診断】壊死を疑うような重症の場合は禁忌ですが、本疾患の診断は注腸検査や下部消化管内視鏡検査で行います。

【治療】一般的には、絶食、点滴、抗生物質投与などの保存的治療によって軽快します。ただし、腹膜炎を起こしているなど重症の場合には、速やかに手術を考慮します。

8、薬剤性腸炎

【病態】抗生物質によって引き起こされる腸炎には大きく2つの病態があります。一つは、抗生物質が大腸の細菌叢を変化させて引き起こす偽膜性腸炎と呼ばれるもので、原因となる抗生物質は多数ありますが、中でもクロストリジウム・ディフィシルという菌が有名です。もう一つは、ペニシリンなどによって引き起こされる急性出血性腸炎です。これに関しては機序が明らかになっていません。

【症状】偽膜性腸炎は抗生物質投与して数日後に、腹痛、下痢、発熱などで発症します。程度はさまざまで、軽症例からショックを起こす重症例もあります。急性出血性腸炎も抗生物質投与して数日後に、腹痛、下痢、下血を起こします。

【診断】偽膜性腸炎では、下部消化管内視鏡検査により偽膜を認めることや便の培養検査で菌を同定して診断します。急性出血性腸炎では、下部消化管内視鏡検査により横行結腸中心に粘膜の発赤、びらん、出血などを確認して診断します。

【治療】二つの病態とも、原因となる抗生物質の中止、症状に応じた対症療法を行います。偽膜性腸炎では、バンコマイシンの服薬が有効です。

9、感染性腸炎(病原大腸菌、アメーバ赤痢など)

【病態】細菌やウィルス、原虫(アメーバ赤痢)、寄生虫などの感染によって腸に障害が起こります。特有の毒素を産生することによって障害を起こす場合と、組織の中に入り込むことによって障害を起こす場合があります。

【症状】原因によって症状が出現するまでの潜伏時間や、症状、その程度は様々ですが、多くの場合、腹痛、下痢、下血、発熱、悪心・嘔吐など多彩な消化器症状あるいは全身症状を引き起こします。病原大腸菌性腸炎は、激しい腹痛、水様性下痢、その後血便を生じます。時に急性腎不全、脳症などを併発し、死亡する症例もみられます。アメーバ赤痢は、腹痛、下痢、そしてイチゴゼリーと称される粘血便が生じます。

【診断】病原大腸菌性腸炎は、便の検査によって大腸菌の分類や毒素産生能などを診断できます。アメーバ赤痢は糞便、腸粘液などにアメーバの存在を確認することで診断ができます。また血液検査による血清アメーバ抗体価の測定も有用です。

【治療】症状に応じた対症療法が行われます。重症例では厳重な全身管理も必要です。アメーバ赤痢ではメトロニダゾールという薬が有効です。

10、大腸憩室炎・憩室出血

【病態】大腸の壁の一部が外側に飛び出た状態です。大腸の中から見ますと半球状の洞穴のようにみえます。詳細な原因は不明ですが、食物線維や便秘など食生活が腸の運動機能に影響を与えて憩室の原因となるということも言われています。憩室に細菌が感染したり、虚血性の変化が生じると炎症を引き起こし、また血管が破綻して出血を起こすことがあります。

【症状】憩室炎では限局的な腹痛を起こします。ただし、炎症が進行して穿孔を起こした場合には、腹膜炎となり状態が悪化します。憩室出血は血便を生じます。盲腸や上行結腸など右側大腸(大腸の始まりの方)からの出血ではやや暗赤色となりますが、下行結腸やS状結腸などの左側大腸(大腸の終わりの方)からの出血では鮮血に近い出血がみられます。

【診断】憩室炎・憩室出血は繰り返すことが多いので既往歴が大切です。憩室そのものの診断には注腸検査などの造影検査も有用ですが、炎症の程度を見るには採血検査、CT検査が有用です。出血に関しては下部消化管内視鏡検査が有用ですが、憩室は多発していることが多く、出血部位の同定が困難なことも多いです。

【治療】腹膜炎を起こしている憩室炎は手術を考慮されますが、その他は、点滴や安静、抗生物質投与などにより治療します。出血に関しても、保存的治療で大体軽快しますが、止血を必要とする場合には、内視鏡下のクリッピングやバリウムを憩室に充填する方法、そして最近では憩室を翻転させて結紮する方法などが行われています。それでも止血が不十分の場合には、血管造影下塞栓術や手術が考慮されます。

11、大腸ポリープ、大腸がん

【病態】大腸の粘膜に小さなポリープができると、その中の一部が大きくなっていきます。そしてポリープが1cmをこえるような大きさになってくると、ポリープの中にがんが生じてきます。大腸がんの大部分が、このようにポリープから発生してきます。大腸がんが粘膜内にとどまらずに、粘膜の下の層まで深く入り込んでくると、リンパや血液によって転移を起こす可能性が生じます。

【症状】大部分のポリープは無症状ですが、ある種の大きなポリープは出血しやすい性質を有して下血の原因となることがあります。大腸がんも早期のうちはほとんど症状を起こしませんが、ある程度進行してくると、出血しやすく、下血として症状が出現します(図1)。そして更にがんが進行してくれば、腹痛やおなかにしこりとして触れるようになります。

【診断】大腸内視鏡検査によって組織を一部採取し病理検査によって診断します。

【治療】ポリープは形や大きさによって、ポリープそのものをつまんだり、スネアーという金属の輪っかをひっかけて電気焼灼して切除します(図2)。最近は、かなり大きなポリープも内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)により内視鏡で切除できます。がんもごく早期の場合には、ポリープと同様に内視鏡的に切除すれば根本治療となりますが、少し深めに入り込んでいる場合には、外科的に手術を行います。

図1:進行した大腸がん。がんの組織は脆く、ちょっとした刺激で容易に出血します。 図2:茎を有する大きなポリーブに対して、内視鏡的にスネアーを用いて切除したところ。

12、痔核

【病態】肛門の粘膜下が増大して肛門から脱出したり、出血を起こしたりする状態です。排便時のいきみや排便自体が刺激となって肛門粘膜下にうっ血が生じたり、肛門を支える周りの組織が弱くなることなどが原因と考えられています。

【症状】痛みを伴わない新鮮血が比較的多めに排出されます。程度が進み脱出が見られたり、痔核の内部に血栓が生じた場合などには、強い肛門痛を伴います。

【診断】視診あるいは肛門鏡を使用した診察で診断されます。

【治療】痔核からの出血は、ほとんどの場合自然に止まり、坐薬や軟膏などの外用薬で治療を行います。しかし、出血が止まらない場合は、痔核の根元を輪ゴムで縛る輪ゴム結紮法、痔核に薬剤を注入する方法(ALTA法)や麻酔下に痔核を切除する手術などが行われます。

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